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もしも、あの時、僕がもっと強かったなら…―
もしも、あのお船がこなかったのなら…―
《なにもかも なにもかも》
ふう…と短く息をつき見上げたその先には一面の黒。
だけど、それは夜空なんかじゃなくて、鉄筋がむき出しの無機質なコンクリートの天井で…
「…まったくたいそうなご趣味な事で。」
そう誰に聞かせるわけでもなく、俺は一人、その人工的でどこまでも不気味な闇に向かって呟いた。
ここまで来るのに、どれだけ歩いてきたんだろう。
どれだけ迷ってきたんだろう。
特に、今は俺の隣で静かに…年相応の幼い寝顔を浮かべてまどろんでいるコイツは…
こんなに小さくて、まだまだ親の被護が必要なはずのコイツに、神様って奴はなんてエグい運命を押しつけやがったんだろう。
…もし、神様って奴がいるのだとしたら、俺はそいつを問答無用でぶっ飛ばしてると思う。
…というか、ぶっ飛ばす。
だけど、コイツは、どこまでもエグいそれを乗り越えてきた。
一歩一歩、確実に…
三年前のあの日、コイツ…リュカに初めて会った時には、リュカがここまで成長するなんて考えてもいなかったな。
どんな時でも、俺だったら潰れちまいそうな辛い目にあった時だって、リュカは進んできたんだ。
自分の足で…
「…お前は…強いな…」
そうポツリと呟きながら、リュカの柔らかな癖っ毛に手を通して一度軽く梳けば…
リュカは返事をするかわりに小さく身じろいで、その小さな体を更に小さく丸めた。
「…リュカ…お前は…怖くないのか?…本当言うとな、俺…この先に進むのが…」
―…怖いよ…―
ここを抜けたら、俺達はきっと戻ってこれない。
ドラゴンが目覚める…その時までは…絶対に。
理由なんて分からない。
でも…知ってるんだ。
分かるんだ…それだけは。
じゃあ、その時、俺は…?
ボニーは?お前は?
…ダスターは?
「…もう、嫌なんだ。…俺の前から誰かがいなくなっちまうのを…見るのは…」
―…悲しまないでね。クマトラちゃん。私、今が一番幸せなんだから…―
…そう言って消えていってしまった“母”のように、お前も……ダスターもいなくなってしまうのだろうか?
いつか…俺の前から…
俺を…置き去りにして…
いいや…違う…違う!違うッ!!
そんな事絶対にさせない!
そうさせないために俺はここまで来たんだ。ここにいるんだ。
お前やボニーの小さな背中も、…ちょっと悔しいが、いつも俺達を守るように前に立っていてくれたダスターの大きな背中だって…俺が…
「…守るから、さ。お前もボニーも…。
それにちょっと口臭があって、足が臭くて…おまけにちょっと貧乏臭いアイツも、な。」
そう言葉にして言えば、さっきまで感じていた冷たさなんてどこか遠くに飛んでいって…
どんな強力なPSIを覚えた時よりも、もっとあったかくて大きな何かが…生まれてきたような気がした。
―…怖いんだ…―
そうかすかに聞こえてきた声。
瞑っていたまぶたを薄く開けば、そこには強気で勝ち気なはずの…
…でも、今はただ必死に自分の体をぎゅっと抱えこんでかすかに震えている姫さまの姿。
彼女の口から漏れた言葉は空気をか細く震わせて、俺の鼓膜を大きく震わせる。
…ああ…タネヒネリで見た時と同じだ…
こっちの彼女も…彼女なんだ…
―…どうして俺だったのか…―
この旅の間、何回も思ってきた。
どうして俺が選ばれたのだろう、と。
俺にはお前達のように特別な力なんてやつはない。
俺は力に選ばれた人間じゃないのだから。
…なのに俺は、“選ばれた”。
力に選ばれなかったのに“選ばれてしまった”俺は、こうして、お前達と一緒に得体の知れない大きな力に無謀にも挑もうとしている。
ああ…ずっと考えてきたさ。
“どうして俺がここにいるんだろう”って、な。
力が選んだのはリュカやお前で…
…俺は選ばれなくて。
じゃあ、俺がいる意味は?存在理由は?ってな…
だけど、お前を見続けてきてはっきり分かったんだ。
“…ああ…守ってやりたい”って…
いっつも強気で男勝り、おまけに口が悪い。
でも、俺、知ったから。
実はお前が弱いって事も。
選ばれなかった俺。
選ばれたお前達。
だけど、選ばれなかった俺にも、お前達を守る権利ぐらいあるだろう?
