ファ・ディール編(聖剣LOM)
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「ししょー。ししょーは何をお願いしたんだ?」
「……秘密」
魔法なんか使わなくたっていいのに、ね。そう思わずにはいられなかった。
《Tales of Mana》
「なあ、ししょー!これ見てくれよ!」
「おかえりーバドー。でも、どうしたの?今日はやけに上機嫌じゃない?」
外の広葉樹達は色濃く朱や黄に色付き―……だったら綺麗なんだけど、そんな風流を感じる季節すらもはやずっと昔のように感じる今日この頃。どこで付けてきたのか頭に枯葉を一枚乗せ、寒さで鼻と頬を真っ赤に染めたバドは帰ってくるなり上機嫌で一枚のチラシを差し出した。
パチッパチッ……と小気味よくはぜる暖炉に名残惜しくも背を向けて、その紙を受け取り目を通せばそこに書かれていた内容は―……
「“年に一度の天体ショー!君はその目撃者になる事ができるのか!?”……これって?」
「ドミナの町で今日配ってたんだ!今日は流れ星が数年ぶりにたくさん見られるかもしれないんだってさ!」
「へーっ……流れ星か。そーいや、毎年この時期はそうだったね」
「どうします?マナさん?」
一言つぶやいて安っぽいチラシから目を離せば、キラキラと期待に満ちた顔を向けるバドと、いつの間にか大きなリュックを背負い満面の笑顔を浮かべたコロナの姿が目に飛び込んできて……二人にそんな目で見つめられれば、つまり、あたしには最初っから拒否権何ぞないわけで。
「……はあ。分かったわかった。そのかわり、暖かい格好をする事!……はい、返事!」
ため息一つ吐いてそう言えば、返ってきた答えは勿論、ピッタリと重なって聞こえる二人の肯定の返事。……まあ、いっか。あたしだって見てみたいし、流れ星。
少しぬるくなったココアを口に含みながら窓の外に目を向ければ、空っ風に吹き上げられた枯れ葉が数枚どこかへと連れ去られる姿が目に映った。……きっと、夜も晴れるな。そう確信したあたしは、自然と沸き上がるワクワクを押さえる事が出来なかった。だって、見たいものは仕方がないわけよ。うん。
++++++++++++++++++++
「大事なのです!」
「おなかいたいのです!」
「困っているのです!」
「とんでもない事です!」
夕日に染め上げられ、朱色に輝く砂丘が眼前を塗り潰す。砂漠の、粒子の細かな砂粒達は、黄昏のつむじ風に巻き上げられて、波紋のような模様を砂丘の上に描いていった。……ここまではいいのだ。ここまでは。
「なあ、ししょー。あれって……」
防寒用に羽織ったマントに顔を半分埋めたバドの少しくぐもった声が耳に届く。コロナも言葉にはしていないが、何アレという様子で、目を丸くしてあたしのマントの裾を一度引っ張った。
事の始まりはほんの数時間前。せっかく流れ星を見るんだし、だったらよく見える場所に行かない?……そんなあたしの何気ない一言だった。
流れ星。まあ、一般に流星群と言われるのでも一時間当たりに見られる流れ星の数はせいぜい数十個ほど。今日の流星群は流星群の中でも比較的明るい種類の流星群で、場合によっちゃ大物の火球も見られる事で有名なものだけど……やっぱり、天体を見るには少しでも明るいところから離れて見るのがいい事はラビでも分かる基本中の基本でありまして―……そんなこんなで、今回白羽の矢がたったのが、ドミナからも比較的近くにあるここ、デュマ砂漠だったわけである。
背丈の低いわずかばかりの草、そしてサボテンが点々と植生しているだけのデュマ砂漠は荒れ果てた荒野だが、だからこそ星を見る際に邪魔になる光が全くない。現に月のない晴れた夜は月影ならぬ星影が見られることでも有名で……つまり、天体を観測するにはうってつけの場所なわけだ。まあ、砂漠の夜はありえないぐらい寒いってのが少々ネックだけど……幸いにもここのアーティファクトは既に入手済みだから、いざとなったら楽々家に帰れる―……はずだったんだけど。
「古代魔導書が盗まれたのです!一大事なのです!」
あたし達の目の前を縦横無尽に砂埃を巻き上げながら、まるで狂った三月ラビのように走り回る謎の子供軍団。そしてもはや嫌な予感しかしないあたしは一人、力なくうなだれた。……絶対巻き込まれるぞ、これ。ってか、何時の間に砂漠が保育所や託児所になったわけ?
