本編アフター 物語のその先
解放軍と赤軍との戦いから丁度一年が過ぎた頃、世間は落ち着きを取り戻し、民達は新しい女王の即位に沸き立ち誰もが新たな時代の到来を喜び祝福の言葉を口にしていた。
花は咲き乱れ光が溢れ暖かな風が通りすぎて行く。
「いやぁ久しぶりに来てみたがとても争いがあったとは思えないねぇ。」
誰に聞かせるわけでもなく一人呟いた。
物見遊山気分で尋ねた王都はそれはそれは美しいところだった。
人混みを縫うように駆けていく子供たち。その顔を見ればこの国がどれだけ平和になったかなんてわざわざ話を聞かなくたってよーーく解るさ。
その日暮らしのいい加減男は仕事を求めて街を歩く。
市場で林檎をひとつ買い、特に宛もなく街を歩き、好みの美女を見かけたらとびきりの笑顔を向けて見るが相手にはされず。
「まあ……国が変わろうが、俺の暮らしはそう簡単に変わりはしねぇわな……。」
男は変化を求めていた。
嘗てのような華やかな暮らしに戻りたいと言うわけではなく、新たな出逢いを求めて彷徨い続けているのだ。
「あーーーあーーー!どっかにとびっきりの美女はいねぇかなぁーーー!
俺の話し相手になってくれるような優しくて可愛い女の子がいてくれたらなぁーーー!」
ため息混じりにひとり空に向かって大声で言葉を吐き捨てた。
そこに神様がいるっていうならちっぽけな人間の一人である俺のちょっとした愚痴ぐらい聞いてくれたっていいんじゃねぇんですかね??
ま、こんな願い聞いてくれるとは思ってませんけどね……
と……その時だった。
ふわり……と目の前で白い衣が揺らめいた。
一瞬の出来事でよく解らなかったが、それと同時に顔面に強い衝撃を受けてそのまま俺は後方へ倒れた。
「…………いっっ……!!
なんだなんだ!?いきなり何が…!」
幸い意識が飛ぶことはなかったが、鼻から温かな何かが垂れていると言うことだけは理解できた。
だが、思うように身体が動かない。
ずしりと重みを感じる腹の上には白い衣を纏った赤毛の女の姿があった。
さらり……と流れる赤い髪は陽の光を受けてキラキラと輝き、俺の頬を擽った。
「……あ……お前は誰だ……?なんでそんなところに……?」
俺の問いに彼女は答えない……否……答えられない……のか……?
困ったような表情を浮かべながら手にしたハンカチを俺の方へ差し出している。
……これを……使えってことか……??
いやいや!こんな白くて綺麗なハンカチ俺の血で汚す訳にはいかねぇよ!?
「や!大丈夫!ほら止まってるだろ!?だからそれはしまっておけ!な?」
右手で制止しながら言い放てば彼女は安堵の表情を浮かべた。
良く良く見てみれば彼女は上品な衣を纏ってはいるが、手にした荷物から察するに旅人のようだ。
こんな華奢な女がひとり旅とは……いくら世間が平和になったとはいえ、女を狙う悪党がいなくなった訳ではない。
ここはひとつ……提案してみるか。
「どういう状況か知らねぇが、どこかでゆっくり話をしないか?
訳あり……なんだろ?
どうだい?お嬢さん。俺を護衛に雇わないかい?」
目の前に降り立った天使をこのまま空へ帰すのは惜しいからな……。
「俺の名前はルディだ。ああ…!そんなに警戒するなって!こう見えても元貴族だ。怪しい者じゃないさ!お嬢さん、あんたの名は??」
俺の言葉に彼女は訝しげに首を傾げた。
じっ……と静かにこちらを見据えながら何かを伺う様子に俺は微かな違和感を感じずにはいられなかった。
何故だろう……何かが欠けている。そう感じていた。
まあ、初対面の相手を信用できる筈もないかとその場に立ちながら返事を待っていると、そっと彼女は俺の右手に触れて掌を開かせて指先で何かを綴り始めたのだ。
これは……
もしかして耳が聴こえていないのか?
ゆっくりと綴られていく文字を読み解いていく。そしてようやくここでひとつの言葉になって俺の脳裏に伝わってきたのだ。
『ごめんなさい、私耳が聴こえないの。』
「あー……そうか、そいつは悪かったな……っつーても……これじゃ聞こえないのか……。
そうだな……じゃあ……まずはそこの噴水のとこの椅子にかけてくれないか?」
俺の言葉は伝わっていないのかもしれない。
それでも言葉は優しく紳士的に。
耳が聴こえなかったとしても彼女は一人の『レディ』に違いないのだから。
「まずは自己紹介をしようか。
俺の名前はルディだ。仕事は…主に旅人の護衛役を請け負ってる。
っと……こんなとこか……。」
さらさらと紙に綴った文字。
筆談ならばコミュニケーションがとれるだろうと試してみたが、どうだろう……?彼女に伝わっただろうか……?
