ファ・ディール編(聖剣LOM)
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「……リュミヌー……いいの私は……かって……いた……から……」
「え!?何、聞こえないよ!ねえ、ムーン!!」
「……い……いの。私―……」
私、嬉しいのよ?だって、初めて彼の役に立てたのだから。だから、私は、この運命を―……
《Tales of Mana》
「ししょー!こんなにたくさんのパンプキムボム、一体何に使うつもりなんだ?」
あの夏のうだるような暑さは一体どこへやら。長い雨が通り過ぎれば、そこに残るのはひんやりとした少し肌寒い空気と、一年のうちで一番高く、青く澄んだ空。そして、風がどこからか運んできた金木犀の甘い香り。すっかり秋も深まった今日、我が家にはこれまた大量のパンプキムボムと大量のお菓子が所狭しとひしめいていた。激しく余談だが、バーゲンって本当に偉大だよね!
数日間をかけて脅しにお……ではなく、値切りに値切ったこれらは、買うのを手伝っていたとはいえ、よく分からないまま手伝っていたせいか……わけが分からないといった様子の森人の双子は、同じアーモンド型の瞳をこれまた同じようにパチパチッと、数回瞬かせた。
「はい、では問題。3日後と言えば?はい、バド君答えたまえ!」
「うぇ!?……えーっと―……」
無茶ぶりとばかりにバドを指差せば、返ってきた答えは期待通りのリアクションで、それが面白くってついつい小さく笑い声がこぼれてしまう。
「では、ヒント。カレンダー」
「カレンダー……?あっ!?もしかしてマナさん!」
「だぁー!言うなよ、コロナ!まだ、俺考えてるんだからな!」
「むがっ……!」
問題の答えに最初に気付いたのはどうやらコロナのようだ。分かったことが嬉しいのか、その瞬間、コロナの目はキラキラ輝いた。対してバドといえば、やはり姉であるとは言え同じ双子に先を越されたからか、はたまた男の意地も若干あるからなのか……とにかく、コロナに答えを言わせまいと、コロナの口をまるで紅葉のように小さな自分の手で必死に覆っている。
「はーい、時間切れー。バドーいい加減に手をはなしなさーい」
まあ、あたしとしてはこの光景は面白いからいいんだけど、このままにしておくと流石にまずそうだ。コロナの怒りのボルテージ的な意味で。……って、あーあー……現に一発綺麗に入ったよ。コロナの右ストレート。
「はいはい。仲良しもそこまでにする。では、コロナ、3日後には何があるでしょーか?」
「その日は、サウィン祭の日です!」
えっへん!と、言わんばかりにコロナはそう答えた。うん。勿論、正誤の方はと言えば?
「だいせいかーい!バド少年、分かったかな?」
流石にここまで聞けばバドだって分かる―……って、思いっきり首傾げちゃってるよこの子!
「バカね、バドったら。お菓子か悪戯か選べる日よ」
「あー!その日か!」
コロナの話にようやく合点がいったのか、バドはぽんっと一つ手を叩くと、すっきりとした表情を浮かべた。そして、そんな弟に少々あきれ気味といった様子の姉君。 いくら双子とは言えども反応や表情が違ってくるのは見ていて飽きないし、何より楽しいもんだと、あたしは一人、そんな事を考えていた。
サウィン祭
古代のドルイド……つまり、マナの女神や森や木々を司る祭司達の事らしいんだけど、そのドルイド達の信仰では、新年の始まりは冬の始まりでもあったんだそうな。この日を過ぎれば、作物が実るウィスプの季節が去り、代わりにやってくるのは不毛のシェイドの季節。
だから、古代の人々はその日の前夜にサウィン祭を行い、今年収穫された作物を女神に捧げ、これからの安全と翌年の豊作を祈った。……と、されている。
また、一年のうちこの時期はこっちの世界と奈落、それに聖域との境界にある見えない扉が開き、互いの世界を自由に行き来する事が出来るのだとも言われているんだそうな。勿論、それは生者と死者のマナが接触する可能性があるという事で。
昔の人々はそれを恐れた。だから、各家々では、ランプを灯し、かまどの火を新しいものにし家を暖め、災いが入り込まないようにした。……と、ここまではマナ教会のヌヴェル牧師談。
