第10節 温泉パニック!
なんと、この国は温泉街となったのです!
/『異国の歩き方』
風鈴を揺らす夏風に、「ああ、温泉ができたんだなあ」と実感する。
ギルドの裏からまた温泉が沸いたという噂を聞いたかと思えば、今度は国中で温泉の噂が流れ始め、あっという間に温泉街のようなことになってしまった。あちこちに温泉饅頭やら、木刀やら、よく分からない極彩色の物体やらを売る屋台が立ち始めたのは商魂たくましいとしか言いようがない。
この国は火山地帯にでも位置していたかしら、と思いながら、この僕は極彩色の飲料・カチワリを売る屋台を立てている。前の夏に海で売っていたら結構な売り上げになったからだ。今年はタピオカも加えてみた。入手経路は秘密だ。
湯上りには冷えた飲み物が美味しい。お客の入りは狙い通りだ。
「カチワリ屋さん、あのう、お金の代わりにこちらをカチワリと交換してはくださいませんか?」
鈴のような声で右腕がそっと差し出される。握られているのは植物の束だ。貴重な薬草と見たことのない植物が束ねられている。
「はい、勿論ですよ。お色は何色にいたしますか?」
「その、一番右の青色がいい」
すっと指で示された色は、一番の人気色だ。そろそろストックが必要かもしれない。
「はい。承りました」
今日の空のような青い液体に真珠のような丸いタピオカを入れて差し出す。右腕だけで、どこからどうやって飲むんだろうと思わないではない。
右腕さんはカチワリを受け取るとおずおずと「ありがとうございます」と頭を下げるように言った。
「いえいえ、こちらこそこのような貴重なものをありがとうございます」
右腕さんが去ってからすぐ、今度は珍しい人がこの屋台に訪れた。
「お前んところは、ああいうのも来るのか」
右腕さんが去っていた方向に視線を向ける彼の名を、アルビレオ・ウォーターフォードという。
「アルビレオさん、いらっしゃいませ。たまに、ですよ」
「どうだかねぇ。あ、甘いのを一つ」
アルビレオさんは眠たそうな目で首を振った。
「実を言いますと、どれも同じくらい甘いんですよね」
「あ、そ。じゃあその一番余ってるやつ」
アルビレオさんが注文したのは、彼の目と同じ色をした赤色だ。夏に赤色は意外と人気がない。
「ありがたいです。それにしてもアルビレオさんがこちらまでいらっしゃるなんて珍しいですね」
アルビレオさんは猟師で、普段は山かその近くの家にいることが多く、街にあまり来ない。一度尋ねたことがあるが「大体のことが足りているから必要性を感じない」という答が返ってきた。
「ん、まあ、ちょっといろいろあってな。今日は山に入れないし、温泉もあるし」
その理由も珍しいと思った。アルビレオさんは先祖返りというやつか嗅覚や聴覚が一般的なヒュームよりも鋭い。街中に来ないのはそれも一つの理由だと話していた。
「しかしまあ、硫黄臭がキツイ」
「なんで来ちゃったんですか」
不思議な人だと思いながらカチワリを出した。アルビレオさんは、一口含んで少し目を開いた。気に入ったようだ。しばらくタピオカを楽しんで飲み込んだ後、思い出したというように「そうだ」と口を開いた。
「あんまり相手にしない方が良いのもいるから、気を付けた方がいい」
「ふふ、大丈夫ですよ。慣れてますから」
「慣れるほど対応してるんじゃないか。やっぱり」
「すみません、異教徒ですので」
「なんでもかんでもそれで済まそうと思うの、よくないと思う」
/『異国の歩き方』
風鈴を揺らす夏風に、「ああ、温泉ができたんだなあ」と実感する。
ギルドの裏からまた温泉が沸いたという噂を聞いたかと思えば、今度は国中で温泉の噂が流れ始め、あっという間に温泉街のようなことになってしまった。あちこちに温泉饅頭やら、木刀やら、よく分からない極彩色の物体やらを売る屋台が立ち始めたのは商魂たくましいとしか言いようがない。
この国は火山地帯にでも位置していたかしら、と思いながら、この僕は極彩色の飲料・カチワリを売る屋台を立てている。前の夏に海で売っていたら結構な売り上げになったからだ。今年はタピオカも加えてみた。入手経路は秘密だ。
湯上りには冷えた飲み物が美味しい。お客の入りは狙い通りだ。
「カチワリ屋さん、あのう、お金の代わりにこちらをカチワリと交換してはくださいませんか?」
鈴のような声で右腕がそっと差し出される。握られているのは植物の束だ。貴重な薬草と見たことのない植物が束ねられている。
「はい、勿論ですよ。お色は何色にいたしますか?」
「その、一番右の青色がいい」
すっと指で示された色は、一番の人気色だ。そろそろストックが必要かもしれない。
「はい。承りました」
今日の空のような青い液体に真珠のような丸いタピオカを入れて差し出す。右腕だけで、どこからどうやって飲むんだろうと思わないではない。
右腕さんはカチワリを受け取るとおずおずと「ありがとうございます」と頭を下げるように言った。
「いえいえ、こちらこそこのような貴重なものをありがとうございます」
右腕さんが去ってからすぐ、今度は珍しい人がこの屋台に訪れた。
「お前んところは、ああいうのも来るのか」
右腕さんが去っていた方向に視線を向ける彼の名を、アルビレオ・ウォーターフォードという。
「アルビレオさん、いらっしゃいませ。たまに、ですよ」
「どうだかねぇ。あ、甘いのを一つ」
アルビレオさんは眠たそうな目で首を振った。
「実を言いますと、どれも同じくらい甘いんですよね」
「あ、そ。じゃあその一番余ってるやつ」
アルビレオさんが注文したのは、彼の目と同じ色をした赤色だ。夏に赤色は意外と人気がない。
「ありがたいです。それにしてもアルビレオさんがこちらまでいらっしゃるなんて珍しいですね」
アルビレオさんは猟師で、普段は山かその近くの家にいることが多く、街にあまり来ない。一度尋ねたことがあるが「大体のことが足りているから必要性を感じない」という答が返ってきた。
「ん、まあ、ちょっといろいろあってな。今日は山に入れないし、温泉もあるし」
その理由も珍しいと思った。アルビレオさんは先祖返りというやつか嗅覚や聴覚が一般的なヒュームよりも鋭い。街中に来ないのはそれも一つの理由だと話していた。
「しかしまあ、硫黄臭がキツイ」
「なんで来ちゃったんですか」
不思議な人だと思いながらカチワリを出した。アルビレオさんは、一口含んで少し目を開いた。気に入ったようだ。しばらくタピオカを楽しんで飲み込んだ後、思い出したというように「そうだ」と口を開いた。
「あんまり相手にしない方が良いのもいるから、気を付けた方がいい」
「ふふ、大丈夫ですよ。慣れてますから」
「慣れるほど対応してるんじゃないか。やっぱり」
「すみません、異教徒ですので」
「なんでもかんでもそれで済まそうと思うの、よくないと思う」
