日常交流
病室の窓の外を見ると、そこには毎日1人で剣の素振りをして雑用をしてる亜人の少年がいる。
「いつも同じこと一生懸命やっちゃって、ばかじゃないの。」
でもなんだかとても気になった。毎日見ていたら一体どんなやつなのか、とてつもなく気になった。
だからあの日、外出許可が出た日に少しだけ様子を見に行ったんだ。
-ギルド中庭前-
「ねえあんた。毎日同じことばっかしててバカみたいね。」
「...いきなり失礼な人だなぁ...。!君は。」
ルーベラも窓際の自分の存在は知っていたようだった。
「君は病院の?」
「なんだ知ってたの」
「病院に居なくて大丈夫なのか?」
「今日は外出許可が出てるの」
「折角の外出許可なのにこんな所にきてていいのか?」
「行きたいところなんて無いからここでいいの」
「そう。」
ルーベラは不可解な顔で仕事に戻る。リザはずっとそれを見ていた。しかしルーベラは何も言わずにギルドの中に入っていってしまった。
「つまんないの」
目的の人物がいないのなら帰るしかないなぁ。リザはそう思ってくるりと帰路につこうとした。
「帰るのか?」
振り向くとルーベラがギルドから出てきているた。右手に赤い薄手のブランケット、左手にお茶の入ったグラス。「羽織ってた方がいいと思う。」
リザにブランケットを渡してからお茶を渡す。
「....ふーん。気がきくんだ。」
いたずらそうに聞き返すリザ。
「...どうも。」
リザの方を見ないで素っ気なく答えるルーベラ。そのまま洗濯の続きを始める。
「あんた体バカみたいにデカイのに傭兵じゃないんだ?」
「ただのお手伝いだよ。」
「毎日バカみたいに素振りしてるのに?」
「あれは...なんで知ってるんだよ君が。」
「毎日見てるから」
いたずらそうに上目遣いでニッコリ笑って答えるリザ。(この手の仕草は男性を誘うための常套手段だ。)
「つまんないのを見てるんだな君は」
少しフッと息を漏らして軽く笑うルーベラ。リザは気にくわない。(ここは誘われて狼狽えるところだろうが!とか思ってる。)
「違うわよ。バカ正直に剣ふるっててどうかしてるんじゃないかって思ってただけよ。」
フンッと睨みつけながら言う。するとギルドの方から女性が出てきた
「ルーベラお疲れ様!ここにお茶置いておくわよ...あら。」
女性はリザの姿を捉える。
「どなた様かしら。」
ルーベラに視線を投げかけて女性は尋ねた。
「えと...彼女は、」
リザに視線を投げかけるルーベラ。居心地が悪くなってリザは途端駆け出した。
「あ、君!...」
「知り合い?」
「いえ。向かいの病院の人なのは分かるんですが。」
リザが病室に戻って窓から庭の様子を見るとルーベラと女性が談笑しているのが見える。リザはなんだか少し悲しい気分になった。
「ルーベラ、ね。ルーベラ。」
名前を繰り返しつぶやくリザ。
「変なの。」
そうつぶやいてからリザはブランケットを借りっぱなしなのに気がついた。
次の日窓の外を見ているとルーベラが誰かと戦っているのが見えた。(ギルマスとルーベラ)リザは借りっぱなしにしていたブランケットを返さねばと病室を抜け出した。無断で外に出て建物の陰から様子を伺う。ルーベラは必死でギルマスの木刀を受け、しかしやはり未熟なのかどんどん押されていく。
「何にビビってるルーベラ!!」
ギルマスは叫ぶ。しかし今回は押し負けないルーベラ。逆にギルマスをはじき返す。しかし反動でしょうルーベラは尻餅をついてしまう。
「...そこそこ腕を上げたなルーベラ。」
「え?」
自信のなかったルーベラの顔が上げられる。ギルマスがルーベラに言い聞かせるように
「過去を忘れろ、捨てろとは言わない。ただそれに己を締め付けられぬようにしろ。それはお前を殺しに来るぞ。」
ハッとするルーベラ。
「お前がビビりなのは知ってるがな、この仕事は戦いの仕事だ。人も死ぬ。お前があの時見たものよりもっと残酷なことをこれから目にするかもしれない。お前がビビってたら仲間も救える命も失うだろうよ。」
そう言ってルーベラに背中を向けるギルマス。ルーベラはその背中に向けて。
「俺は!!!負けないッ....!!!」
叫びながらギルマスに殴りかかろうと駆け出するルーベラ。目を見開き力んでいる。しかしルーベラの拳はやすやすと受け止められる。
「負けない、か。良いツラしてんなルーベラァ!....良いぜ初仕事だ。来月の遠征、お前を連れて行く!」
ギルマスは豪快にニヤリと笑いながらルーベラにこう告げる。
「は...え?」
「お前に今まで足りなかったのはさっき見たいな思い切りだ。ようやくそこの線を越えてくれたか。」
「あ....えっと俺...」
「まあもっと自信を持てってことだ。また明日も相手してやるよ。」
ギルマスは今度こそ歩いてギルドの建物の中に戻って行った。
ルーベラはしばらくしてから顔を真っ赤にする。(とてつもなく嬉しかったようだ)
リザはまたしても出る幕を失ってしまった。
「....バカじゃないの」
ついつい呟いてしまった。返せなかったブランケットを握りしめて病院に戻ろうとする。その時ギルドの中庭の方から情けない叫び声が聞こえてきた。
「ウワァァァァア⁉︎」
リザは何事かと引き返す。そこにはルーベラがひっくり返っていた。
「ちょ、あんた何してんの‼︎」
叫ぶリザ。
「くっ...くもっ..!」
「くも?」
目をやるとルーベラの腕に小さな蜘蛛が。
「はぁ⁉︎」
素っ頓狂な声を出すリザ。なんてものにビビってるんだこの巨人は。
