第14章 呪い
足の裂傷に治癒術をかけ、ある程度傷が良くなったところでガーゼをして包帯をまく。あとは本人の回復力で、傷は数日のうちに完全にふさがるだろう。
「はい、これでいいですよ。数日はあまり無理をしないでください」
「ありがとうな、お嬢ちゃん」
にかっと笑って去っていった中年男性を、軽く頭を下げて見送る。先日の飛竜の襲撃で倒壊した家屋を直している時に、欠けて鋭くなっていた板で切ったらしい。なるべくなら今日と明日は安静にしていて欲しいが、人手不足のキャンプではそうはいかない。きっと出来る範囲の作業には参加するのだろう。
ふう、と小さく息を吐いたところでぽん、と肩を叩かれた。
「エテルさん、おつかれさまです。交代の時間なので休憩に入ってください」
「もうそんな時間なんですね……、ありがとうございます」
声をかけてくれた同じ衛生への男性に頭を下げ、エテルは赤軍の詰所へと向かった。同じタイミングで休憩を取っている何人かに会釈をしつつ、昼ご飯を確保する。昼時は過ぎてしまっていたが、それほど遅い時間というわけでもない。
談笑している同僚を見ながら、このキャンプも落ち着いたな、と思う。状況が変わったわけではないし、まだ人手不足は続いていて、やるべきことはいくらでもある。――いくらでもあるのだが。
「私が抜けたら回らない、ってほどではない……」
状況が改善されたとは決して言い難いが、エテルひとりが抜けても問題はないだろう。もとよりずっとここにいる予定ではなかった。ひと段落着いた今、長居する必要はないのだ。
と、そこまで考えていかにもっともらしい理由をつけてキャンプから離れる理由を考えている自分に気づき、思わず苦笑が浮かぶ。
きっと先に進むといっても、彼らは快く送り出してくれるはずだ。意地の悪い人たちではないのだから。キャンプで頑張ってくれている彼らには申し訳ないけれど、“現実”を知るために進みたい。そのためにもこのタイミングを逃してはいけないと、エテルは昼食の残りをかきこんで手早く食器を片付ける。
――むせて咳き込む羽目になったあげくに、咳き込んだことで体勢が崩れ、服の裾を踏んで転びそうになり周りに居た人たちに助けられたのは、言うまでもないだろう。
そんな出来事はあれど司令官に話をつけたエテルは、現場の仕事を終えたあと、メドラウトのテントへと向かった。どこかに行くところだったのか、ちょうどテントから出てきたところだったメドラウトへと声をかけると、振り返って首をかしげた。
「どうした、エテル」
「お願いがあって来たんです」
これよりも北へ行けば、今までよりも危険度は飛躍的に跳ね上がる。近接戦闘の術を持たないエテルが先に進めためにはメドラウトの護衛が必須だ。だが、今は護衛としてついてきてくれているメドラウトではあるが、それより先となると、どこまで来てくれるのかわからない。
そして彼がどこまでついてきてくれるのか――自分の気持ちにどこまで彼を付き合わせていいのか、悩んでいた。
けれど、メドラウトが必要だった。それは護衛としての意味でもあり、どうしてかはわからないけれど、彼にそばにいてほしいと、強く思ったのだ。
心臓がどきどきと早鐘を打つ。口内が乾いて声が出しづらく、最初の声はかすれてしまっていたが、メドラウトは聞き取ってくれた。
「……キャンプの司令官とは、話をしてきました。私は、キャンプを離れてさらに先に進みたいと思っています。“現実”を知るために。そのためには、メドラウトさんの力が絶対に必要です。だから、――だから、私と一緒に、この先も一緒に来てくれませんか? 無理にとは言いません。でも、……ついてきてくれたら、嬉しいです」
