第8節 ブルボン学園(現パロ)
午前7時31分の電車に乗り15分。学園までは徒歩10分。電車は満員に近いが、それに乗るとちょうどいい時間帯で学園に到着できる。寝坊したことはないが余裕をもっておくことには変わりない。だから千歳は、今日も午前7時31分の電車に乗るのだった。
狭い車内ではお互いに気を遣わないと快適に過ごせない。約15分の道のりとはいえ通勤、通学ラッシュでなかなかに混み合っている。そのなかで他人を犠牲にして自分だけが快適に乗ることはとても難しい。だから千歳は荷物を抱え、邪魔にならないように身を潜めるようにして乗る。それは学園の最寄駅で降りるまで変わらない。そして降りた時、開放感にほっと息を吐くのだ。今日も、いつものように、ほっと一息つきながら駅のホームを進むはずだったのだ。
「っ、――ぁ、」
どんっ、という衝撃。ぶつかったか、押されたか――と気づいたときには千歳の体は前へとつんのめっていた。慌てて体勢を立て直そうとするも荷物を抱えた状態ではうまくいかず、倒れ込んでしまう。幸い、どこか怪我をするということはなかったが、抱えていた荷物を手放してしまい、ホームへと飛び散ってしまった。
「す、すいません……!」
慌てて荷物をかき集めるように拾う。通勤や通学で行き交う人々がちらりと見ては歩いていくのを居心地悪く受け止めながらもひろいきって立ったところで、ぐいと肩を強く引かれた。
「おい! てめェぶつかっておいて謝罪もなしとはどういうことだ! お前がぶつかってきたせいで携帯が割れちまったじゃねェか! どう落とし前つけてくれんだ!!」
ぎりり、と肩を強くつかまれ、耳元で叫ぶようにして怒鳴られる。思わず身をすくめた千歳に、男は目を光らせると、さらに肩をつかむ力を強くする。
「弁償してくれるんだろうな……? どうせ大した金持ってないんだろ? 親に連絡しろよ。んで、金払えよ」
下卑た笑いを浮かべた男が、千歳に迫る。とっさにあたりを見回した千歳だったが、道行く人々はちらりと千歳たちに視線を向けるものの、足早に去っていく。さも、関わりたくないと言わんばかりに。
男の言いがかりであることは当然のようにわかっている。だが、力で押さえつけられている以上、どうしようもできない。心の中で両親に必死に謝りつつ、携帯を取り出そうとし――、
「待て、それは言いがかりじゃないか」
そう、声がした。はっとした千歳が声のした方を見ると、見覚えのある制服をまとった青年が、男の手首をつかんでいる。
「一部始終を見ていたが、彼女にぶつかったのはお前だろう。それに携帯など落としていない。嘘をつくのも大概にしろ」
「な、なんだと……! お前、ただのガキのくせに偉そうな口ききやがって!!」
「俺はただ事実を述べているだけだ。なんなら、防犯カメラでもって確認するか? ――ちょうど、駅員も来たようだしな」
ちらりと青年が見た先には、誰かが呼んだのだろう駅員が数名、こちらに向かってきているのが見えた。青年の言葉と駅員の存在。男は自分が不利だと悟ったのだろう、青年つかんでいる手を振り払うと、舌打ちをして去っていった。
「大丈夫か?」
「は、はい……。助けてくださって、ありがとうございました」
「いや、いい。俺はああいったやつがとても嫌いなたちでな。見ていられなかっただけだ」
「私だけではどうしようもありませんでした。本当に、なんとお礼を言ったらいいか……」
ほっと息を吐き、千歳はぎゅうと荷物を抱きしめる。怖い思いは未だ消えないが、それでも青年が助けてくれたことがとても嬉しかった。
ほどなくして駅員が到着し、何があったかを聞かれる。青年は千歳とともに残り、事情を説明してくれていた。人相を伝えると、あの男が初犯ではないこと、大人しそうな女学生を狙ってはああやって言いがかりをつけて恫喝のようなことをしていることを、駅員から告げられる。
「念のため、しばらくはひとりで行動しないことをおすすめします。そちらの男性は知り合いですか?」
「あの、彼は、」
「ああ、彼女とは知り合いだ。俺が責任を持って一緒に行動する」
「そうですか、それなら安心ですね。この近くの高校の学生ですよね? まだ間に合うとは思いますが、急いだほうがいいかもしれません。気をつけて」
ぺこりと頭を下げて去っていった駅員を見送り、千歳と青年も高校へと向けて歩き始める。そこで初めて、千歳は青年が同じ高校の先輩であることに気づいた。
どおりで見覚えのある制服だと思った、と内心で思いながら千歳は青年へと話しかけた。
「あの、先ほどの一緒に行動することについてなんですけど……」
「ああ、それについてだが。あなたさえよければ、護らせて欲しい」
「え……、でも、それではあなたが」
「俺の負担にはならない。ああいった輩は、復讐してこないとも限らない。だから、しばらくの間、一緒に行動しよう」
青年の言葉は、確かにありがたかった。またあの男が現れないとも限らない。それを考えれば青年と行動するのは千歳にとってもデメリットはなく、断る理由も特にない。そこまで考えて、千歳は青年に自己紹介をしていなかったことを思い出した。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね! わたしは千歳といいます。もしよかったら……、しばらくの間、よろしくお願いします。そして、あなたの名前も、教えてもらえませんか? これからしばらく一緒に行動するから……あなたのこと、もっと知りたいんです」