「なんなのあんた、こんなちっちゃいのにビビっちゃってさ。」
ルーベラの腕の上にいる蜘蛛を取るリザ。
「ほら、もういないよ。」
「あ...え?ぁ...りがとう。」
きょとんとするルーベラ。
「あ...?君は昨日の...」
「.....なによ。」
「え....いや....」
「ハッキリしなさいよ。」
さらに顔を赤らめるルーベラ。
「いや....変なところ見られちゃったなって...」
「は?」
俯向くルーベラ。
「え...っとね。あんたが変なのはいつ見てもそうだから。」
さらに俯向くルーベラ。
「かっこばっかつけてる奴に比べりゃ圧倒的にマシよ」
フンとそっぽを向くリザ。
「は?」
「だから!カッコつけてばっかの奴らに比べたらあんたの変な方が断然マシだって言ってるの!もっと自信持ちなさいよ。」
「え....あ.....ありがと...う?」
困惑しながらルーベラはこう言う。
「あと...これ!返しに来たわよ。」
片手でズイとブランケットを差し出すリザ。
「...ありがとうね。」
「あ、いや、気にしないでくれ。それにこれはあげたつもりだった。」
ブランケットをリザにおしかえすルーベラ。それを受け取るリザ。
しばらくして、
「....あんたルーベラっていうんだね。」
「え?」
「あんたの名前よ!」
「あ、あぁ。ルーベラ・ヴァレンシア。俺の名前。」
「ふーん。ルーベラ・ヴァレンシアね。」
うんうんと頷くリザ。
「きみは?」
「え?」
「きみの名前はなんて言うんだ?」
今度はまっすぐリザを見て問いかけるルーベラ。
「リザよ。リザ・メルドリア。」
少しルーベラを睨みながら言うリザ。
「リザさん、ね。リザさん。」
名前を覚えようと何度かつぶやくルーベラ。えらく真面目そうに見える。
「早く元気になるといいな、リザさん。」
そしてルーベラはリザにこう言う。
何故か顔を赤らめるリザ。
「た、大したことないんだからこんなの!すぐ治るし...うん。ありがとう...」
だんだん尻すぼみになっていく。
「こら!メルドリアさん!」
リザの後ろから声が。
「うわ」
「今日は外出許可出てないでしょう⁉︎まったくもう。ほら戻りますよ!」
看護士がリザを連れ戻しに来たようだ。
バツが悪そうな顔をするリザ。
「すみませんねうちの患者が...ほら行きますよ!」
連れて行かれるリザ。
「あ、また今度な!」
ルーベラは咄嗟に叫ぶ。
リザの顔はルーベラからは見えないが、ハッとした表情をするのかも。
この後リザは外出許可が出るとルーベラに会いに行って話をするぞ!
ある日。
「えと、どうも。」
リザの病室のドアを開く音と同時に声が。
「え?あ!あんた!」
リザがびっくりしたような声を上げる。
「ルーベラ、なんでここに。」
「えと...お見舞いだよ。お見舞い。」
「はぁ..,」
めっちゃ動揺しているリザ。今日は雨が降ってるからルーベラ居ないなぁとか思っていたところだった。
「お見舞いと言っても特に何か持ってきたとかそういう訳じゃ無いんだけどさ。」
「いや、そんなの別にいらないし。」
フイッとそっぽを向くリザ。
「なんでお見舞い来たのよ。明日じゃなかったの、初仕事ってやつ。」
「あ、まあ、そうなんだけどさ。ギルマスに緊張しすぎだから少し外の空気吸ってこいって言われてしまって。」
「そんでここに、ねえ。」
ふーん。とかそんな顔でルーベラの顔を盗み見るリザ。
「私に会うと落ち着くの?」
イタズラそうにニヤニヤしながら聞くリザ。
「は!?」
明らかに動揺するルーベラ。こいつは女と触れ合う事が極端に少なかったんだなとリザは確信する。
「なんてね。こんな所何も無いわよ。しかも薬臭いし。外の空気吸うどころかなんか気分悪くならない?」
「いや、それは、大丈夫だ。」
「...初仕事で緊張するのは分かるわ。どんな仕事でもそうだもの。でも自信持ちなさいよ。毎日訓練してたんだから。」
(ガラにもなく励ましてしまった。)
「あ、うん。俺頑張るよ。頑張る。」
自分に言い聞かせるようにつぶやくルーベラ。
「うん。頑張りな。」
いつにも増してバカ真面目なルーベラをみてフッと笑うリザ。
-ルーベラ遠征中-
リザの病室に1人の男がやって来た。身なりがよくでっぷりとしたいかにもいやらしい男。
「リザ、探したぜ。」
ニヤリとしながらリザに近づく男。
「‼︎....ッ...」
びっくりした顔をした後、苦虫を噛み潰したような顔をするリザ。
「なんだよォその顔は。せっかく迎えに来てやったのに。」
黙り込み俯向くリザ。
「こーーーんな貧相な病院じゃなくてもっと良いとこ入れてやるよ俺が。それとも俺の家に来るか?」
リザの髪に男の手が触れる。
「触るな!」
その手を弾くリザ。
「反抗期かな、え?俺が養ってやるって前から言ってんのに何してんのお前。」
「出て行って!」
ルーベラにもらったブランケットを握りながら叫ぶリザ。
「なんだその貧相な布。気持ちわりぃ、貧乏人の匂いがしやがるな。」
それに目をつける男。奪い取る。
「⁉︎返して!」
男はそれをあっけなく破いてしまった。
「お前は、俺の言うことを、聞いてりゃ良いんだよ。あの時の夜みたいに!」
激高する男。リザの頬を殴る。リザぐったりする。
「何事です!!」
看護士が駆けつける。
「俺の女が世話になったようで。連れて帰りますんで手続きをお願いできますかね。」
「な⁉︎」
「リザさんは絶対安静です。まだ退院はできません。騎士団に突き出しますよ?」
キッパリと言う看護士。
「......チッ。」
