日常交流

錬金術とは化学的手段を用いて価値の無い金属から黄金を造り出す事を主な目的とし、どんな金属をも金に変える力を持つとされる賢者の石を精製することを目的としている。

それに伴い、金属に限らず肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成させる試みである。


つまりそれは、古代から人類が夢見た不老不死を実現しようとする研究でもあった。

また、錬金術は神が世界を創造した過程を再現する大いなる作業であるとされている。




だが、今現在において錬金術の意義は変化しつつある。

魔法文明と科学文明の混在するブルボン国において、錬金術は一つの文化として存在し、双方の性質を併せ持つ錬金術は、魔法文明にも科学文明にも大きな影響を与えている。


それによって様々な道具や薬が産み出された。



勿論、兵器もその一つ。


爆弾、大砲、魔導兵器……



これらは錬金術の研究の末に産み出されたものではあるが、それらを求めたのは他でもない、人間なのである。






……と私の先生は言っていた。



我々錬金術師は自らの技術を磨き、より高みを目指し、知識の探求に邁進せよと私は教えられた。





そして先生はこうも言った。



俺らは錬金術を提供するだけ。
その後の事は気にすんな。

犯罪?戦争?
そんなもん気にしてたら俺達おまんまの食い上げだ。





そう、今は食べて生きる事が何より大切。










この国には私の他にも多くの錬金術師が工房を構えている。


錬金術が文明にどんな影響を及ぼすかとか、そんな難しい事を考えてる暇は無い。



錬金術師になって、その技術で生きていこうと決めたのだから、とにかく不自由しないぐらいは稼がなくてはいけない。



今この国は、いつ戦争が起きてもおかしくないと言われるぐらい混沌としている。



民族間や宗教派閥の争いは日常茶飯事。




当然ながら錬金術師も被害にあうこともある。




宗教的な意味で異教徒とみなされて襲われてしまったり、名のある権力者からの依頼を受け、それを良しとしない者に暗殺される…などという事例も最近耳にした。





そんな時勢の中、私は工房を運営している。


ブルボン国の郊外に位置する静かな場所で、工房の目の前には大きな川が流れている。



近所に人はあまり住んでおらず、あるのは私の工房と水車ぐらい。







人は少ないが自然に溢れた場所で、穏やかな時間が流れるこの場所を私はとても気に入っている。




日差しは柔らかく、風は穏やかで水はとても美しい。

実り豊かな森もある。



ブルボン国に来てからまだ2年しか経っていないが、本当にとても良い国だと思っている。






だが、このような郊外に店を構えて客足はあるのかと問われると、正直な話、それほど客足は伸びていない。



そもそも、空き家を工房として整えるためにほぼ一年を費やした為、店を運営し始めたのも数ヵ月前の話である。







売り上げを伸ばすには幅広い客層を得なければいけない。



その為には……




「やはり知名度を上げないことにはお客さんは来てくれないですよね……

いえ、それよりももっと重要な問題が……」




今月の売り上げを纏めた書面と向き合いながらノルンは一人呟く。




やらなければいけない事は山ほどある。



しかし手が足りない。



商品を作るのも売るのも全部ノルンが一人で運営している。

商品を作る為の材料も一人で採取している。


その間店は閉めている。


これでは客にとって便利な店とは言えない。


それでは客足が伸びる筈もないのだ。


今の問題を解消する為に取るべき行動は…




「まずお手伝いさんを雇わなくてはいけませんね……せめて二人くらい…。」



そう呟くとノルンは紙を一枚手にすると、それを机に広げ、水鳥の羽で造られたペンを手に取ると、ペンの先で軽くトントン…と紙面を叩く。

すると羽ペンはすっ…と垂直に立ち、ノルンの手を離れて紙の上に浮いた。


「羽ペンさん、広告を書きたいのでよろしくお願いします。

えーと…人材募集中。
体力に自信のある方、魔法の知識のある方を募集中です。
年齢は問いません。
お給料については……」


ノルンが言葉を口にすれば羽ペンはスラスラと踊るようにそれらを紙面に書き記していく。


ノルンは羽ペンには一切触れていない。


一般人から見ればそれは不思議な光景に映ることだろうが、ノルンにとってはこれは当たり前の光景。


それ故に、まさか窓から覗いていた者がいた等とは思っておらず…


「あれ~~~~~?
お姉さんもしかして魔法使い~??」



「!?」



突如かけられた声に驚き顔を上げると、窓の外には一人の少女が屋根からこちらを覗き込む姿が視界に映った。

想定外の光景にノルンは言葉を失い、それまで宙を舞っていた羽ペンがコトリと机に落ちた。



「よっ…と!ちょっとおじゃましまーす!」


少女は開け放たれていた窓から軽やかに部屋へと飛び込み、机に転がった羽ペンを手に取り繁々とそれを眺めた。

そこで初めてノルンはようやく少女に声をかけた。



「えっと…あなたは…?
どこから来たの?

あっ…もしかして…お客さんでしたか?」




「ううん、違うよ!
ちょっと近くを通りかかったから覗いてみた、通りすがりのカボちゃんだよ!」


少女は無邪気な笑みを浮かべてそう答えた。



「なんか魔法の匂いがしたからさ、ふらふら~って来ちゃったんだよね!
で、お姉さんここで何してるの?」


「えーと…私は錬金術師で、ここでお店をやってるんです。」


「ふーん。」


そう言うと少女は先程までノルンが向かい合っていた紙面に目を落とし、暫し眺めると再びノルンに向き合い言葉を口にした。


「お姉さん、あたし手伝ってもいいよ?」


「えっ?」


「これ人材募集のちらしでしょ?
あたし魔法の知識あるし、日用の銭を稼ぎたいからさ!」
2/69ページ
スキ