第8節 ブルボン学園(現パロ)
――赤軍との交戦より2週間ほど前
「…で、親父、アローゼからの手紙には何だって?」
「至急、援軍を送ってくれとのことだ。赤軍がアローゼへ侵攻している、と」
「え…侵攻、だって…?」
胸の中がざわついた。いや、アローゼは以前から他勢力と緊迫関係にあることは知っていたさ。そして、衝突はいずれ起こるであろうことも。で、その衝突がついに起こるということは、同盟であり俺の友達でもあるミルファス姉さんが――
「アローゼへは私が行く。アルカイド、お前はこの領内で待機、防衛に当たれ」
「……待ってくれ親父!」
気がつくと咄嗟に叫んでいた。意識していないところで叫んでしまって正直自分でも驚いている。だけど、俺は言葉を続けた。
「どうした、アルカイド」
「…アローゼには俺に行かせてほしい。侵攻を受けてるってことはつまりミルファス姉さんが狙われてるってことだろ。あまり考えたくはないんだけどその…最悪死んでしまうかもしれないんだろ?俺、そんなのは絶対に嫌なんだ。だから、頼む…!!」
そう言い終えると、しばらくの間沈黙が続いた。長い沈黙の後、ようやく親父が口を開いた。
「…いつも遊んでばかりいると思っていたお前が、いつの間にかそんな真っ直ぐな目をするようになっていたとはな。いいだろう、援軍部隊の指揮はお前に任せよう。やってくれるか?アルカイド」
「ああ…!もちろんだ!ありがとう、親父!」
「礼はいい。必ずやミルファス殿をお助けするのだぞ」
「ああ!」
親父は、俺の返事を聞くと微かに微笑んだ。それから、俺の斜め後ろにいるキャロルに視線を変えた。
「シルト殿、アルカイドのことをよろしく頼むぞ」
「はっ」
*
「うっわ〜〜っっ勢いでついあんなことを言っちまった〜〜っっ…胃が痛え…」
「大丈夫ですか?アルカイド様」
壁に手をかけて腹を押さえてる俺の背中を、キャロルがさすってくれた。
「お、おう。ありがとうキャロル。…さてと、地形図やら親父が組んでくれた部隊やらを見て作戦を考えないとだな…」
勢いであんなことを言っちまったとはいえ、ミルファス姉さんを助けたい気持ちは嘘じゃないし変わらない。なるべく早く作戦を立てて支援に向かわないとな。
押さえていた手を腹から離し、再び歩き出そうとした時だった。
「戦か?アルカイド、おいも連れてけ」
前方を見ると、異国の衣装をまとい刀を帯刀している青年がいた。少し前からうちに滞在している豊昌兄さんだ。
「えー…ごめんだけど、お客さんである豊昌兄さんを連れて行くわけには…てかまだ言ってないのによくわかったな…」
「おいは戦の気配があったらすぐわかる。そいで戦ち聞いて出陣せん兵士はおらん。だから連れてけ」
「いや、でも」
「連れてけち言うちょるんが聞こえんか?」
ものすごく鋭い視線で俺を睨みつけてくる。本当、豊昌兄さんってこういう時すごく押しが強い上に殺気まで放ってくるからマジ怖い。下手に反論したら本当に斬られそうってくらい怖い。
「…わかったよ。豊昌兄さんは俺の部隊に組んでおくから。刀を抜こうとするのはマジでやめてください」
「おう。そいなら良か。出陣を待っちょっどー」
連れて行くという俺の発言に満足したのか、豊昌さんは笑顔になり殺気を収めた。そして、手をひらひらさせながら踵を返して去って行った。
「よろしいのですか?客人である彼を連れて行っても」
「良くはないよ。けどダメって言ったところで聞かないだろうからな…まあでも、豊昌兄さんなら大丈夫だよ」
「そうですか。アルカイド様がそうおっしゃるなら良いですが…」