正直、その話を聞いた時は半分寝ていたけど。まあ、大筋は間違っちゃいない気がするからよしとしよう。……うん。
「でもさ、ししょー?サウィン祭ならランプが必要なはずだろ?肝心のランプはどうするんだ?」
「ふふん。このマナちゃんがそれを忘れるわけがないではないか、バド少年。……って事で、今からちっとばかし出かけるけど一緒に行く人!」
そう言えば、「はーい!」という元気な二つの声が、まるで輪唱をしているかのように重なり、家の中に響くのだった。
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「すげーっ!話では聞いていたけど、ロアって本当にずっと夜なんだなー!」
「あったりまえよ。魔法学校でも習ったじゃない。ここは、シェイドの力が強いのよ」
アーティファクトを発動させて、やって来ました月夜の町ロア。コロナが説明したように、ロアは常闇の町だ。
闇の精霊シェイドの影響を強く受けているこの町は決して夜が明けることがない。もっとも、それだけじゃないという研究者もいるみたいだけれど……まあ、それはそれって事で。
この町に昼はない。普通に考えたら異常な事だろう。だけど、ここに住んでる人達にとっては昼がないのが自然な事であり、そもそも、一般的な人達が感じる夜の恐怖など、彼らにとっては何の意味も持たないのだ。だって、それが彼らにとっての普通であり日常なのだから。もっとも―……
「でもさ、ししょー!この町って月も星も綺麗だな!月なんて真ん丸だぜ!」
あたしを見上げて少し興奮気味にそう話したバドは、再び視線の先を空の暗幕へと戻し、星々に負けないぐらいキラキラと瞳を輝かせた。横目でチラッと様子を伺えば―……コロナもバドと同じ気持ちなのだろう。違うところはもちろんあるけれど、本当にこの二人はそっくり。
秋の夜空は、夏の天の川や冬の明るい星々と比べてしまえば、そりゃあ、かなーり地味っちゃ地味だけど。
「……綺麗だね」
心の中から思った事をそのまま口にして、あたしも二人と並んで少しだけそのどこか地味だけど、綺麗な空を眺めていた。……この町の人達が夜を恐れない理由は、この空があるからなのかもしれない。
「ここか?ししょーの言ってたお薦めのランプ屋って?」
「そっ。あたしも来るのは初めてなんだけどね。レイチェル曰く、ランプはここ意外は考えられないらしいよ」
「レイチェルさんがですか?意外です。レイチェルさん、こういうアンティーク調の雑貨ってお嫌いだと思っていました」
「レイチェルが言うにはここのランプは例外なんだって」
月の……まるで月長石のような明かりをたよりに町を歩き、言われた路地裏へ入れば、あたし達の目の前にはレイチェルに教えてもらった通りの小ぢんまりとした、でも、趣味の良さが滲むアンティーク調のお店の扉がある。さっきも言ったけれど、このお店はレイチェル一押しのお店で、レイチェルはちょくちょくこの店に来てはランプを買っているんだそうな。
わけあってレイチェルはゴシック調やアンティーク調の雑貨が大嫌いなんだけど……そのレイチェルが薦めてくれたランプ屋。俄然興味は出てくるもんよね。
レイチェルがゴシックやアンティークが嫌いな理由は……まあ、人には色々な考えがあるって事で。
「なあ、ししょー!早く入ろうぜ!」
「だああ、分かったからあんまり押さない!」
カランカラン……と、来客を告げるベルの音が静かな夜の路地裏に広がった。
「おお、リュミヌーよ!君の瞳は星の輝き!天高くに僕を誘い……求めれば近く、胸に満ちるとも抱き締めれば儚くこの腕を擦り抜ける……!」
「マナさん……あの人……」
「見ないの、コロナ。そして覚えておきなさい。あれは関わるとめんどくせー人種だから」
扉をくぐれば、ランプから零れた赤やオレンジ、黄や白など様々な光の粒がぼんやりと、まるで蛍火のように薄暗い店内を照らし出していて、壁を見れば古ぼけた時計が規則正しく時を刻む音と、飾られた金木犀の芳香。そんなちょっとだけ不思議な光景が広がっていた。……ここまではいいのだ。あくまで、ここまでは。
「そうは言っても、ギルバード。ランプが売れないのよね。あと六個ぐらい売れて欲しいモンなんだけど。あたしもお店を閉めて、どこか他の町へ行こうかしら。だって、ランプが売れなきゃオマンマの食い上げちゃん」
