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「…へえ…しかし、ずいぶん詳しいんだな、お前。」


「幼なじみが花好きだからね。
聞いてるうちに僕も自然に覚えたんだよ。」


「…なあ…もし…もしもだぞ…」







ー…私を忘れないで…ー


《勿忘草》


「だああああ!!一体、あの塔に行く手立てはどこ行きゃ見つかるんだよ!!」


「うっせーぞ!黙れカーシュ!分かんねーからこうやって手分けしてエルニド中回ってんだろうが!
そんなんだからお前はいつまで経ってもスカタンなんだよ!」


「むががが…!キッド、テメー俺様が黙っていればずけずけと…!!」


「すとーっぷ。二人ともいい加減にしてくれよ…」



スカイブルーとエメラルドグリーン。

ここら辺の色を例えるんならこの二色だろう。

中央のゼナン大陸からずいぶんはなれたここ、エルニド諸島は一年中輝く太陽が鎮座し、今日も一面を眩しく照らしだしている。

その中にぽっかりと浮かび上がる異質…

青と青…空と海との狭間に突如現われた異質な色。

“星の塔”

…俺たちがそう呼ぶそれは、空高くにその巨大な体を浮かべ、静かに…今はまだ、静かにそこに存在していた。

…不気味なくらいの沈黙を伴って。

俺たちの今いる“今”とは違う“今”、違う時間軸。

“パラレルワールド”

はるか…遥か昔に分岐した“世界”の産物たるその塔は、時を待っているんだろう。

俺達人間をこの海の星から一掃するその瞬間を、な。

人類の守護者たるフェイト。

“運命”が死んだ今、星の…人間に対する復讐劇は確かにその幕を上げたんだ。

でもよ、だからって滅ぼされるのを指を咥えて黙ってみているつもりは俺だって、セルジュだって…仲間の誰一人として思っちゃいなかった。


運命を殺した俺達。

…どうせ罪人だ。だったら未来だって殺してやる。

滅びの未来なんて、な。


…とは言ったものの…


「しっかし、相手の本拠地が、まさか空の上とはなー…」

そう言うと、俺の隣にいる長身長髪の男…カーシュはその赤銅色の目を細めて、青い空を仰いだ。

カーシュの言う通り…厄介な事だが、星の塔は遥か上空でその身をたゆとわせている。

だから、空を飛ぶ手段を持っていない俺達は二の足を踏んでいるわけだ。

でっ、その手段を探すべく、パーティ総出で手分けをして各地を回ってるわけだが…



「…ふう…龍神の滝でも手がかりなし、か。
ここなら何かあると思ったんだけど…」

洞窟の奥で手がかりを探していたのだろうか?

