第6節 星祭り
今日はお祭りだっていろんなところから話題が飛び交っていた。
私はというと、モロクさまのお屋敷でいつも通りお勤め。
「お祭りかぁ…」
モップを片手に床を拭き拭き。
ふと耳にした言葉に思いを巡らせる。
夜空にぱっ…!と広がる大きくて綺麗な花火。
赤く光る提灯と美味しい匂いが漂う屋台。
ドンドンと鳴り響く太鼓の音。
「ふふ…とっても楽しそう!」
思わず笑みが溢れた。
きっとその場にいたら浮かれてしまうだろうなと思いながら仕事の手は止めずにゴシゴシとモップをかけていく。
いつもだったら黙々とこなしてる筈のお仕事も、今日はお祭りのことが気になってるせいかなかなか思うように進まない。
いけないいけない…ちゃんとお仕事しないと!
「ふぅ…こんな感じかな?」
モップかけを終えて額の汗を手の甲で拭いながら大広間を見渡してみる。
「うん、とても綺麗!」
ひとつ仕事を済ませ晴れ晴れとした気持ちで掃除道具を片付けようと廊下を歩いていると、すれ違った同僚の会話が耳に届いた。
「今日は彼とお祭りに行くの!」
笑顔で語る彼女はとっても幸せそうだった。
そんな光景に幸せを分けてもらえたような気がして私はくすりと笑みを溢し、心のなかで彼女を祝福したのだった。
(いいなぁ、彼氏さんとデートかぁ…)
そう思ったとき、たまたま隙間の開いていた扉に目が止まり、誰か居るのだろうかとそっと部屋を覗いてみる。
するとそこにはカウチソファーに身を横たえた幼なじみの姿があって…
「ロキく…」
声をかけようと思って近づいたけど、彼の寝顔を見たらなんだか声をかけづらくなってしまって…
カウチソファーの側にしゃがんで、すーすーと寝息を立てる彼の顔を暫く見つめる。
顔にかかった赤い髪をそっ…と払い、閉じられた瞼をじっと見つめる。
それは僅かな時間なのだけれど、私にとってはゆっくりと時が流れているようにも感じる瞬間だった。
(昨日は遅かったのかな…)
なにかかけてあげられるようなものはないかと部屋を見渡すと、ベッドの上に敷かれたタオルケットが目に留まる。
タオルケットをロキくんの上にそっとかけ、再びソファの側でしゃがみこみ、私は彼の寝顔をじっと見つめ暫し想いを巡らせる。
いつも遅くまでどんなお仕事をしてるんだろう…
ごはんちゃんと食べれてるのかな…?
そんな事を考えながら静かに寝息を立てる彼の姿をぼんやりと見つめている…
大人になってから知らない事が多過ぎて…ちょっとだけ遠い人に見えちゃうよ。
でも…
私は小さい頃からずっと…今も変わらずあなたが好き。
あなたと一緒に見てみたいものが沢山あるの。
もっともっとあなたと楽しい思い出を作りたい…
でもね…
(お祭りは…また今度にするね。)
疲れているあなたを少しでも休ませてあげたい。
私はあなたの頭を軽く撫で「おやすみ」と一言呟いた。
開かれた窓からはそよそよと心地よい風が吹きこんで、私のヴェールを揺らした。
もう少し…もう少しだけあなたの寝顔を側で見ていてもいいよね?
ロキくんなら「しょうがねーな」って言いながらくしゃくしゃって私の頭を乱暴に撫でて許してくれる…そんな気がするから…。
