第7節 パンデミック
思えば、俺は妹に『兄さんは言葉が足りなすぎる』といつも言われた。
それが今になってそれを実感させられることになるとは……。
机に向き合い真っ白な紙と睨み合う。
筆を手にして手紙を書こうとするが、いつも同じ書き出しで、似たような内容の稚拙な文章しか思い浮かばず俺の筆は止まったまま動かない。
何故か。
答えは簡単。
俺はアグネスに会いたい。
この腕で強く抱き締めてやりたい。
君の声を聞きたい。君の笑顔が見たい。……それ以外の言葉が浮かんで来ないのだ。
他に話題を探そうとしても何も浮かんでこない。
俺の言葉が足りなすぎて……もしかしたら俺の気持ちはこの手紙では十分に伝えきれないのではないだろうか……。
そんな不安が胸の奥に沸き起こってくる。
俺は口下手で考えるより先に手が出てしまう。
だからこうして頭で考えて手紙に想いを綴るのが少々苦手だ。
だが……今はこうして手紙を綴る以外に君と交流する術がないというならどんなに言葉が足りなくても、何度同じ言葉で手紙を綴る事になったとしても何度でも何度でも君に心を届けたいんだ。
もっと気のきいた言葉の一つでも書けばいいものを……と我ながら要件と安否を確認するだけの稚拙な文章を読み返して苦笑する。
最後にいつも綴るのは「君をいつでも思っている。愛している。」という一文。その言葉を軽い気持ちで書いたことなどただの一度もない。
だが……本当にこれだけで想いは伝わるのだろうか……。
適当な男だと思われてはいやしないだろうか……。
「ダメだ。こんなものじゃ伝わらない。」
紙に綴る言葉だけじゃなくて今すぐにでも君の傍へ飛んでいきたいくらいだ。
俺は言葉が足りないから……だからあの日君に想いを告げた時だってあまりにも唐突過ぎて君を驚かせてしまったに違いないと今になって思い返す事がある。
軽薄な男に見えたかもしれない……その場限りの言葉に聞こえたかもしれない……それでも俺が口にしてきた言葉は紙に綴ってきた想いの言葉は嘘偽りのない俺自身の言葉だ。
だが……それを伝えるだけの言葉が圧倒的に足りない。
それが口惜しい。
くしゃりと握りつぶした手紙を屑籠に捨ててまた新しい紙と向き合う。
これの繰り返しだ。きっと君は俺の手紙をずっと……ずっと待っているだろうに……。
「ダメだ。このまま紙と向かい合っていても何も変わらない。」
アグネスから届いた手紙を読み返そう。そしたら何か変わるかもしれない。
そう思って俺は自分の手荷物に手を伸ばす。
袋を開けて中から手紙を取り出していると、袋の底に小さな小箱を見つけた。
「これは……確か……アグネスに買った……。」
上品な赤い紙で包まれた小箱は掌よりも小さく細い。
中身は一本の口紅だ。
アウラーナで手紙を書いたらアグネスへプレゼントしようと思っていた贈り物だった。
だが、邪竜の襲撃を受けて手紙を出すことが叶わず、今の今まで返事を書く事ができなかった。
そしてそのままこの口紅は俺の手荷物の中で眠る事になってしまったのだ。
ああ……何を言おうと言い分けにしかならないが……だが今からでもこれを送れば俺の想いは彼女に伝わるだろうか……。
否………伝わってほしい。
俺の想い人はアグネスただ一人。
君の為ならこの命惜しくないと俺は誓った。
この命が尽きるまで同じ言葉で手紙を綴ることになったとしても君にこの想いを伝え続ける。
言葉は少なくとも想いに偽りは無いと伝え続けよう。
そしていつか国に戻って君に会えたら思い切り強く抱き締めて……愛の言葉を囁いて……君の柔らかい唇に口付けて俺の気持ちをもう一度伝えるんだ。
