短編集
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「例えば……ほら、あの赤い星と青い星、それからあっちの白い星を繋げれば―……」
「……あっ!うさぎさんだねー」
「えー……アヒルのつもりだったんだけどなー……じゃあさ、じゃあさ!次はコレットの番!!」
「うん!えっと……」
そんなあなたが大好き。
そんなあなたが羨ましい。
《黒のキャンバス》
パチ……っと、赤い炭になった薪が短く音を奏でる。その音にはっとして、今までぼんやりと焦点を定めていなかった瞳に少しあわてて像を結べば、ロイドやジーニアス、それに先生が毛布に包まっている姿が瞳に映った。
そんな姿を見ていると、ほっぺたが自然に弛んできちゃって……弛んだほっぺたから、ふう……と一つ洩れた息は、夜の優しい暗闇の中へ溶けて広がっていった。
味覚がなくなって、眠れなくなって、感覚だってなくしちゃったけど……私の胸の中にある、今感じている暖かな気持ちは他の誰のものでもない私のもので―……天使様にだって渡したくない私の大切な宝物だった。
「……眠れないの?」
そんな風に考えてしまうのは、ロイド達やこのちょっと風変わりな友達に出会えたからなのかな?
マナ。
私達の世界いる世界とは違う世界から来たというマナは、神子という異質な立場にいる私から見ても更に異質な存在だった。
開けっ広げで、真っすぐで……でも、時々見せる横顔は、その外見からは想像できないくらい思慮深くて―……前に一度、私達に会う前に何をしていたの?と、尋ねてみたことがあるけれど、彼女は。
「いい事と悪い事を半々」
……そう言って、遠くを見つめていたっけ。
「コレット?」
「あっ、ごめんね。それよりマナは?マナは眠らないの?」
「うーん……、もうちょっとしてから、ね。ほら、紫タイツがどっか散歩しに行ってるみたいだから、さ。ったく、あの猥褻物、見張りさぼってどこほっつき歩いてるんだか」
“猥褻物”のところを強調する辺りがマナらしいって言えばいいのか……なんて思いながら、私とマナは他の皆を起こさないように毛布に顔を埋めてクスクスと笑った。
「そうだ……!ねえ、コレット!こうしてるのも暇だしさ、絵、描かない?」
不意に、今まで寝転んでいたマナが上体を起こして、パンッと一度手をたたいた。マナの輝くような大きな瞳には、焚き火の柔らかな光が映っていて……まるで星が光っているようにキラキラと煌めく。
「えっ?でも、ここには鉛筆も紙もないよ?」
パチッ……と、また小さく火の粉が踊る。そんな私の言葉を聞いたマナは、その質問を待っていましたというように、ニヤリと笑って。
「紙も鉛筆も必要なし!鉛筆は指。そして、キャンバスは―……」
これ!っと、差し出されたマナの指の先には、満点の星々が広がっていた。
「指と、星……?」
「そっ!ほら、星と星を繋いで絵を描くんだよ!」
「えっ?でも、星座って決まってるんだよ?ほら、だって、あの星とあの星を結んだものが獅子座だって前にそうロイドが―……」
教えてくれた。
そう続くはずだった私の言葉は、マナのシッ……という言葉と口に指を当てるジェスチャーによって途切れて。
「誰がさ、そんなこと決めたわけ?別にいいじゃない?好きにしたって。だって―……」
世界はイメージなんだから。
大体さ、今広まってる星座だって、大昔の誰かが勝手に作ったものがたまたま定着しちゃっただけじゃない?だったらさ、あたし達だって勝手に描いちゃってもいいと思わない?ずっと前からそうだったから?誰かが、皆がそう言うから?……はっ、上等。
それに、そんな窮屈なイメージの世界なんておもしろくもなんともないじゃない?
そう言い終えた彼女の横顔に、夜の少し湿った温い風が当たって……彼女の細い金糸のような髪が楽しそうにゆれる。
開けっ広げで不思議で風変わりで―……そして、誰よりも自由な人。そんなあなただから、私はあなたの事がロイド達と同じように好きで、でも、ちょっぴり羨ましくて―……あなたみたいに自由に……神子としてではなく、“コレットとして”自由に生きれたら―……
決して願ってはいけない未来にそっと蓋をして、私はマナと一緒に黒いキャンバスに筆を走らせた。
Fin