不利を覚えたのか男は病室を出て行く。
看護士はリザに駆け寄り、
「大丈夫です?」
心配そうに背中に手を当てる。
「...大丈夫です。」
看護士の手を払うリザ。
「ご迷惑、おかけしました。」
それきりだまりこむリザ。
看護士は何も言わずに部屋を出る。
しばらくするとギルドの方から歓声が。何事かと目をやる。庭に至るドアが勢いよく空いて男が数名庭に転がりだす。男達の下敷きになっているのはルーベラだ。とても嬉しそうな顔をしている。男達はルーベラに酒を振りかけている。みんな嬉しそうだ。(ルーベラは初遠征で好成果を収めた。)リザはギルドがとてつもなく遠くて明るい場所に見えた。なぜか涙が溢れてくる。
「....バカみたい。」
破られたブランケットを握りしめて、声を殺して泣いた。
次の日。コンコンと病室のドアをノックする音。リザは居留守を決め込もうとする。(昨日のこともあって。)何度かのノックの後、扉が遠慮がちに開かれる。
「こん...にちは...?」
ルーベラだ。めちゃくちゃ遠慮がちに入ってくる。
「リザさん?....寝てるのか。」
起きてる。けど起きづらい。そのまま寝てるふりを続ける。ギィと音がする。ベットの脇の椅子に座ったようだ。カタカタ、キュッ、ジャー。置いてあった空の花瓶を手にとって水場に向かったようだ。蛇口を捻り、水を出す音が聞こえる。コトッと窓際に花瓶を置いたようだ。でも今起き上がるのは恥ずかしい。まだ寝たふりを続ける。
「...お邪魔しました...」
小声でそう告げるルーベラ。扉に手をかけ部屋から出ようとしている。やばい。帰ってしまう。
とっさに起き上がるリザ。振り返るルーベラ。
「き、来てるなら起こしなさいよ。」
少しルーベラを睨みつけてリザは言う。遠征での戦いで怪我をしたのか、身体中包帯だらけだ。
「眠ってるところを起こすなんてそんな。」
いやいやと首を振るルーベラ。
「あんただったら良いって言ってんの!」
勢いで言っちゃうリザ。言ってから「あっ。」って言っちゃう。
「俺だったらいいって...よく分からない人だなぁ...」
本気で不可解な顔をするルーベラ。天然だった。
「リザさん、顔怪我したのか?」
昨日男に殴られて青じんでいるところをルーベラに指摘される。
「あ、これは、、、そう。寝ぼけてぶつけたのよ。悪い?」
とっさに嘘をつくリザ。ルーベラには自分の醜いところを見せたくなかった。
「寝ぼけて⁉︎それ相当ひどい寝ぼけ方だったんだな...」
納得するルーベラ。天然だった。
「...悪かったわね...」
「いや、俺もたまにあるんだそういうこと。寝ぼけて怪我するってやつ。だから人のことは言えないなぁ。この間なんてさ。」
少しフフッと笑って話すルーベラ。
話が盛り上がる。
「そういえばこの花あんたが?」
「あ、うん。あんまり花なんてガラじゃないんだけどお見舞いっていったら花だろってギルドのみんなが言うから。」
「ふーん。なかなかいいチョイスなんじゃない?」
赤い少し大ぶりの花と小さな白い花。
「そういえば初仕事、上手くいったの?怪我してるみたいだけど。」
「あぁ!それが、すごく上手くいった。いや、怖かったけど。でも俺も頑張れば少しはやれるんだなって、思った。」
「そ、良かったじゃん。」
フイっとそっぽを向くリザ。昨日のことを思い出した。
「....リザさん元気ないな。病気悪くなったのか?」
天然じゃないのか?勘が鋭いのかルーベラはリザに尋ねる。
「別に。いつも通りよ。」
強がってルーベラを睨むリザ。
「?なに強がってるんだリザさん。」
なんでこういう時は鋭いんだ。
「だから何でもないって!ほら、お見舞いは終わりでしょ?早く帰りなよ。」
また思いもしないことを口に出してしまった。昨日のしつこい男が来たらどうしようか。ルーベラが居てくれるだけで随分と気持ちが楽なのにどうして追い返そうとしているんだ私は。
「俺何か悪いことしてしまったか?」
「してないわよ!」
「じゃあ、なんで、そんなに悲しそうな顔してるんだリザさん。」
心配そうな顔をしてルーベラが問いかける。ベットの脇の椅子にまた座った。
「してないわ...よ...」
ルーベラの顔を見ないように目線を下げるリザ。
「....悪かった。」
ルーベラが何故か謝る。
「なんで謝んのよあんたが...」
「リザさんの気持ちも考えないでほいほいと勝手にお見舞いに来て、迷惑に決まってた。悪かった。」
リザを見据えて申し訳なさそうな顔でそう言うルーベラ。違う。そうじゃない。違うの。
「あ...」
言うべき言葉が見つからない。
「じゃあ、俺帰ります。」
「あ、あんたは...なにも...」
「リザさん、お大事に。」
ルーベラが悲しそうな笑顔で扉を閉める。バタン!扉の閉まる音が頭の中をこだまして離れない。
ルーベラは素直で純粋な男だ。捻くれて汚れた私なんかに会いに来るべきじゃないんだ。自分にそう言い聞かせる。何度も言い聞かせる。それでも虚無感は消えず。
「....バカじゃないの私...」
布団の中に隠していた破れたブランケットを握り締めた。
「バカよ....最低だわ....」
リザは窓の外を見るのが辛くなった。窓の外には眩しいぐらいに明るいギルドの中庭があるからだ。
それから4日ほど経っただろうか。今日もルーベラと誰かが剣の稽古をしている音が遠くから聞こえてくる。音が止んだ。休憩だろうか。
音が止んでからしばらくしたぐらいだろうか、病室の外から慌ただしい足音が聞こえてきた。それはリザの病室の前で止まり、勢いよくドアを開けた。
