ファ・ディール編(聖剣LOM)
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マナの樹聖戦の折、奈落に落ちた妖精の長アイオンは転生を拒み奈落の王となった。
そして、奈落で自らの部下となるシャドール達を生み出した。
シャドールはアイオンの思念で生まれ、地上にある死すべき魂を奈落へ導く存在となった。
これより死した魂は転生する前に必ず奈落へと行き、奈落の王の裁きを受けることとなった。
《Tales of Mana》
【side瑠璃】
「……おい!マナ!しっかりしろッ!!」
季節外れの肌を刺すような冷たい雨が、水煙となり霧のように辺りを包む。だが、凍えるようなこの雨粒をを一身に受けているにも関わらず、コイツ……マナは身じろぎ一つ起こさない。
ゾクリ……と外気の冷たさとは違う寒さが背中を伝っていく。かたく閉ざされた、マナのいつも無駄に輝いている栗色の瞳。慌てて倒れこんでいるマナを抱き起こせば、体はまだ暖かくて……暖かさを感じて安堵をする自分がいた。
死んじゃいない。死んでなんかない。コイツは俺を置いて逝ったわけじゃない。
じゃあ、一体、何が起こった?あの一瞬の間に何が起きたというんだ?
稲光が轟き世界を再び白へと塗り潰す。だが、白から元の世界に戻っても今度は何も変わりはしなかった。俺は倒れていないし、マナは起き上がらない。
マナはただ、眠り続けていた。この轟音のなかでも、冷たい雨に打たれても……普段から白いマナの腕がいつも以上に白いものに思えて、俺は慌てて自分の流砂のマントでマナの細い体を包み込んだ。
「おや、君はたしか……なるほど、そういうことか」
いつの間に現われたのだろうか?
不意に生じた今までなかった新しい音。顔を上げれば、俺が見知らぬ、色とりどりの色彩の服を身に纏った一人の鳥人の姿がそこにあった。
俺とマナの姿を交互に見据え、何かに納得したように鳥人の男は頷く。
鍔が広く、背が高いボロボロの麦わら帽子に隠れている鳥人の表情は俺から窺い知ることは出来ない。だが、何もかも見透かしているような男の言葉が堪らなく不快だった。
「……貴様、何が言いたい……」
つのる不信感がそのまま言葉として口から零れ落ちる。そんな俺を一瞥すると、男はまるで昔語りをする語り部のような穏やかな口調で告げた。
「何故、生に貪欲な彼女が奈落に引き寄せられたのか……不思議だったけれど君の姿を見て納得がいったよ。……瑠璃、君はこの奈落の仕組みとシャドールについて知っているかい?」
……と。
++++++++++++++++++++
「……たいした実力だ。我が主人もお喜びになるだろう」
「そりゃ、どーも。ぜんっぜん嬉しかないけどね」
低い唸り声を上げて、奈落の人面岩の一部が崩れていく。岩に憑依し襲ってきた人魂をあたし達が今倒したためだろう。
いつか見た本に書いてあったことが本当だとしたら、先程まであたし達が対峙していたモンスターはゼーブル・ファーなのだろう。ゼーブル・ファーはシャドール達を統べる人魂だったはずだ。勿論、人魂なのだから実体があるはずがない。だから、わざわざ憑依を繰り返し襲ってきたのだ。
一応、この奈落の管理人……影達を統率しているのはオールヴォンと言うことになっているけれど、あのポキールの同僚のことだ、奈落の全権を掌握しているわけではないのだろう。
「……行くぞ。この先で我が主人がお待ちだ」
「はいはい」
もっとも、そんな事ラルクの今までの言動見てれば嫌でも分かるけどね。
最初は、ラルクの言う主ってオールヴォンの事なんだって思ってたけど……オールヴォンに対するラルクの言動はけして自分の主に対するものではなかった。
人面岩が崩れた先にあった石の扉が、悲鳴に似た、耳をつんざくような不快な音を立てて開いていく。奈落の深部へと通じる岩扉が。扉の隙間から漏れた熱波があたしの皮膚を喉を焼く。
