第18章 手を取り合って
襲撃
「わ~!美味しそうなものがいっぱい!」
「例の宣言で、ちょっとは活気を取り戻してるみたいだな」
祭り、とまではいかないけれど、辺りの雰囲気は前より明るいものになっている。旧教と新教が手を取り合うだなんて、歴史的な出来事だったんだ。
とはいっても、私は王家の城に住みながら政治や宗教には興味がなく、ただただこうして賑やかな街並みを眺めてるだけで十分嬉しいんだけど。
「……ところでヤコウさん。さりげなく私の手を握るのやめてほしいんですけど?」
「だってこの辺りは人が多いんだ、はぐれたら大変だろ?」
「私的には全然はぐれてもいいです……」
満更でもなさそうにニコニコしながら握る手の力を少しだけ強める、隣の男性……ヤコウさん。城を出てからそれなりに日も経ったけれど、私は未だにこの人と行動している。というのも、逃げても逃げても捕まるからだ。助けを求めてもお似合いのカップルだと茶化されることも度々。ヤコウさんはその言葉に喜んでいたけれど、私としては迷惑極まりない。
そんなわけで、半ば諦めもあって一緒にいるけれど、この人の目的はてんでわからない。どうやら私のことを……その、好きらしいんだけど、あまりにも一方的。私だって恋愛に興味はあるけれど、好きでもない人と駆け落ちするような恋愛をしたかったわけではない。
「宿の相場はさすがに下がってないか……食べ物だけ買って野宿するか」
「え~っ、また野宿ですか!?ふかふかのベッドで寝たいですー!」
「とはいっても、俺も金持ってるわけじゃないからなー」
欠伸を隠すこともせず、大きな口を開くヤコウさん。色んな街を見て回るのは楽しいんだけど、寝るところくらいはやっぱり安心して寝られる場所で寝たい。
「それならちょうどいいわ、私のところに来ない?お安くするよ」
ヤコウさんに掴まれていない、もう一つの手を誰かに取られる。驚いて顔を上げてみれば、綺麗な女性が私の顔を見てにこりと微笑んだ。その奥には宿の看板。どうやら宿屋の女将さんのようだ。
「あなた可愛いし、特別にサービスしてあげる」
「えっ本当ですか!?」
女将さんから差し出された金額を見て、驚いた。かなり格安だ。これでベッドで寝られるのならば、泊まらないわけがない。
やっとちゃんとしたところで休める、と喜んでいると、ぐいっとヤコウさんに手を引っ張られた。女将さんの手が離れ、ヤコウさんの体に引き寄せられる。何が起きたのかわからなくて、一瞬だけ頭が真っ白になった。
「……結構です」
「何でですか、ヤコウさん!せっかくお布団が私を待ってるというのに……」
「いいから、逃げるぞ!」
「逃げ、る?」
声をあげると同時に私の体はふわりと浮き、いつの間にか抱えられていた。ヤコウさんは私を担いだまま人混みの中を駆け抜けていく。さっぱり理解できない。
「ヤコウさん!なんで逃げるんですか!」
「あの女は……あの女は駄目だ!」
駄目?
すごく優しそうだったから、私には何がなんだかわからないけれど、この時のヤコウさんはこれまで私が見たことのない顔つきだった。
焦り。
逃げてるし、たぶんそうなんだと思う。
「駄目だなんて、失礼じゃないの。ちゃんと仕事をしてくれたのだから、報酬を与えようと思っていたのだけれど」
声が聞こえる。前からだ。人が多くいた場所からすっかり離れ、気づけば私とヤコウさん、そして目の前の女性……さっきの女将さんの三人だけになっていた。
「こんにちは、ルミナス。その様子だと、私のことは覚えていないようだけれど」
「えっと、こんにちは……です。失礼ですが、どこで会いましたか?」
「覚えていなくて当然よねぇ……あなたがまだ純血だった頃だもの」
純血だった、頃。
寒気がした。その言葉に含まれていたのは、重い、重い、怨みのような。
ヤコウさんは私を降ろし、後ろに隠れるよう指示をして拳を構えている。目の前の女性は、身の丈以上の棒を振り回し、構えた。
「ヤコウ、悪い子じゃない。まさか敵対するの?」
「生憎、俺は初めてあんたに会った。何者だ?」
「いいの?あなたの仕事は私の前にその子を運ぶことだというのに」
「へ……?」
ヤコウさんは私を、この人に渡すために?