「どうしたものか……ん?アンタ達?」
そうこうしている間に見事見つかってしまうのももはやお約束なのであった。
忙しなく動き回る子供達の中心にいたのは妙齢の獣人の女性だった。切れ長の瞳、グラマラスな外見。まさに美女と言うべき彼女は赤の瞳孔を細めて、訝しげにあたし達を見つめる。……しっかし、何だ。さっき……というより、彼女に見つめられた瞬間から感じている、この妙にピリピリとした感覚は……
「ダメですよ、マナさん。カシンジャ先生はバジリスクの血を引いてるんです。あんまり目を見てると、本当に石になっちゃいますよ?」
「……はあ!?」
ガクガクと、あたしの腕を二・三度強く引っ張ながら、サラっととんでもない事をコロナは言い放つ。バジリスクって……そりゃあ、トカゲかなんかの血が入ってるだろうなって思ってはいたけど……よりにもよってバジリスク!?って事は、このピリピリとした感覚は軽い石化ダメージかよ!?
洒落にならん事実に狼狽えるあたしを彼女―……カシンジャと呼ばれたその人は、さも面白いと言わんばかりにクスクスと笑顔で見つめていた。……ん?でも、なんでコロナがそんな事を知ってるわけ?
「なんだ。どこかで聞いたことがある声だと思ってみれば……アンタかいコロナ。……という事は隣の小さいのはバドか?」
「んな!?俺、小さくなんかないぞ、カシンジャ先生!」
「本当の事を言われて相手にくってかかるうちはまだまだ子供だよ。……久しいね、二人とも」
「はい!先生もお元気そうで何よりです!」
急に和やかな雰囲気が辺りを包み、そして、これまた和やかに弾み出す会話。会話から見事に締め出され、置いてきぼりをくらったあたしは一人寂しく首を傾げるのだった。
「アンタらがアタシに何の相談もしないで学校を出ていった時は心配したもんだけど……元気そうで良かったよ。……そっちの人は?」
「ああ!先生、俺達、今はこの人と一緒に住んでるんだよ!な?ししょー!」
「……うえ!?……ええ、まあ」
置いてきぼりされて、マナちゃんちょっぴり寂しい。
なーんて考えてたけど、いざ急に話を振られるのもそれはそれで困るわけでありまして……しどろもどろになりながら一度頭を下げれば、彼女も軽く会釈を返す。顔を上げた彼女の表情からは、もうさっきみたいな警戒心は見て取れなかった。
「カシンジャ先生は、私達が通っていた学校の先生なんです!」
「ん?学校……?ってことはコロナ……もしかしてジオのあの学校!?あなた達“あの”学校に通ってたわけ!?」
「はい。ジオで学校って行ったらそこしかありませんから。やっぱり、ジオの魔法学校って有名なんですね!」
「ま、まあ……ねえ……」
たしかにコロナが言うように、ジオの街にある魔法学校は本格的な魔法を学べる場所として“も”有名だった。現に、入学希望者が後を絶たないという点がその人気ぶりを証明しているし、そもそもジオという街はその学校を中心として栄えている学園都市だ。まあ、そうなんだけど―……
「フフッ……まさか、アンタ、あの噂を本気で信じてるのかい?」
「い、いや……まさか!?」
「大丈夫。別にアタシ達は学費を滞納した生徒を売っ払ったり、人体実験のサンプルになんかにした事は一度もありゃしないさ」
「……」
『ねえ、レイチェル?お店にある石像どうしたの?前まではなかったよね?』
『お父さんが魔法都市に行った時にお土産で買ってきたの』
『ふーん。にしても、この石像……やけに精巧よね。なんか今にも動きそうな―……』
『……本当に人だったりして?』
『アハハッ……まっさかー!』
ハハハッ!と豪快に笑い飛ばすカシンジャ先生を、生徒達のうち何人かが少し顔を青ざめさせて見つめていたという事をここに追記しておく。