「リザ、見舞いに来てやったぞ」
しつこい男だ。また来た。やたらたくさんの荷物を抱えている。
「.....」
黙り込むリザ。
「んー?リザァ。俺が来てやってるのになんだその態度。なにが気に入らないんだよ?」
紙袋の中をベットの上にぶちまける男。そこには美しいがキラキラしすぎてて趣味じゃない服や色とりどりの宝石が散乱していた。
「お前のために用意した。俺のところに来ればこんなもの無限にある。ぜぇんぶ、お前に、プレゼントだ。」
ニタァと笑う男。気持ち悪い。吐き気がする。
「帰って。」
「あ?」
「何もいらない。早くこれ、片付けて帰って。」
男の顔をまっすぐに見て言うリザ。しかし男は窓際の花瓶に目をつける。
「んーー?なんだこれ。貧相な花だなぁ。」
花瓶から花を取り出して窓の外へバラバラと捨てる男。
「‼︎⁉︎何するのよ!!」
叫ぶリザ。窓際で取っ組み合う。
(花が窓の外へばら撒かれた時点でルーベラはリザの病室の窓際をハッとして見つめる。窓際でリザと男の取っ組み合いが始まった時点で彼は何も考えずに走り出した。)
「おい!ルーベラ⁉︎まだ稽古の途中だろうが...‼︎」
「あれだけ!金を!積んでやったのに!俺の言うことひとつ聞かないのかお前は!?」
「仕事は仕事ッ...でしょう⁉︎仕事は辞めたの!あんたとはもうなんの関係もない!夢見てんじゃないわよ!」
「ハァ⁉︎何言ってるんだお前⁉︎仕事を辞めた後のお前を買い取るって言ってるんだよ俺ぁ!!」
「そんな...の!私は認めてないわ!買い取るだなんてそんな!私には、私の生活があるの!そんな勝手なことッ...!」
「スラムの娼婦に選択肢なんてあると思ってるのかお前?」
冷たく言い放たれる。そして左頬に拳。痛い。熱い。
バタン!!
ドアが勢いよく開く音がした。誰かが病室に入ってきたのか。看護士かな?そう思っていたら目の前の男が入ってきた誰かに首ねっこを掴まれ、投げられていた。壁に男がぶちあたる。
「ぶ⁉︎痛えななんだお前は!俺たちの話の途中に水さすんじゃ...「うるさい」
よろけていたリザを入ってきた誰かが抱きとめる。丈夫な腕にこの暖かい土の匂いは。
「ルー...ベラ...?」
「うるさいよお前。女性に手をあげるなんて、最低だ。」
「あぁ!?これが俺のやり方なんだよ!どこの誰ともしれねえ亜人畜生めがいっちょまえに俺に指図するんじゃねえよ!」
「俺はお前のやり方を正しいとは思えないから言ってるんだ。いっちょまえに、自分勝手な暴論振りかざすんじゃねえよ。」
普段の温厚な目からは想像できないような目線を男にとばすルーベラ。
リザを庇うように、男の手が触れないよう蔽い隠すように抱き込む。
「何お前リザに触ってるんだよなぁ‼︎」
乱暴にルーベラに殴りかかる男。ルーベラはその拳を背中で受ける。やり返さない。
「は!お前そいつがどんな女か知っててそんなことしてんのか!?だとしたらお頭の幸せな野郎だな!」
「俺は、そんなの、知らない。」
「おめでたい野郎だ!そいつはな!金のためならどんな奴とでも寝やがる性悪女だ!」
「やめて!」
リザが悲痛な叫びをあげる。
ルーベラはぐっと...さらにリザを抱きしめる。
「お前みたいな田舎の亜人坊主は騙しやすいんじゃないのかええ?」さらに激しく捲したてる男。
「やめろ。」
そのまま男を睨みつけるルーベラ。その目には激情に溢れていた。その視線に男は固まる。
「ヒッ...」
あれだけ元気に跳ねていた舌も口の奥に引っ込んだのか、言葉にならない音だけが男の口から発せられる。
「...くそが」
ガタガタ震える足でみっともなく病室をあとにする男。ルーベラはようやくリザを解放する。
「あ...え...っと...」
リザがどもる。
「えっ....と」
ルーベラもどもる。
「ご、ごめんな!だ、抱っこなんてしてしまって...あ。悪気は!無かったから!な...?」
さっきまでの威勢はどこへやら。いつも通りのルーベラだ。何かを必死に弁解しようとしている。弁解する事なんてないはずなのに。
「は?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、ごめんって...」
「何よそれ。」
フフっと笑ってしまった。
「な、んで笑ってるんだよ?」
「だって、おかしいもの。あんたに非は全く無いのに、必死に謝ってるんだもん。」
「え?」
非は無いという言葉に驚きを覚えるルーベラ。
「うん。ありがとう。本当に、ありがとう。」
泣きそうな顔で満面の笑みを浮かべるリザ。
「な⁉︎」
焦るルーベラ。
「なんで、そんな顔してるんだよリザさん?」
「本当に嬉しかったんだ。もう駄目だって思った時に助けに来てくれた。本当に、嬉しかった。」
リザはぽろぽろと涙を零す。
その姿にルーベラは更にあたふたする。
「....でもごめんな。私は娼婦。まあ辞めたっちゃ辞めたんだけどさ。あんたみたいに綺麗なやつとは一緒に居られないぐらいに穢れてるよ。」
リザは本当に申し訳なさそうな顔をして呟いた。
その言葉にルーベラは何が何だかという顔で答える。
「なんだそれ。そんなの関係無いんじゃないか?」
「は?だって娼婦だよ?」
「だからなんだよ。」
ぽかん。なんだこいつ。本当の変わり者だ。
「あーもう。変なやつ。」
「変ってなんだ失礼だ。」
「良い意味よ良い意味。」
泣きながらリザはカラカラと笑った。
こんなに温かいのはいつぶりだろう。
ルーベラが来る日はなんでこんなに。温かいんだろう。