とお互いに言いつつも、不安が拭えない表情を浮かべたままである。同盟相手の客人だからな、万が一何かあったら…って俺もそれは思っている。
って、豊昌兄さんのことだけを考えてる場合じゃないな。ミルファス姉さんを助けるための作戦を考えないとだ。うーん、こちら側はもちろん敵さんに対しても流す血は最小限にとどめた上での作戦は、と……
*
――赤軍との交戦当日
「キャロル。あのさ、一つだけお願いがあるんだけど……流す血は最小限にしたいんだ。こっちは当然として、あちらさんに対してもさ」
「それは拙速で事に当たれ、ということですか?」
「ああ。さっきも言ったけどさ、今回の戦は殲滅戦じゃない。そりゃあ、アルフォートが離脱する時間は稼ぐ。それでもダラダラ長引かせたくないんだ。フーベルとアルベルのいる部隊にもそれは予め伝えてある。だから、あっちも先に動いたんだ。……たぶん。もしかしたらアルベルが我慢しきれないで動いた可能性もあるけど……」
可能性ってか、さっきの爆発は確実にアルベルだな。まあ、殺すためでなく動揺させるために爆発させたんならいいか。
「……アルカイド様らしいご命令ですね。あなたはお優しいです」
「そうか?兵法の基本中の基本だと思うんだけど?」
穏やかな笑みを浮かべながら言うキャロルを見て、思わず少し頰が赤くなった。俺はそれを誤魔化すように自分の指先で頰を軽く掻いた。
兵法の基本中の基本とは言ったけど、ミルファス姉さんはもちろん、フーベルやアルベル、豊昌兄さん、さっき出会ったアルフォート……みんなを守りたいんだ。みんなを守るための最善の策だと俺は思っている。
「アルカイド様、私達が必ずあなた様をお守りいたします。ですから、この戦、必ず勝ちましょう」
「ああ!」
そう、これは誰かを殺すための戦いじゃない。みんなを守るための戦いなんだ。俺の横にいる凛々しくて頼もしい騎士――キャロルのことだって絶対に守ってみせる!
「…で、親父、アローゼからの手紙には何だって?」
「至急、援軍を送ってくれとのことだ。赤軍がアローゼへ侵攻している、と」
「え…侵攻、だって…?」
胸の中がざわついた。いや、アローゼは以前から他勢力と緊迫関係にあることは知っていたさ。そして、衝突はいずれ起こるであろうことも。で、その衝突がついに起こるということは、同盟であり俺の友達でもあるミルファス姉さんが――
「アローゼへは私が行く。アルカイド、お前はこの領内で待機、防衛に当たれ」
「……待ってくれ親父!」
気がつくと咄嗟に叫んでいた。意識していないところで叫んでしまって正直自分でも驚いている。だけど、俺は言葉を続けた。
「どうした、アルカイド」
「…アローゼには俺に行かせてほしい。侵攻を受けてるってことはつまりミルファス姉さんが狙われてるってことだろ。あまり考えたくはないんだけどその…最悪死んでしまうかもしれないんだろ?俺、そんなのは絶対に嫌なんだ。だから、頼む…!!」
そう言い終えると、しばらくの間沈黙が続いた。長い沈黙の後、ようやく親父が口を開いた。
「…いつも遊んでばかりいると思っていたお前が、いつの間にかそんな真っ直ぐな目をするようになっていたとはな。いいだろう、援軍部隊の指揮はお前に任せよう。やってくれるか?アルカイド」
「ああ…!もちろんだ!ありがとう、親父!」
「礼はいい。必ずやミルファス殿をお助けするのだぞ」
「ああ!」
親父は、俺の返事を聞くと微かに微笑んだ。それから、俺の斜め後ろにいるキャロルに視線を変えた。
「シルト殿、アルカイドのことをよろしく頼むぞ」
「はっ」
*
「うっわ〜〜っっ勢いでついあんなことを言っちまった〜〜っっ…胃が痛え…」
「大丈夫ですか?アルカイド様」