狭い車内ではお互いに気を遣わないと快適に過ごせない。約15分の道のりとはいえ通勤、通学ラッシュでなかなかに混み合っている。そのなかで他人を犠牲にして自分だけが快適に乗ることはとても難しい。だから千歳は荷物を抱え、邪魔にならないように身を潜めるようにして乗る。それは学園の最寄駅で降りるまで変わらない。そして降りた時、開放感にほっと息を吐くのだ。今日も、いつものように、ほっと一息つきながら駅のホームを進むはずだったのだ。
「っ、――ぁ、」
どんっ、という衝撃。ぶつかったか、押されたか――と気づいたときには千歳の体は前へとつんのめっていた。慌てて体勢を立て直そうとするも荷物を抱えた状態ではうまくいかず、倒れ込んでしまう。幸い、どこか怪我をするということはなかったが、抱えていた荷物を手放してしまい、ホームへと飛び散ってしまった。
「す、すいません……!」
慌てて荷物をかき集めるように拾う。通勤や通学で行き交う人々がちらりと見ては歩いていくのを居心地悪く受け止めながらもひろいきって立ったところで、ぐいと肩を強く引かれた。
「おい! てめェぶつかっておいて謝罪もなしとはどういうことだ! お前がぶつかってきたせいで携帯が割れちまったじゃねェか! どう落とし前つけてくれんだ!!」
ぎりり、と肩を強くつかまれ、耳元で叫ぶようにして怒鳴られる。思わず身をすくめた千歳に、男は目を光らせると、さらに肩をつかむ力を強くする。
「弁償してくれるんだろうな……? どうせ大した金持ってないんだろ? 親に連絡しろよ。んで、金払えよ」
下卑た笑いを浮かべた男が、千歳に迫る。とっさにあたりを見回した千歳だったが、道行く人々はちらりと千歳たちに視線を向けるものの、足早に去っていく。さも、関わりたくないと言わんばかりに。
男の言いがかりであることは当然のようにわかっている。だが、力で押さえつけられている以上、どうしようもできない。心の中で両親に必死に謝りつつ、携帯を取り出そうとし――、
「待て、それは言いがかりじゃないか」
そう、声がした。はっとした千歳が声のした方を見ると、見覚えのある制服をまとった青年が、男の手首をつかんでいる。
「一部始終を見ていたが、彼女にぶつかったのはお前だろう。それに携帯など落としていない。嘘をつくのも大概にしろ」
「な、なんだと……! お前、ただのガキのくせに偉そうな口ききやがって!!」
「俺はただ事実を述べているだけだ。なんなら、防犯カメラでもって確認するか? ――ちょうど、駅員も来たようだしな」
ちらりと青年が見た先には、誰かが呼んだのだろう駅員が数名、こちらに向かってきているのが見えた。青年の言葉と駅員の存在。男は自分が不利だと悟ったのだろう、青年つかんでいる手を振り払うと、舌打ちをして去っていった。
「大丈夫か?」
「は、はい……。助けてくださって、ありがとうございました」
「いや、いい。俺はああいったやつがとても嫌いなたちでな。見ていられなかっただけだ」
「私だけではどうしようもありませんでした。本当に、なんとお礼を言ったらいいか……」
ほっと息を吐き、千歳はぎゅうと荷物を抱きしめる。怖い思いは未だ消えないが、それでも青年が助けてくれたことがとても嬉しかった。
ほどなくして駅員が到着し、何があったかを聞かれる。青年は千歳とともに残り、事情を説明してくれていた。人相を伝えると、あの男が初犯ではないこと、大人しそうな女学生を狙ってはああやって言いがかりをつけて恫喝のようなことをしていることを、駅員から告げられる。
「念のため、しばらくはひとりで行動しないことをおすすめします。そちらの男性は知り合いですか?」
「あの、彼は、」
「ああ、彼女とは知り合いだ。俺が責任を持って一緒に行動する」
「そうですか、それなら安心ですね。この近くの高校の学生ですよね? まだ間に合うとは思いますが、急いだほうがいいかもしれません。気をつけて」
ぺこりと頭を下げて去っていった駅員を見送り、千歳と青年も高校へと向けて歩き始める。そこで初めて、千歳は青年が同じ高校の先輩であることに気づいた。
どおりで見覚えのある制服だと思った、と内心で思いながら千歳は青年へと話しかけた。
「あの、先ほどの一緒に行動することについてなんですけど……」
「ああ、それについてだが。あなたさえよければ、護らせて欲しい」
「え……、でも、それではあなたが」
「俺の負担にはならない。ああいった輩は、復讐してこないとも限らない。だから、しばらくの間、一緒に行動しよう」
青年の言葉は、確かにありがたかった。またあの男が現れないとも限らない。それを考えれば青年と行動するのは千歳にとってもデメリットはなく、断る理由も特にない。そこまで考えて、千歳は青年に自己紹介をしていなかったことを思い出した。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね! わたしは千歳といいます。もしよかったら……、しばらくの間、よろしくお願いします。そして、あなたの名前も、教えてもらえませんか? これからしばらく一緒に行動するから……あなたのこと、もっと知りたいんです」
