シルヴァラント編(TOS)
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「なあ、どうしてこんな所にいたんだ?」
「……怖いから、かな」
「はぁ?」
「なーんてね。……ほらこういう事とか言っておけば儚げに見えるでしょ?ほら、見えるっしょ?」
「意味わかんねーよ……」
「あっははは!じゃあ、帰ろっか!」
実は何かをしてないと怖いんだ、あたし。どんなに月が綺麗でも。どんなに星が柔らかく瞬いていたって。あたしが今までにしたことが消えるわけではない。そう、あたしは……夜が怖い。
《Tales of Mana》
「もう、クタクタだよ……休みたい」
「あたしもジーニアスの意見に一票。もう砂まみれで気持ち悪いし、髪はギチギチするし……」
場所は再びトリエット。追っ手を警戒しながら砂漠を急いで突っ切ってきたもんだから、もう休みたいと思うのが人の性ってものでしょ。今日は朝から走り過ぎである。
「そうだな。話の続きは宿に着いてからにしようぜ」
「ロイドーわかってるじゃん!では、宿屋へGOー!!」
やっほーい!やっと休める!休めると思うと自然に足取りは軽やかになる。スキップでもしてやろうかな~!
「……はあ。さっきまで、疲れたと騒いでた人間は誰だ?」
「うるさい、タイツ。蒸れてるからって人に八つ当りすんな」
タイツの方から一瞬感じた殺気は華麗に受け流すことにした。ってか絶対その服砂漠じゃ蒸れるでしょ。
「あいつがタイツだろうがなんだろうがいいけどよ。マナ、お前、俺の家に荷物忘れてったろ?ほら、これ。」
「ん?荷物?」
あたしは首を傾げつつ、ロイドが投げた袋を受け取る。おっかしいなー……装備以外の道具は、某腹黒女にぶっ飛ばされた時、全部どこかにいったはずなんだけど?
「どれどれ……げっ」
「どうしたんだ……急に固まったりして……」
とりあえず、自分の目を疑った。嘘だ、そう嘘よ。そして静かに袋の紐を締める。
「……ロイド」
「なんだ?」
「いらない」
「はぁ?」
「だから、いらない」
「会話になってねーし……。どれどれ……うわっ!!」
ああ……言わんこっちゃない。あたしは思わず眉間に手を当てた。
「なんだ!?このウサギみたいなやつ!?って、顔に張りついた!?」
「……ラビ。あたしの…一応、知り合い。あたしがいた世界のモンスターだよ」
そう言いながら、袋から飛び出てロイドの顔にへばりついているラビを剥がす。なんでこっちに来てまで、こいつと顔を合わせにゃーいかんのか。
「うわーっ……かわいい!!」
コレットが目を光らせながらラビを見る。……可愛いかこの顔。ってか、可愛い云々以前に
「気を付けてね。あたしが言うのもなんだけどこいつ、ありえないぐらいに性格悪いから」
「キィーッ!」
ラビはあたしに捕まれた状況にも関わらずコレットを威嚇している。こいつは世界は自分を中心に回ってる。つまりラビは糞わがままで色々面倒な性格なのだ。
「だいじょぶ、怖くないよ~……怖くないって言ってんだろ。うん、怯えているだけなんだね、よしよし。マナ抱っこしてもいいかな?」
「ど……どうぞ……」
神子様、あなたは最凶です。そんな最凶神子様にあたしが逆らうはずなどなく、あっさりとラビを手渡した。ラビはコレットの腕の中でおとなしくしている。なんか、カタカタと震えていたり、この世の全てを憎むような冷たい目をこっちに向けている気がしたが気にしないことにした。
「……宿に行くのではなかったのか?」
「はぁ……全くあなたたちは……」
こうしてあたしたちはコレットがラビを解放した後ようやっと、いまだガタガタ震えるラビと共に宿に向かうこととなったのであった。
++++++++++++++++++++