「……。」
一言も言葉を発しないまま青い瞳が俺の姿を捉えた。
そして白く細い指先が俺の手からペンをそっと受け取ってさらさらと俺が手渡した紙の上に美しい文字が綴られていった。
「……ヘレン……。そうか。君の名前はヘレンと言うのか。美しい名だ。」
そう言って笑顔を向ければ彼女はふいっと目を反らして紙の上にまた文字を綴っていく。
『からかっているの?あなたの言葉は私には何も聴こえていないわ。』
「あっ……そうだったな……済まなかった。ヘレン、俺にペンを貸してくれるか?」
ペンを受け取り紙に言葉を綴っていく。
それを幾度か繰り返し彼女の身の上について聞き出すことに成功した。
どうやら家族を探しているようだ……。
「護衛はいらないから家族とはぐれたから探すのを手伝って……か。
こんな綺麗なお嬢さんの頼みなら無期限だって構わないさ。
家族が見つかるまで何処までもお供しますがいかがでしょう?美しいお嬢さん?」
貴族式のお辞儀をしてみせるが、彼女は少々不機嫌そうな表情を浮かべてさらさらと紙に言葉を綴って俺の目の前に突き出して見せた。
『からかわないで頂戴。
すぐ近くに姉様と弟がいるはずだから別に無期限じゃなくたっていいわ。
姉様の名前はオリガ、弟の名前はアレクセイよ。頼めるかしら?』
「ああ、御安い御用だ。では、お手をどうぞレディ。」
そう言って右手を差し出せば彼女は少しばかり警戒しつつもゆっくりを俺の手を取って上品な所作で立ち上がって見せた。
どことなく品があり、育ちの良さを感じさせる。
ただの旅人では無いのだろう。
最近は国が平和になったおかげか旅行を楽しむ貴族も増え始めているらしいからな……きっと彼女も家族で旅行をしている旅人の一人に違いない。
それがどうして俺の顔に着地するような事態に至ったのかは全く想像できないが……。
彼女についていけばきっと退屈することは無いだろうなと思わずにいられなかった。
花は咲き乱れ光が溢れ暖かな風が通りすぎて行く。
「いやぁ久しぶりに来てみたがとても争いがあったとは思えないねぇ。」
誰に聞かせるわけでもなく一人呟いた。
物見遊山気分で尋ねた王都はそれはそれは美しいところだった。
人混みを縫うように駆けていく子供たち。その顔を見ればこの国がどれだけ平和になったかなんてわざわざ話を聞かなくたってよーーく解るさ。
その日暮らしのいい加減男は仕事を求めて街を歩く。
市場で林檎をひとつ買い、特に宛もなく街を歩き、好みの美女を見かけたらとびきりの笑顔を向けて見るが相手にはされず。
「まあ……国が変わろうが、俺の暮らしはそう簡単に変わりはしねぇわな……。」
男は変化を求めていた。
嘗てのような華やかな暮らしに戻りたいと言うわけではなく、新たな出逢いを求めて彷徨い続けているのだ。
「あーーーあーーー!どっかにとびっきりの美女はいねぇかなぁーーー!
俺の話し相手になってくれるような優しくて可愛い女の子がいてくれたらなぁーーー!」
ため息混じりにひとり空に向かって大声で言葉を吐き捨てた。
そこに神様がいるっていうならちっぽけな人間の一人である俺のちょっとした愚痴ぐらい聞いてくれたっていいんじゃねぇんですかね??
ま、こんな願い聞いてくれるとは思ってませんけどね……
と……その時だった。
ふわり……と目の前で白い衣が揺らめいた。
一瞬の出来事でよく解らなかったが、それと同時に顔面に強い衝撃を受けてそのまま俺は後方へ倒れた。
「…………いっっ……!!
なんだなんだ!?いきなり何が…!」
幸い意識が飛ぶことはなかったが、鼻から温かな何かが垂れていると言うことだけは理解できた。
だが、思うように身体が動かない。
ずしりと重みを感じる腹の上には白い衣を纏った赤毛の女の姿があった。
さらり……と流れる赤い髪は陽の光を受けてキラキラと輝き、俺の頬を擽った。
「……あ……お前は誰だ……?なんでそんなところに……?」
俺の問いに彼女は答えない……否……答えられない……のか……?
