第10節 温泉パニック!
夏祭りってとても楽しいものだって、最近までのわたしは知らなかった。通路にぎゅうぎゅうに並ぶ屋台も、光でキラキラ輝くりんご飴やからあげ焼きそばも、我慢しなさいっていわれていたような気がするから。
でもそれも、遠い昔のお話。
お仕事のお休みを取ってくれたり旅行の準備をしてくれたりしたぱぱとままと、あとわたしとで温泉にきている。温泉なんてくるのは初めてなのに、しかも近くで夏祭りをやっているんだって! 話を聞いた瞬間ウキウキしだしたわたしを見て、ままとぱぱが笑う。
「行きたいの、ユリィ?」
「行きたい! 夏祭りでしょ? 屋台でしょ、わたあめ!」
「時間はたくさんある、ユリィの好きなところに行こう」
そう言ってわたしを抱っこして肩にのせてくれたぱぱと、ニコニコしながら見てくれるままに笑い返しながら、わたしは夜がくるのがとても楽しみだった。
泊まる予定の旅館はとてもきれいで、夏祭りがあるってことでままがゆかたを手作りして持ってきてくれていた。そこに旅館でかしだしをしている帯を合わせるみたい。
ままが浴衣を着せてくれるって! やったあ!
夏祭りに行くからばんごはんはなしで、何度も何度も時計を見てはままとぱぱに笑われながら、やっと夕方になった。そして、ままと一緒におびを選びに来てるんだけど……なにがいいかな?
「ユリィは何色がいいの?」
「んん……何色が似合うかなあ」
「そうねえ……。この赤色なんてどう?」
「!! かわいい~~!」
ままが手に持ったのはふわふわの生地でできた赤い色のおび。ままが手に持っている白い布にオレンジ色の花がたくさん咲いているゆかたとも絶対に合う! これにしたいな!
「まま、これにしたい!」
「わかったわ。じゃあ借りましょうか」
旅館のひとに言いに行くというままと手をつなぐ。ん~……? なんか、前にもこんなことがあったような? 思い出そうとしても、よくわからなくて首をかしげる。
ユリティリア、と呼ばれたような気がして振り返ってもだれもいない。聞いたことがあるような気がするんだけどなー……、なんだっけ?
「どうしたの、ユリィ?」
「――ううん、なんでもないよ!」
「そう?」
よくわからないけど、そんなに心配することじゃないよね。それよりゆかた早く着たい! 赤もオレンジもとってもかわいいなあ。わたしに似合うといいな!
るんるんで部屋に戻って、ままにゆかたを着せてもらう。何度かくるくるまわって、ぎゅっとおびを締めてもらって、最後に髪をまとめてもらった。
「――できたわ」
「ほんと!?」
「あらあら、待ってユリィ。最後にもっとかわいくなる魔法をかけてあげるから」
それ、と魔法を唱えると次の瞬間にはままの手にお花が。ピンク色をしたそれをわたしの髪につけてくれて、ちょっと浴衣を整えて。
「はい、完成よ」
「やったあ!! ねえ見てぱぱ、かわいい?」
「かわいいよ、ユリィ」
ままとぱぱがそろって言ってくれて、さらにうれしくなったわたしは、お部屋についている鏡で確認したくて、走ろうとした、けど。
走ったらせっかくままが着せてくれたのに崩れちゃう。そう思いなおしてそろりそろりと歩き始めた私を見て、ままとぱぱがくすくすと声を立てて笑った。
「もー! なんで笑うの!」
「大丈夫よユリィ、そんなにそろそろ歩かなくても崩れたら直してあげるわ」
「いざとなったら俺の肩にのればいい。そうすればそれほど崩れないだろう。だからしっかり歩いて大丈夫だ」
「歩いて大丈夫?」
「大丈夫よ」
ままとぱぱのお墨付きをもらって、今度はしっかりと――いつも通り歩く。そうして鏡に映ったわたしは、いつもの自分じゃないみたいだった。ままにやってもらった髪には、魔法で出してくれたお花がついている。とってもかわいくて、しばらく見つめてしまった私を見て、ままとぱぱはやっぱり笑っていたのだった。
そんな感じで時間は過ぎて、いまわたしはままとぱぱと手をつないで、屋台が並ぶみちを歩いている。いつもだったらあんまり食べられないけど、今日は不思議といっぱい食べられた。
「ねえねえ! わたしわたあめ食べたい!」
「今日はいっぱい食べるな。ちょうど店もあるし買ってこようか」
そうしてわたあめやさんでわたあめを買って――となりの水風船にも目がいく。ぐるぐる流れる水のうえを、風船が滑ってる。いろんな色があるけれど、浴衣とおんなじオレンジ色の水風船があって、思わずわたあめを買ったことも一瞬忘れて、じっと見てしまった。
「どうした、水風船が欲しいのか?」
「えっ!? ……うん、オレンジ色、きれいだなって」
「なら買うか」
そんな感じで、わたしの手にはわたあめと水風船が握られていた。これだとままとぱぱと手がつなげない……。と思ったら、ふわりと体が浮く。そしてすぐにおろされて、見慣れた高さが目に入った。
ぱぱが肩に乗せてくれたんだ! 一気に目の高さが上がって、隣ではままがにこにこしてこっちを見てる。
「見て、ままより高くなった!」
「本当だわ。ユリィがままよりおっきくなっちゃった」
「えへへ! ぱぱ、ありがとう!」
「ああ、落ちるなよユリィ」
わたあめを食べながら、ちょっとお行儀は悪いけれど水風船をびよんびよん揺らして遊ぶ。中の水が冷たくて、体と一緒に揺れるのが楽しい。あ、そうだ! ままとぱぱにもわたあめあげよ!
