第19章 死に方の選び方

あの戦いからどれくらいの月日が流れただろう。

人道支援を行うと聞き喜んで参加したが、逆に数多の人々を犠牲にするようなことだったと聞かされた時は心に強い傷を負った。その影響で、いざ戦いとなるとろくに動けず足を撃たれて倒れてしまった。あの時は本当に何もできなかったのだ。…人々を助けるようなことは何も。

――『っ…!しまった…!いや、しかし…一刻も早く動かねば…敵が迫って―』
『おい、そこのあんた、大丈夫か!?』
『何者だ…、…!鉄十字の紋章に深緑の軍服…貴公らはマンシュタインの者か!?…敵である私を捕らえに来たか…!』
『救護班!この人の手当てを急いでくれ!』
『え…?ちょっと、待ちなさい!何をするのです!?ううっ、ぐっ…!』
『怪我してる時に無理に喋らない方がいい。今は大人しく応急処置を受けとけって。確かにあんたは見た感じ赤軍の人っぽいけど大丈夫だ、殺す気はさらさらないから』――

こうして治療を受け、今はマンシュタインの屋敷にいる。その間は牢に入れられることも縄で拘束されることも尋問を受けることもなく、ただただ手厚く治療を施してもらっていた。あの少年はなぜ、敵である者に対してここまでのことをしているのだろう。
頭の中で悶々と考えていると、部屋のドアを叩く音がした。

「失礼します。アルカイド様が貴女と面会したいとのことです」

この屋敷の使用人がそっとドアを開け、私に声をかけた。アルカイド…私を助けたあの少年のことか。

「ええ、わかりました。お通し下さい」

あの少年には聞きたいことがある。それに、なぜだか純粋に話してみたい気もした。

「よっ!入るぞ〜」
「は、はい…どうも」

なんだか、ものすごく間が抜けているな…だがしかし、不思議なことに少々気が和んだような感じがする。

「怪我の具合はどうだ?もう大丈夫そうか?」
「ええ、おかげ様で。痛みは大分和らぎました。……改めて聞きたいのですが、なぜ敵だとわかっていて助けたのです。しかも、拘束や尋問等は何もせずただ治療を施すなんて…ありがたいことなのですが、どうしても疑問に思ってしまい…」
「ん〜、まあ普通だったらそんなことはしないよな。敵を捕らえたら尋問してなるべく多く情報を吐かせるっていうのが普通だろうし…でも、俺はそんなことはしない。だって純粋に嫌だからさ。それに、怪我してるんなら治療を最優先しないとな」

本当にそれだけか…?と疑いたくはなったが、しかしこの少年の目を見る限り、嘘を言っているようには見えない。

「そもそも俺たちの目的は戦いじゃなくて同盟先の人を助けるためだったし。だからなるべく敵さんの方にも死者を出さないように、そして戦線から離脱してもらうようにこっちは動いただけで。もし逃げ遅れた人がいたら救出するつもりでいたんだ。まあ、それはあんただけだったんだけど」
「…つまり私はドジを踏んだと…そういうわけですか…」
「あっ、ごめん、そういうつもりで言ったわけじゃ…!」
「いえいえわかっています。敵であるにもかかわらず、助けていただき本当にありがとうございます」

話を聞けば聞くほど、彼は本当に善意を持って行動していたのだなとわかる。その中に甘さは感じたが、しかし共感できる点はたくさんあるし、犠牲を出さずに戦を収めたというのが何よりもすごい。私も本当はこうありたかったと少々羨ましく思う。犠牲を出すことなく人々を助けたかった。こんな考えを抱いている辺り、私も彼のことを甘いと言うことはできないな。

「とにかく、元気になったみたいでよかったよ」
「貴方がたのおかげです。本当にありがとうございました。しかし、長居しては悪いのでそろそろ行かねば…」
「そんな気を使わなくても。もう少しいてもいいんだぞ?なんならうちの街を観光してってもいいし…あ、あんた俺の従者と気が合いそうだし話していけよ!」

本当に敵対していたのかどうか疑わしくなるくらいこの少年はとても気さくだな…いつの間にか私は頬を緩ませていた。

「いえ、とてもありがたいのですが、一刻も早く戻らねばならないので観光や貴方の従者様とお会いするのはまた今度にさせていただきますね」
「そっかー、それは残念だ…ちなみにどこへ向かう予定なんだ?」
「そうですね…ひとまず王都へ戻ろうと」

王都へ戻ると告げた途端彼は眉を寄せ、声をうーんと唸らせた。

「王都…王都かー…今はやめておいた方がいいと思うぞー…」
「なぜです?王都で何か?」
「実は、あの戦いの後王都が混乱してるみたいでさ。近々戦場になるかもってレベルでやばいらしいから行くのはおすすめできないぞー…」

王都でそのようなことが…となると、つまりロジャー様の身が危ない。ロジャー様に何かあったら嫌だ―そう考えると背筋が凍ると同時に、身が引き締まる思いがした。

「それほど王都が危うい状況であればなおさら急がねば。すみません、今から向かいます」
「えっ、今から!?早くね!?もしかして、あんた王都出身の人?」
「いえ、王都の出身ではないのですが…守りたい方がいるので」
「おおう…そこまで言うなら仕方ねえか…わかったよ、んじゃあうちにある一番速い馬を用意しておくよ」
「何から何までありがとうございます…そして貴方に何もお礼できなくて本当に申し訳ありません」
「気にすんなって。それよりも、早くその人のところに行ってきなよ。というわけで、俺は馬の用意してくるわ!」
「ありがとうございます。貴方へのお礼は必ずさせていただきます…!」

少年は踵を返してこの部屋を後にして、駆け足気味に走っていった。
さて、私も準備をせねば…ありがたいことに私の着ていた衣服も綺麗に繕ってくれた上で畳んで置いてくれているし、荷物もしっかりまとめられている。着替え終えたら今すぐ発てそうなほどだ。ここの方々には本当にお世話になったな…今すぐは無理でもいつか必ずお礼をしたい。

あの戦いでは何もできなかったどころか人々を犠牲に導くことに加担してしまっていたが、次こそは人々を守ってみせる。そしてロジャー様…貴方のことも。
ロジャー様がくださった太陽の首飾りをそっと握りしめ、荷物を手に取ってこの部屋を後にした。
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