「でっ?先生達はどうしてこんなところにいるんだ?だって、ジオからここってすごく遠いだろ?」
「……そうだ!アンタらと話しててつい忘れちまうところだったよ!」
バドのその言葉に何かを思い出した様子のカシンジャ先生は慌てて腰を上げ、遠くを見つめる。その横顔に浮かび上がっているのは明らかな焦りの色だった。
「……チッ。もう日が沈んじまった。……アタシ達、古代魔導書を盗んだメフィヤーンスって男を追ってるのさ」
「……メフィヤーンス先生!?」
ふう……とため息を吐き事情を話し始めたカシンジャ先生から少し遅れるようにして双子の声が重なる。
カシンジャ先生によると、メフィヤーンスっていうのは魔法学校の同僚の教師で、事魔法のことになると見境がなくなるという周りからしてみれば迷惑極まりない性質を持っている人物なんだそうだ。
「……先日、図書館で妙な本を見つけたらしく、生徒を集めてこの砂漠に陣を張ったらしいんだが……早いとこ魔導書を取り戻さなきゃいけないのに、この広大な砂漠だろ?……とてもじゃないがアタシ達だけじゃ手に負えない。どうしたもんか……」
「なあ、ししょー……」
「ねえ、マナさん……」
そして、そんな話を聞いてまるで捨てられた子犬のようにうるうるとアーモンド型の大きな瞳を潤ませる輩が二名ほど。……いい加減、あたしもこの二人に甘いかもしれない。一人、そう思うあたしの頭上では一番星の宵の明星が、西の空の低い位置で煌めいていた。
結局、今回も厄介事に巻き込まれることになったあたし達は、光の精霊であるウィスプの光を頼りに薄暗い砂漠の更に奥へと歩を進めている。カシンジャ先生曰く、手分けしたほうが都合がいいとの事だ。……まあ、そりゃそうだろうね。
となると、問題はあたし達を繋ぐ伝達係を誰がするかって話になるんだけど、そこは、カシンジャ先生にまるで金魚のうん……ごほん。とにかくカシンジャ先生に小判ザメのようにくっついて来た魔法学校の生徒達がやってくれるから大丈夫だろう。……って話だ。
もっとも、生徒達の中にはメフィヤーンスって人の生徒もいるから気を付けろって最後に付け加えられたわけだけど……そこは元生徒のバドとコロナがなんとかしてくれるだろうと、お姉さんは信じてます!仕方ないじゃない。だって、あたしは誰がどこのクラスかまでは知らないんだから。けして他力本願ではないのよ、けして。しっかし……
「……さっきから思ってたんだけど……メフィヤーンスってそんなにヤバい人なわけ?」
「ヤバいもなにも激ヤバですよ!メフィヤーンス先生は悪魔なんです!」
ふっ、と口から出た素朴な疑問。その素朴な疑問に返ってきた返答は、あたしの予想の斜め上をかっ飛んでいくようなものだった。
悪魔。
あたし達人間とも、妖精とも完全に異なる種族。悪魔は他種族と異なり、他の個体と協調する事はなく、又、たった一人でも恐るべき力を秘めていると言われている。だからこそ、他種族にとって彼らの存在は畏怖と恐怖の象徴以外の何者でもないのだ。
確かに過去の文献を紐解けば、快楽殺人に走った者や意図的に社会に混乱をもたらそうとした者も少なからずいたって話だけど……
「でも、あたし達の社会に住んでる悪魔はそれほど邪悪じゃないって話じゃなかったっけ?」
……そう。仮にその文献が真実を語っているとして、悪魔が害をなしたとしてもそれは過去の事実。そっくりそのままイコールでメフィヤーンスの事を語っているわけではない。
それにほんの一握りは人間と一緒に暮らしていると、ずーっと昔、ガトに住んでいたというおっちゃんが話してくれたことがあったっけ。