壁に手をかけて腹を押さえてる俺の背中を、キャロルがさすってくれた。
「お、おう。ありがとうキャロル。…さてと、地形図やら親父が組んでくれた部隊やらを見て作戦を考えないとだな…」
勢いであんなことを言っちまったとはいえ、ミルファス姉さんを助けたい気持ちは嘘じゃないし変わらない。なるべく早く作戦を立てて支援に向かわないとな。
押さえていた手を腹から離し、再び歩き出そうとした時だった。
「戦か?アルカイド、おいも連れてけ」
前方を見ると、異国の衣装をまとい刀を帯刀している青年がいた。少し前からうちに滞在している豊昌兄さんだ。
「えー…ごめんだけど、お客さんである豊昌兄さんを連れて行くわけには…てかまだ言ってないのによくわかったな…」
「おいは戦の気配があったらすぐわかる。そいで戦ち聞いて出陣せん兵士はおらん。だから連れてけ」
「いや、でも」
「連れてけち言うちょるんが聞こえんか?」
ものすごく鋭い視線で俺を睨みつけてくる。本当、豊昌兄さんってこういう時すごく押しが強い上に殺気まで放ってくるからマジ怖い。下手に反論したら本当に斬られそうってくらい怖い。
「…わかったよ。豊昌兄さんは俺の部隊に組んでおくから。刀を抜こうとするのはマジでやめてください」
「おう。そいなら良か。出陣を待っちょっどー」
連れて行くという俺の発言に満足したのか、豊昌さんは笑顔になり殺気を収めた。そして、手をひらひらさせながら踵を返して去って行った。
「よろしいのですか?客人である彼を連れて行っても」
「良くはないよ。けどダメって言ったところで聞かないだろうからな…まあでも、豊昌兄さんなら大丈夫だよ」
「そうですか。アルカイド様がそうおっしゃるなら良いですが…」
とお互いに言いつつも、不安が拭えない表情を浮かべたままである。同盟相手の客人だからな、万が一何かあったら…って俺もそれは思っている。
って、豊昌兄さんのことだけを考えてる場合じゃないな。ミルファス姉さんを助けるための作戦を考えないとだ。うーん、こちら側はもちろん敵さんに対しても流す血は最小限にとどめた上での作戦は、と……
*
――赤軍との交戦当日
「キャロル。あのさ、一つだけお願いがあるんだけど……流す血は最小限にしたいんだ。こっちは当然として、あちらさんに対してもさ」
「それは拙速で事に当たれ、ということですか?」
「ああ。さっきも言ったけどさ、今回の戦は殲滅戦じゃない。そりゃあ、アルフォートが離脱する時間は稼ぐ。それでもダラダラ長引かせたくないんだ。フーベルとアルベルのいる部隊にもそれは予め伝えてある。だから、あっちも先に動いたんだ。……たぶん。もしかしたらアルベルが我慢しきれないで動いた可能性もあるけど……」
可能性ってか、さっきの爆発は確実にアルベルだな。まあ、殺すためでなく動揺させるために爆発させたんならいいか。
「……アルカイド様らしいご命令ですね。あなたはお優しいです」
「そうか?兵法の基本中の基本だと思うんだけど?」
穏やかな笑みを浮かべながら言うキャロルを見て、思わず少し頰が赤くなった。俺はそれを誤魔化すように自分の指先で頰を軽く掻いた。
兵法の基本中の基本とは言ったけど、ミルファス姉さんはもちろん、フーベルやアルベル、豊昌兄さん、さっき出会ったアルフォート……みんなを守りたいんだ。みんなを守るための最善の策だと俺は思っている。
「アルカイド様、私達が必ずあなた様をお守りいたします。ですから、この戦、必ず勝ちましょう」
「ああ!」
そう、これは誰かを殺すための戦いじゃない。みんなを守るための戦いなんだ。俺の横にいる凛々しくて頼もしい騎士――キャロルのことだって絶対に守ってみせる!