「……つまり、このエクスフィアは私達の潜在能力を引き出すものなのね。私も……使えるだろうか……」
ちょっと道草をしたけど……無事に宿に着いたあたし達は、エクスフィアについての説明をタイツとロイドから受けています。
ロイドやタイツが言うにはエクスフィアというのは装備者の身体能力や魔力……つまり存在能力を高めてくれる装備品で、早い話、装備したら身体能力が強化されて強くなるわけね。
……余談だけど、コレットはすっかりラビを気に入ったらしく、先程からずっと膝の上に抱えています。頑張れラビ。
さて話を戻そう。タイツ曰く、エクスフィアは便利アイテムなんだけれど、“要の紋”っていうエクスフィアを制御する土台がないと人体に有害なものにしかならないらしく、要の紋がついてないものは危なくて使い物にならないらしい。
でっ、その要の紋っていうのは特殊な鉱石に特殊な紋章を刻んだもので、その加工はドワーフにしかできないもの……だということだ。
ロイドも紋章は彫れるらしいのだけど、その鉱石の加工となると話が別になるらしくできないとのことだった。
「じゃあ、それ使えないじゃん」
「ねえ、抑制鉱石というのはこの中にないかしら?」
と言うや否や、リフィルがどこぞから大きな麻袋を引きずってきた。麻袋の中から次々と飛び出てくるのは、これまた妙なものばっかり。
「姉さん!これ家から持ってきたの!?」
「当たり前です。貴重な研究品ですからね」
さも当然と言わんばかりにリフィルは答える。……だから、リフィルの荷物だけあんなにでかかったのか。でも、何というか
「ガラクタばかりじゃないか」
「ガラクタばっかじゃん」
綺麗にハモるあたしとロイドの声。奇遇だね、ロイド。
「何ですって……!?」
あたし達の言葉を聞いた途端に般若のような顔でこちらを振り向くリフィル。まずい、これはまずい。あたしの本能がそう告げている。
「……って、ロイドなら言いそうだよなあって」
「あっ!!ずりい!!逃げるな!マナ!!」
「ロイドくん、超ガンバ!」
そう言って親指を上に向ける。リフィルはターゲットをロイドに定めたらしく、このツボがいかに素晴らしいか、この宝剣の学術的価値は~……と、周りそっちのけで説教を始めた。
ロイドくん。君の尊い犠牲は忘れないよ。あたしはこっそり指先で目を拭った。別に泣いてないけど。雰囲気出しというやつだ。
「ん?これは……」
「ああ、それは人間牧場の前で拾ったのよ。天使言語が彫られていたから、持ち帰ったの」
タイツが目敏くもリフィルの持ち物に反応をした。それはタイツの手の中で淡く光ってるみたいだけど……あれ?
「これって、ジーニアスが付けてるのと似てない?」
「そうだよ、先生!これ要の紋だよ!」
「しかし、紋章が擦り切れている。このままでは使えないぞ」
たしかにタイツの言う通り、要の紋に彫られている模様みたいなものは不自然に削れている。タイツから要の紋を受け取ったロイドは手の上でじっとそれを見つめた。
「……これくらいなら俺が直せるよ。大丈夫、明日には先生もエクスフィアを装備できるよ」
「本当!?ありがとう、ロイド!じゃあ、悪いけどお願いするわね」
語尾にハートマークが付きかねない口調でロイドにお礼を言うリフィル。相当嬉しいんだろうなー……前々から思っていたけれどリフィルって本当に学者肌だよね。
「んじゃ、この話はここまでって事で!あたしはコレットと一緒の部屋だよね?行こっか、コレット」
「うん!あれ、ラビちゃん?」
コレットが立ち上がる際の隙を奴は見逃さなかったらしく、物凄い勢いで跳躍し、今はあたしの頭の上にちょこんと乗っている。あたしは初めてこいつが可愛く思えた。
++++++++++++++++++++