2人が恋心に気づくのはまたもう少ししてから。
「いつも同じこと一生懸命やっちゃって、ばかじゃないの。」
でもなんだかとても気になった。毎日見ていたら一体どんなやつなのか、とてつもなく気になった。
だからあの日、外出許可が出た日に少しだけ様子を見に行ったんだ。
-ギルド中庭前-
「ねえあんた。毎日同じことばっかしててバカみたいね。」
「...いきなり失礼な人だなぁ...。!君は。」
ルーベラも窓際の自分の存在は知っていたようだった。
「君は病院の?」
「なんだ知ってたの」
「病院に居なくて大丈夫なのか?」
「今日は外出許可が出てるの」
「折角の外出許可なのにこんな所にきてていいのか?」
「行きたいところなんて無いからここでいいの」
「そう。」
ルーベラは不可解な顔で仕事に戻る。リザはずっとそれを見ていた。しかしルーベラは何も言わずにギルドの中に入っていってしまった。
「つまんないの」
目的の人物がいないのなら帰るしかないなぁ。リザはそう思ってくるりと帰路につこうとした。
「帰るのか?」
振り向くとルーベラがギルドから出てきているた。右手に赤い薄手のブランケット、左手にお茶の入ったグラス。「羽織ってた方がいいと思う。」
リザにブランケットを渡してからお茶を渡す。
「....ふーん。気がきくんだ。」
いたずらそうに聞き返すリザ。
「...どうも。」
リザの方を見ないで素っ気なく答えるルーベラ。そのまま洗濯の続きを始める。
「あんた体バカみたいにデカイのに傭兵じゃないんだ?」
「ただのお手伝いだよ。」
「毎日バカみたいに素振りしてるのに?」
「あれは...なんで知ってるんだよ君が。」
「毎日見てるから」
いたずらそうに上目遣いでニッコリ笑って答えるリザ。(この手の仕草は男性を誘うための常套手段だ。)
「つまんないのを見てるんだな君は」
少しフッと息を漏らして軽く笑うルーベラ。リザは気にくわない。(ここは誘われて狼狽えるところだろうが!とか思ってる。)
「違うわよ。バカ正直に剣ふるっててどうかしてるんじゃないかって思ってただけよ。」
フンッと睨みつけながら言う。するとギルドの方から女性が出てきた
「ルーベラお疲れ様!ここにお茶置いておくわよ...あら。」
女性はリザの姿を捉える。
「どなた様かしら。」
ルーベラに視線を投げかけて女性は尋ねた。
「えと...彼女は、」
リザに視線を投げかけるルーベラ。居心地が悪くなってリザは途端駆け出した。
「あ、君!...」
「知り合い?」
「いえ。向かいの病院の人なのは分かるんですが。」
リザが病室に戻って窓から庭の様子を見るとルーベラと女性が談笑しているのが見える。リザはなんだか少し悲しい気分になった。
「ルーベラ、ね。ルーベラ。」
名前を繰り返しつぶやくリザ。
「変なの。」
そうつぶやいてからリザはブランケットを借りっぱなしなのに気がついた。
次の日窓の外を見ているとルーベラが誰かと戦っているのが見えた。(ギルマスとルーベラ)リザは借りっぱなしにしていたブランケットを返さねばと病室を抜け出した。無断で外に出て建物の陰から様子を伺う。ルーベラは必死でギルマスの木刀を受け、しかしやはり未熟なのかどんどん押されていく。
「何にビビってるルーベラ!!」
ギルマスは叫ぶ。しかし今回は押し負けないルーベラ。逆にギルマスをはじき返す。しかし反動でしょうルーベラは尻餅をついてしまう。
「...そこそこ腕を上げたなルーベラ。」
「え?」
自信のなかったルーベラの顔が上げられる。ギルマスがルーベラに言い聞かせるように
「過去を忘れろ、捨てろとは言わない。ただそれに己を締め付けられぬようにしろ。それはお前を殺しに来るぞ。」
ハッとするルーベラ。
「お前がビビりなのは知ってるがな、この仕事は戦いの仕事だ。人も死ぬ。お前があの時見たものよりもっと残酷なことをこれから目にするかもしれない。お前がビビってたら仲間も救える命も失うだろうよ。」
そう言ってルーベラに背中を向けるギルマス。ルーベラはその背中に向けて。
「俺は!!!負けないッ....!!!」
叫びながらギルマスに殴りかかろうと駆け出するルーベラ。目を見開き力んでいる。しかしルーベラの拳はやすやすと受け止められる。
「負けない、か。良いツラしてんなルーベラァ!....良いぜ初仕事だ。来月の遠征、お前を連れて行く!」
ギルマスは豪快にニヤリと笑いながらルーベラにこう告げる。
「は...え?」
「お前に今まで足りなかったのはさっき見たいな思い切りだ。ようやくそこの線を越えてくれたか。」
「あ....えっと俺...」
「まあもっと自信を持てってことだ。また明日も相手してやるよ。」
ギルマスは今度こそ歩いてギルドの建物の中に戻って行った。
ルーベラはしばらくしてから顔を真っ赤にする。(とてつもなく嬉しかったようだ)
リザはまたしても出る幕を失ってしまった。
「....バカじゃないの」
ついつい呟いてしまった。返せなかったブランケットを握りしめて病院に戻ろうとする。その時ギルドの中庭の方から情けない叫び声が聞こえてきた。
「ウワァァァァア⁉︎」
リザは何事かと引き返す。そこにはルーベラがひっくり返っていた。
「ちょ、あんた何してんの‼︎」
叫ぶリザ。
「くっ...くもっ..!」
「くも?」
目をやるとルーベラの腕に小さな蜘蛛が。
「はぁ⁉︎」
素っ頓狂な声を出すリザ。なんてものにビビってるんだこの巨人は。
「なんなのあんた、こんなちっちゃいのにビビっちゃってさ。」
