第15章 極北の地
セデル達が北へ旅立ってからどれ程の月日が経ったでしょう?
元気にしているでしょうか?
寒い思いはしていないでしょうか?
私はあれから修道院での慈善活動のお手伝いをしています。
白竜さんと天青さんと一緒に物資を届けて、そのまま修道院に留まって炊き出しのお手伝いや傷病者の手当てのお手伝いをしています。
ここにいる間は自分の肩書きは関係なくお手伝いをしたいと思ったのです。
変わったことと言えば、あのとき襲撃を受けた街も変わってきているんですよ。
誰もが皆生きたいと願い、元の生活を取り戻す為に家を直し、少しずつ、少しずつ街が活気を取り戻してきているのです。
家族を守るためにやむを得ず去った人もいましたが、故郷の為に戻ってきて新しい生活を初めている人もいるのです。
壊されても、美しい故郷の姿を取り戻そうとする人々の想いは強く、より一層強い結び付きになっていく。巡り巡って輪は広がって、小さな力が大きな力へと変わる。
人々の生きる力の強さを私は改めて知る事ができました。
この街の復興はきっと早いだろうと私は思うのです。
美しく整えられた石畳。白く塗り直された家々。風に揺れる洗濯物。活気づく市場。
穏やかな暮らし。人々の営み。こんな当たり前の光景さえ尊いものなのだと思わずにいられないのです。
ふと視線を上へと向ければ、ふわりと青白く光るものが目の前を通り抜けていく。
白いほわほわとした綿のようなものを纏った小さな羽虫。
ああ……また冬が訪れるのですね。
ふと脳裏に過るあの日の光景。
寒いのが苦手だと言って微かに震えていた貴方の姿……暖炉の前で火を起こし、背中を丸める貴方の姿。
いつも私よりも前を歩いて、真っ直ぐに先を見つめて、導き守ってくれる頼もしい背中しか見ていなかった。
幼い頃も……そして今も。
だから……あのとき見せた貴方姿が、なんだか可愛らしく見えてしまった。
セデルにも苦手なものがあったんですね。
セデル……貴方は今、寒くはありませんか?
また会える事があるなら……この外套を贈ってあげたい。
寒いのは苦手だと震える貴方の背中にかけてあげたい。
カサリと手にした紙袋が音を立てた。
少々気の早い贈り物……。
いつ会えるかも解らないのに……もし会えたとしても季節が変わってしまって必要無くなってしまっているかも……それでも…貴方の事を思わずにいられない。
私が純血だったなら……貴方の後を追いかけて今すぐにでも会いに行くのに……そんな事を思う時もあるのです。
でも、それはできない……貴方は望まない。
例え私が純血であったとしても貴方はきっとこう言うでしょう……失いたくないから連れていけない……と。
混血も純血も関係無い。
愛しているからこそ危険な目にはあわせたくない。
セデルはそう言うでしょう。
私も同じです……私も貴方が戦地へ向かうこと……本当は望んでいません……幾日経とうと不安が拭えるものではありません……。
これは呪い。胸の痛みも不安も全て……心を縛る呪いです。
それは時に胸を締め付けるような痛みと言い様のない不安と寂しさが襲ってくる。
不安になる度……寂しくなる度……恋しくなる度に貴方のお母様の指輪に口付けて祈りを捧げるのです。
そうすることで私の心が救われる。
そうすることで少しでも貴方に私の想いが届けばいいと……そう思いながら。
苦しくないと言えば嘘になります。
でも私は自らこの呪いを受けたことを後悔してはいません。
これは呪いであると同時に祝福でもあるのですから。
『この指輪は関係ありません。
私の心を縛り続けているのは今も昔も……そしてこれから先もずっと……セデル……貴方一人です。』
貴方の指輪も、あのとき交わした言葉も、口付けも……共に過ごした夜も全て私の支えです。
貴方の愛があるから信じて待つことができるのです。
いつか必ずまた会える。貴方は生きて帰って来てくれると。
『必ず戻る。君が私の居場所だ』
私は待っています。待っていられます。
だから……無事でいてください。
また会えたらその時は強く抱き締めて欲しいです。
そして……その時は、貴方に一番に見て欲しいのです。
この背に咲いた赤い花を……