「……ねえ、マナ?」
「なーに?」
個室に戻ったあたし達はベットに腰掛けたわいのない会話を楽しんでいる。本当は、お風呂に入って綺麗さっぱりになってからゆっくりと……っていきたいところなんだけど……砂漠では水が貴重なため、今日は濡れたタオルで体を拭いただけになった。まあ、それでも少しはさっぱりしたんだけど、ね。
「マナのペンダントってとっても綺麗だよね~……琥珀かな?」
「ああ、これね」
あたしは、ペンダントを部屋の照明に透かしてみせた。照明の光を浴びたペンダントは鈍い黄色い光を放っている。
「不思議な模様だね。……これは、木?」
「んー……あたしにもよくわからないんだ。……でも、とても大切な……そう、宝物みたいなもの」
「そうなんだ。うん、マナにぴったりだね」
コレットちゃん?なんて素敵な笑顔をしているのですか?ってこんなに見られると
「照れるってば。……ほら、コレットももう寝な。明日もうんと歩かなきゃいけないんだし、ね?」
「そうだね。あれマナは?」
「んー……ちょっと散歩してくるよ。目が冴えちゃって寝れそうにないし。少し体を動かしたほうが早く寝れるかな?って。大丈夫、すぐ戻るから。ほら、ラビ置いてくから、ね?」
そう言って頭の上に乗っていたラビを引っぺがしコレットに渡す。「裏切り者ォオオオ!!」と、奴が恨みがましくこっちを見ようが知ったこっちゃない。いつもの性格の悪さで乗り切れ、ラビ。
ラビをコレットに渡し、静かに部屋を出る。部屋を出た途端、隣の部屋から「くっくっくっ!!」だの「くはははは……!」という不気味な笑い声と、「姉さん、静かにしてよ……」という悲痛な悲鳴が聞こえてきたがそれはスルーすることにした。……あの部屋って、リフィルとジーニアスの部屋だよね……
++++++++++++++++++++
「ふう~……今日は満月かー……」
あてもなくブラブラ歩いて辿り着いたのはトリエットの端っこの水辺付近だった。青い湖面に月が反射し揺らめいている。
一瞬、水に足を浸したい衝動にかられたけど、ここの水はこの街の生活用水だろうな、と考え思い留まった。あたしってばえらい!
しゃがんで水面に映る月を見る。その月はゆらゆらとさざ波に揺れて、不安定に形が変わって……見ていると不思議な気持ちになってくる。酷く頼りない姿だ。
「今のあたしと……似てるのかもね」
なんて柄にもないことを考えてしまう。……―だって、あたしは
「あーっ!もう止めやめ!!第一、こんな湿ったれキャラじゃないし!」
と、今浮かんだ考えを振り払うようにぷるぷると頭を横に振る。ええい、こんな時は!!
「……誰もいない、よね?」
念入りに周囲を見渡す。見られでもしたら恥ずかしいし、特にタイツとロイド。あの二人に見られた日にゃあ、キャラじゃないと笑われるだろう。
「……誰もいない、ね。よし……ここなら、住宅地も離れてるし大丈夫かな?」
あたしはゆっくりと立ち上がると、ゆっくりと足先で弧を描き、指先で空を掴んだ。くるりくるりとその場で回り、舞う。―……あの歌を口ずさみながら。
++++++++++++++++++++
sideクラトス
「なあ、クラトス、マナを見なかったか?あいつ散歩とかいって部屋を出ていったきり戻ってこないらしいんだ。コレットが心配しててよ。あんた、何かしらないか?」
「いや……私は見ていないが……」
私が外でノイシュを見ていると、宿からロイドがやってきてこう尋ねてきた。背後に立ったロイドを初めは敵かと思い危うく斬り付けるところだった。が、なんとか寸前で剣を止めることができたのは不幸中の幸いだろうか?
しかし、敵と味方の気配の違いに気付かないとは……どうやら、私もまだ未熟のようだ……でも、マナ?