ルーベラの腕の上にいる蜘蛛を取るリザ。
「ほら、もういないよ。」
「あ...え?ぁ...りがとう。」
きょとんとするルーベラ。
「あ...?君は昨日の...」
「.....なによ。」
「え....いや....」
「ハッキリしなさいよ。」
さらに顔を赤らめるルーベラ。
「いや....変なところ見られちゃったなって...」
「は?」
俯向くルーベラ。
「え...っとね。あんたが変なのはいつ見てもそうだから。」
さらに俯向くルーベラ。
「かっこばっかつけてる奴に比べりゃ圧倒的にマシよ」
フンとそっぽを向くリザ。
「は?」
「だから!カッコつけてばっかの奴らに比べたらあんたの変な方が断然マシだって言ってるの!もっと自信持ちなさいよ。」
「え....あ.....ありがと...う?」
困惑しながらルーベラはこう言う。
「あと...これ!返しに来たわよ。」
片手でズイとブランケットを差し出すリザ。
「...ありがとうね。」
「あ、いや、気にしないでくれ。それにこれはあげたつもりだった。」
ブランケットをリザにおしかえすルーベラ。それを受け取るリザ。
しばらくして、
「....あんたルーベラっていうんだね。」
「え?」
「あんたの名前よ!」
「あ、あぁ。ルーベラ・ヴァレンシア。俺の名前。」
「ふーん。ルーベラ・ヴァレンシアね。」
うんうんと頷くリザ。
「きみは?」
「え?」
「きみの名前はなんて言うんだ?」
今度はまっすぐリザを見て問いかけるルーベラ。
「リザよ。リザ・メルドリア。」
少しルーベラを睨みながら言うリザ。
「リザさん、ね。リザさん。」
名前を覚えようと何度かつぶやくルーベラ。えらく真面目そうに見える。
「早く元気になるといいな、リザさん。」
そしてルーベラはリザにこう言う。
何故か顔を赤らめるリザ。
「た、大したことないんだからこんなの!すぐ治るし...うん。ありがとう...」
だんだん尻すぼみになっていく。
「こら!メルドリアさん!」
リザの後ろから声が。
「うわ」
「今日は外出許可出てないでしょう⁉︎まったくもう。ほら戻りますよ!」
看護士がリザを連れ戻しに来たようだ。
バツが悪そうな顔をするリザ。
「すみませんねうちの患者が...ほら行きますよ!」
連れて行かれるリザ。
「あ、また今度な!」
ルーベラは咄嗟に叫ぶ。
リザの顔はルーベラからは見えないが、ハッとした表情をするのかも。
この後リザは外出許可が出るとルーベラに会いに行って話をするぞ!
ある日。
「えと、どうも。」
リザの病室のドアを開く音と同時に声が。
「え?あ!あんた!」
リザがびっくりしたような声を上げる。
「ルーベラ、なんでここに。」
「えと...お見舞いだよ。お見舞い。」
「はぁ..,」
めっちゃ動揺しているリザ。今日は雨が降ってるからルーベラ居ないなぁとか思っていたところだった。
「お見舞いと言っても特に何か持ってきたとかそういう訳じゃ無いんだけどさ。」
「いや、そんなの別にいらないし。」
フイッとそっぽを向くリザ。
「なんでお見舞い来たのよ。明日じゃなかったの、初仕事ってやつ。」
「あ、まあ、そうなんだけどさ。ギルマスに緊張しすぎだから少し外の空気吸ってこいって言われてしまって。」
「そんでここに、ねえ。」
ふーん。とかそんな顔でルーベラの顔を盗み見るリザ。
「私に会うと落ち着くの?」
イタズラそうにニヤニヤしながら聞くリザ。
「は!?」
明らかに動揺するルーベラ。こいつは女と触れ合う事が極端に少なかったんだなとリザは確信する。
「なんてね。こんな所何も無いわよ。しかも薬臭いし。外の空気吸うどころかなんか気分悪くならない?」
「いや、それは、大丈夫だ。」
「...初仕事で緊張するのは分かるわ。どんな仕事でもそうだもの。でも自信持ちなさいよ。毎日訓練してたんだから。」
(ガラにもなく励ましてしまった。)
「あ、うん。俺頑張るよ。頑張る。」
自分に言い聞かせるようにつぶやくルーベラ。
「うん。頑張りな。」
いつにも増してバカ真面目なルーベラをみてフッと笑うリザ。
-ルーベラ遠征中-
リザの病室に1人の男がやって来た。身なりがよくでっぷりとしたいかにもいやらしい男。
「リザ、探したぜ。」
ニヤリとしながらリザに近づく男。
「‼︎....ッ...」
びっくりした顔をした後、苦虫を噛み潰したような顔をするリザ。
「なんだよォその顔は。せっかく迎えに来てやったのに。」
黙り込み俯向くリザ。
「こーーーんな貧相な病院じゃなくてもっと良いとこ入れてやるよ俺が。それとも俺の家に来るか?」
リザの髪に男の手が触れる。
「触るな!」
その手を弾くリザ。
「反抗期かな、え?俺が養ってやるって前から言ってんのに何してんのお前。」
「出て行って!」
ルーベラにもらったブランケットを握りながら叫ぶリザ。
「なんだその貧相な布。気持ちわりぃ、貧乏人の匂いがしやがるな。」
それに目をつける男。奪い取る。
「⁉︎返して!」
男はそれをあっけなく破いてしまった。
「お前は、俺の言うことを、聞いてりゃ良いんだよ。あの時の夜みたいに!」
激高する男。リザの頬を殴る。リザぐったりする。
「何事です!!」
看護士が駆けつける。
「俺の女が世話になったようで。連れて帰りますんで手続きをお願いできますかね。」
「な⁉︎」
「リザさんは絶対安静です。まだ退院はできません。騎士団に突き出しますよ?」
キッパリと言う看護士。
「......チッ。」
不利を覚えたのか男は病室を出て行く。
看護士はリザに駆け寄り、
