第9節 感謝祭&生誕祭
人間の姿で街を歩くようになって。俺の世界は狼の時よりもずっと広くなった。
覚えることも沢山あって、いつもマナが側でひとつひとつ丁寧に教えてくれるんだ。
フォークとナイフの使い方、食事のマナー、火の使い方、お金の使い方、稼ぎかた……どれも狼の時には経験したことのない事ばかりだ。
中でも一番俺を悩ませたのは……
「マナ、これはなんて読むんだ?」
「ん?それはね……」
俺は文字が読めない。人間の文化を知るためには文字が読めなければいけないのに、子供の絵本さえ一人で読むことができないんだ。
読めないからと言って毎回マナに聞くのもおかしいし、自分一人で読めるようになりたいって思うようになったんだ。
それに……
「なあマナ。文字って読むだけじゃなくて相手に伝えることもできるんだろ?」
「ええそうよ?どうしたの?急に。」
「いや……読めるだけじゃダメだと思ったんだ。
マナ……俺、文字も書けるようになりたい。」
ギルドで仕事を受けるようになって自分の名前ぐらいは書けるようになったけど……それだけじゃなくてやっぱりもっと沢山の言葉を文字にできるようになりたい。
「そうね、じゃあ明日からノートに少しずつ練習していきましょ?」
そう言ってマナが微笑んでくれるのが嬉しいんだ。
俺の心に燻るこの想いを文字にして君に伝えたいと思ってるんだ。
文字って……そういうときの為にあるんだろう?
前にマナに好きって言ったことがあったけれど、マナから返ってきた反応は俺の思ってる好きと違う意味の好きだった。
同じ『好き』なのにどうして違って聞こえるのだろう……?って思った。
だから、次に気持ちを伝えるときは文字にしようって決めたんだ。
俺の思ってる『好き』をマナに伝えるには文字じゃなきゃきっと伝わらないだろうなと思うから。
+++++++++++++++++++++++++
「ほい!ご苦労さん!これが今日の報酬だ。」
今日の仕事は魔物退治と荷物運びだった。
力仕事なら難しいことは考えずにできるから俺にはぴったりの仕事だと思った。
マナみたいに、街を歩けば困った人に頼まれちゃったり人間関係のゴタゴタに巻き込まれちゃったりとかするよりもずっと楽な仕事だし、俺みたいな言葉足らずなやつがそんな仕事を請け負うのは無理だって解ってるから。
この前なんか迷子の女の子を探してくれとか……ちょっと怖いから一緒についてきてくれだとか……親の形見が無くなったから一緒に探してくれだとか……人間って本当に大変だな。
今日だってほら、待ち合わせの時間になってもマナが来ない。
きっとまた頼まれごとをされちゃったんだな。
マナは何だかんだで困った人を放っておけなくて手伝っちゃうから、色んな人に声をかけられちゃうんだ。
ぶらぶらと街を歩いてみる。
そういえば……最近街が賑やかになった気がする。
赤と緑に彩られてキラキラ光る丸い玉や金色に輝く可愛らしいベルがよく目につくようになった。
あの白い髭のじいさんはなんだろう?あちこちで見かけるけど……みんな同じ格好をしている……兄弟か?
ふと目に入った綺麗な店に吸い寄せられるように足を運ぶ。
「これは……宝石店か……」
一組の若い男女が店から出てくる姿が見えた。
女は恋人と思われる男と腕を組んで嬉しそうな笑顔を浮かべて歩いていく。
そうか……女の子はこういう物を贈ると嬉しいものなのか……。
特に使い道も思い浮かばず溜め込むだけだったお金にようやく意味を与えられるかもしれない。
マナも……宝石を贈ったら喜んでくれるかな。
「クリスマス……?」
「そうよ、神子様が生まれた日で、聖誕祭とも呼ばれてるわ。
この日はみんなでご馳走を食べてお祝いをするのよ?