「まあ、ししょーの言う通り、メフィヤーンス先生は確かに普段は別に普通なんだよな。“普段”は」
「あくまで普段の話でしょ?今回みたいに古代魔導書なんて手に入れちゃった日には……」
「厄介なんだよね……」
しみじみと深い息を吐きながら遠くを見つめる二人は、次の瞬間には同時にガクッ、と肩を落とした。
++++++++++++++++++++
「ししょー?なんでこっちの道を選んだんだ?」
すっかり落日した荒野に三人分の砂を踏みしめる足音が響く。少し息を切らしながら、さっきの出来事が引っ掛かっている様子のバドは、あたしに疑問の声を投げ掛けた。
「……そうですね。さっきの別れ道でマナさんってば、迷わずこっちを選びましたよね?」
そしてコロナも、同調するかのように同じ疑問を口にした。
……まあ、二人の言う通り、さっきの別れ道ではものの十秒程でこっちの道を選んだわけですが……ちゃーんと根拠はあるんでございます事よ。根拠は。
「二人とも、さっきの別れ道に立っていた二人組の事覚えてる?」
「……ええ。でも、確かにローブの色は違いましたけど……学校では担任ごとでローブの色が決まっているわけじゃないですし……それにあの二人は私達が学校にいた時はまだいませんでした」
「……大事なのはそこじゃない。その次。いい?思い出してみなさいって。あの時、あの二人はこう言ったのよ。一人は“親分はこっちに来た”、もう一人は“カシンジャ先生はこっちに来た”……ってね」
「あっ……!!」
……そう。さっきカシンジャ先生と一緒にいた生徒達は皆、彼女の事を“親分”と呼んでいたのだ。つまり、そこから導かれる答えは一つ。
「……うっし!んじゃ、疑問もスッパリハッキリ解決したところで元気に次行きましょー!」
しっかし、結構奥まで来たはずなのに……どこにいるんだよ、メフィヤーンス。んでもって、あたし達、砂漠に流れ星見に来たんじゃなかったっけ?心の中にむくむくと沸き上がってきた新たな疑問に答えてくれる人は、勿論だけどいなかった。
「……いいの?あれ……」
「ええ。あの二人はメフィヤーンス組ですから。ねー、バド」
「ああ。あの二人ってバカだからほっときゃ何時までもああしてるって。
さあ、ししょー!早く行こうぜ!!」
……なんという身も蓋もない言い方。再び現われた別れ道をそっと振り返れば、自分達で巻き上げた砂煙で完全にあたし達を見失い、誰もいない空間を、それでも足止めしようとだふだふと殴る自称ツインタワー改め二馬鹿の姿があった。……ほっとこうか。
生暖かい視線を取り敢えずは向け、あたし達は先へ進む。進むったら進む。
「おい、お前ら。カシンジャ先生の子分はどーした?」
「ばっちしです!」
「こっちの道に迷い込ませました!」
「んなぁあああああ!!!そっちは正解の道だ!だから、お前らに任せんの嫌なんだよ!!」
……そんなやり取りがあったとかなかったとか……既に遠く離れていたあたし達の耳にその声が入るわけもなかった。
それから、しばらくもしないうちにそれは現われた。少しだけ開けた高台。数人の生徒。生徒達に何やら指示を出している様子の男が一人。そして、その男のすぐ横には、男の身の丈のゆうに三倍はあろうかという謎の砲台。
「……ししょー、どうする?」
「……カシンジャ先生はまだみたいですし……どうします?マナさん」
うーん……相手がどんな手段を使ってくるのかも分からない状況で迂闊に飛び出すのは自殺行為だし、でも、かといってこのまま岩影に隠れて二の足を踏んでいるというのも―……そんな時だった。
「……ふう。間に合った!」
「カシンジャ先生!!」
なーいすタイミング、先生!
