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どうしてマーシュはこの世界から帰ろうなんて言うんだろう?
あっちに戻ったってボクはひとりぼっち…
優しいママだって強くて格好いいパパだっていないのに…いるのはボクをいじめるあの子達だけ…
それはマーシュだって同じでしょ?
今は大っ嫌いだけど前はね、ボクは冬が好きだったんだ。
だってさ、遊び疲れて家に帰れば優しいママがいて
『おかえりなさい。寒かったでしょ?さあ、あたたかいミルクがあるから体を温めなさい』って…
朝だってね
『ほら、早くしないとミュートの分までパパが先にご飯を食べちゃうぞ』って…
暖かい毛布にくるまってウトウトするのも好きだったけど、そんな事よりもボクを起こしてくれるパパの声の方がもっと…ずっとずーっと大好きだった。
でもね、もう…あっちにはあったかいミルクもふわふわの毛布だってないんだ…
あるのはね、冷たいミルクとごわごわの毛布だけ…
マーシュはいいよね、だってママがいるもん。
マーシュのママはマーシュを置いて遠くに行ってないもんね。
でもね、ボクにはママがいないんだ。
ママがいて、ドネッドがいて…マーシュは幸せだよね?
そんなマーシュにはボクの気持ちが分からないでしょ?
夜がどんなにつらいか…ボクが泣いてたかなんて分からないよね?
マーシュにボクの何が分かるっていうの?
…でもねホントは…ボク…
私にはマーシュの気持ちが分からないわ。…だからと言ってミュートの意見に全面的に賛成ってわけじゃないけど…
…うそ。本当はどこかで分かっているの。マーシュのやろうとしている事は正しい事なんだって…
でも、私…ここで見つけちゃったの、ずっと前から欲しかったものを…
ずっとずっと嫌いだったの…この髪が…
二人には分からないよね?だって二人とも綺麗な髪色をしているもの。
考えたことある?自分のせいでママを悲しませちゃう時の気持ち。
ママはいつも泣いてた。
いつもいつも…
『ごめんねごめんね…』って…
ママは悪くないのに、悪いのは私なのに……
でも、ここではそんな事…ない。
枯れた木みたいに寂しい白じゃなくて、綺麗なピンク色の髪がヒラヒラ踊って…あっちみたいに偽物なんかじゃないの…
何回も…何回も…何回も…洗って確かめた。
こっちに来てから毎日毎日。だから、夜が怖かった。
だって、夢だったら…起きたら何もかもが消えてたらって…そう考えると本当に怖くてたまらなかったの…
二人ともそんな思いしたことないでしょう?
分からないわ。私の気持ちなんて…二人に私の何が分かるっていうの?
でも…私は…
ミュートは僕に言ったよね?
『マーシュにボクの何が分かるの!?』って…
でも、ミュート?ミュートにも聞くけど、ミュートは考えた事ある?
ママに…パパに…抱き締めてもらえない人の気持ちを…
ミュートのママは遠くに行っちゃったけど、ミュートはたくさんたくさん抱き締めてもらったでしょ?
寝る前にはたくさんたくさん絵本を読んでもらったでしょ?
パパだってミュートを大事にしてくれて…ミュートは幸せなんだよ?
僕のママとパパはいつも喧嘩をしてて、僕はいつもその声を毛布の中から聞いてた。
…ちょっとでも音が声が聞こえなくなるように…って…
気が付いたらパパはどこか遠くに出ていっちゃって…
だから、僕、パパとの思い出あまりないんだ…
それにね、ママにはドネッドがいるから…体の弱いドネッドにママはかかりっきりで…僕を抱き締めてくれたことなんてなかった…
わかってるんだ。僕はお兄ちゃんだから。
ママにこれ以上迷惑かけちゃダメ、ドネッドは弟なんだから僕がしっかりしなくちゃダメなんだって。
でもね、分かっていても…分かっていてもね……
やっぱり一人の夜は嫌だよ…一人は怖いよ…
本当は、ママに絵本を読んでほしかった。
色々学校の事や友達のことを話したかった。
抱き締めて…ほしかった…
ミュートのママみたいに『大好きよ。マーシュ。』って…そう言ってほしかった…
ミュートはそんな思いしたことないでしょ?
分からないよね。僕の気持ちなんて。ミュートに僕の何が分かるっていうの?
…そっか…わかった…僕は…
…ボクは…
…私は…
…僕は…
あなたが…うらやましい…
Fin