―…守るから、さ。お前もボニーも…。
それにちょっと口臭があって、足が臭くて…おまけにちょっと貧乏臭いアイツも、な。…―
「…それはこっちの台詞だ…」
…あと、後半は余計だ。
…気付かれないように小さく愚痴った俺の口元は、きっと少し緩んでいたと思う。
夢を見てた。
窓際には少し日に焼けた白いレースのカーテン。
カーテンの先のお庭では、昨日僕が着ていた服が干されていて、風と一緒に踊ってる。
窓からこぼれる光が眩しくて目を擦れば、僕よりも早起きのクラウスが僕の寝癖を見て大きな声で笑って…
そうすると、おいしそうなオムレツの匂いが部屋いっぱいに漂ってきて、お母さんの「二人ともご飯よー」…という声。
お父さんの「おはよう」っていう声。
もう戻らない。もう戻れない…
ずっと…ずっと思ってた。
もしも、あのお船がこなかったらって。
そうしたら、僕はクラウスと今でも一緒で…
お母さんとも一緒で…
お父さんとも…ボニーとも一緒で…
―…でも、お船はきちゃって…
僕は、クラウスともお母さんともお父さんとも一緒じゃなくなった。
ひとりぼっちの部屋で、見よう見真似で作ったオムレツはぺちゃんこで、全然ふわふわじゃなくて…おいしくなかった。
ひとりぼっちのベットは、どんなに体を丸めても…どんなに毛布に包まっても暖かくならなくて…冷たいままだった。
…このままずっとひとりぼっちなんだな…って、そう思ってた。
だけど…だけどね…僕、気付いたんだ。分かったんだ。
僕の隣にはボニーもダスターもクマトラもいてくれたってこと。
…それにお母さんも…。
そう思ったらね、泣いてなんかいられないって。
もっと、強くならなくちゃって。
だから、うつむいて地面ばかり見ていた目を青空に向けることが出来たんだ。
…もし、この先、何が待っていたとしても…もう決めたんだ。
今度こそ…
「おっ?起きたか?しっかし、いつものことながらすごい寝癖だなーお前の頭!」
「まあ、これがリュカだろ?クマトラ。」
「ワンッ!!」
いつかの朝のように少し目を擦りながらまぶたを開けば、みんなの笑顔がそこにあって…
―…もしも、あの時、僕がもっと強かったなら…―
―…もしも、船がこなかったのなら…―
そんな“もしも”にはもうさよならしなきゃ!!
「うん!行こう!みんな!!」
今度こそ、なにもかも なにもかも 守るために。
Fin
もしも、あのお船がこなかったのなら…―
《なにもかも なにもかも》
ふう…と短く息をつき見上げたその先には一面の黒。
だけど、それは夜空なんかじゃなくて、鉄筋がむき出しの無機質なコンクリートの天井で…
「…まったくたいそうなご趣味な事で。」
そう誰に聞かせるわけでもなく、俺は一人、その人工的でどこまでも不気味な闇に向かって呟いた。
ここまで来るのに、どれだけ歩いてきたんだろう。
どれだけ迷ってきたんだろう。
特に、今は俺の隣で静かに…年相応の幼い寝顔を浮かべてまどろんでいるコイツは…
こんなに小さくて、まだまだ親の被護が必要なはずのコイツに、神様って奴はなんてエグい運命を押しつけやがったんだろう。
…もし、神様って奴がいるのだとしたら、俺はそいつを問答無用でぶっ飛ばしてると思う。
…というか、ぶっ飛ばす。
だけど、コイツは、どこまでもエグいそれを乗り越えてきた。
一歩一歩、確実に…
三年前のあの日、コイツ…リュカに初めて会った時には、リュカがここまで成長するなんて考えてもいなかったな。
どんな時でも、俺だったら潰れちまいそうな辛い目にあった時だって、リュカは進んできたんだ。
自分の足で…
「…お前は…強いな…」
そうポツリと呟きながら、リュカの柔らかな癖っ毛に手を通して一度軽く梳けば…
リュカは返事をするかわりに小さく身じろいで、その小さな体を更に小さく丸めた。
「…リュカ…お前は…怖くないのか?…本当言うとな、俺…この先に進むのが…」
―…怖いよ…―
ここを抜けたら、俺達はきっと戻ってこれない。
ドラゴンが目覚める…その時までは…絶対に。
理由なんて分からない。
でも…知ってるんだ。
分かるんだ…それだけは。
じゃあ、その時、俺は…?
ボニーは?お前は?
…ダスターは?
「…もう、嫌なんだ。…俺の前から誰かがいなくなっちまうのを…見るのは…」
―…悲しまないでね。クマトラちゃん。私、今が一番幸せなんだから…―
…そう言って消えていってしまった“母”のように、お前も……ダスターもいなくなってしまうのだろうか?
いつか…俺の前から…
俺を…置き去りにして…
いいや…違う…違う!違うッ!!
