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ああ…華が咲く…華が舞う…
桜花のようにヒラヒラと…
ただ、あの頃と違うのは…空に舞う花弁の色。
空も風も時間ですら淀んでいるこの世界。
…淀んでしまったのは世界だけ?
《華》
「零か……何故このような場所にいる。
何故、私の隣にこない。」
オルロワージュ。
魅惑の君…無慈悲なる君…この世界に住む全ての吸血妖魔の王…
わらわが最も愛し…そして、最も憎むもの…
「なあ?オルロワージュ。桜を知っているか?」
背を向けたまま静かに尋ねる。
むせ返るような青薔薇の匂いが着ている衣に…体に染み付く…
青薔薇の香りはオルロワージュの香り。
とうの昔からわらわの一番近くにあった香り。
「桜?興味がない。」
「…そうだろうな。」
わらわは瞳を閉じる。
この男は、自分が興味を持ったもの以外は全て無関心だ。
それがたとえ、他者にとってどれほど大切だろうが、どれほど守りたいものであろうが…
この男は簡単に踏み躙り、潰していくだろう…
まるで、地面を這う蟻を踏み付けるように…
“妖魔の王の第一の寵妃”
それは全ての妖魔にとって敬うべき存在であり、同時に畏怖をする対象でもある。
他の99人の寵妃からすれば、わらわの地位は羨ましい…というものなのだろうか?
だが、わらわは……
「わらわは桜が好きじゃ。お前の薔薇よりも…ずっと…ずっと、な。」
ああ…一体いつ頃からだろう…
口付けをするたびに…この男の腕に抱かれるたびに…
苦しさと痛みを感じるようになったのは…。
「……。」
お前は知らぬだろう?
夜明けを待つ事がどれほどつらいか。
…待つことがどれほど苦しいかを。
「覚えているか?あの時も桜が咲いていたことを。」
「知らん。」
…フッ、と思わず顔に出るのは自重の笑み。
ああ…そうだろう。わらわとて、お前が覚えているとは思っていない。
凛と誇らしげに咲いて、はかなく散ってしまう桜の花。
人はその一瞬の美に目を奪われ、そして花を愛でる。
この花がこんなにも愛されるのは、単に美しいからだろうか?
…それは違う。
この花自身が、懸命に人々を愛そうとしているからだ。短い命でも精一杯に…
人は花の愛に答えてるだけ…
はかないようで、強い…
そんな姿に惹かれるのではないだろうか?
「オルロワージュ?お前はわらわを愛しているか?」
「何を急に…」
わらわは振り返り、奴の目をじっと見据える。
「違うな。お前は愛しているわけではない。
自分を愛してくれる者を欲しているだけ。無償の愛を求めているだけ…
それを与える者ならば…誰でもいいのじゃ。」
そう…それはまるで、幼子のように…
「オルロワージュ!わらわの憎しみを愛と間違え、未来永劫、わらわの影に縛られるがいい!!」
そう高らかに宣言をし、左胸に短刀を突き刺す。深く…深く。
ああ…華が咲く…華が舞う…
あの頃と同じように。出会った日の桜吹雪のように…
ただ咲くのは、美しい桃色の花弁でも、暖かく鮮やかな赤い血の花でもない。
冷たく暗い青い血の花。
お前がわらわに初めて与えたもの。
お前のものだという所有の印。
わらわは断ち切るぞ、我が夫よ。
お前の呪縛を…お前の影を…
そして、苦しむがいい。これがお前に対する、わらわ最初のわがままじゃ。
fin
桜花のようにヒラヒラと…
ただ、あの頃と違うのは…空に舞う花弁の色。
空も風も時間ですら淀んでいるこの世界。
…淀んでしまったのは世界だけ?
《華》
「零か……何故このような場所にいる。
何故、私の隣にこない。」
オルロワージュ。
魅惑の君…無慈悲なる君…この世界に住む全ての吸血妖魔の王…
わらわが最も愛し…そして、最も憎むもの…
「なあ?オルロワージュ。桜を知っているか?」
背を向けたまま静かに尋ねる。
むせ返るような青薔薇の匂いが着ている衣に…体に染み付く…
青薔薇の香りはオルロワージュの香り。
とうの昔からわらわの一番近くにあった香り。
「桜?興味がない。」
「…そうだろうな。」
わらわは瞳を閉じる。
この男は、自分が興味を持ったもの以外は全て無関心だ。
それがたとえ、他者にとってどれほど大切だろうが、どれほど守りたいものであろうが…
この男は簡単に踏み躙り、潰していくだろう…
まるで、地面を這う蟻を踏み付けるように…
“妖魔の王の第一の寵妃”
それは全ての妖魔にとって敬うべき存在であり、同時に畏怖をする対象でもある。
他の99人の寵妃からすれば、わらわの地位は羨ましい…というものなのだろうか?
だが、わらわは……
「わらわは桜が好きじゃ。お前の薔薇よりも…ずっと…ずっと、な。」
ああ…一体いつ頃からだろう…
口付けをするたびに…この男の腕に抱かれるたびに…
苦しさと痛みを感じるようになったのは…。
「……。」
お前は知らぬだろう?
夜明けを待つ事がどれほどつらいか。
…待つことがどれほど苦しいかを。
「覚えているか?あの時も桜が咲いていたことを。」
「知らん。」
…フッ、と思わず顔に出るのは自重の笑み。
ああ…そうだろう。わらわとて、お前が覚えているとは思っていない。
凛と誇らしげに咲いて、はかなく散ってしまう桜の花。
人はその一瞬の美に目を奪われ、そして花を愛でる。
この花がこんなにも愛されるのは、単に美しいからだろうか?
…それは違う。
この花自身が、懸命に人々を愛そうとしているからだ。短い命でも精一杯に…
人は花の愛に答えてるだけ…
はかないようで、強い…
そんな姿に惹かれるのではないだろうか?
「オルロワージュ?お前はわらわを愛しているか?」
「何を急に…」
わらわは振り返り、奴の目をじっと見据える。
「違うな。お前は愛しているわけではない。
自分を愛してくれる者を欲しているだけ。無償の愛を求めているだけ…
それを与える者ならば…誰でもいいのじゃ。」
そう…それはまるで、幼子のように…
「オルロワージュ!わらわの憎しみを愛と間違え、未来永劫、わらわの影に縛られるがいい!!」
そう高らかに宣言をし、左胸に短刀を突き刺す。深く…深く。
ああ…華が咲く…華が舞う…
あの頃と同じように。出会った日の桜吹雪のように…
ただ咲くのは、美しい桃色の花弁でも、暖かく鮮やかな赤い血の花でもない。
冷たく暗い青い血の花。
お前がわらわに初めて与えたもの。
お前のものだという所有の印。
わらわは断ち切るぞ、我が夫よ。
お前の呪縛を…お前の影を…
そして、苦しむがいい。これがお前に対する、わらわ最初のわがままじゃ。
fin
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