本編アフター 物語のその先

「……聞けッ!! 同志諸君!! あそこに見えるのが我々が築いた秩序に仇なす逆賊―……反乱軍である!! 諸君らが、ここに立てなかった同志諸君がやっとの思いで、汗と血と屍を積み上げ築いた秩序を踏み躙らんとする反乱分子だ!! 諸君! 我が同志達よ! 共に行こうではないか!! 正義の槌を奮おうではないか!! 行こう!! 我々が築いた骸の上の秩序を脅かす愚か者どもを駆逐するのだ!!」


 リーダーの声に賛同して声をあげる赤軍の――私の同志たち。各地で敗走してなお、リーダーが前に出ればこれだけ士気が高くなる。それが今までリーダーが築き上げてきたものであり、私たちがリーダーを信じていることの証で、それを私の一判断で止めるのは間違っている、のかもしれない。……そうだとわかっていても、どうしても止めなくてはいけないような気がしてしまっていた。
 リーダーの決意をたたえた静かな目がどこか遠くを見つめているように見えて、それがとても怖くて。でも、リーダーが止まらず、アナムがそう言うのであれば――ううん、本当はわかっている。止めてはいけないのだと。

 だからせめて決着がつく最後までリーダーのそばにいたい。それが私が抱く、赤軍での最後の願いだった。



 時は経ち、リーダー率いる中央軍とかつて赤軍にいた彼――反乱軍たるアルフォートさんが交戦していた。その傍らには二丁拳銃を巧みに操る初老の男性。彼の攻撃で、アルフォートさんに攻撃をしようとしても、思うように動けない。むしろ、こちら側のけが人や死人が増えていくばかり。
本当はリーダーのもとに行きたかったけど、役割を放棄したら軍は瓦解する。


「おいエテル! 回復魔法だ!! リーダーへ攻撃を届かせるな! あの人だけは――俺たちに光をくれたあの人だけは、守れ!!」
「わかった! とにかくあなたも一回下がって! 回復したら私も神聖魔法で援護するから!!」
「エテル、大丈夫だ。俺が何かあっても守ってやるから、安心して動け」


 少しパニックになりかけていた私を、アナムが落ち着かせてくれる。戦場に似つかわしくない、優しい瞳が私を見ていた。
うん、もう大丈夫。あなたがいてくれるから、私は最後まで思い通りに動くことができるんだね。


「ありがとう、アナム! 私がここでばてているわけにはいかないよね」


 交戦がはじまってから回復魔法と神聖魔法を連発していて、疲れを感じているのと魔力がだんだんと少なくなってきているのは感じていた。でもここで倒れてなんていられない。
 少し長めの詠唱をしていると、どうしてもその間は無防備になりやすい。そこを守っていてくれるのがアナムだ。


「神よ――彼らに救いの御手を差し伸べよ……!!」


 空中に浮かんだ魔法陣から光が降りそそいで味方が回復していく。同時に魔力が抜け落ちていく感覚する。


「うっ……!」


 たたらを踏んでしまった足に力を入れて、ぐっと耐える。まだ大丈夫、動かなきゃいけない。大丈夫、まだ、大丈夫。


「エテル! 大丈夫か!」


 敵を斬り伏せてこちらに駆け寄ってこようとするアナム。大丈夫、と言いかけて私はとっさに詠唱していた。


「かの者を守りたまえ!!」


 とっさにアナムを守るようにしてできた魔法盾は、数発の銃弾を受けて光とともに消滅した。
 初歩的な防御魔法でありとっさではあったとはいえ、壊れてしまった魔法盾にらしくもなく悪態をつきたくなる。魔弾じゃないはずなのに壊れるなんて、術式の甘さを読まれていたということだ。あの数瞬で“隙間”を判断して銃弾を撃ち込むことは並の銃撃ではできない。


「先ほどの回復魔法、見事だったよ。お嬢さん。とっさに防御魔法を展開するスピード、丁寧さ……なかなかの術師のようだね」
「あなたは……アルフォートさんの近くにいた……」
「おや、私のことをご存じかね? そういえば私も貴方を見たことがある。……あの赤軍のリーダーの近くにいた、若き子じゃないか。そうか、赤軍には貴方のような若い子までいるのだね。あの男は貴方のような若い子まで心酔させてしまうような力を持っているのか。それとも……若さゆえの、無謀さか」


 名前も知らない彼の、薄い紺色の瞳が私を憐れむように見ていた。その奥に見えない感情があるような気がしたけど、私は気づかない。
 今までの旅路も、リーダーの苦悩も思いも、全てを否定されたような気がして、声を荒げていたから。

「っ! 私は私の意志でもって今ここに立っている! それをあなたに好き勝手言われる筋合いはないの!」
「……。それは失礼したね。ここは戦場だ。私も貴方と、その隣に立つ騎士に敬意を払おう。そして、――死ぬといい」


 彼が双銃を構え、いつの間にかとなりに来ていたアナムが同時に武器を構える。ふ、と一瞬だけ喧騒が遠のき、静かになったような気がした、瞬間だった。



「――赤軍総大将フリードリヒ、討ち取ったり!!!」



 そんな声が、戦場中に響いた。


「えっ……」


 リーダーが、死んだ? ……リーダーが? 

 思い出す、あの凪いだ瞳を。決意をたたえた、あの静かな瞳を――。


「リーダー!!」


 気づけば私は、敵に背を向けて走り出していた。アナムが遅れて追ってくるような音がしたけど、それにすら構わず。格好の的だったはずなのに、敵は私もアナムも狙ってこなかった。


 敵味方関係なく、幾人もの兵士がリーダーとアルフォートさんが戦っていた場所を囲んでいる。それをかき分けて前に出ると、そこには倒れ伏すリーダーと立ち尽くすアルフォートさんの姿。そして、リーダーは穏やかに――そう、本当に穏やかに眠っているようだった。

 すぐに目を開けてくれるような、そんな姿なのに、絶対に目は明けないのがわかってしまって。


「リーダー……フリド、さん……」


 きっと、あなたはこうなることすら予想していたんでしょうか。

 いろんな感情が押し寄せて、でもそのどれもが言葉にならなかった。ただ、涙があふれて止まらなくて。


 けれどその感情すらあざ笑うかのように、全ての黒幕だと名乗ったロッテ王によってフリドさんの遺体は燃やされてしまった。

 
「ああ……ああああああっ……!!!!」


 すべてが灰に帰す。私の行き場のない感情も、フリドさんの全ても、全部燃やされて。灰になって。


「エテル……」


 ただ、私の体を支えるアナムの腕だけが、私の唯一の頼りだった。
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