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「…ごめん、ごめん。…でも、キッド、大丈夫だよ?」
「はっ…?」
「僕はどこにもいかない。“あの時”もそう言ったろ?…キッド?」
そうサラっというコイツの顔は、記憶の中にあるあの時とまったく変わってなくて…
懐かしくて…
暖かくて…
悲しくて…
「…ありがと、な。」
《流星雨》
「祝☆蛇骨館奪還記念夏祭り~?」
「そうなの!さっきエレメントショップのリサに聞いたらその広告を貰っちゃって!キッドも行くでしょ?」
「んなこと言ったってよー、レナ。今は、それどころじゃないだろ?
とっととあの馬鹿でかい塔に行かなきゃなんねーし。」
エルニド諸島の中心の港町・テルミナ
蛇骨家の膝元であるこの町は現在浮かれモード一色だ。
なんでも、ちょっと前までここを乗っ取って威張り散らしていたパレポリ軍が引き上げたことと、行方不明だった蛇骨大佐が帰還したことを記念してパーッとやるか!!
…という話らしいが…
そう、今の俺達はこんなことをして浮かれている場合じゃない。
なんたって、星から売られた喧嘩を買っている真っ最中なのだから。
遠く離れたここからでも見える馬鹿でかい塔…一刻も早くあそこに行かなくちゃならない。
青い空、白い雲をぶち破って浮かぶ龍神達の都市遺跡…
人の守護者たる運命が封じていた、忌むべき塔“ディノポリス”
いや、星からすれば忌むべき存在・滅ぶべきは俺達“人間”の方なのだろう。
進化の道から大きく外れた、星を喰らい尽くす“ラヴォス”の子供達…
それが、俺達“人間”だから。
でも、俺達は、滅ぼされるのを『はい、そうですか。』なんて受け入れる気はこれっぽっちもなかった。
星が死ぬ?上等。
俺達だって生きてんだ。
大切なものがあるんだ。
負けるわけには…いかない。
「うーん、まあ、いいんじゃない?たまには、さ。こんなのも。」
「はあ?お前までそんなのんきな事言うのかよ?」
今まで壁に寄り掛かって、黙って俺達の話を聞いていたセルジュが口を開けば、出てきた言葉はレナの意見に賛同するもので…
…アルニ村ってこんなのんきな奴しかいねーんじゃねえのか?
そんな考えが頭をよぎる。
「何か言いたそうだね、キッド?
…“こんな時”だからこそだよ。
ってわけで、リーダー権限で祭り参加決定。」
「なっ、お前、何勝手に…」
「そんなわけで、レナ。他のみんなにも伝えてくれないかな?僕も後で手伝うからさ。」
「わかったわ!まっかせなさーい!」
そう言うが早いが、レナは鼻歌を歌いながら足早に部屋を出ていってしまった。
と、同時にしーんとした空気が部屋を包む。
「…どういうつもりだ?」
「さっき言った通りだけど?」
なんとなくその空気に耐えられなくなり、セルジュに話し掛けてみてもさも当然とばかりにケロリと言い返されてしまった。
「勿論、キッドも参加すること。じゃあ、僕ももう行くから。また後でね。」
「ちょっ…セルジュ!?…あーっ、行っちまった…。…ったく、人の話ぐらい聞けってのに。」
俺以外、誰もいなくなった部屋に今度こそ本当の沈黙が訪れた。
特にすることもない俺は、乱暴にベットに体を投げ出した。
バフンと言う音とともに少しだけ埃が舞う。
部屋が静かなせいもあって、自分の心臓の音がやけにはっきり頭に響いた。
「祭り、ね。花火でも上がんのか?」
誰に言うわけでなく、一人でごちる。
俺にはわからないから。
火のどこがいいのか?
何を愛でるのか?
…本当にわからないから。
「キッドー?起きてる?」
「んああ、セルジュ?どうしたんだ?人がせっかく気持ち良く寝てたってのに…」
「はぁ…キッドって意外と物忘れが激しいタイプだったっけ?」
…どうやらあのまま寝てしまったみたいだ。
もっと眠りに身を任せて目を閉じていたいがどうやらそうもいかないらしい。
まだ半分閉じている目を擦りながら開くと、そこには予想通りの苦笑を浮かべたセルジュが立っていた。
……ってか、そもそも…
「俺、一言も行くなんて言ってねーぞ。」
“参加するように”とは言われたが、それに対して一言もYESと言った覚えはない。
「…キッドに拒否権なんてないよ?ってわけで、行こうか。」
「うわっ!?」
セルジュの目が一瞬やけに真剣にコッチを見るもんだから反応が少し遅れてしまい、半ば引きずられるような形で部屋から連れ出されてしまった。
……コイツ、こんなに押しが強い奴だったか?
「やっぱり人がたくさん来てるなー…みんなと合流するのは少し大変かも……
どうしたの、キッド?また考え事かい?」
「…んああ、悪いちょっとな…」
本日二度目の沈黙。
耳に膜がはっているように…やけに祭りの雑踏が遠く聞こえた。
「悪い、セルジュ。…俺、やっぱり部屋にいる。
お前達で楽しんでこいよ。」
どうしても苦手だった。
火の花…
違うとわかってはいても、あの日の…
俺から何もかもを奪っていった赤い花を思い出してしまうから…
「大丈夫だよ。きっと、キッドの思っているものと違うから。それにほら、もうすぐだよ。」
セルジュは俺にそう笑いかけると、空を仰いだ。
セルジュにつられるように俺も目線を空に移す。
黄昏の闇は紫紺の闇へと変わって、空には輝く星達が浮かんでは流れて消えて…
…流れる?
「…えっ?」
自分の目が信じられなくて、思わず何度も目を瞬かせる。
一個じゃない。
次から次へと、雨のようにそれは降り注いでいる。
そのたびに周りから歓声が上がっているけど、そんなもの今の俺にはどうでもよくて…
「“流星雨”。今日はその祭りなんだよ。
今年は蛇骨大佐の帰還祝いもかねてるけど、本当は毎年やってる星祭りなんだよ。」
「花火じゃないのかよ、俺はてっきり…
…って、お前、そんなこと一言も…!」
「誰も花火大会だなんていってなかったろ?
しっかし、やっぱり花火がダメだったんだ。」
「うわぁ!?…えっと、だな…
…笑うな!セルジュ!!」
くっそー…さもおもしろいものを見たって感じで笑いやがってこのヤロー…
「…ごめん、ごめん。
…キッド?大丈夫だよ。」
「はっ…?」
「僕はどこにもいかない。“あの時”もそう言ったろ?…キッド?」
ああ…そうだったよな…お前は…そうだよな。
あの時も迫る赤から俺を助けてくれた…
俺は、いつだって…お前に守られていたんだよな…
「…ありがと、な。」
そう言って、離れないようにと繋いでいた手に少しだけ力を込めて返せば少しだけ驚いた顔をしているセルジュと…
「“お互い様”だよ。」
うれしそうに笑うセルジュがいた。
fin