わけがわからなくなってきた。泣きそうになったけど、お姉ちゃんが強くあるためには泣くなって言ってたから泣かない。でも目が熱い、熱いよ。
私は……何なのだろう?
「違う!俺は……!」
「違わない。あなたはそういう風に"造られた"。一目見た相手を"攫わなければいけない"……不思議に思わなかった?それはあなたを造ったときに埋め込まれたプログラムなの。決して逆らえない……ね」
「さ、さっきから何なんですか!まるでヤコウさんを物みたいな扱いしちゃって!」
「だって、物だもの」
まるで鉛を落としたかのような、酷く冷たい言葉だった。
ヤコウさんが何者なのか、私はあまり考えたことがなかった。だって、見るからに普通の人だったから。私のことを攫ったにも関わらずすごく気にかけてくれていて、優しくしてくれて。まぁ宿と食べ物に関しては文句しかないけど。
ヤコウさんは心当たりがあるのか、構えていた拳が震えていた。だけど私を庇うように立っていた。本当にこの人のところへ運ぶだけだとしたら、ヤコウさんが立ち向かうわけがない。
「……何言ったって、お前にルミナスを渡すのはごめんだ」
「残念。私の仕事が増えちゃうけれど……ルミナス以外は殺すなと言われていないし、ここでくたばってもらおっか」
棒を振るう音が空を切る。
「吹奏 睡蓮!推して参る!」
「わ~!美味しそうなものがいっぱい!」
「例の宣言で、ちょっとは活気を取り戻してるみたいだな」
祭り、とまではいかないけれど、辺りの雰囲気は前より明るいものになっている。旧教と新教が手を取り合うだなんて、歴史的な出来事だったんだ。
とはいっても、私は王家の城に住みながら政治や宗教には興味がなく、ただただこうして賑やかな街並みを眺めてるだけで十分嬉しいんだけど。
「……ところでヤコウさん。さりげなく私の手を握るのやめてほしいんですけど?」
「だってこの辺りは人が多いんだ、はぐれたら大変だろ?」
「私的には全然はぐれてもいいです……」
満更でもなさそうにニコニコしながら握る手の力を少しだけ強める、隣の男性……ヤコウさん。城を出てからそれなりに日も経ったけれど、私は未だにこの人と行動している。というのも、逃げても逃げても捕まるからだ。助けを求めてもお似合いのカップルだと茶化されることも度々。ヤコウさんはその言葉に喜んでいたけれど、私としては迷惑極まりない。
そんなわけで、半ば諦めもあって一緒にいるけれど、この人の目的はてんでわからない。どうやら私のことを……その、好きらしいんだけど、あまりにも一方的。私だって恋愛に興味はあるけれど、好きでもない人と駆け落ちするような恋愛をしたかったわけではない。
「宿の相場はさすがに下がってないか……食べ物だけ買って野宿するか」
「え~っ、また野宿ですか!?ふかふかのベッドで寝たいですー!」
「とはいっても、俺も金持ってるわけじゃないからなー」
欠伸を隠すこともせず、大きな口を開くヤコウさん。色んな街を見て回るのは楽しいんだけど、寝るところくらいはやっぱり安心して寝られる場所で寝たい。
「それならちょうどいいわ、私のところに来ない?お安くするよ」
ヤコウさんに掴まれていない、もう一つの手を誰かに取られる。驚いて顔を上げてみれば、綺麗な女性が私の顔を見てにこりと微笑んだ。その奥には宿の看板。どうやら宿屋の女将さんのようだ。
「あなた可愛いし、特別にサービスしてあげる」
「えっ本当ですか!?」
女将さんから差し出された金額を見て、驚いた。かなり格安だ。これでベッドで寝られるのならば、泊まらないわけがない。
やっとちゃんとしたところで休める、と喜んでいると、ぐいっとヤコウさんに手を引っ張られた。女将さんの手が離れ、ヤコウさんの体に引き寄せられる。何が起きたのかわからなくて、一瞬だけ頭が真っ白になった。
「……結構です」
「何でですか、ヤコウさん!せっかくお布団が私を待ってるというのに……」
「いいから、逃げるぞ!」
「逃げ、る?」
声をあげると同時に私の体はふわりと浮き、いつの間にか抱えられていた。ヤコウさんは私を担いだまま人混みの中を駆け抜けていく。さっぱり理解できない。
「ヤコウさん!なんで逃げるんですか!」
「あの女は……あの女は駄目だ!」
駄目?