「ったく、夜だってのに女の子一人で歩いてたら危ないだろうに……まぁ、あのマナだから大丈夫だとは思いんだけどな。……クラトス、あんたも探すのを手伝ってくれないか?一人より二人の方が二倍っぽいし」
なんだ、その理論は……まさか、二刀流なのもそんな理由ではないだろうな?……少々不安にもなったが了承することにした。たしかに夜の女の一人歩きは何かと問題があるだろう。まあ、マナ相手に何かをすれば返り討ちにあうだろうが……それに砂漠の夜は酷く冷える。そう考え近くにあったマントを手に持ち、ロイドとともに彼女を探しに行くことになった。
「うーん……そっちにもいなかったか。はぁ……どこに行ったんだよ……」
ロイドと手分けをして市場や広場を探したがそこで彼女の姿を見つけることは出来なかった。あと、探していないところは
「オアシスの方ではないのか?」
「そうだな。そっちも見ておくか。まったく……こっちの苦労を考えてくれっての……」
ロイドが深々と息をつく。まあ、ロイドの気持ちがわからんわけではないが。オアシスへと足を進める私達を満ちた月が淡く照らしていた。
「なあ……何か聞こえないか?……これ、歌か?」
「そのようだな」
その時だった。オアシスの方角から声が、歌が聞こえてきた。その声は近付くほど輪郭がはっきりとし徐々に大きくなっていく。だが、聞いていて不快になるものではなく、むしろー……
「すごく綺麗な声だな……」
「……ああ」
―…DEN RORDE DJUPT I MITT HJARTA
EN UNG STYRA
TALADE OM LIVETS SANG…―
(出典:Song of mana )
オアシスの水辺に彼女はいた。緩やかに舞って、私の知らない言語の歌を口ずさみながら。
「……あれ、本当にマナなのか?」
横にいるロイドが驚いたように目を見開き一言呟く。確かに……今の彼女は昼間のふざけた様子とは異なり不思議な魅力を放っていた。指先で風を切り、キラキラと月の光を受けてなびく髪は……にわかに信じがたい光景だが……美しい光景だった。
++++++++++++++++++++
体が温まり気分が乗ってきたその時だった。不審な物音に気が付いたのは。あたしは慌てて踊りと歌を止めた。不審者かモンスターか……どっちにしろ人が乗り始めた時に水を差してくるなんて……許すまじ!
「そこで、コソコソしてるの誰!?ちゃっちゃと出とこないとぶっ刺すよ?」
あたしは、槍を手に持って構える。なんで、槍があるかって?乙女のたしなみでしょ?護身的な意味で。流石に夜に武器も持たずに一人でふらつくほど平和ボケはしていない。
「うわっ!!待てって!俺たちだよ、俺たち。お前が帰ってこないから、探しに来たんだって」
物影からロイドが両手を上げて飛び出した。って、もしかして……もしかしなくても……
「…見た?というか聞いてた?」
「ああ、ばっちり!綺麗だったぜ、なあ、クラトス。」
ロイドはにかっと笑いながら話す。そして、ロイドの横から出てきたのは……どう見ても立派な紫タイツです。本当にあり―……
「ぎゃぁああああああ!!!忘れてぇええええ!!!」
あたしの悲痛な声はむなしくも砂漠の砂に埋もれていくのでした。かんっっぜんに見られた!かんっっっぜんに油断してた!!完全にあたし痛い人じゃん!!
「なあ、どうしてこんなところにいたんだ?」
あの後、記憶ぶっ飛ばねーかな?っと二人の襟首掴んでガクガク振ってみたけどどうやら効果はなかったらしく……ロイドは改めてあたしが何故ここにいたのか尋ねる。
なんで……なんでかって……それは……
「…怖いから」
「はぁ?」
「なーんてね。……ほらこういう事とか言っておけば儚げに見えるでしょ?ほら、見えるっしょ?」
こう答えると意味わかんねーよ。っとばかりにロイドが素っ頓狂な声をあげた。そりゃ、そうである。あたしの回答は答えになっていない。
「意味わかんねーよ……」
ガクッと首を下に下げるロイドくん。うん、いいリアクションだね、君!