……鬼が出るか、蛇が出るか……いえ、この場合はどちらでもない、か。
確か、ラルクは自分のことを“ドラグーン”だと名乗った。……だとしたら。
「どうした?」
「そう急かさなくても今行くわよ」
ため息一つ吐いて手に持っていた槍を背負う。ここまで来たら腹を括るしかなさそうだ。
「控えよ。我が主のお出ましだ。ティアマット様……」
「ついに見つけたか、ラルクよ。ゼーブル・ファーを倒せる者を」
「はっ……」
「非礼を詫びよう、強き戦士よ。我はティアマットという者。故あってそなたを召喚した」
そこは灼熱の地獄と言って差し支えがないところだった。どちらかと言えばひんやりとした冷気に包まれていた奈落の長い回廊。それとは真逆の熱に、一筋の汗があたしの背中を伝って落ちていく。
うやうやしく下げられたラルクの頭。折り目正しく跪いた彼を一瞥すると、男……ラルクがティアマットと呼んだそいつは、深紅の瞳でまじまじとあたしの姿を見つめた。
年は四十から五十……ぐらいといったところだろうか?長い髭に大きなターバンを被り朱色のローブを身に纏っている。一見すると人が善さそうな笑みを浮かべているが、その笑顔があたしには堪らなく不気味に写って、あたしはティアマットの視線から逃れるように目を逸らした。
「……おっと、これは失礼。若い女性をこのようにじろじろ見つめては不快に思って当然だろう。すまなかった」
「……すまないと思うんならとっとと返してくれない?こっちも何かと忙しいのよ。引きこもってるあなたと違って、ね」
「……貴様ッ!!」
あたしのティアマットに対する隠す気が更々ない皮肉に、彼の横に控えていたラルクが声を荒げる。
がっ!!そんな事知ったことか!
一応、今の今まで大人しくしてみたはいいけど、こっちだって当に我慢の限界に来ているのだから。
「ハッハハッ!!気が強い女は我は嫌いではないぞ。気に入った!!
どれ、では早速、本題に入ろう。そなたを奈落に召喚した理由はただ一つ。我から奪った魔力を三匹の竜から取り戻してもらいたい」
「勝手に話を進められても困るんだけど」
「我はかつて地上に君臨せし『竜帝』なり。しかし、我の力を妬んだ三匹の竜が我から魔力を奪いおった。我はこの様なか弱き姿で、奈落をさ迷う身となった。……我に代わって三匹の竜を倒せる者を待っておった。それがそなただ」
「話聞けよ」
低い声であたしに事情を説明するティアマットは冷静なようにも見えるけれど、その裏には何かどす黒いものが渦巻いている……そう直感的に感じたのは、ティアマットの瞳に写る奈落の炎の揺らめきが彼の狂気そのもののように見えたから。
自分の言うのも何だが、あたしの勘はわりと当たる。しかも、悪い予感なら尚の事、だ。
話ぐらいならと思っていたけど、協力する義理なんかないわね。
オールヴォンの言葉も引っ掛かるし、何よりあたしはティアマットが気に入らない。そんな奴の依頼、断る道理はあれ受ける義理はない。
「つまり、我が主はお前が三匹の竜を倒すことを望んでいる」
「望むのは勝手だけど、あたしはお断わりよ。それぐらい自分達の手でなんとか……」
「……どのみち、お前は協力せざるをえん。半霊体のまま放っておけばいずれ無となってしまうのだからな」
「半霊体!?はぁ!?何それ!!」
にやり……とティアマットの口元が鮮やかな三日月型の弧を描く。今まで決して笑っていなかったティアマットの深紅の瞳が愉しげに歪んだ。
「……奈落をさすらい、影となるか?無となるか?強き者が消える様は悲しいぞ。強き戦士をこのまま無にするのは忍びない。三匹の竜を倒してくれればそなたが戻れるようにしてやろう」
ギリギリと奥歯が不快な音を立てる。こいつら……最初からそのつもりであたしを奈落に引きずり込んだなッ!!
