第7節 パンデミック

ある日の錦江の夜。その日の営業を終え、店の片付けと掃除を済ませ、今から夕食というところである。

「テンチョー!お米炊けたからお茶碗によそってテーブルに持って行っとくね〜」
「はいよ、任せたよ」

シレネが炊けた米をよそいテーブルに持って行っている間、薄烟は千切りにされた焼きたまごと刻んだしいたけ、鶏肉、花の形に切ったにんじんを皿に盛り付けていく。それから、横に置いてある鍋の中にある鶏出汁のスープをお椀に入れる。
ここまでやっていると、シレネが再びやってきて「こっちのお汁も持っていくね〜」と鶏出汁のスープが入ったお椀を運んでいく。「熱いから気をつけるんだよ」と言いながら薄烟も具が盛り付けられた皿を運んだ。
配膳が終わると、お互いに向かい合うようにテーブルを囲んで席につき、「いただきます」と手を合わせた。

鶏出汁のスープを米が入った茶碗の中にかけながら、シレネが口を開いた。

「前よりもこの店に来るお客さんはじわじわ増えてるけどさー、最近また減ったよねー」

薄烟もまた、鶏出汁のスープをかけながらそれに答える。

「そうだね、近頃は病気が流行っているみたいだから外に出る人が少ないのかもしれないね」
「あー、あれかー。なんか、痔?っていうのになっちゃうヤツ?おしりが痛くなるのはヤだから気をつけなきゃな〜…ってご飯の時間にする話じゃなかったね」

てへへと言いながらシレネが謝った。薄烟が「気にしなくていいよ」と言葉を返す。

「まあどんな病気であれ、気をつけるのは大事なことだよ。あっしらは商売人だからひと時も寝込んでる暇なんてないからね。病が流行ってる時期だからこそ、出かけた後とご飯を作る前は念入りに手を洗ってうがいをするんだよ」
「モチ!今日だってちゃんとバッチシ手を洗ったし」
「うんうん、それでいい」

お互いにうなづき合いながら、スープがかかった雑炊のようにした米を口にした。

「ところでテンチョー」
「ん?」

にんじんやしいたけ等の具材を雑炊のようにした米に乗せながら、シレネが再び口を開いた。

「こないださ、お客さんが増えたからそろそろ人手欲しいな〜、みたいな話したじゃん?だからさ、昨日あきっちしぎゅさんとお絵かきしたときにこういうのを描いてみたんですケド!ジャジャーン!!」

そう言うと、どこからともなく一枚の紙を取り出した。
その紙には、従業員を募集したいという内容が書かれている。のだが、蛍光色やビビットカラーがふんだんに使われており、文字も手書きのポップ体で書かれているという、ものすごく派手派手しいデザインである。
これを見た薄烟は一瞬引き気味な表情になったが、すぐに「ふふっ」と笑みをこぼした。

「こりゃあまた派手なチラシだねえ……けど、デザイン自体は悪くはないし、内容も宣伝になりそうなことはちゃんと書いてある。ありがとうねシレネ、わざわざ素敵なチラシを作ってくれて」
「いえいえー!アタシこの店大好きだからもっと盛り上げたいって思ってるもん!少しでも力になれたらって!」
「その気持ちだけで十分だよ。本当にありがとうね。明日の開店前に、店の入り口に貼っておこうかね」
「やった〜〜!!」

チラシのことで話が盛り上がり、楽しげな雰囲気になっている錦江の食卓。それからも話は何度か弾み、その度に賑やかになった。そうしているうちにお互い食べ終わり、「ごちそうさまでした」と手を合わせて食事を終えた。


そして翌日。和風で落ち着きのある錦江の雰囲気とは真逆の、ポップで派手派手しいデザインの従業員募集のチラシが店の入り口に貼られていた。
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