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「ねえ、ポーキー兄ちゃん―…」
欲しくなんかない。
欲しいわけがあるはずない。
《Home》
赤や紫、白や黒の絵の具をごちゃごちゃと混ぜたような気味の悪い空が一日の終わりを告げている。
こんな気味も気色も悪くてセンスの欠けらすらない空を、“綺麗だ”なんて言う馬鹿が身近にいて、しかも残念なことにその馬鹿は、俺様の家のよりにもよって隣に住んでるっていうのだから腹が立つ。
さっさとあの猫の額よりも狭くってみすぼらしい小さな家なんか潰れっちまえばいいのに。
いくらそう願ったって一向に潰れる気配をみせないんだから、神様って奴は実に使えない奴だ。
この偉大なるポーキー・ミンチ様が言うんだから間違いはない。
…そう、俺様は偉大なんだ。特別なんだ。
ダディはお金持ちだから、欲しいといえば玩具だろうがお菓子だろうがなんでも買ってくれる。
その証拠に俺様が持っている玩具はどれも金ピカの一級品だ。
マミィは料理は一度もしてくれたことがないけど、いつも帰ると俺様の好物のとびっきりゴージャスでスペシャルな高級バーガーを山盛りで用意してくれている。
どれもこれも、あのクソ生意気でムカつく貧乏人の隣人は持っていないものだ。
ふふん…。やっぱり俺様は特別じゃないか。
改めて気付いてしまった自分の偉大さに俺様は一人喜びを噛み締めた。
二つ並んだ影が益々ひょろ長く伸びていく。
まるで針みたいにガリガリの二つの影…そのうちの一つがぴたりと止まった。
それは弟の、ピッキーの影。
…チッ。ピッキーの奴、家まであと少しだっていうのに何でこんなところで止まりやがって。だから、愚図は嫌いなんだ。
自分とは似ても似つかない弟。
正直なところ、苛ついて仕方がないが仮にも俺様の弟だ。
そして、俺様は世界一優しい兄貴。
馬鹿な弟に少し付き合ってやるくらいわけがないのだ。
それからどれくらい経ったのだろう?もう殆ど日が沈んだっていうのにピッキーは黙ったまま動こうとしなかった。
さっきまでのぐちゃぐちゃと色が混ざった気持ち悪い空は、今は殆ど黒一色に塗り潰されて、わずかに残った光がピッキーの持っている金ピカの砂遊び用バケツに反射して眩しく光る。
動かないピッキーの瞳に映っているのは、あのクソ生意気でムカつく隣人の家で、その家からは明るい蛍光灯の灯りがこれでもかと漏れていた。
「…ねえ、ポーキー兄ちゃん―…。」
「…何だ。」
「ママ達…今日も家にいないね。」
「…ダディとマミィは忙しいんだ。仕方ないだろ。」
今日も真っ暗な俺様達の家。
明るいあいつの家とは対照的かもしれないが、それはイコール、ダディとマミィは忙しいっていう事だ。
あいつの家のような貧乏人とは違うのだからこれは当然のことだ。
それを頭が最高にいい俺様はわきまえている。
「…ネスんちからおいしそうなカレーの匂いするね…。…ママ達いつ帰ってくるのかな…?」
「…俺たちはスペシャルでゴージャスなバーガーだ。さあ、くだらない事を言ってないでさっさと帰るぞ。」
「……うん。」
間を置いて返ってきたピッキーの声は何故か少し鼻声だった。
欲しくなんかない。
欲しいわけがあるはずない。
…なにもうらやましくなんかない。
なのに…なのに。
「…ただいま。」
誰もいない広くて真っ暗な家。
真っ暗なリビング。
殺風景なダイニングの真ん中のテーブルの上で山積みになっているたくさんの冷たいハンバーガー―…。
…つうっと一筋、冷たい水がほっぺを伝って落ちていった。
Fin