「途中でメフィヤーンス組の生徒達にまとわり付かれたせいでこんなに遅くなっちまったよ。すまないね」
遅れた原因を、肩を激しく上下させながらカシンジャ先生はそう話し始める。
「でも、安心しな。ちょこーっとばかし御灸を据えておいたからアイツらはもう邪魔はしてこないはずさ。……言い忘れてたけど、メフィヤーンスは二人分の魔力を継承した強力な魔導士だ。しかも、何かを始めたら周りが見えなくなる。……準備はいいか?」
正直、メフィヤーンス云々よりもあなた様の御灸の内容のほうが怖いであります。
“御灸”と聞いて、一瞬びくついたバドとコロナの姿をしっかり見たあたしはそう思わずにはいられないのであった。
「……チッ!」
ガキンッ!と鈍い金属音が鼓膜を揺らす。まるで手応えの感じれないその音に思わず舌打ちが零れた。
モンスターの数が一匹ならまだしも……二匹同時にこられるとなると、どうしても集中力が散乱して焦点が上手く定まらない。対して、あたしは一人。挟まれてしまえばどうなるかなんて……考えたくもない。
そもそも、なんで複数のモンスターを一人で相手にしているかと言えば……それはひとえにメフィヤーンスのあんぽんたんのせいなのだ。
……話は数分前まで遡る。黒い砲台の真横に立っていた男は、やはりメフィヤーンスその人だった。
あたし達―……まあ、正確に言えばカシンジャ先生を見てだろうけど……こちらを自分の瞳に捕らえたメフィヤーンスは、金色の蛇のような瞳を一度見開き、そして怪しく微笑んだ。
「何を企んでるのか知らんが、図書館から持ち出した魔導書は返してもらうよ!!」
吠えるカシンジャ先生を一瞥したメフィヤーンスは、更にその瞳を歪め、語る。
「あのボロ本ならいらなくなったから処分してしまった。全て暗記したのでな。なかなか有用な事が書いてあったぞ。例えば、星を生みだす術―……」
こんこんと二度ほど自分の頭を指でこつくと、メフィヤーンスは自分の手を黒い砲台の筒へと移した。楽しいと言わんばかりの表情を浮かべて。
「その装置……!?メフィヤーンス!まさか、アンタ、星を……?星を生むつもりか!?」
「それだけではない。星を思うがままに従える術も試すつもりだ。……そう。星を落とすのさ……天空の星が落ち、地上の町を破壊し尽くす……これこそが魔導の力……我々、魔導士だけに委ねられた神々の力だ!」
大きく手を広げ、天を仰ぐメフィヤーンスの頭上には、白く煌めく無数の星々。そして、次の瞬間、大量の風の……ジンのマナが、かかげられたメフィヤーンスの手の上で渦となり、収束する!!
「……ッ!?」
ゴウッ!と鈍い音を立てながら巻き起こる風の波。そして、それに少し遅れるようにして届く衝撃波。辛うじて、同じ風の精霊であるジンの結界を発動させたけど、それはあたし一人守る分の小さな結界で。
「……ニャロー!よくもやってくれたな!!」
「……フン!こざかしくも一人残ったか。まあ、よい。だが、邪魔されては元も子もなくなるな。……よかろう。お前はこやつらの遊び相手になってもらおうか!」
淡い光がまとわり付くようにメフィヤーンスの体に巻き付き、足元に浮かび上がるのは召喚の方陣。メフィヤーンスを中心に一瞬強い光が立ち上り、眼前が染まる。光が収まったその時、そこに現われたのは。
「……アックスピーク……!」
人々から魔鳥と呼ばれ、恐れられているモンスター……アックスピークが二体、まがまがしい奇声を発しながら羽ばたく姿だった。
しっかし、本当に分が悪い。デュマ砂漠の砂は細かく、そんな砂に足を取られるあたしは、あと一歩のところで二の足を踏むばかり。対して、相手は二体の上に、高くは飛べないとは言え、それでも鳥であるアックスピークは地形による影響があたしより少ないことは目に見えて明らかだった。……こりゃ、長引けば長引くほど不利、か。だったら、やることは一つ……!!
あたしは大きく、跳躍し二体から離れ間合いを取り、そして、手に持っていた槍を一度手放した!
「馬鹿め……!!血迷ったか!」
メフィヤーンスの嘲笑う声が聞こえるが、こちとら生憎、そんなものに構ってやる時間はない。
ふぅ……っと、短く息を吐きだし、体中のマナの力を錬り、両手に集中させれば……よし……!いける!!
目を見開けば、二体のアックスピークは真っ赤な口を大きく広げあたしの目の前まで迫ってきていた!