「まま! わたあめよ! あーん!」
「ママにくれるの? ありがとう」
「はい、ぱぱにも!」
「ありがとう、ユリィ」
ままとぱぱとわたしと、わたあめはさんとうぶん! ちょびっと量は減ってしまうけど、気持ちはおなかいっぱい! だからとても幸せなのよ!
わたあめを食べ終わって水風船で遊んでいると、いつの間にか広いところに来ていた。ここは? って考えているとぱぱがわたしを抱き上げて、かたぐるまをする。もっと目の高さが高くなって、空が近くなった瞬間。
空に、おはながさいた。そして、おくれておおきなおと。
「――はなびだ!!」
「きれいだな、ユリィ」
「うん!! ぱぱがかたぐるましてくれたから花火が近い!」
ぎゅっとぱぱのつのを握って、精いっぱい上を向いて花火を見る。ぱぱにかたぐるまをしてもらうと、周りの人たちはおとなでも小っちゃく見える。それだけぱぱが大きいの。
あか、あお、みどり、ぴんく、ほかにもいろんな色。光がこっちに落ちてくるみたいですごくきれい。
打ちあがるたびにまわりからはきゃーきゃーいう声が聞こえて、わたしも負けないようにいっぱい叫んで、笑った。
そのうちに花火で明るくなっているはずなのに、だんだん暗くなってきて、ぐわんと頭が揺れて慌ててぱぱのつのを握りなおす。
「眠いのか、ユリィ?」
「ん……ねむく、ない」
「あらあら。おねむさんかしら」
「ねむくない……もの……」
かたぐるまをおろされて、ぱぱのひろい背中がかおにあたる。おんぶされてるんだってきづいたのと、まぶたがかんぜんにくっついたのはほぼ同時だった。
――はなび、さいごまでみたかった……。
「寝たか?」
「ええ、もうぐっすり。今日は一日はしゃいでたから疲れたのね」
「いつも笑顔だが、今日はいつにもまして楽しそうだったな」
「本当に。連れてきてよかったわ」
――ありがとう、ぱぱ、まま。
でもそれも、遠い昔のお話。
お仕事のお休みを取ってくれたり旅行の準備をしてくれたりしたぱぱとままと、あとわたしとで温泉にきている。温泉なんてくるのは初めてなのに、しかも近くで夏祭りをやっているんだって! 話を聞いた瞬間ウキウキしだしたわたしを見て、ままとぱぱが笑う。
「行きたいの、ユリィ?」
「行きたい! 夏祭りでしょ? 屋台でしょ、わたあめ!」
「時間はたくさんある、ユリィの好きなところに行こう」
そう言ってわたしを抱っこして肩にのせてくれたぱぱと、ニコニコしながら見てくれるままに笑い返しながら、わたしは夜がくるのがとても楽しみだった。
泊まる予定の旅館はとてもきれいで、夏祭りがあるってことでままがゆかたを手作りして持ってきてくれていた。そこに旅館でかしだしをしている帯を合わせるみたい。
ままが浴衣を着せてくれるって! やったあ!
夏祭りに行くからばんごはんはなしで、何度も何度も時計を見てはままとぱぱに笑われながら、やっと夕方になった。そして、ままと一緒におびを選びに来てるんだけど……なにがいいかな?
「ユリィは何色がいいの?」
「んん……何色が似合うかなあ」
「そうねえ……。この赤色なんてどう?」
「!! かわいい~~!」
ままが手に持ったのはふわふわの生地でできた赤い色のおび。ままが手に持っている白い布にオレンジ色の花がたくさん咲いているゆかたとも絶対に合う! これにしたいな!
「まま、これにしたい!」
「わかったわ。じゃあ借りましょうか」
旅館のひとに言いに行くというままと手をつなぐ。ん~……? なんか、前にもこんなことがあったような? 思い出そうとしても、よくわからなくて首をかしげる。
ユリティリア、と呼ばれたような気がして振り返ってもだれもいない。聞いたことがあるような気がするんだけどなー……、なんだっけ?
「どうしたの、ユリィ?」
「――ううん、なんでもないよ!」
「そう?」
よくわからないけど、そんなに心配することじゃないよね。それよりゆかた早く着たい! 赤もオレンジもとってもかわいいなあ。わたしに似合うといいな!
