日常交流

 僕たちの1日はお父さんが家の外に出る音を合図に始まる。まだお日様は顔を出していない。僕たちはモゾモゾと布団から出てシャツに着替えてチノパンを履く。お父さんのお仕事は朝早くから始まる。僕たちはそれの手伝いをするのだ。

「行こうか兄さん!」
「うん。今日はトマトがいっぱい取れたらいいね、リーベラ。」

少し眠そうな声でリザードマンとヒュームの混血の双子、ルーベラとリーベラはベッドルームを抜け出して走り出した。



【な....い.....】



『おはようお父さん!』
「おーー。おはよう2人とも」

まだ少し薄暗い畑で明るい挨拶が飛び交う。

「ねぇねぇ、今日はトマトいっぱい取れそう?」

こちらはリーベラだ。人懐こい笑顔で父親の元へ駆けていく。ルーベラは少し頬が綻んだような幸せそうな顔でリーベラの後を歩いてついていく。

「んー。そうだなぁ。うん。今日はいっぱい取れそうだぞ!良い感じに熟れてきた。こりゃあ今晩はトマト煮込みだな。」

双子の父親、イェルドはトマト畑の方へ歩いて行き、トマトの様子を確認してトマト大好きな2人に笑顔で報告した。

『やっった!』

トマト煮込みは2人の大好物だ。

「さ、お手伝い頼むぞ〜。とりあえず水やりと草抜きお願いしようかな。」

『はーい!!』

返事をしながら2人はお手伝いを開始する。

「頑張ったら朝ごはんも美味いぞ〜〜」

イェルドが2人に言葉を投げかけた。
少し明るくなってきたオードラン家の畑は賑やかな会話に包まれていた。



【....さ....】



「ウワァァァァアやめろよリーベラウワァァァァア」
「もーー兄さんったらまだ蜘蛛が怖いの?ほらほら!」
「ウワァァァァア”」

リーベラは弱虫の兄、ルーベラをよく蜘蛛をつかってイタズラする。今日もルーベラは元気に泣いているようだ。

「こーーーらーーー!リーベラあんた良い加減にしなさいよ⁉︎」

女性の怒ってはいるが、しかし優しい声が家の方から聞こえてくる。

「ルーベラも!いつまでもそんなの怖がってんじゃないわよ!」

『ごめんなさい...』

2人仲良く頭をさげる。

「ウワァァァァア蜘蛛ォォ!!」

リーベラはすかさずルーベラの服の中に蜘蛛を入れていたようだ。ルーベラは爆竹のように駆け出した。

「こらッッ!!」

オードラン家の朝ご飯前はいつも慌ただしい。



【お前......を....】



『行ってきまーす‼︎』
「はーい、行ってらっしゃい!」
「頑張るんだぞー!」

2人は朝ごはんを食べると村の小さな学校へ向かう。父と母は仲良く家を出る2人を笑顔で見送る。いつもの風景だ。



【.......い】


 
 勉強が得意なのはどちらかと言えばルーベラで、剣技や運動が得意なのはどちらかと言えばリーベラだった。ことあるごとに2人はいろんな勝負をした。勉強じゃいつもルーベラが僅差で勝ち、運動では僅差でリーベラが勝つ。なかなか覆らないこの戦いで2人はいつも火花を散らし、そして小言をたたき合いながらも互いを健闘し合う。そんな毎日。



......やめろやめてくれ痛い苦しい。



家に帰るときは駆けっこで競争をする。ルーベラが悔しくて毎日勝負を申し込むのだ。

「どうせ勝てっこないよ?兄さんったら。」
「いいから!勝負!」
「もーー。しょうがないなぁ。」

視線を交わし、瞬間、駈け出す2人。

走る。走る走る走る。
風を切って走る。周りなど見えない。見えるのはゴールと互いの姿だけ。
走る。ひたすらに走る。

ルーベラがリーベラを抜かす。更に加速。走る走る走る。


「...ッハァ!!」

ゴールである玄関の門をルーベラが駆け抜けた。
勝った。勝ったんだ。ルーベラは後ろを振り返る。

しかしそこには

誰もいなくて。



【ルーベラ、お前を、許さない。】


背後から声がする。酷い声が。誰かの手が僕の(俺の)首に触れる。冷たい。やめて。やめろ。やめてくれ。


「なんで俺を....見捨てたの兄さん」


血塗れの弟が、こちらを見ていた。





「ーーーーッ⁉︎」

暗い部屋で大きな影が勢いよく起き上がる。

「ハァハァハァハァ....ック....ハァハァハァ」

冷や汗が首筋を伝う。心臓が今にも破裂しそうだ。視界がぼやける。

息が、できない。


「ルーベラ!!」


自分を呼ぶ声にハッと気がつき右手側を見る。

「大丈夫かいあんた。今日はいつにも増してうなされてたね。」

心配そうにこちらを覗き込む黒い瞳の持ち主はリザだ。

「あ...すまないな、起こしてしまって。」

ぼやけていた視界が次第に元に戻っていく。リザの顔がすぐそばに見えた。

「そんなことはいいのよ。....またいつもの怖い夢?」

ルーベラの髪をかき分けて顔色を伺うリザ。もう片方の手では背中をさする。

「....うん。あの、怖い夢だ。」

ポツポツとルーベラは答えた。リザは何も言わずに夫の体に腕を回して、手の平で一定のリズムを刻むようにトントンと背中を叩く。自分よりもはるかに大きな体が今は小さな子供のように見えた。

「大丈夫よ。私がいるでしょう?」

優しい声でリザはルーベラに声をかける。

「あぁ。大丈夫だ。お前が、いる。」

ルーベラはリザの体に腕を回す。小刻みに体は震えていたが次第に乱れた呼吸も震えもおさまってきた。


 
 それからルーベラは夢を見た。リザと一緒にどこか遠くて温かい花畑を歩く夢。花は全てリザの愛嬌のある髪の毛と同じ色をした赤だった。




(ある夜の話)
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