「あっははは!じゃあ、帰ろっか!」
あたし達は宿に向かって歩きだした。さぁーて、明日も忙しくなりそうだ。
「……怖いから、かな」
「はぁ?」
「なーんてね。……ほらこういう事とか言っておけば儚げに見えるでしょ?ほら、見えるっしょ?」
「意味わかんねーよ……」
「あっははは!じゃあ、帰ろっか!」
実は何かをしてないと怖いんだ、あたし。どんなに月が綺麗でも。どんなに星が柔らかく瞬いていたって。あたしが今までにしたことが消えるわけではない。そう、あたしは……夜が怖い。
《Tales of Mana》
「もう、クタクタだよ……休みたい」
「あたしもジーニアスの意見に一票。もう砂まみれで気持ち悪いし、髪はギチギチするし……」
場所は再びトリエット。追っ手を警戒しながら砂漠を急いで突っ切ってきたもんだから、もう休みたいと思うのが人の性ってものでしょ。今日は朝から走り過ぎである。
「そうだな。話の続きは宿に着いてからにしようぜ」
「ロイドーわかってるじゃん!では、宿屋へGOー!!」
やっほーい!やっと休める!休めると思うと自然に足取りは軽やかになる。スキップでもしてやろうかな~!
「……はあ。さっきまで、疲れたと騒いでた人間は誰だ?」
「うるさい、タイツ。蒸れてるからって人に八つ当りすんな」
タイツの方から一瞬感じた殺気は華麗に受け流すことにした。ってか絶対その服砂漠じゃ蒸れるでしょ。
「あいつがタイツだろうがなんだろうがいいけどよ。マナ、お前、俺の家に荷物忘れてったろ?ほら、これ。」
「ん?荷物?」
あたしは首を傾げつつ、ロイドが投げた袋を受け取る。おっかしいなー……装備以外の道具は、某腹黒女にぶっ飛ばされた時、全部どこかにいったはずなんだけど?
「どれどれ……げっ」
「どうしたんだ……急に固まったりして……」
とりあえず、自分の目を疑った。嘘だ、そう嘘よ。そして静かに袋の紐を締める。
「……ロイド」
「なんだ?」
「いらない」
「はぁ?」
「だから、いらない」
「会話になってねーし……。どれどれ……うわっ!!」
ああ……言わんこっちゃない。あたしは思わず眉間に手を当てた。
「なんだ!?このウサギみたいなやつ!?って、顔に張りついた!?」
「……ラビ。あたしの…一応、知り合い。あたしがいた世界のモンスターだよ」
そう言いながら、袋から飛び出てロイドの顔にへばりついているラビを剥がす。なんでこっちに来てまで、こいつと顔を合わせにゃーいかんのか。
「うわーっ……かわいい!!」
コレットが目を光らせながらラビを見る。……可愛いかこの顔。ってか、可愛い云々以前に
「気を付けてね。あたしが言うのもなんだけどこいつ、ありえないぐらいに性格悪いから」
「キィーッ!」
ラビはあたしに捕まれた状況にも関わらずコレットを威嚇している。こいつは世界は自分を中心に回ってる。つまりラビは糞わがままで色々面倒な性格なのだ。
「だいじょぶ、怖くないよ~……怖くないって言ってんだろ。うん、怯えているだけなんだね、よしよし。マナ抱っこしてもいいかな?」
「ど……どうぞ……」
神子様、あなたは最凶です。そんな最凶神子様にあたしが逆らうはずなどなく、あっさりとラビを手渡した。ラビはコレットの腕の中でおとなしくしている。なんか、カタカタと震えていたり、この世の全てを憎むような冷たい目をこっちに向けている気がしたが気にしないことにした。
「……宿に行くのではなかったのか?」
「はぁ……全くあなたたちは……」
こうしてあたしたちはコレットがラビを解放した後ようやっと、いまだガタガタ震えるラビと共に宿に向かうこととなったのであった。
++++++++++++++++++++
「……つまり、このエクスフィアは私達の潜在能力を引き出すものなのね。私も……使えるだろうか……」