店の主人であろう若いセイレーンの女性は、店に飾られているランプを一瞥し、深く一つ息を吐くと、カウンター越しに対峙している男にそう話した。
「おおー、ハニー。なんてバカなことを言うんだー!キミはボクの事を忘れようというのかいー。愛の詩人ギルバードの事をー。ボクはこの町の星空の下でキミと語らう甘い時間がなければ生きていけないよーハニー」
「……ほらほら見てみて、このランプ!ちょっと独特な形だけど綺麗だと思わないコロナ?ぼんやり光ってる。……精霊の光かもね」
「……マナさん。無視しちゃって良いんでしょうか?あの人……」
「ノイズ。あれはノイズよ、コロナ。何もいやしないわ。ほら、バドを見なって。全然気にしちゃいないわ。いないのよ。上半身やさ男の下半身が馬で恥ずかしい事ほざいてる頭が沸いてる奴なんて」
「……それ、完璧に見えてるじゃないですか……」
ガクッと大きく頭を垂らすコロナの先には何か変な物体がいる気がするけど、それはノイズ。ええ、ノイズよ。大体、もし、万が一、億が一それがいたとしてもいないと思えばいないのと一緒。少なくてもあたしの中では、ね。そう言葉を続ければ、コロナは呆れたような乾いた笑みを浮かべ息を吐いた。真理よ。真理。
「……ん?このランプ……?」
「どうしたんだ?ししょー?」
店の一番奥の奥、古びて少し埃を被った戸棚の更に奥。そこにはまるで隠れるように置かれた一つのランプ。あたしは、何故だか分からないけれど……そのランプに目を奪われて……気が付けば、自然に手を伸ばしていた。
手に持ったランプは棚と同じように埃を被っているけれど、傷一つなくて、まるで月光の光をそのまま閉じ込めたような青白い光が灯り、淡く煌めく。
光は強弱をつけながら、青から白、白から青へとゆっくり虚ろう。……明らかに他のランプとは違うって事が指先を通じて伝わって―……えっ?でも、この黒い染みのようなものは……?
「……何ッ!?」
突然、今まで淡く揺らいでいた光が、膨らみ大きく弾ける!白い閃光に似た光の洪水に耐え切れなくなったあたしは、反射的に目を瞑ってしまった。そして、目を開けたその時、あたしの目に写ったのは……
「……コロナ?バド!?」
壁に掛けられている古時計がボーン……と一つ、鐘を鳴らす。その音にハッとして時計を見れば。
「……針が逆に回っている……」
痛いぐらいの沈黙が降る。
あたしの他に誰もいなくなってしまった店内。金木犀の甘い香りだけがさっきまでと変わらず、あたしの鼻をくすぐる。嫌な……予感がする。それも物凄く。ざわざわと……広がる不快感。その気持ちに蓋をして、あたしは扉のノブを軽く回した。バドとコロナを探すのなら、何時までも同じ所にいないでさっさと他を探すべきだなのだから。何よりこんな胸くそが空間にずっといるのはごめんだ。もっとも―……
「探されるべきは―……」
あたしの方かもしれないけど。
チクタクチクタク……、逆回りに時を刻む針の音がやけに耳に張りついた。
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【sideムーン】
「ちょっと!ねえ、聞いてるの!?」
「……聞いてるわ。リュミヌー」
「あなた、本当に事の重大さを分かっていないのね!予告状が来たのよ!?よ・・こ・く・じ・ょ・う!!今時、予告状を出すどろぼーなんてあの怪盗淑女しかいないじゃない!おまけに、この町にいる珠魅っていったら……!」
「……私、しかいないわ。だから?」
目の前の水晶球から目を離さず、言葉だけでそう言い放てば、友人であるセイレーンの彼女は、頭を抱え大きな溜め息を深く吐いた。
……ここ数日。予告状が来てからというもの毎日繰り返される光景に、我ながら進歩しないな……と、呆れつつもそれを心地よいと感じる自分がおかしくて……私は思わず小さく口元に弧を描いた。
「ねえ、私にとってあなたは同僚で、何より大切な友達なのよ」
友人の亜麻色の髪はランプの光を浴びてまるで炎の揺らぎのように煌めく。セイレーン族特有の美しい花の羽は、芳香を撒き散らし私の鼻腔を微かにくすぐった。
「……だから、少しは自覚を持って。私、あなたがいなくなっちゃうなんてそんなの嫌よ」
