第18章 手を取り合って
久賀さんに夜の花を見に行こうと誘われて、そっとうなずく。彼との逢瀬は初めてではないのに、いつもまるで初めてかのように緊張してしまう。
ほんの少しだけ久賀さんに待ってもらって、出かける準備をする。服が変じゃないか最終確認をしようと鏡の前に立つと、ほんのりと顔を赤くした私が立っていた。
そして、首元には久賀さんにつけてもらった首飾り。青色がきらりと光を反射して輝いている。贈り物を――それも、こんなに綺麗なものをもらったのは初めて。
いつもつくるばかりで自分では付けたことなかったからアクセサリーをつけている自分にちょっとだけ違和感はあるけれど、決して嫌いじゃない。
さて、もう一度変じゃない確認して――うん、大丈夫。最後にいつものようにマントを羽織ろうとして、手を止める。夜だから着る必要はない、でも。
しばし羽織るか悩んだけれど……うん、久賀さんとなら大丈夫。マントはいらない。一度手に持ったマントをそっと、いつもの場所へと戻した。
悩んでいるうちに時間が経ってしまって、久賀さんを待たせてしまった。玄関で変わらずに待っていてくれた彼にお礼と謝罪をして、出発したのだった。
昼間はもちろんだけど、夜であっても用事がなければほとんど外出しないわたしにとって、夜の花を見に行くことはもちろん、夜外出すること自体もちょっとしたイベントになる。しかもとなりには、久賀さんがいるんだもの。
そう考えるだけでとくりと鳴る心臓が不思議で、でも決して嫌ではないのがとても……素敵、なんだと思う。当てはまる言葉が見つからないけれど。
「着いた……ここが、一緒に来たかった場所だ」
「ここは……。すごく、綺麗な、場所ですね。言葉が出ないくらい……」
一本の道を挟んで、両脇に満開の桃色の花を咲かせる木が、ずらり並んでいた。夜でも見やすいように照明で照らされているけれど、決して花の良さを邪魔するわけじゃなくて、むしろ引き立たせている。言葉で表せないのがもったないくいらいの綺麗さ。
こんな場所があるなんて知らなかった。こんな……こんな、美しい場所があったなんて、世界はわたしが思っている以上に、広いし綺麗なものなんだって思わせてくれる。
「心がぎゅっとします。泣きたくなるくらいに綺麗で、切なくなる……」
「そこまで言ってもらえるとは、誘ったかいがあった。さあ、少し歩こうか。この花を見ながら……一緒に時間を過ごしたい」
ひらひらと花びらが舞うなかをゆっくりと歩きながら、久賀さんと話をする。近況だったり、久賀さんの家族の話だったり、話題は尽きることなく続いていく。わたしも楽しくて、沢山話をして、だから忘れていた。いつも着るマントがないぶん、防寒がなされていなかったことを。
話題がひと段落したとき、ぶるりと寒さが体を駆け巡る。風邪をひいているわけではないけど、ちょっと寒い……。上着を持ってくるべきだった。
ちょっとだけ腕をこすったのを久賀さんが見つける。そうだ、久賀さんはしっかりと気づいてくれる人だった。
「どうした? 震えているようだが……寒いのか?」
「……実は、ちょっとだけ。でも、それほどでもないので、大丈夫です」
「いや、女性は体を冷やしてはいけない。少し大きいだろうが、よかったらこれを羽織ってくれ」
「え、でも、」
「いいんだ、さあ」
なんのためらいもなく久賀さんは着ていた上着を脱いで、わたしへとかけてくれる。久賀さんの体温で温められたそれは、とてもぬくぬくしている。
「ありがとうございます……! すごく、あたたかい」
久賀さんの体温が、優しさが、とてもあたたかい。きっと、これが幸せだと、言うのかもしれない。
それからも夜の花を見ながらゆったりと歩いて、わたしの家に着くまでマントを貸してくれていた。家に着いてそれを返すのが本当に惜しいくらいに、あたたかかった。玄関先でマントを渡して、それから頭を下げる。
「今日はありがとうございました。本当に楽しい時間を過ごせました」
「俺も楽しい時間を過ごすことができた。こちらこそありがとう」
「いえ……! あの、久賀さんさえよかったら、また一緒に時間を過ごしてくださいますか?」
その問いに、久賀さんはしっかりと頷いてくれた。その場を辞して、だんだんと小さくなっていく彼を見送りながら、次に過ごす時間も、絶対にいいものになるだろうという予感がしていた。