ちょっと道草をしたけど……無事に宿に着いたあたし達は、エクスフィアについての説明をタイツとロイドから受けています。
ロイドやタイツが言うにはエクスフィアというのは装備者の身体能力や魔力……つまり存在能力を高めてくれる装備品で、早い話、装備したら身体能力が強化されて強くなるわけね。
……余談だけど、コレットはすっかりラビを気に入ったらしく、先程からずっと膝の上に抱えています。頑張れラビ。
さて話を戻そう。タイツ曰く、エクスフィアは便利アイテムなんだけれど、“要の紋”っていうエクスフィアを制御する土台がないと人体に有害なものにしかならないらしく、要の紋がついてないものは危なくて使い物にならないらしい。
でっ、その要の紋っていうのは特殊な鉱石に特殊な紋章を刻んだもので、その加工はドワーフにしかできないもの……だということだ。
ロイドも紋章は彫れるらしいのだけど、その鉱石の加工となると話が別になるらしくできないとのことだった。
「じゃあ、それ使えないじゃん」
「ねえ、抑制鉱石というのはこの中にないかしら?」
と言うや否や、リフィルがどこぞから大きな麻袋を引きずってきた。麻袋の中から次々と飛び出てくるのは、これまた妙なものばっかり。
「姉さん!これ家から持ってきたの!?」
「当たり前です。貴重な研究品ですからね」
さも当然と言わんばかりにリフィルは答える。……だから、リフィルの荷物だけあんなにでかかったのか。でも、何というか
「ガラクタばかりじゃないか」
「ガラクタばっかじゃん」
綺麗にハモるあたしとロイドの声。奇遇だね、ロイド。
「何ですって……!?」
あたし達の言葉を聞いた途端に般若のような顔でこちらを振り向くリフィル。まずい、これはまずい。あたしの本能がそう告げている。
「……って、ロイドなら言いそうだよなあって」
「あっ!!ずりい!!逃げるな!マナ!!」
「ロイドくん、超ガンバ!」
そう言って親指を上に向ける。リフィルはターゲットをロイドに定めたらしく、このツボがいかに素晴らしいか、この宝剣の学術的価値は~……と、周りそっちのけで説教を始めた。
ロイドくん。君の尊い犠牲は忘れないよ。あたしはこっそり指先で目を拭った。別に泣いてないけど。雰囲気出しというやつだ。
「ん?これは……」
「ああ、それは人間牧場の前で拾ったのよ。天使言語が彫られていたから、持ち帰ったの」
タイツが目敏くもリフィルの持ち物に反応をした。それはタイツの手の中で淡く光ってるみたいだけど……あれ?
「これって、ジーニアスが付けてるのと似てない?」
「そうだよ、先生!これ要の紋だよ!」
「しかし、紋章が擦り切れている。このままでは使えないぞ」
たしかにタイツの言う通り、要の紋に彫られている模様みたいなものは不自然に削れている。タイツから要の紋を受け取ったロイドは手の上でじっとそれを見つめた。
「……これくらいなら俺が直せるよ。大丈夫、明日には先生もエクスフィアを装備できるよ」
「本当!?ありがとう、ロイド!じゃあ、悪いけどお願いするわね」
語尾にハートマークが付きかねない口調でロイドにお礼を言うリフィル。相当嬉しいんだろうなー……前々から思っていたけれどリフィルって本当に学者肌だよね。
「んじゃ、この話はここまでって事で!あたしはコレットと一緒の部屋だよね?行こっか、コレット」
「うん!あれ、ラビちゃん?」
コレットが立ち上がる際の隙を奴は見逃さなかったらしく、物凄い勢いで跳躍し、今はあたしの頭の上にちょこんと乗っている。あたしは初めてこいつが可愛く思えた。
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「……ねえ、マナ?」
「なーに?」