まあ……髭のおじいさんはまた別のものなんだけど……とりあえず、あのおじいさんたちは兄弟じゃないわ。」
「そうなのか。」
初めて聞いた。人間はその日にご馳走を食べたりプレゼントを贈ったりするのか……
「マナは……?」
「ん?なあに?」
「マナは、誰かにプレゼントを貰ったら嬉しいか……?」
きょとんとした表情で俺を見るマナだったけど、俺の質問の意味を理解したのか彼女はくすりと微笑みを浮かべながらこう答えた。
「ええ。嬉しいわよ?心がこもっていればどんなものでも。ね?」
「じゃあ……クリスマスの日に仕事は入れないで欲しいな……
俺、マナと一緒にクリスマスを楽しんでみたい。」
人間はその日に約束をするものだと教えてもらった。
その日は大切な人と一緒に過ごしたりするんだ……って。
だったら……俺はマナと一緒に過ごしたい。
「もっと勉強も仕事も頑張るから……だからマナ……俺と一緒にクリスマスを過ごして欲しい。」
きっと……マナは俺がデートに誘ってるって思ってないかもしれない。
けれどそれでもいいんだ。
マナが俺の誘いを受けてくれたら、沢山好きって伝える事ができるから。
そしたら……いつか伝わるかもしれない。
俺は以前マナに『世界で一番綺麗で素敵だと思う。』って言った事があったけれど、マナは首を左右に振ってこう答えたことがあった。
世界はとても広いから、私より素敵な女の子は沢山いるから……って。
この世界は箱庭のようになっていて、それぞれの世界がバラバラに繋がっていて……自分達の見ている世界はほんの一部でしか無いんだ……って。
だからまだ一番を決めるには早いんじゃないか……って。
それから随分旅をしてきたけれど、俺の目には他の女の子よりもマナの方がずっとずっと素敵に映るんだ。
その気持ちはずっと変わってない……
「俺にとって一番大切な人はマナだけだから……。
クリスマスには大切な人と一緒に過ごすものなんだろう?
だから……俺と一緒に過ごして欲しいな。」
何度だって伝える。
マナにいつか伝わる日までずっと……
「俺はマナが一番大好きなんだ。
この世界で一番……マナが好きだ。」
伝わらないなら何十回、何百回だって言うよ。
その度に違う意味に受け取られたとしても俺は諦めない。
いつかマナを俺のものにしたい……そう思っている俺がいるから。
覚えることも沢山あって、いつもマナが側でひとつひとつ丁寧に教えてくれるんだ。
フォークとナイフの使い方、食事のマナー、火の使い方、お金の使い方、稼ぎかた……どれも狼の時には経験したことのない事ばかりだ。
中でも一番俺を悩ませたのは……
「マナ、これはなんて読むんだ?」
「ん?それはね……」
俺は文字が読めない。人間の文化を知るためには文字が読めなければいけないのに、子供の絵本さえ一人で読むことができないんだ。
読めないからと言って毎回マナに聞くのもおかしいし、自分一人で読めるようになりたいって思うようになったんだ。
それに……
「なあマナ。文字って読むだけじゃなくて相手に伝えることもできるんだろ?」
「ええそうよ?どうしたの?急に。」
「いや……読めるだけじゃダメだと思ったんだ。
マナ……俺、文字も書けるようになりたい。」
ギルドで仕事を受けるようになって自分の名前ぐらいは書けるようになったけど……それだけじゃなくてやっぱりもっと沢山の言葉を文字にできるようになりたい。
「そうね、じゃあ明日からノートに少しずつ練習していきましょ?」
そう言ってマナが微笑んでくれるのが嬉しいんだ。
俺の心に燻るこの想いを文字にして君に伝えたいと思ってるんだ。
文字って……そういうときの為にあるんだろう?