困ったような表情を浮かべながら手にしたハンカチを俺の方へ差し出している。
……これを……使えってことか……??
いやいや!こんな白くて綺麗なハンカチ俺の血で汚す訳にはいかねぇよ!?
「や!大丈夫!ほら止まってるだろ!?だからそれはしまっておけ!な?」
右手で制止しながら言い放てば彼女は安堵の表情を浮かべた。
良く良く見てみれば彼女は上品な衣を纏ってはいるが、手にした荷物から察するに旅人のようだ。
こんな華奢な女がひとり旅とは……いくら世間が平和になったとはいえ、女を狙う悪党がいなくなった訳ではない。
ここはひとつ……提案してみるか。
「どういう状況か知らねぇが、どこかでゆっくり話をしないか?
訳あり……なんだろ?
どうだい?お嬢さん。俺を護衛に雇わないかい?」
目の前に降り立った天使をこのまま空へ帰すのは惜しいからな……。
「俺の名前はルディだ。ああ…!そんなに警戒するなって!こう見えても元貴族だ。怪しい者じゃないさ!お嬢さん、あんたの名は??」
俺の言葉に彼女は訝しげに首を傾げた。
じっ……と静かにこちらを見据えながら何かを伺う様子に俺は微かな違和感を感じずにはいられなかった。
何故だろう……何かが欠けている。そう感じていた。
まあ、初対面の相手を信用できる筈もないかとその場に立ちながら返事を待っていると、そっと彼女は俺の右手に触れて掌を開かせて指先で何かを綴り始めたのだ。
これは……
もしかして耳が聴こえていないのか?
ゆっくりと綴られていく文字を読み解いていく。そしてようやくここでひとつの言葉になって俺の脳裏に伝わってきたのだ。
『ごめんなさい、私耳が聴こえないの。』
「あー……そうか、そいつは悪かったな……っつーても……これじゃ聞こえないのか……。
そうだな……じゃあ……まずはそこの噴水のとこの椅子にかけてくれないか?」
俺の言葉は伝わっていないのかもしれない。
それでも言葉は優しく紳士的に。
耳が聴こえなかったとしても彼女は一人の『レディ』に違いないのだから。
「まずは自己紹介をしようか。
俺の名前はルディだ。仕事は…主に旅人の護衛役を請け負ってる。
っと……こんなとこか……。」
さらさらと紙に綴った文字。
筆談ならばコミュニケーションがとれるだろうと試してみたが、どうだろう……?彼女に伝わっただろうか……?
「……。」
一言も言葉を発しないまま青い瞳が俺の姿を捉えた。
そして白く細い指先が俺の手からペンをそっと受け取ってさらさらと俺が手渡した紙の上に美しい文字が綴られていった。
「……ヘレン……。そうか。君の名前はヘレンと言うのか。美しい名だ。」
そう言って笑顔を向ければ彼女はふいっと目を反らして紙の上にまた文字を綴っていく。
『からかっているの?あなたの言葉は私には何も聴こえていないわ。』
「あっ……そうだったな……済まなかった。ヘレン、俺にペンを貸してくれるか?」
ペンを受け取り紙に言葉を綴っていく。
それを幾度か繰り返し彼女の身の上について聞き出すことに成功した。
どうやら家族を探しているようだ……。
「護衛はいらないから家族とはぐれたから探すのを手伝って……か。
こんな綺麗なお嬢さんの頼みなら無期限だって構わないさ。
家族が見つかるまで何処までもお供しますがいかがでしょう?美しいお嬢さん?」
貴族式のお辞儀をしてみせるが、彼女は少々不機嫌そうな表情を浮かべてさらさらと紙に言葉を綴って俺の目の前に突き出して見せた。
『からかわないで頂戴。
すぐ近くに姉様と弟がいるはずだから別に無期限じゃなくたっていいわ。
姉様の名前はオリガ、弟の名前はアレクセイよ。頼めるかしら?』
「ああ、御安い御用だ。では、お手をどうぞレディ。」
そう言って右手を差し出せば彼女は少しばかり警戒しつつもゆっくりを俺の手を取って上品な所作で立ち上がって見せた。
どことなく品があり、育ちの良さを感じさせる。
ただの旅人では無いのだろう。
最近は国が平和になったおかげか旅行を楽しむ貴族も増え始めているらしいからな……きっと彼女も家族で旅行をしている旅人の一人に違いない。
それがどうして俺の顔に着地するような事態に至ったのかは全く想像できないが……。
彼女についていけばきっと退屈することは無いだろうなと思わずにいられなかった。