友人想いのセイレーンはそう言うと、深い色をした紫水晶のような二つの瞳で私を見つめた。私はこの色が好きだった。勿論、彼女自身が好きだということもある。
都市から命からがら逃げてきた私を、この町の人々は快く受け入れてくれた。私が珠魅であると知っているにも関わらずに。特に、この町でランプ屋を営んでいるというセイレーンのリュミヌーは何かと私の面倒を見てくれた。
気さくで明るい彼女。少しずれた事を言う事もあるけど、それは彼女の個性だ。それに、それを差し引いても彼女は魅力的なセイレーンだと思う。だけど、私が彼女に惹かれた本当の理由……それは。
「……ほら、また私の話を聞いていないわ」
「……ごめんなさい。リュミヌー」
「まあ、いいわ。あなたがボーッとしているのは今に始まった事じゃないもの」
私があなたに惹かれた本当の理由……それを知ったらあなたは怒るかしら?
「……私、今から出かけなくちゃいけないの。友達のセイレーンの子が調子が悪いんだって。さっき手紙が届いたの。だから―……」
「行ってあげて、リュミヌー。その子はあなたの同族で尚且つ友達なんでしょう?」
「でも……!」
「行ってあげて。私なら大丈夫よ。それに―……」
もし、私が狩られる―……死ぬのだとしたらそれは運命。既に決まっている事なの。だから……
「何も悲しいことじゃないのよ」
そう、全ては起こるべくして起こるのだから。
ボーン……と一つ、壁に掛けられた古時計が鐘を鳴らす。いつもと同じように規則正しく時を刻みながら。
「……ねえ、約束して。もうそんな悲しいこと言わないって。お願いよ、“ムーン”」
「……」
最後に私の名前を呼んで、彼女はロアの常闇の空を飛び立っていった。
彼女と別れた私は一人、残月の路地にたたずんでいた。出来上がったばかりの小さなランプ一つを持って。空を見上げればまるで氷のように冷たく冴え返る青白い満月の光。自分の髪……そして何より、私の核と同じ色をしたそれを見つけながら私は待っていた。
「……こんばんは、ムーンストーンのお姫様。……随分不用心なのね。予告状は読まなかったのかしら?それともそれすら分からないほど愚かなのかしら?」
冷たく澄んだ少し低い女性の声。振り返れば、闇色とはとても似つかない茜色をした髪と鮮やかな緑色の衣を身に纏った女の姿があった。
「……いいえ。待っていたの」
「……誰を、かしら?」
「あなたを」
女のギリッ……という歯軋りの音が夜風に乗って微かに私の鼓膜を揺らす。ああ……金木犀がどこかで咲いている。
「……どういう意味かしら。わざわざ命乞いでもしに来たの?ご苦労な事ね。でも、残念。私は―……」
「……必要ないのでしょう?“涙”を流せる者以外は」
「……ッ!!」
女の緑色をした瞳に驚愕の色に浮かぶ。だけど、次にその美しい瞳に浮かび上がった色は憎しみの色そのもので。
「……話が分かっているなら早いわ。どう?あなたは涙を流せるのかしら?」
「出来ない。私に出来る事はランプ作りと、少し先の未来を垣間見ることだけ」
……ええ。分かっていたわ。あなたの事も、あなたの目的も。そして……私が今日狩られるという事も。
「世迷い事をッ……!」
この時期特有の冷たい風が、彼女の服の裾を、私の髪をもてあそぶ。冴え返るように冷たく光る月とそしてランプだけが私達を見つめていた。
「……知っていますか?全ては起こるべくして起こるんです。人はそれを運命と呼びますけれど」
……あなたを見つけたのは……もう何時の話だろう。
あなたの“紫”色をした瞳に私が吸い込まれたのは。気が付けば、あなたは私の中で大きな位置を占めていました。
でも、あなたの中に私の姿はない。なぜなら、あなたの心にはいつもあの方がいらっしゃるから。
癒しの力を持たない……名ばかりの姫でしかない私とあの方。未来を見るまでもない。最初から分かっていた。だから、私は……あなたを癒してあげる事も救う事も出来ない私に出来る唯一の事。それは―……
「だから―……」
私は、私の運命に殉じます。
私の核に爪が指が食い込む。サンドラのものではなく私自身の指が。
「なっ……!!」
ねえ?今、私は笑えていますか?私はあなたのお役に立てていますか?