「やれ!!」
「……甘い!!虎王陣ッ!!」
あたしは自分の足元へと、マナが宿った右手を大きく叩きつけた!そして、次の瞬間……!マナの波動があたしを核として……奔る!
衝撃の余波を受けて巻き上がった砂は煙となり、狼煙のようによるの砂漠に柱のように立ち上った。
「……さあ?次は誰が相手なわけ?」
ニヤリと口角を歪めるあたしの横では、二体分のモンスターのマナが霧散して闇へと還っていった。
「ししょー!」
「マナさん!」
「アンタ、怪我はないのかい!?」
そして、あたしの背後から聞こえてきた声は、紛れもなく聞き慣れたあの子達の声。
「……形勢逆転、ってやつよ」
鼻で笑いながら、乱れた髪を掻き上げれば、あたしとは対照的に悔しそうに眉を動かすメフィヤーンスの姿があった。
「……フッ!だが、もう遅いッ!!」
突如、メフィヤーンスの金色の瞳が一段と歪む!その様子にハッ……!としてメフィヤーンスの横へと視線を移せば、彼の横の砲台には既に大量のマナが注ぎ込まれ、淡く輝いていた!!
「ッ!?待てッ!!」
「ファ・ディール最大のショーの始まりだ!」
カシンジャ先生が叫び声をあげて走るけれど……ダメだ!間に合わない!!反射的に双子に覆い被さったあたしの耳に、数回、地の底から響いてきたような轟音が届いた。
「うわーっ!!ししょー!見てくれよ!」
しっかし、待てども暮らせども次に来るだろうと思っていた衝撃はやって来ず……変わりにあたしの目に飛び込んできたのは、砂漠の空一面に花開く、季節外れの火の花。
「マナさん!花火ですよ!」
……なんだ。このオチ。いや……いいんだけどね。別にいいんだけどね!!
「……ま、まあ、よかったじゃないか。あっ、これ謝礼。取っておきな」
まるで空気の抜けた風船のように崩れ落ちたあたしの横に袋を一つを置くと、カシンジャ先生はメフィヤーンスの首根っ子をひっ捕まえて去っていった。
「御灸は止めてくれッ!!それだけは……!!」……と、悲鳴に似たような声が、二人が去っていった方向から聞こえてきたけど……んな事ぐらい甘んじて受けろや。
ちなみにバドとコロナの口から、「メフィヤーンス先生の実験は成功したためしがない」……と、いうオチが後々追加されることとなったのはここだけの話だ。
「でも、いったい三人ともさっきはどこまで飛ばされたわけ?」
「俺達、メフィヤーンス先生に砂漠の入り口近くまで飛ばされたんだ。そして、そこから慌ててカシンジャ先生と戻って来て……」
スウッ……と砂漠の空に一筋、白い軌跡が走る。
「あっ!マナさん!またです!」
黒い砲台に三人で寄り掛かり腰掛け空を仰げば、次々と流れ落ち大気との摩擦で輝く星の欠けら達。
まったく、魔法なんて使う必要ないのに。さっきまでここに立っていた、お馬鹿な悪魔の顔を思い出せば、そう思わずにはいられなかった。
でも……本当に綺麗。色々面倒な事に巻き込まれることになったけど……今日、ここに来たのは間違いじゃなかった。そう思わせる空だった。
この空をみんな見ているのだろうか?何かを願っているのだろうか?場所は違うけれど。願いは違うけれど。
ティーポやドゥエル、レイチェル。そして……あのラピスの騎士も。
「ししょー?ししょーは何をお願いしたんだ?」
「……秘密」
月の光もない静かな砂漠の夜。あたし達の後ろには三つの星影が仲良く並んでいた。
++++++++++++++++++++
「……という事があったわけ。って、サボテン、あたしの話聞いてる?」
森人の姉弟が寝静まった頃。大きな木の下の小さな家。その二階にあたしの声が響く。
「はなびー」
そんな、あたしの話を聞いたサボテンは一言、そう呟いた。
《サボテン君にっき》
こだいまほうをふっかつさせたらしい。
ぼくもちょうどみていたけど、きれいだった。
こだいのひとは、すけーるがちがうね。
こころのすけーる。