個室に戻ったあたし達はベットに腰掛けたわいのない会話を楽しんでいる。本当は、お風呂に入って綺麗さっぱりになってからゆっくりと……っていきたいところなんだけど……砂漠では水が貴重なため、今日は濡れたタオルで体を拭いただけになった。まあ、それでも少しはさっぱりしたんだけど、ね。
「マナのペンダントってとっても綺麗だよね~……琥珀かな?」
「ああ、これね」
あたしは、ペンダントを部屋の照明に透かしてみせた。照明の光を浴びたペンダントは鈍い黄色い光を放っている。
「不思議な模様だね。……これは、木?」
「んー……あたしにもよくわからないんだ。……でも、とても大切な……そう、宝物みたいなもの」
「そうなんだ。うん、マナにぴったりだね」
コレットちゃん?なんて素敵な笑顔をしているのですか?ってこんなに見られると
「照れるってば。……ほら、コレットももう寝な。明日もうんと歩かなきゃいけないんだし、ね?」
「そうだね。あれマナは?」
「んー……ちょっと散歩してくるよ。目が冴えちゃって寝れそうにないし。少し体を動かしたほうが早く寝れるかな?って。大丈夫、すぐ戻るから。ほら、ラビ置いてくから、ね?」
そう言って頭の上に乗っていたラビを引っぺがしコレットに渡す。「裏切り者ォオオオ!!」と、奴が恨みがましくこっちを見ようが知ったこっちゃない。いつもの性格の悪さで乗り切れ、ラビ。
ラビをコレットに渡し、静かに部屋を出る。部屋を出た途端、隣の部屋から「くっくっくっ!!」だの「くはははは……!」という不気味な笑い声と、「姉さん、静かにしてよ……」という悲痛な悲鳴が聞こえてきたがそれはスルーすることにした。……あの部屋って、リフィルとジーニアスの部屋だよね……
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「ふう~……今日は満月かー……」
あてもなくブラブラ歩いて辿り着いたのはトリエットの端っこの水辺付近だった。青い湖面に月が反射し揺らめいている。
一瞬、水に足を浸したい衝動にかられたけど、ここの水はこの街の生活用水だろうな、と考え思い留まった。あたしってばえらい!
しゃがんで水面に映る月を見る。その月はゆらゆらとさざ波に揺れて、不安定に形が変わって……見ていると不思議な気持ちになってくる。酷く頼りない姿だ。
「今のあたしと……似てるのかもね」
なんて柄にもないことを考えてしまう。……―だって、あたしは
「あーっ!もう止めやめ!!第一、こんな湿ったれキャラじゃないし!」
と、今浮かんだ考えを振り払うようにぷるぷると頭を横に振る。ええい、こんな時は!!
「……誰もいない、よね?」
念入りに周囲を見渡す。見られでもしたら恥ずかしいし、特にタイツとロイド。あの二人に見られた日にゃあ、キャラじゃないと笑われるだろう。
「……誰もいない、ね。よし……ここなら、住宅地も離れてるし大丈夫かな?」
あたしはゆっくりと立ち上がると、ゆっくりと足先で弧を描き、指先で空を掴んだ。くるりくるりとその場で回り、舞う。―……あの歌を口ずさみながら。
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sideクラトス
「なあ、クラトス、マナを見なかったか?あいつ散歩とかいって部屋を出ていったきり戻ってこないらしいんだ。コレットが心配しててよ。あんた、何かしらないか?」
「いや……私は見ていないが……」
私が外でノイシュを見ていると、宿からロイドがやってきてこう尋ねてきた。背後に立ったロイドを初めは敵かと思い危うく斬り付けるところだった。が、なんとか寸前で剣を止めることができたのは不幸中の幸いだろうか?
しかし、敵と味方の気配の違いに気付かないとは……どうやら、私もまだ未熟のようだ……でも、マナ?
