第11節 芋煮ヶ原
「ご主人ちょいと俺っちの話を聞いてくれやすかい?」
「なんです?ハムスケさん?」
唐突な話題の切り出しにも嫌な顔ひとつせず……というより眉ひとつ動かさず目の前の資料から目を離さずに返事を返した俺っちの上司。
その肩には美しい黒い毛並みと緑色の五つの瞳を持つ鼬がチョロリチョロリと姿を見せては闇に溶けた。
「へぇ!お前さんご主人と同じ名前なのかい!不思議な縁もあったもんだねぃ!」と……ここへ就職したときは軽く挨拶をしたもんだが……なんとも不思議な御仁で一度も言葉を交わしたことは無いし飯だって一緒に食ったことも無い。
とりあえず俺っちのような雇われでは無いということは理解できた。
いや、今日話したいのはその事じゃない。話を戻すぜ!
「ご主人。唐突で悪いんですがね?俺っち芋煮が食いてぇんでさぁ!」
「ほう。」
「職場まで徒歩30秒。金網タイプのワンルームでおがくずたっぷりの回し車付きときたもんだ!通気性良し!日当たり良し!そのうえ時々ご主人と同僚(なのか?)の夜鷹氏がひまわりの種を差し入れてくれる。こんな好条件な就職先なんてめったにお目にかかれねぇ!!なんとも贅沢な社宅だ!けどな……時々おっかさんの作ってくれた手料理が恋しくなっちまってなぁ……」
「……そうですか。」
そう言ってご主人は無言のまま立ち上がり児童書コーナーの方へ。
手にした本は何なのかこっちからはよく見えねぇがきっと仕事に必要な資料に違いねぇと思いながら俺っちは話を続けた。
「そういうわけでご主人!明日は休暇を貰いてぇんでさぁ!
最近街では芋煮会があるって聞きやしてね!腹一杯芋煮を食べてこようと思うんでさぁ!」
(…………ハムスターに……芋煮……?塩分過多では……?)
なにやら口元を押さえながら思考を巡らせている様子のご主人。
こりゃあ大変な仕事をしてるに違いねぇ!手間とらせねぇように話を簡潔に伝えなきゃな!
「本当に唐突な話で申し訳ねぇ…!なんなら半日でもいいんで休暇を戴けやせんかね?」
「えっ……?ああ……はい。では休暇届けにサインを。それと、あまり遅くならないようお願いします。ハムスケさんの住まいは図書館の中ですから閉館時間は守ってくださいね?」
「合点承知でい!ありがとうごぜぇやすご主人!」
上機嫌になりながら自分の身体よりも大きなペンでガリガリガリっとサインをする。
「器用ですね?」なんて声が聞こえてくるがこれが俺っちにとっちゃ普通のことなんで!
「じゃ!ちょっくら掃除してきやす!」
背中に小さな箒と塵取りを背負って俺っちはいつものように鼻唄を歌いながら児童書コーナーの机の掃除に向かうのであった。
「こんにちはーー!ハムスケー!本返しに来たぜー!
……ってあれ?スレドニさん?こんなとこで何の本を読んでるんだ?
……飼育書かなんかか?」
「ああ……ウラノスさんですか。いえ。なんでもありませんよ?なんでも……」
