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「……それの何が問題?」
君はいつも当たり前のように言葉を口にする。
「たとえ、もし、傍にいないのなら……」
難しい事だろうが論理的に破綻してようが、君が言うと何だか酷く簡単な事のように思えて
「あたしなら、新しく作るかも、ね」
まるで、魔法のような君の言葉。
どこまでも自由な人間。
だから―……
《青い小鳥》
満点の銀の欠けらのような星屑たちが空の暗幕を覆い尽くす。そんな中、マナは一人、風情なんてどこ吹く風。隠さずに大きなあくび一つこぼしながら空を見上げていた。
何をしているのかと問えば、返ってきた答えは、「絵を描いている」……という、まるで明後日方向を向いた答え。
少し皮肉をこめて自分の答えを返せば、マナは笑いながら、「まあ、普通そう思うね。あたしもそう思うもん」……と、飄々とした軽い口調で告げた。
昼の光の下でまるで金糸のように煌めいていたマナの髪は、今はその輝きを潜めて……その代わりにまるで星の色をそのまま溶かしこんだような色に染まって夜風にたなびく。
あまり認めたくないが、その光景がどこか綺麗だと心の奥底で思っている自分が確かにいた。
「……ねえ、ミトス。ひまならさ。何か話してよ。何でもいいからさ」
「……は?」
毎回のことだが、この女―……マナの考えは読めなかった。現に今だって、展開についていけずに自分一人、取り残されている。
「どうせ、こんな時間まで起きてるって事は眠れなかったとかそんなとこでしょ?お互い暇してるんだしさ。暇つぶしってわけ。……そうだ!おとぎ話!あたし、この世界のお伽話が聞きたい!」
息もつかずにそこまで一気に言葉を話すと、マナは大きな栗色の瞳を輝かせた。その瞳に映っているのは他の誰でもない自分の姿で―……自分はマナの瞳が嫌いだった。
何故?……自分がやけに醜く感じるから。
綺麗な色をしているくせに、底がまるで見えないその瞳で何もかもが見透かされているのではないのかと……そう考えると怖かった。
だが、こうなったら話すまでこの女は引かないだろう。会ってからそう長い時間が経っているわけではないが、それぐらいは流石に自分でも分かっていた。さて……一体どうすればいいのだろうか?
「むかーし、むかし、あるところに―……」
「ずいぶん投げ遣りだな。おい」
明らかにやる気のない棒読みで物語を語りだした自分に、マナの非難の声が飛んできた事をここに追記しておく。
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貧しい家に育ったチルチルとミチルの兄妹は、幸福を招くという青い鳥を求めて色々な国に旅へでます。
しかし、結局、どこに行っても青い鳥を捕まえることは出来ず、二人はとうとう家へと帰ってきます。
そして、疲れ果てて眠り、夢から覚めると、なんと家で飼っていた薄汚れた鳩が青い鳥になっていたのです。
「……つまり、幸せは身近にあったよって事?」
ああ。やっぱりそう考えるのか。……つまらない回答。
だが、まだこの話には続きがある。全てを聞いた時、どう思う?どう考える―……?
やっと、見つけた青い鳥。だけど、二人が小鳥を手にした瞬間、小鳥は二人の手を離れて遠くへ去っていきました。……これでこの話はおしまい。
夜風だけが変わらずにマナと自分の間に僅かにわだかまって、そして一気に通り抜ける。話を聞き終えたマナは静かに口を紡ぎ、自分の視線の先を天上に輝く星々に移して、そして、真一文字に紡いでいた口をわずかに開いてそっと息を一つ吐いた。
幸せは身近にあると思ってた。たしかにその幸せは身近にあった。
だが、その幸せはすぐに手からこぼれ落ちて―……後に残ったのは、幸せの分だけ深く積もった絶望だけ。
初めから空っぽだったなら何も感じなかったのかもしれない。だが、自分は“幸せ”という感情を知ってしまっている。……いや、もしかしたら“幸せ”という感情を忘れかけているのかもしれないけれど―……
「……幸せは逃げていったと―……そう言いたいわけ?」
「……それ以外に何が?」
そう言葉を口にすれば、マナは半ば呆れたような表情を一瞬だけ浮かべて……だけど、その表情はすぐにいつもの、あの不適な笑みへと打ち消されていった。
そして、彼女は告げる。
「……それの何が問題?大体、できあいの幸せなんてもんははなからないのよ、きっと。幸せが簡単に手に入るのなら、誰も苦労しないって。ああ、勘違いしないでよ?別に青い鳥がいらないなんて思っちゃいないんだから。そうだな―……もし、いないのだとしたら……」
鈴のようなマナの声が、鼓膜を痛く揺する。
―……あたしなら探さないで自分で作るかも。百羽でも二百羽でも、ね……―
それはひどく傲慢な答えだった。だけど、やけに重量を持って心にのしかかってきて―……どこまでも自由なマナ。自分では考えられないような答えをいとも簡単に口にするマナ。
だからこそその自由が羨ましくて―…………憎らしい。
Fin