「大丈夫です?」
心配そうに背中に手を当てる。
「...大丈夫です。」
看護士の手を払うリザ。
「ご迷惑、おかけしました。」
それきりだまりこむリザ。
看護士は何も言わずに部屋を出る。
しばらくするとギルドの方から歓声が。何事かと目をやる。庭に至るドアが勢いよく空いて男が数名庭に転がりだす。男達の下敷きになっているのはルーベラだ。とても嬉しそうな顔をしている。男達はルーベラに酒を振りかけている。みんな嬉しそうだ。(ルーベラは初遠征で好成果を収めた。)リザはギルドがとてつもなく遠くて明るい場所に見えた。なぜか涙が溢れてくる。
「....バカみたい。」
破られたブランケットを握りしめて、声を殺して泣いた。
次の日。コンコンと病室のドアをノックする音。リザは居留守を決め込もうとする。(昨日のこともあって。)何度かのノックの後、扉が遠慮がちに開かれる。
「こん...にちは...?」
ルーベラだ。めちゃくちゃ遠慮がちに入ってくる。
「リザさん?....寝てるのか。」
起きてる。けど起きづらい。そのまま寝てるふりを続ける。ギィと音がする。ベットの脇の椅子に座ったようだ。カタカタ、キュッ、ジャー。置いてあった空の花瓶を手にとって水場に向かったようだ。蛇口を捻り、水を出す音が聞こえる。コトッと窓際に花瓶を置いたようだ。でも今起き上がるのは恥ずかしい。まだ寝たふりを続ける。
「...お邪魔しました...」
小声でそう告げるルーベラ。扉に手をかけ部屋から出ようとしている。やばい。帰ってしまう。
とっさに起き上がるリザ。振り返るルーベラ。
「き、来てるなら起こしなさいよ。」
少しルーベラを睨みつけてリザは言う。遠征での戦いで怪我をしたのか、身体中包帯だらけだ。
「眠ってるところを起こすなんてそんな。」
いやいやと首を振るルーベラ。
「あんただったら良いって言ってんの!」
勢いで言っちゃうリザ。言ってから「あっ。」って言っちゃう。
「俺だったらいいって...よく分からない人だなぁ...」
本気で不可解な顔をするルーベラ。天然だった。
「リザさん、顔怪我したのか?」
昨日男に殴られて青じんでいるところをルーベラに指摘される。
「あ、これは、、、そう。寝ぼけてぶつけたのよ。悪い?」
とっさに嘘をつくリザ。ルーベラには自分の醜いところを見せたくなかった。
「寝ぼけて⁉︎それ相当ひどい寝ぼけ方だったんだな...」
納得するルーベラ。天然だった。
「...悪かったわね...」
「いや、俺もたまにあるんだそういうこと。寝ぼけて怪我するってやつ。だから人のことは言えないなぁ。この間なんてさ。」
少しフフッと笑って話すルーベラ。
話が盛り上がる。
「そういえばこの花あんたが?」
「あ、うん。あんまり花なんてガラじゃないんだけどお見舞いっていったら花だろってギルドのみんなが言うから。」
「ふーん。なかなかいいチョイスなんじゃない?」
赤い少し大ぶりの花と小さな白い花。
「そういえば初仕事、上手くいったの?怪我してるみたいだけど。」
「あぁ!それが、すごく上手くいった。いや、怖かったけど。でも俺も頑張れば少しはやれるんだなって、思った。」
「そ、良かったじゃん。」
フイっとそっぽを向くリザ。昨日のことを思い出した。
「....リザさん元気ないな。病気悪くなったのか?」
天然じゃないのか?勘が鋭いのかルーベラはリザに尋ねる。
「別に。いつも通りよ。」
強がってルーベラを睨むリザ。
「?なに強がってるんだリザさん。」
なんでこういう時は鋭いんだ。
「だから何でもないって!ほら、お見舞いは終わりでしょ?早く帰りなよ。」
また思いもしないことを口に出してしまった。昨日のしつこい男が来たらどうしようか。ルーベラが居てくれるだけで随分と気持ちが楽なのにどうして追い返そうとしているんだ私は。
「俺何か悪いことしてしまったか?」
「してないわよ!」
「じゃあ、なんで、そんなに悲しそうな顔してるんだリザさん。」
心配そうな顔をしてルーベラが問いかける。ベットの脇の椅子にまた座った。
「してないわ...よ...」
ルーベラの顔を見ないように目線を下げるリザ。
「....悪かった。」
ルーベラが何故か謝る。
「なんで謝んのよあんたが...」
「リザさんの気持ちも考えないでほいほいと勝手にお見舞いに来て、迷惑に決まってた。悪かった。」
リザを見据えて申し訳なさそうな顔でそう言うルーベラ。違う。そうじゃない。違うの。
「あ...」
言うべき言葉が見つからない。
「じゃあ、俺帰ります。」
「あ、あんたは...なにも...」
「リザさん、お大事に。」
ルーベラが悲しそうな笑顔で扉を閉める。バタン!扉の閉まる音が頭の中をこだまして離れない。
ルーベラは素直で純粋な男だ。捻くれて汚れた私なんかに会いに来るべきじゃないんだ。自分にそう言い聞かせる。何度も言い聞かせる。それでも虚無感は消えず。
「....バカじゃないの私...」
布団の中に隠していた破れたブランケットを握り締めた。
「バカよ....最低だわ....」
リザは窓の外を見るのが辛くなった。窓の外には眩しいぐらいに明るいギルドの中庭があるからだ。
それから4日ほど経っただろうか。今日もルーベラと誰かが剣の稽古をしている音が遠くから聞こえてくる。音が止んだ。休憩だろうか。
音が止んでからしばらくしたぐらいだろうか、病室の外から慌ただしい足音が聞こえてきた。それはリザの病室の前で止まり、勢いよくドアを開けた。
「リザ、見舞いに来てやったぞ」