リュミヌーと同じ色をしたあなたの瞳が霞む景色の向こう岸に写る。
青白い、月長石の光の中に一輪、異質な色の花が咲いた。
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「ししょー!おい!ししょー!!」
「マナさん!マナさん!!」
「バド……、コロ……ナ?」
気が付けばあたしは見知らぬ部屋の見知らぬベットの上で横たわっていて……まだ焦点があっていない瞳で横を見れば、不安そうに顔を歪めたバドとコロナの姿があった。
「ししょー、いきなり倒れたんだぜ!俺達すげー心配したんだからな!」
「……倒れた?」
「覚えてないんですか?マナさんランプを手に取った瞬間、突然倒れたんですよ!」
「……ランプ……」
そうだ。あたし、あの光の吸い込まれて……気が付けばここと似ているどこか違うところにいたんだ。
みんなを探そうと思って歩き回っても同じ所をグルグルと回っているだけで、そして、不透明な膜がかかっているような感じがしていて……何より、あっちでは誰一人としてあたしが見えていないようだった。そして―……
「あら、目が覚めたの?」
キィ……と木の床が軋む。その音を辿れば水の入ったコップと……あのランプをぶら下げたリュミヌーの姿。
「飲んでください。落ち着きますよ」
あたしは一つお礼を言ってコップを受け取った。たしかに喉がカラカラだったから。寝ていたせいなのか、それとも別の理由なのか……それは分からないけれど……冷たい水はゆっくりとあたしの体に染み込んでいった。
「俺はあれ?そーいやさっきまでいた馬の兄ちゃんはどうしたんだ?」
「ギルバードの事?彼ならランプを売るのを手伝ってくれた後、どこかへ行ったわ。おかげで私、まだこの商売を続けられそう」
リュミヌーはそこまで笑顔で言うと、一旦言葉を切った。そして―……
「……ギルバードって、少しヘンだったけど、悪い人じゃないの。ただ、彼はもっと大きなランプが欲しい人なのに、私のランプはとても小さかったの。ランプは大きくても小さくても本当は関係ないはずなのに。だって、そうでしょ?ベットに入ったらランプは消すでしょう?……私の見る夢、夜見る夢、楽しい夢、それは彼にとっては嘘の夢なのかもしれない」
そう少し悲しそうに笑うリュミヌーの姿にムーンの姿がだぶって見えたような気がして……あたしの口は自然に言葉を紡いでいた。
「あの……そのランプは……」
「このランプ?これは友達―……ムーンっていったんだけど、その子遺品なの……だから、売ってあげることは出来ないわ。……でも、他のランプなら安く売ってあげる!何よりもうすぐサウィン祭ですもの!」
そう話すリュミヌーの横では、ムーンのランプが微かに瞬いていた。
++++++++++++++++++++
「……という事があったわけ。……ねえ、サボテン……あたし、どうしたらいいと思う?」
森人の姉弟が寝静まった頃。大きな木の下の小さな家。その二階にあたしの声が響く。
「ぐまー」
そんなあたしの話を聞いたサボテンは一言、そう呟いた。
《サボテンくん日記》
あなぐまごをおぼえて
あなぐまあいてに
らんぷをうったうまがいたらしい。
まったくもう、なにをやってるんだか。
でも、そんなことをはなしにきてくれるとこが、ちょっといいかんじかも。