そんな事絶対にさせない!
そうさせないために俺はここまで来たんだ。ここにいるんだ。
お前やボニーの小さな背中も、…ちょっと悔しいが、いつも俺達を守るように前に立っていてくれたダスターの大きな背中だって…俺が…
「…守るから、さ。お前もボニーも…。
それにちょっと口臭があって、足が臭くて…おまけにちょっと貧乏臭いアイツも、な。」
そう言葉にして言えば、さっきまで感じていた冷たさなんてどこか遠くに飛んでいって…
どんな強力なPSIを覚えた時よりも、もっとあったかくて大きな何かが…生まれてきたような気がした。
―…怖いんだ…―
そうかすかに聞こえてきた声。
瞑っていたまぶたを薄く開けば、そこには強気で勝ち気なはずの…
…でも、今はただ必死に自分の体をぎゅっと抱えこんでかすかに震えている姫さまの姿。
彼女の口から漏れた言葉は空気をか細く震わせて、俺の鼓膜を大きく震わせる。
…ああ…タネヒネリで見た時と同じだ…
こっちの彼女も…彼女なんだ…
―…どうして俺だったのか…―
この旅の間、何回も思ってきた。
どうして俺が選ばれたのだろう、と。
俺にはお前達のように特別な力なんてやつはない。
俺は力に選ばれた人間じゃないのだから。
…なのに俺は、“選ばれた”。
力に選ばれなかったのに“選ばれてしまった”俺は、こうして、お前達と一緒に得体の知れない大きな力に無謀にも挑もうとしている。
ああ…ずっと考えてきたさ。
“どうして俺がここにいるんだろう”って、な。
力が選んだのはリュカやお前で…
…俺は選ばれなくて。
じゃあ、俺がいる意味は?存在理由は?ってな…
だけど、お前を見続けてきてはっきり分かったんだ。
“…ああ…守ってやりたい”って…
いっつも強気で男勝り、おまけに口が悪い。
でも、俺、知ったから。
実はお前が弱いって事も。
選ばれなかった俺。
選ばれたお前達。
だけど、選ばれなかった俺にも、お前達を守る権利ぐらいあるだろう?
―…守るから、さ。お前もボニーも…。
それにちょっと口臭があって、足が臭くて…おまけにちょっと貧乏臭いアイツも、な。…―
「…それはこっちの台詞だ…」
…あと、後半は余計だ。
…気付かれないように小さく愚痴った俺の口元は、きっと少し緩んでいたと思う。
夢を見てた。
窓際には少し日に焼けた白いレースのカーテン。
カーテンの先のお庭では、昨日僕が着ていた服が干されていて、風と一緒に踊ってる。
窓からこぼれる光が眩しくて目を擦れば、僕よりも早起きのクラウスが僕の寝癖を見て大きな声で笑って…
そうすると、おいしそうなオムレツの匂いが部屋いっぱいに漂ってきて、お母さんの「二人ともご飯よー」…という声。
お父さんの「おはよう」っていう声。
もう戻らない。もう戻れない…
ずっと…ずっと思ってた。
もしも、あのお船がこなかったらって。
そうしたら、僕はクラウスと今でも一緒で…
お母さんとも一緒で…
お父さんとも…ボニーとも一緒で…
―…でも、お船はきちゃって…
僕は、クラウスともお母さんともお父さんとも一緒じゃなくなった。
ひとりぼっちの部屋で、見よう見真似で作ったオムレツはぺちゃんこで、全然ふわふわじゃなくて…おいしくなかった。
ひとりぼっちのベットは、どんなに体を丸めても…どんなに毛布に包まっても暖かくならなくて…冷たいままだった。
…このままずっとひとりぼっちなんだな…って、そう思ってた。
だけど…だけどね…僕、気付いたんだ。分かったんだ。
僕の隣にはボニーもダスターもクマトラもいてくれたってこと。
…それにお母さんも…。
そう思ったらね、泣いてなんかいられないって。
もっと、強くならなくちゃって。
だから、うつむいて地面ばかり見ていた目を青空に向けることが出来たんだ。
…もし、この先、何が待っていたとしても…もう決めたんだ。
今度こそ…
「おっ?起きたか?しっかし、いつものことながらすごい寝癖だなーお前の頭!」
「まあ、これがリュカだろ?クマトラ。」
「ワンッ!!」
いつかの朝のように少し目を擦りながらまぶたを開けば、みんなの笑顔がそこにあって…
―…もしも、あの時、僕がもっと強かったなら…―
―…もしも、船がこなかったのなら…―
そんな“もしも”にはもうさよならしなきゃ!!
「うん!行こう!みんな!!」
今度こそ、なにもかも なにもかも 守るために。
Fin