しつこい男だ。また来た。やたらたくさんの荷物を抱えている。
「.....」
黙り込むリザ。
「んー?リザァ。俺が来てやってるのになんだその態度。なにが気に入らないんだよ?」
紙袋の中をベットの上にぶちまける男。そこには美しいがキラキラしすぎてて趣味じゃない服や色とりどりの宝石が散乱していた。
「お前のために用意した。俺のところに来ればこんなもの無限にある。ぜぇんぶ、お前に、プレゼントだ。」
ニタァと笑う男。気持ち悪い。吐き気がする。
「帰って。」
「あ?」
「何もいらない。早くこれ、片付けて帰って。」
男の顔をまっすぐに見て言うリザ。しかし男は窓際の花瓶に目をつける。
「んーー?なんだこれ。貧相な花だなぁ。」
花瓶から花を取り出して窓の外へバラバラと捨てる男。
「‼︎⁉︎何するのよ!!」
叫ぶリザ。窓際で取っ組み合う。
(花が窓の外へばら撒かれた時点でルーベラはリザの病室の窓際をハッとして見つめる。窓際でリザと男の取っ組み合いが始まった時点で彼は何も考えずに走り出した。)
「おい!ルーベラ⁉︎まだ稽古の途中だろうが...‼︎」
「あれだけ!金を!積んでやったのに!俺の言うことひとつ聞かないのかお前は!?」
「仕事は仕事ッ...でしょう⁉︎仕事は辞めたの!あんたとはもうなんの関係もない!夢見てんじゃないわよ!」
「ハァ⁉︎何言ってるんだお前⁉︎仕事を辞めた後のお前を買い取るって言ってるんだよ俺ぁ!!」
「そんな...の!私は認めてないわ!買い取るだなんてそんな!私には、私の生活があるの!そんな勝手なことッ...!」
「スラムの娼婦に選択肢なんてあると思ってるのかお前?」
冷たく言い放たれる。そして左頬に拳。痛い。熱い。
バタン!!
ドアが勢いよく開く音がした。誰かが病室に入ってきたのか。看護士かな?そう思っていたら目の前の男が入ってきた誰かに首ねっこを掴まれ、投げられていた。壁に男がぶちあたる。
「ぶ⁉︎痛えななんだお前は!俺たちの話の途中に水さすんじゃ...「うるさい」
よろけていたリザを入ってきた誰かが抱きとめる。丈夫な腕にこの暖かい土の匂いは。
「ルー...ベラ...?」
「うるさいよお前。女性に手をあげるなんて、最低だ。」
「あぁ!?これが俺のやり方なんだよ!どこの誰ともしれねえ亜人畜生めがいっちょまえに俺に指図するんじゃねえよ!」
「俺はお前のやり方を正しいとは思えないから言ってるんだ。いっちょまえに、自分勝手な暴論振りかざすんじゃねえよ。」
普段の温厚な目からは想像できないような目線を男にとばすルーベラ。
リザを庇うように、男の手が触れないよう蔽い隠すように抱き込む。
「何お前リザに触ってるんだよなぁ‼︎」
乱暴にルーベラに殴りかかる男。ルーベラはその拳を背中で受ける。やり返さない。
「は!お前そいつがどんな女か知っててそんなことしてんのか!?だとしたらお頭の幸せな野郎だな!」
「俺は、そんなの、知らない。」
「おめでたい野郎だ!そいつはな!金のためならどんな奴とでも寝やがる性悪女だ!」
「やめて!」
リザが悲痛な叫びをあげる。
ルーベラはぐっと...さらにリザを抱きしめる。
「お前みたいな田舎の亜人坊主は騙しやすいんじゃないのかええ?」さらに激しく捲したてる男。
「やめろ。」
そのまま男を睨みつけるルーベラ。その目には激情に溢れていた。その視線に男は固まる。
「ヒッ...」
あれだけ元気に跳ねていた舌も口の奥に引っ込んだのか、言葉にならない音だけが男の口から発せられる。
「...くそが」
ガタガタ震える足でみっともなく病室をあとにする男。ルーベラはようやくリザを解放する。
「あ...え...っと...」
リザがどもる。
「えっ....と」
ルーベラもどもる。
「ご、ごめんな!だ、抱っこなんてしてしまって...あ。悪気は!無かったから!な...?」
さっきまでの威勢はどこへやら。いつも通りのルーベラだ。何かを必死に弁解しようとしている。弁解する事なんてないはずなのに。
「は?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、ごめんって...」
「何よそれ。」
フフっと笑ってしまった。
「な、んで笑ってるんだよ?」
「だって、おかしいもの。あんたに非は全く無いのに、必死に謝ってるんだもん。」
「え?」
非は無いという言葉に驚きを覚えるルーベラ。
「うん。ありがとう。本当に、ありがとう。」
泣きそうな顔で満面の笑みを浮かべるリザ。
「な⁉︎」
焦るルーベラ。
「なんで、そんな顔してるんだよリザさん?」
「本当に嬉しかったんだ。もう駄目だって思った時に助けに来てくれた。本当に、嬉しかった。」
リザはぽろぽろと涙を零す。
その姿にルーベラは更にあたふたする。
「....でもごめんな。私は娼婦。まあ辞めたっちゃ辞めたんだけどさ。あんたみたいに綺麗なやつとは一緒に居られないぐらいに穢れてるよ。」
リザは本当に申し訳なさそうな顔をして呟いた。
その言葉にルーベラは何が何だかという顔で答える。
「なんだそれ。そんなの関係無いんじゃないか?」
「は?だって娼婦だよ?」
「だからなんだよ。」
ぽかん。なんだこいつ。本当の変わり者だ。
「あーもう。変なやつ。」
「変ってなんだ失礼だ。」
「良い意味よ良い意味。」
泣きながらリザはカラカラと笑った。
こんなに温かいのはいつぶりだろう。
ルーベラが来る日はなんでこんなに。温かいんだろう。
2人が恋心に気づくのはまたもう少ししてから。
