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それでこそ我が血塗られた花嫁だ
憎悪と敵意こそ真の尊敬を生む源になろう
二人して黄昏の王国を築こうではないか
《黄昏の向こうへ》
「もう、こんな時間か―……」
ぼんやりとした靄がかかった視界を朱色の陽光が染め上げる。
まだこの光の中で微睡んでいたいと強く思ってしまうぼど、陽光は白鳥の羽のように優しく暖かく私を包んでいた。
執務の最中だというのに―……
己のたるみ具合に出て来たのは自嘲の笑みで、このような醜態を私が晒していたと奴が知ったらどんな顔を私に見せるだろうか?
……奴?
「フフフッ―……」
喉の奥から零れた音が空気を間抜けに震わせる。堪えようとしてみたがどうやら徒労だったようだ。
今、私は何を考えた?
誰を思った?
「滑稽な話だ。私は貴様の顔すら知らぬと言うのに。」
顔すら思い出せもしない。いや、思い出す以前の問題だ。
記憶の断片すら私は持ち合わせていない。
互いに袂を別った日からもういくつの日が昇り、月が沈んだことだろう。
もう随分と遠い過去だろうか?
それともごく近い過去だろうか?
どちらも過去であるなら同じ事。
貴様は、狂っていた。
同じく狂った人間である私から見ても尚、貴様は狂っていた。
私と貴様は似ている。
水面に映る空のように
鏡に映る己のように
しかし、それは実像ではなく虚像でしかない。
私と貴様は違う。実像と虚像が決して重なり合わないように。
互いに闇を抱えていたのは同じだろう。
しかし、私と貴様ではその闇の先に見た風景が違うはずだ。
私の闇は憎しみだった。
私と母に苦汁を味合わせた者どもに報いを。
己の毒牙を持って毒牙を砕き、死よりも惨たらしい絶望をくれてやるのだと―……
その為に私は進んだ。
足元に転がる死体に目を塞ぎ、漂う腐臭に鼻を摘み、怨嗟の叫びに耳を塞ぎながら。
だが、貴様はどうだ?
貴様は憎しみの感情すら欠落していたのではないか?
貴様が求めていたのは支配でも復讐でもなく、恐怖と歓喜だったのではないか?
焼け爛れた火のような生のためだけに生きていたのだろう。
私とは異なる闇の底―……深遠の更にその先で貴様は何を見た?
「……今更過ぎるか。」
暖かな陽光は消え去り、刺すような冷気が漂い、空は黄昏の斑に醜く染まる。
その先で二匹の蛇が絡まった旗が棚引いていた。
まあ、見ているがいいさ。
趣味の悪い貴様のことだ。
今もそこから見ているのだろう?
この国がいつ滅びるのか、と。
下卑た笑みを浮かべながら。
腐海よりも穢れた地獄という泥の中から。
私は私の“王道”を行く。
光でも闇でもない。黄昏の道を。
私がそちらに逝った時、貴様がどんな顔で私を出迎えてくれるか今から楽しみだ。
だから、その日まで、ごきげんよう。ナムリス。
Fin