前にマナに好きって言ったことがあったけれど、マナから返ってきた反応は俺の思ってる好きと違う意味の好きだった。
同じ『好き』なのにどうして違って聞こえるのだろう……?って思った。
だから、次に気持ちを伝えるときは文字にしようって決めたんだ。
俺の思ってる『好き』をマナに伝えるには文字じゃなきゃきっと伝わらないだろうなと思うから。
+++++++++++++++++++++++++
「ほい!ご苦労さん!これが今日の報酬だ。」
今日の仕事は魔物退治と荷物運びだった。
力仕事なら難しいことは考えずにできるから俺にはぴったりの仕事だと思った。
マナみたいに、街を歩けば困った人に頼まれちゃったり人間関係のゴタゴタに巻き込まれちゃったりとかするよりもずっと楽な仕事だし、俺みたいな言葉足らずなやつがそんな仕事を請け負うのは無理だって解ってるから。
この前なんか迷子の女の子を探してくれとか……ちょっと怖いから一緒についてきてくれだとか……親の形見が無くなったから一緒に探してくれだとか……人間って本当に大変だな。
今日だってほら、待ち合わせの時間になってもマナが来ない。
きっとまた頼まれごとをされちゃったんだな。
マナは何だかんだで困った人を放っておけなくて手伝っちゃうから、色んな人に声をかけられちゃうんだ。
ぶらぶらと街を歩いてみる。
そういえば……最近街が賑やかになった気がする。
赤と緑に彩られてキラキラ光る丸い玉や金色に輝く可愛らしいベルがよく目につくようになった。
あの白い髭のじいさんはなんだろう?あちこちで見かけるけど……みんな同じ格好をしている……兄弟か?
ふと目に入った綺麗な店に吸い寄せられるように足を運ぶ。
「これは……宝石店か……」
一組の若い男女が店から出てくる姿が見えた。
女は恋人と思われる男と腕を組んで嬉しそうな笑顔を浮かべて歩いていく。
そうか……女の子はこういう物を贈ると嬉しいものなのか……。
特に使い道も思い浮かばず溜め込むだけだったお金にようやく意味を与えられるかもしれない。
マナも……宝石を贈ったら喜んでくれるかな。
「クリスマス……?」
「そうよ、神子様が生まれた日で、聖誕祭とも呼ばれてるわ。
この日はみんなでご馳走を食べてお祝いをするのよ?
まあ……髭のおじいさんはまた別のものなんだけど……とりあえず、あのおじいさんたちは兄弟じゃないわ。」
「そうなのか。」
初めて聞いた。人間はその日にご馳走を食べたりプレゼントを贈ったりするのか……
「マナは……?」
「ん?なあに?」
「マナは、誰かにプレゼントを貰ったら嬉しいか……?」
きょとんとした表情で俺を見るマナだったけど、俺の質問の意味を理解したのか彼女はくすりと微笑みを浮かべながらこう答えた。
「ええ。嬉しいわよ?心がこもっていればどんなものでも。ね?」
「じゃあ……クリスマスの日に仕事は入れないで欲しいな……
俺、マナと一緒にクリスマスを楽しんでみたい。」
人間はその日に約束をするものだと教えてもらった。
その日は大切な人と一緒に過ごしたりするんだ……って。
だったら……俺はマナと一緒に過ごしたい。
「もっと勉強も仕事も頑張るから……だからマナ……俺と一緒にクリスマスを過ごして欲しい。」
きっと……マナは俺がデートに誘ってるって思ってないかもしれない。
けれどそれでもいいんだ。
マナが俺の誘いを受けてくれたら、沢山好きって伝える事ができるから。
そしたら……いつか伝わるかもしれない。
俺は以前マナに『世界で一番綺麗で素敵だと思う。』って言った事があったけれど、マナは首を左右に振ってこう答えたことがあった。
世界はとても広いから、私より素敵な女の子は沢山いるから……って。
この世界は箱庭のようになっていて、それぞれの世界がバラバラに繋がっていて……自分達の見ている世界はほんの一部でしか無いんだ……って。
だからまだ一番を決めるには早いんじゃないか……って。
それから随分旅をしてきたけれど、俺の目には他の女の子よりもマナの方がずっとずっと素敵に映るんだ。
その気持ちはずっと変わってない……
「俺にとって一番大切な人はマナだけだから……。
クリスマスには大切な人と一緒に過ごすものなんだろう?
だから……俺と一緒に過ごして欲しいな。」
何度だって伝える。
マナにいつか伝わる日までずっと……
「俺はマナが一番大好きなんだ。
この世界で一番……マナが好きだ。」
伝わらないなら何十回、何百回だって言うよ。
その度に違う意味に受け取られたとしても俺は諦めない。
いつかマナを俺のものにしたい……そう思っている俺がいるから。