るんるんで部屋に戻って、ままにゆかたを着せてもらう。何度かくるくるまわって、ぎゅっとおびを締めてもらって、最後に髪をまとめてもらった。
「――できたわ」
「ほんと!?」
「あらあら、待ってユリィ。最後にもっとかわいくなる魔法をかけてあげるから」
それ、と魔法を唱えると次の瞬間にはままの手にお花が。ピンク色をしたそれをわたしの髪につけてくれて、ちょっと浴衣を整えて。
「はい、完成よ」
「やったあ!! ねえ見てぱぱ、かわいい?」
「かわいいよ、ユリィ」
ままとぱぱがそろって言ってくれて、さらにうれしくなったわたしは、お部屋についている鏡で確認したくて、走ろうとした、けど。
走ったらせっかくままが着せてくれたのに崩れちゃう。そう思いなおしてそろりそろりと歩き始めた私を見て、ままとぱぱがくすくすと声を立てて笑った。
「もー! なんで笑うの!」
「大丈夫よユリィ、そんなにそろそろ歩かなくても崩れたら直してあげるわ」
「いざとなったら俺の肩にのればいい。そうすればそれほど崩れないだろう。だからしっかり歩いて大丈夫だ」
「歩いて大丈夫?」
「大丈夫よ」
ままとぱぱのお墨付きをもらって、今度はしっかりと――いつも通り歩く。そうして鏡に映ったわたしは、いつもの自分じゃないみたいだった。ままにやってもらった髪には、魔法で出してくれたお花がついている。とってもかわいくて、しばらく見つめてしまった私を見て、ままとぱぱはやっぱり笑っていたのだった。
そんな感じで時間は過ぎて、いまわたしはままとぱぱと手をつないで、屋台が並ぶみちを歩いている。いつもだったらあんまり食べられないけど、今日は不思議といっぱい食べられた。
「ねえねえ! わたしわたあめ食べたい!」
「今日はいっぱい食べるな。ちょうど店もあるし買ってこようか」
そうしてわたあめやさんでわたあめを買って――となりの水風船にも目がいく。ぐるぐる流れる水のうえを、風船が滑ってる。いろんな色があるけれど、浴衣とおんなじオレンジ色の水風船があって、思わずわたあめを買ったことも一瞬忘れて、じっと見てしまった。
「どうした、水風船が欲しいのか?」
「えっ!? ……うん、オレンジ色、きれいだなって」
「なら買うか」
そんな感じで、わたしの手にはわたあめと水風船が握られていた。これだとままとぱぱと手がつなげない……。と思ったら、ふわりと体が浮く。そしてすぐにおろされて、見慣れた高さが目に入った。
ぱぱが肩に乗せてくれたんだ! 一気に目の高さが上がって、隣ではままがにこにこしてこっちを見てる。
「見て、ままより高くなった!」
「本当だわ。ユリィがままよりおっきくなっちゃった」
「えへへ! ぱぱ、ありがとう!」
「ああ、落ちるなよユリィ」
わたあめを食べながら、ちょっとお行儀は悪いけれど水風船をびよんびよん揺らして遊ぶ。中の水が冷たくて、体と一緒に揺れるのが楽しい。あ、そうだ! ままとぱぱにもわたあめあげよ!
「まま! わたあめよ! あーん!」
「ママにくれるの? ありがとう」
「はい、ぱぱにも!」
「ありがとう、ユリィ」
ままとぱぱとわたしと、わたあめはさんとうぶん! ちょびっと量は減ってしまうけど、気持ちはおなかいっぱい! だからとても幸せなのよ!
わたあめを食べ終わって水風船で遊んでいると、いつの間にか広いところに来ていた。ここは? って考えているとぱぱがわたしを抱き上げて、かたぐるまをする。もっと目の高さが高くなって、空が近くなった瞬間。
空に、おはながさいた。そして、おくれておおきなおと。
「――はなびだ!!」
「きれいだな、ユリィ」
「うん!! ぱぱがかたぐるましてくれたから花火が近い!」
ぎゅっとぱぱのつのを握って、精いっぱい上を向いて花火を見る。ぱぱにかたぐるまをしてもらうと、周りの人たちはおとなでも小っちゃく見える。それだけぱぱが大きいの。
あか、あお、みどり、ぴんく、ほかにもいろんな色。光がこっちに落ちてくるみたいですごくきれい。
打ちあがるたびにまわりからはきゃーきゃーいう声が聞こえて、わたしも負けないようにいっぱい叫んで、笑った。
そのうちに花火で明るくなっているはずなのに、だんだん暗くなってきて、ぐわんと頭が揺れて慌ててぱぱのつのを握りなおす。
「眠いのか、ユリィ?」
「ん……ねむく、ない」
「あらあら。おねむさんかしら」
「ねむくない……もの……」
かたぐるまをおろされて、ぱぱのひろい背中がかおにあたる。おんぶされてるんだってきづいたのと、まぶたがかんぜんにくっついたのはほぼ同時だった。
――はなび、さいごまでみたかった……。
「寝たか?」
「ええ、もうぐっすり。今日は一日はしゃいでたから疲れたのね」
「いつも笑顔だが、今日はいつにもまして楽しそうだったな」
「本当に。連れてきてよかったわ」
――ありがとう、ぱぱ、まま。