ほんの少しだけ久賀さんに待ってもらって、出かける準備をする。服が変じゃないか最終確認をしようと鏡の前に立つと、ほんのりと顔を赤くした私が立っていた。
そして、首元には久賀さんにつけてもらった首飾り。青色がきらりと光を反射して輝いている。贈り物を――それも、こんなに綺麗なものをもらったのは初めて。
いつもつくるばかりで自分では付けたことなかったからアクセサリーをつけている自分にちょっとだけ違和感はあるけれど、決して嫌いじゃない。
さて、もう一度変じゃない確認して――うん、大丈夫。最後にいつものようにマントを羽織ろうとして、手を止める。夜だから着る必要はない、でも。
しばし羽織るか悩んだけれど……うん、久賀さんとなら大丈夫。マントはいらない。一度手に持ったマントをそっと、いつもの場所へと戻した。
悩んでいるうちに時間が経ってしまって、久賀さんを待たせてしまった。玄関で変わらずに待っていてくれた彼にお礼と謝罪をして、出発したのだった。
昼間はもちろんだけど、夜であっても用事がなければほとんど外出しないわたしにとって、夜の花を見に行くことはもちろん、夜外出すること自体もちょっとしたイベントになる。しかもとなりには、久賀さんがいるんだもの。
そう考えるだけでとくりと鳴る心臓が不思議で、でも決して嫌ではないのがとても……素敵、なんだと思う。当てはまる言葉が見つからないけれど。
「着いた……ここが、一緒に来たかった場所だ」
「ここは……。すごく、綺麗な、場所ですね。言葉が出ないくらい……」
一本の道を挟んで、両脇に満開の桃色の花を咲かせる木が、ずらり並んでいた。夜でも見やすいように照明で照らされているけれど、決して花の良さを邪魔するわけじゃなくて、むしろ引き立たせている。言葉で表せないのがもったないくいらいの綺麗さ。
こんな場所があるなんて知らなかった。こんな……こんな、美しい場所があったなんて、世界はわたしが思っている以上に、広いし綺麗なものなんだって思わせてくれる。
「心がぎゅっとします。泣きたくなるくらいに綺麗で、切なくなる……」
「そこまで言ってもらえるとは、誘ったかいがあった。さあ、少し歩こうか。この花を見ながら……一緒に時間を過ごしたい」
ひらひらと花びらが舞うなかをゆっくりと歩きながら、久賀さんと話をする。近況だったり、久賀さんの家族の話だったり、話題は尽きることなく続いていく。わたしも楽しくて、沢山話をして、だから忘れていた。いつも着るマントがないぶん、防寒がなされていなかったことを。
話題がひと段落したとき、ぶるりと寒さが体を駆け巡る。風邪をひいているわけではないけど、ちょっと寒い……。上着を持ってくるべきだった。
ちょっとだけ腕をこすったのを久賀さんが見つける。そうだ、久賀さんはしっかりと気づいてくれる人だった。
「どうした? 震えているようだが……寒いのか?」
「……実は、ちょっとだけ。でも、それほどでもないので、大丈夫です」
「いや、女性は体を冷やしてはいけない。少し大きいだろうが、よかったらこれを羽織ってくれ」
「え、でも、」
「いいんだ、さあ」
なんのためらいもなく久賀さんは着ていた上着を脱いで、わたしへとかけてくれる。久賀さんの体温で温められたそれは、とてもぬくぬくしている。
「ありがとうございます……! すごく、あたたかい」
久賀さんの体温が、優しさが、とてもあたたかい。きっと、これが幸せだと、言うのかもしれない。
それからも夜の花を見ながらゆったりと歩いて、わたしの家に着くまでマントを貸してくれていた。家に着いてそれを返すのが本当に惜しいくらいに、あたたかかった。玄関先でマントを渡して、それから頭を下げる。
「今日はありがとうございました。本当に楽しい時間を過ごせました」
「俺も楽しい時間を過ごすことができた。こちらこそありがとう」
「いえ……! あの、久賀さんさえよかったら、また一緒に時間を過ごしてくださいますか?」
その問いに、久賀さんはしっかりと頷いてくれた。その場を辞して、だんだんと小さくなっていく彼を見送りながら、次に過ごす時間も、絶対にいいものになるだろうという予感がしていた。