しっかし、いつの間に戻ってきたんだか…セルジュは困ったような顔で笑いながら、そう口を開いた。

そりゃあ、地べたを歩いている俺達が急に空を飛ぼうとしてるんだ…


「…仕方ねーだろ。
…実際、雲を掴むみてーな話だしな。」


俺がため息混じりでそう答えれば、だよねぇ…と困った顔はそのままに、セルジュはそう返した。


「…もうすぐ日も暮れる。
そろそろ引き上げたほうがいいんじゃねーのか?小僧。」


カーシュは自分の薄紫色をした髪を乱暴にぐしゃ…と一度掴んでそう言うと、セルジュの方へとその顔を向けた。


「…そうだね。夜はモンスターも活発化するし…今日はここらへんで引き上げようか。」


そう言ったセルジュは、自分の髪色と同じような青から赤へと徐々に染まり始めた空を静かに見上げていた。

「ん…?」


仕方ねえ、帰るか。

…と、足を踏み出そうとしたその時、何気なく足元が気になった俺は歩くのを止めて、ふっと下を見たんだ。

そこには…


「おーい、キッドー!早くしないと!カーシュ、短気だかー…」


「小僧!小娘ー!何してんだー!!早くしねぇと置いてくぞーーー!!」


「…ね?」


そう言うと、少し笑って、セルジュは軽く肩をすくめた。


「なあ、セルジュ…これ…」


俺は足元のそれを指差してそう尋ねた。

カーシュには少しわりぃが…あいつは少しは我慢ってもんを覚えるべきだろう。


「ああ、勿忘草の事?それがどうしたの?」


「“ワスレナグサ”?」


「そっ、“ワスレナグサ”。ほら、早くしないとカーシュが待ちくたびれちゃうから。」


「うわっ!!待て、セルジュ!!急に手を引っ張るな!!」


俺の足元に広がる緑と紫。

歩きながら、ふっと振り返れば…

決して派手ではない小さなその花の花弁は、黄昏時の風に吹かれて…ゆらゆらと揺れていた。








「…なあ、セルジュ。いい加減、手放せ。」


「…嫌だ。」


「嫌って…セルジュ、お前なー…」


嫌だと言うセルジュの瞳は何故だかとても真剣で…

そんなセルジュの視線と俺の視線が不意にかち合う。

俺の色とは違う、深い深いアメジスト…まるで海の底のように静かなアイツの瞳。

その目がなんだかくすぐったくて、ふいっと顔をそらせば、「そう、あからさまに逸らさなくても」…と、声を出してセルジュは笑った。


「うるせー!!…ッ!そーいやさ、セルジュ!!」

その空気が何となく居づらく感じた俺はなんとか話をずらそうと、セルジュにあわてて話をふった。


「ん?何?」


…何と言われても…居づらかったからなんて言えねーしなー…

…そうだ…


「さっきの花の事なんだけどよ…」


「ああ、勿忘草の事?」


とっさに俺の頭に浮かんだ緑と紫。

“ワスレナグサ”

気が付けば、俺の口は自然にあの花の名前を紡いでいた。


「ああ、それだそれ。あれってどういう花なんだ?」


「どうもこうも…普通の小さな花だよ。日向や少し日陰になってる場所によく咲くんだ。
…たしか花言葉は“私を忘れないで”。」


「私を…忘れないで?」


「気になる?…じゃあ、少し長くなるけど、話すよ。」


そう言うと、セルジュはゆっくりと…いつもの穏やかなテノールで物語を紡ぎ出し始めた…

物語のあらすじはこうだ。

ある日、二人の男女が午後の川辺を歩いていた。

ふっと、男は足元の紫…青紫の小さな花に目を奪われる。

この花をどうしても恋人に送りたい。

そう思ったその男は花を摘もうと岸に降りたが、誤って川に飲まれてしまう。

濁流渦巻く川に落ちた男に岸まではい上がる力はなかった…

男は、最後の最後に…最後の力を尽くして自分の持っている花を恋人へと投げ…

僕を忘れないで!!

…そう言葉を残して死んだ。









「…だから、勿忘草は“私を忘れないで”なんだよ。」


「…へえ…しかし、ずいぶん詳しいんだな、お前。」


俺がそう答えれば、セルジュは俺と繋いでない方の手で頬を軽く掻きながら照れたように笑った。


“私を忘れないで”…か。


「…なあ…もし…もしもだぞ…」


「ん?」


…本当はこの先を言うのが怖い。

理由なんて分からねえ。

だけど…俺の中でそれは…確信を持って、どっしりと心にのしかかっていたから。

この旅が終わった時…お前は…



「…お前、もしも記憶がなくなって…全てを忘れてしまったら…その時…どうするんだ?」


水平線へと沈みかけた太陽が視界を鮮やかに染め上げる。

俺らしくねえ。

だけど…だけど…

俺には、ただ黙ってうつむく事しかできなかった。

…それ以上、言葉は出てこなかった。



「そうだなー…」


うつむいている俺に、セルジュの声が降る。

落ち着いた声。

…そして、セルジュはきっぱりとこう言った。



ー…探しに行くよ。世界中…どの時間、どの次元でも、必ず。…必ず、会いに行く…ー

頬を撫でる風は、どこまでも…どこまでも…優しかった。


Fin
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