「さて、どうする?このまま奈落の影となり大樹へ還るのか、それとも戦って生を勝ち取るのか。……そなたの心のままに決断するといい」
嵌められたのだと、ここであたしは悟った。
++++++++++++++++++++
【side瑠璃】
マナの樹聖戦の折、奈落に落ちた妖精の長アイオンは転生を拒み奈落の王となった。
そして、奈落で自らの部下となるシャドール達を生み出した。
シャドールはアイオンの思念で生まれ、地上にある死すべき魂を奈落へ導く存在となった。
これより死した魂は転生する前に必ず奈落へと行き、奈落の王の裁きを受けることとなった。
「……それがどうした。お伽話なんか語ってお前は何が言いたい」
「そう。これは歴史ではなく今ではもう一つの物語に過ぎない。だが、歴史が全て真実だとは限らないように物語の全てが虚偽であるとも限らない」
先程よりはだいぶ小降りとなった雨が頬を濡らす。
俺達の前に突如として現われた鳥人……ポキールと名乗った男はまるで幼子に聞かせるように、俺に一つの物語を弾き語った。ポキールの手回しオルゴールの寂しげな音が雨音と混ざり溶けていく。
「今、僕が君に語った物語は真実さ。もう当の昔に歴史からも忘れられてしまった事実。現実に押し潰され埋もれた歴史。……つまり、君は誘われてしまったんだよ。影達に、ね」
「……何だと?」
「シャドールの役目はただ一つ。死すべき魂の持ち主を奈落へと導く事。
“死んだ魂”ではなく“死すべき魂”をここへ誘うのさ。夢や希望……生きる気力を失った者や大罪を犯した者を、ね」
マナを抱き留める手に自然と力がこもる。ポキールの言葉とともにグラグラと揺れ出した世界の中で、眠り続けるマナの暖かさだけは変わらなかった。
マナの暖かさを感じるだけで、世界の揺れは収まっていった。
「……おまけに今奈落は少し騒がしくてね。アイオン配下の影達と合わせて、他の者も地上へ向かって自身の影を飛ばしていた。瑠璃……君は珠魅の騎士だ。まだ若いが腕は立つ。彼は君の心の隙間に付け込んで君をここまでおびき寄せたんだ。自身の目的の為に、ね。だが、その企みは失敗に終わった」
「……まさか!?」
「……そうマナのせいで、ね。あの時、マナはおそらく君を庇ったんだろう?その時、彼女の魂は奈落へと引きずり込まれたんだ。……君の代わりにね」
『……あなたは……』
『……俺は瑠璃。珠魅の騎士だ……』
『……わたし……わたしは……』
『……君は真珠姫。俺は君の騎士。君を守るよ。だから、心配しないで……』
コイツも、俺を一人にするのか?真珠やあの時の“彼女”と同じように。自分の元を離れてどこか遠くへと……
「コイツは……マナは一体どうなるんだ……?」
「それは……」
遠くなった雷雲。遥か先から今だ聞こえる遠雷の音に核が軋みを上げたような気がした。
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「……どーせ、あたしに拒否権なんかないんでしょ。分かった、やるわ」
ティアマット達との睨み合いが始まってもうどれぐらい経ったのだろうか。一瞬か、それとも長い時間だったのか。ピンッと張った糸のように張り詰めていた重い空気を断ち切ったのはあたしの方からだった。
「ハッハハハ!恩に着るぞ、強き戦士よ!」
「白々しい事言わなくてもいいわよ。ただ、いつやるのか、それはあたしが決める。いいわね」
「構わん。だが、忘れるな。そなたに残された時間は有限であるという事を!」
ティアマットのその言葉と同時に、あたしとラルクの足下に竜の紋章が浮かび上がり転回する。……地上へあたしとラルクを送るつもりなのだろう。
眼前を焦がすような赤い光の先に見えるティアマットに対して転移魔法が発動するその瞬間、親指を黙って思い切り下に向ければ、面白いぐらいにティアマットの顔が歪んだのが分かった。
悪どい手を使って人を巻き込んだんだからこのぐらい甘んじて受け入れなさいってんだ。
「んあー……やあっと外に出れたッ!!って、瑠璃くんにポキール?二人してどうしたの?」
「……どうやらお姫様がお目覚めになったようだね。マナ、体の調子はどうだい?」
「大丈夫よ。今のところは、ね。……って、る、瑠璃くん?これは一体どーいう状況?」
厚い鉛色の雲の隙間から星々の煌めきが零れている。鼻をくすぐる生きた土の匂いと草の匂いが気持ちいい。さっきあれほど不気味に感じていた場所なのに、今はその光景にただただ安堵をしている自分がいた。
……のも束の間。自分が今置かれている状況を理解するまで数秒もあれば十分なわけで……いやいやいやいや、待て待て待て!!なんで瑠璃くんこんなに近いの!?っうか、これ抱き締められてんの!?なんで、あたし、瑠璃くんの腕の中にいるの!?
