第7節 パンデミック

「……っと。ここ、だね。ようやく着いたよ」

地図や道行く人によると、このお屋敷のようだ。きれいで落ち着いていて…あの方らしい建物だねえ。敷地の外から見てもよくわかる。
ふふ、と笑みをこぼした後、門の前にいる兵士さんに声をかけた。

「こんにちは。ここはブラウン家のお屋敷で合っているかい?」
「はい、そうでございますが…どのようなご用件でしょうか?」
「この家の当主様…ラント様はいらっしゃるかい?」
「ラント様ですね。少々お待ち下さい」

そう言うと、兵士さんは屋敷の方へ入っていった。その数秒後、ラント様が飛び出すように玄関から出てこられた。そして、門にいるあっしのところまで駆け寄ってくれた。

「薄烟……!!」

ラント様はびっくりしたご様子だ。連絡もなしに急にお邪魔してしまったからねえ…なんだか申し訳ないね。

「ふふ、こんにちは。急にお邪魔してしまってすまないねえ」
「それはいいんだが……いや、とにかく上がってくれ」



「まさか来てくれるとは思っていなかった……わざわざありがとうな」
「いやいや。こちらこそ急だったにもかかわらず、迎え入れてくれてありがとうね」

事前に連絡もせずに急にお邪魔するなんて無粋なことをしてしまって本当に申し訳ない。だけど、どうしても渡したいものがあったんだ。それも、なるべく早くに。

「この前は菊の花と、この簪を贈ってくれてありがとうね。こんなに綺麗なものをもらえて…本当に嬉しかった。その礼とは言ってなんだが…これを、お前さんに渡したい」

そう言って、あっしは丁寧にラッピングした苗を取り出した。汚れないように、土は布で覆っている。

「これは…苗か?」
「ああ、そうさ。あっしの故郷に咲いてる花のね」

苗をラント様に渡した。ラント様は物珍しそうに苗を眺めている。

「ミヤマキリシマって言うんだ。ツツジの一種さ。本当は花束で渡したかったけど、開花の時期はまだでね……。礼はなるべく早くにしたいって思ってたから、時期を待っていたらそれが遅くなってしまう。苗で申し訳ない気はあるけど、綺麗な花だからお前さんにも見てほしいって思ってどうしても渡したかった」

こんな形になってしまったけど、礼はなるべく早くに返したかったし、故郷の花も見てもらいたかった。
確かに、礼を渡すだけならラント様が来店された時に渡すという手もある。だけど、そうしたくなかった。自分で会いに行って、自分で渡したかったんだ。ラント様が、わざわざ錦江に来て菊の花と簪を贈ってくださったように。
いいや、ラント様がそうしてくださったからという理由だけじゃない。純粋に、自分から会いに行きたいって思ったんだ。それが、急にお邪魔しに行くなんて無粋な形になってしまったけど…けどこの方は、そちらに行こうとあっしが言えば、いいや自分が行くからとおっしゃりそうな方だ。それじゃあ意味がないんだ。

来てくれるのを待っているばかりじゃなくて…あっしはお前さんに、自分から会いに行きたいんだ。

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