すごく優しそうだったから、私には何がなんだかわからないけれど、この時のヤコウさんはこれまで私が見たことのない顔つきだった。
焦り。
逃げてるし、たぶんそうなんだと思う。
「駄目だなんて、失礼じゃないの。ちゃんと仕事をしてくれたのだから、報酬を与えようと思っていたのだけれど」
声が聞こえる。前からだ。人が多くいた場所からすっかり離れ、気づけば私とヤコウさん、そして目の前の女性……さっきの女将さんの三人だけになっていた。
「こんにちは、ルミナス。その様子だと、私のことは覚えていないようだけれど」
「えっと、こんにちは……です。失礼ですが、どこで会いましたか?」
「覚えていなくて当然よねぇ……あなたがまだ純血だった頃だもの」
純血だった、頃。
寒気がした。その言葉に含まれていたのは、重い、重い、怨みのような。
ヤコウさんは私を降ろし、後ろに隠れるよう指示をして拳を構えている。目の前の女性は、身の丈以上の棒を振り回し、構えた。
「ヤコウ、悪い子じゃない。まさか敵対するの?」
「生憎、俺は初めてあんたに会った。何者だ?」
「いいの?あなたの仕事は私の前にその子を運ぶことだというのに」
「へ……?」
ヤコウさんは私を、この人に渡すために?
わけがわからなくなってきた。泣きそうになったけど、お姉ちゃんが強くあるためには泣くなって言ってたから泣かない。でも目が熱い、熱いよ。
私は……何なのだろう?
「違う!俺は……!」
「違わない。あなたはそういう風に"造られた"。一目見た相手を"攫わなければいけない"……不思議に思わなかった?それはあなたを造ったときに埋め込まれたプログラムなの。決して逆らえない……ね」
「さ、さっきから何なんですか!まるでヤコウさんを物みたいな扱いしちゃって!」
「だって、物だもの」
まるで鉛を落としたかのような、酷く冷たい言葉だった。
ヤコウさんが何者なのか、私はあまり考えたことがなかった。だって、見るからに普通の人だったから。私のことを攫ったにも関わらずすごく気にかけてくれていて、優しくしてくれて。まぁ宿と食べ物に関しては文句しかないけど。
ヤコウさんは心当たりがあるのか、構えていた拳が震えていた。だけど私を庇うように立っていた。本当にこの人のところへ運ぶだけだとしたら、ヤコウさんが立ち向かうわけがない。
「……何言ったって、お前にルミナスを渡すのはごめんだ」
「残念。私の仕事が増えちゃうけれど……ルミナス以外は殺すなと言われていないし、ここでくたばってもらおっか」
棒を振るう音が空を切る。
「吹奏 睡蓮!推して参る!」