「うんうん、元気そうで何より。……瑠璃、そろそろ離してあげたらどうだい?彼女、すっかり茹で上がったタコになってるよ?」
「……」
ポキールの言葉に瑠璃の腕の力が緩められる。慌ててそこから抜け出し立ち上がれば、あたしの心臓はティアマットと対峙していた時と同じぐらい暴れ回っていた。
「……もういいか?マナ、これは、我が主から契約成立の証としてお前に渡すように言われたものだ」
「……契約?おい、マナ、お前一体何を……」
「ん?ちょっと野暮用よ。瑠璃くんは気にしなくても大丈夫。……骨で出来たカンテラ、か。もしかしなくても、これ、アーティファクトね」
あたしの問いに、ティアマットのドラグーンである赤い甲冑の戦士は一度だけ首を縦に振った。……つまり、これを使って竜に会いに行けということか。
「竜殺し……か。これからお前と俺とで知恵のドラゴンどもを狩りに行く。奴らは世界の秩序を守っている気でいやがるが、俺達にはそんな支配など必要ない。もし、俺のやる事が気に入らなければ、お前は好きにしてくれて構わない。しかし、これはお前の力を試すまたとない機会だという事を忘れるな」
「……よく言うわよ。選択肢がないの知ってるくせに」
「……運命からは逃れられんぞ」
あたしに背を向け最後にそう言い残すと、ラルクは奈落の底へと帰っていった。
「……じゃあ、帰ろっか。どうしたの?そんなに怖い顔して……」
「……話せ」
「何を?」
「とぼけるな!一体、奈落の底で何があった!知恵のドラゴンを狩りに行くだと!?何に巻き込まれたッ!!」
「何もそれも……ただの面倒ごとよ。瑠璃には関係なー……」
「ふざけるなッ!!」
何こんなに怒ってるんだ?この人は。今まで無言で大人しーくしていたかと思えば、一転、この有様である。
激しい剣幕で詰め寄る瑠璃に思わず閉口して、ポキールに助けるように視線を向ければー……って、いつの間にかいなくなってるし!マジ、使えないな!賢人!!
……嘘。本当は分かってる。瑠璃は優しいくせに不器用だから、彼なりにあたしを心配してくれているのだろう。
だけど、瑠璃に言うわけにはいかない。巻き込まれたのは瑠璃ではなく、……あたしなのだから。
「……とにかく今日はもう帰ろう?あたしも疲れてるんだ。今度気が向いたら話すから、ね」
あたしの胸ぐらにかかっていた瑠璃の手がゆっくり、ゆっくりと離れていく。渋々といったその様子に、今日何度目になるかわからないため息が口から漏れた。
++++++++++++++++++++
「……と、いう事があったわけ。……ねえ、サボテン……あたし、どうしたらいいと思う?」
森人の姉弟とペンギンの少女が寝静まった頃。大きな木の下の小さな家。その二階にあたしの声が響く。
「ならくでポン」
そんなあたしの声を聞いたサボテンは一言、そう呟いた
《サボテンくん日記》
おはかにさわったらいぬくんのどらぐーんがでてきて、したのほうにつれていかれたらしい。
いめーじふのう
こまった