「ったく、夜だってのに女の子一人で歩いてたら危ないだろうに……まぁ、あのマナだから大丈夫だとは思いんだけどな。……クラトス、あんたも探すのを手伝ってくれないか?一人より二人の方が二倍っぽいし」
なんだ、その理論は……まさか、二刀流なのもそんな理由ではないだろうな?……少々不安にもなったが了承することにした。たしかに夜の女の一人歩きは何かと問題があるだろう。まあ、マナ相手に何かをすれば返り討ちにあうだろうが……それに砂漠の夜は酷く冷える。そう考え近くにあったマントを手に持ち、ロイドとともに彼女を探しに行くことになった。
「うーん……そっちにもいなかったか。はぁ……どこに行ったんだよ……」
ロイドと手分けをして市場や広場を探したがそこで彼女の姿を見つけることは出来なかった。あと、探していないところは
「オアシスの方ではないのか?」
「そうだな。そっちも見ておくか。まったく……こっちの苦労を考えてくれっての……」
ロイドが深々と息をつく。まあ、ロイドの気持ちがわからんわけではないが。オアシスへと足を進める私達を満ちた月が淡く照らしていた。
「なあ……何か聞こえないか?……これ、歌か?」
「そのようだな」
その時だった。オアシスの方角から声が、歌が聞こえてきた。その声は近付くほど輪郭がはっきりとし徐々に大きくなっていく。だが、聞いていて不快になるものではなく、むしろー……
「すごく綺麗な声だな……」
「……ああ」
―…DEN RORDE DJUPT I MITT HJARTA
EN UNG STYRA
TALADE OM LIVETS SANG…―
(出典:Song of mana )
オアシスの水辺に彼女はいた。緩やかに舞って、私の知らない言語の歌を口ずさみながら。
「……あれ、本当にマナなのか?」
横にいるロイドが驚いたように目を見開き一言呟く。確かに……今の彼女は昼間のふざけた様子とは異なり不思議な魅力を放っていた。指先で風を切り、キラキラと月の光を受けてなびく髪は……にわかに信じがたい光景だが……美しい光景だった。
++++++++++++++++++++
体が温まり気分が乗ってきたその時だった。不審な物音に気が付いたのは。あたしは慌てて踊りと歌を止めた。不審者かモンスターか……どっちにしろ人が乗り始めた時に水を差してくるなんて……許すまじ!
「そこで、コソコソしてるの誰!?ちゃっちゃと出とこないとぶっ刺すよ?」
あたしは、槍を手に持って構える。なんで、槍があるかって?乙女のたしなみでしょ?護身的な意味で。流石に夜に武器も持たずに一人でふらつくほど平和ボケはしていない。
「うわっ!!待てって!俺たちだよ、俺たち。お前が帰ってこないから、探しに来たんだって」
物影からロイドが両手を上げて飛び出した。って、もしかして……もしかしなくても……
「…見た?というか聞いてた?」
「ああ、ばっちり!綺麗だったぜ、なあ、クラトス。」
ロイドはにかっと笑いながら話す。そして、ロイドの横から出てきたのは……どう見ても立派な紫タイツです。本当にあり―……
「ぎゃぁああああああ!!!忘れてぇええええ!!!」
あたしの悲痛な声はむなしくも砂漠の砂に埋もれていくのでした。かんっっぜんに見られた!かんっっっぜんに油断してた!!完全にあたし痛い人じゃん!!
「なあ、どうしてこんなところにいたんだ?」
あの後、記憶ぶっ飛ばねーかな?っと二人の襟首掴んでガクガク振ってみたけどどうやら効果はなかったらしく……ロイドは改めてあたしが何故ここにいたのか尋ねる。
なんで……なんでかって……それは……
「…怖いから」
「はぁ?」
「なーんてね。……ほらこういう事とか言っておけば儚げに見えるでしょ?ほら、見えるっしょ?」
こう答えると意味わかんねーよ。っとばかりにロイドが素っ頓狂な声をあげた。そりゃ、そうである。あたしの回答は答えになっていない。
「意味わかんねーよ……」
ガクッと首を下に下げるロイドくん。うん、いいリアクションだね、君!
「あっははは!じゃあ、帰ろっか!」
あたし達は宿に向かって歩きだした。さぁーて、明日も忙しくなりそうだ。