アグネス……俺の愛する人へ……届け
それが今になってそれを実感させられることになるとは……。
机に向き合い真っ白な紙と睨み合う。
筆を手にして手紙を書こうとするが、いつも同じ書き出しで、似たような内容の稚拙な文章しか思い浮かばず俺の筆は止まったまま動かない。
何故か。
答えは簡単。
俺はアグネスに会いたい。
この腕で強く抱き締めてやりたい。
君の声を聞きたい。君の笑顔が見たい。……それ以外の言葉が浮かんで来ないのだ。
他に話題を探そうとしても何も浮かんでこない。
俺の言葉が足りなすぎて……もしかしたら俺の気持ちはこの手紙では十分に伝えきれないのではないだろうか……。
そんな不安が胸の奥に沸き起こってくる。
俺は口下手で考えるより先に手が出てしまう。
だからこうして頭で考えて手紙に想いを綴るのが少々苦手だ。
だが……今はこうして手紙を綴る以外に君と交流する術がないというならどんなに言葉が足りなくても、何度同じ言葉で手紙を綴る事になったとしても何度でも何度でも君に心を届けたいんだ。
もっと気のきいた言葉の一つでも書けばいいものを……と我ながら要件と安否を確認するだけの稚拙な文章を読み返して苦笑する。
最後にいつも綴るのは「君をいつでも思っている。愛している。」という一文。その言葉を軽い気持ちで書いたことなどただの一度もない。
だが……本当にこれだけで想いは伝わるのだろうか……。
適当な男だと思われてはいやしないだろうか……。
「ダメだ。こんなものじゃ伝わらない。」
紙に綴る言葉だけじゃなくて今すぐにでも君の傍へ飛んでいきたいくらいだ。
俺は言葉が足りないから……だからあの日君に想いを告げた時だってあまりにも唐突過ぎて君を驚かせてしまったに違いないと今になって思い返す事がある。
軽薄な男に見えたかもしれない……その場限りの言葉に聞こえたかもしれない……それでも俺が口にしてきた言葉は紙に綴ってきた想いの言葉は嘘偽りのない俺自身の言葉だ。
だが……それを伝えるだけの言葉が圧倒的に足りない。
それが口惜しい。
くしゃりと握りつぶした手紙を屑籠に捨ててまた新しい紙と向き合う。
これの繰り返しだ。きっと君は俺の手紙をずっと……ずっと待っているだろうに……。
「ダメだ。このまま紙と向かい合っていても何も変わらない。」
アグネスから届いた手紙を読み返そう。そしたら何か変わるかもしれない。
そう思って俺は自分の手荷物に手を伸ばす。
袋を開けて中から手紙を取り出していると、袋の底に小さな小箱を見つけた。
「これは……確か……アグネスに買った……。」
上品な赤い紙で包まれた小箱は掌よりも小さく細い。
中身は一本の口紅だ。
アウラーナで手紙を書いたらアグネスへプレゼントしようと思っていた贈り物だった。
だが、邪竜の襲撃を受けて手紙を出すことが叶わず、今の今まで返事を書く事ができなかった。
そしてそのままこの口紅は俺の手荷物の中で眠る事になってしまったのだ。
ああ……何を言おうと言い分けにしかならないが……だが今からでもこれを送れば俺の想いは彼女に伝わるだろうか……。
否………伝わってほしい。
俺の想い人はアグネスただ一人。
君の為ならこの命惜しくないと俺は誓った。
この命が尽きるまで同じ言葉で手紙を綴ることになったとしても君にこの想いを伝え続ける。
言葉は少なくとも想いに偽りは無いと伝え続けよう。
そしていつか国に戻って君に会えたら思い切り強く抱き締めて……愛の言葉を囁いて……君の柔らかい唇に口付けて俺の気持ちをもう一度伝えるんだ。
アグネス……俺の愛する人へ……届け
