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ファ・ディール編(聖剣LOM)

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「そりゃあ、お金は大切にゃ。オイラもお金は大好きにゃ」
「まあ、そりゃあ、見てれば分かるわ」
「……話は最後まで聞くにゃ。お金は正義にゃ。だけど―……」

それは手段であって、目的ではない。

《Tales of Mana》

「……ふむ……何か手っ取り早い方法はないもんか……」
「……あっ、マナ
「よっ、レイチェル。どう?お仕事頑張ってる?」

真昼の閑散とした酒場にあたしとレイチェルの声が響く。当たり前の話だが、昼の酒場というのは夜に比べると寂しいもので、人の姿なんてほとんどない。もっとも、完全に閉まってはいないから、こうして自由に出入りする事は出来るけど。
そして、あたしはといえば、さっきからずっと酒場の隅にある少し古びた木のボードを、そりゃあ、穴が開くんじゃないかってほど見つめている。そのボードには一面に色々な色や大きさの紙がびっちりと貼られていて―……

「……求人広告よね。それ」
「うーん……これだと泊まりがけかー……割りに合わないわ、これじゃ―……へ?レイチェル何か言った?」

ヤバい、求人広告を読むのに夢中でレイチェルの話を聞いていなかった。
あはは……と、取りつくように笑えば、少し困ったようなレイチェルの顔があって。

「まあ、マナらしいけど」

そう一言言うと、困った顔をくしゃっと潰して、レイチェルはくすくすと笑った。

「でも、マナがわざわざ求人を探しに来るなんて……どんな風の吹き回し?前に装飾品の行商してからそんなに経ってないよね?」
「一人分ならね、余裕なんだけど……ほら、食いぶち増えたでしょ?だからさ―……」

自分のほっぺを指先で軽く掻きながらそう言えば、レイチェルは「あっ、そうか」と、納得したように一度頷いた。

「元気?二人とも?」
「そりゃあ、元気なんてもんじゃないよー。超大変。まったく、面倒を見てるこっちの気持ちになってほしいもんだわ」

風通しを良くするために大きく開け放たれている窓から、初夏の風がそよそよとゆっくり吹き抜ける。白い、でも少し陽に焼けたカーテンはたなびき、酒場にはお酒の芳香とは違う匂いが、風に合わせてゆっくりと広がっていった。

「ふふっ……でも、まんざらでもないでしょ?」
「あっ、分かる?」

ぷっ、と、お互いほぼ同時に吹き出して笑ったのは、このすぐ後。

「よし!じゃあ、仕事に行ってくる!」

ビリッと、ボードから一枚、少々乱暴に紙を剥がして、あたしは椅子から立ち上がった。

「決めたの?」
「まあ、ね。少々胡散臭いけど、日帰り出来そうなのはこれしかないし……その時はその時。じゃあ、またね」
「……うん。いってらっしゃい」

酒場を一歩出れば、うだるとまではいかないけれど、太陽は眩しいくらいに輝いていて。

「暑くなりそ……よし!ちゃっちゃか終わらさせるか!」

誰に言うでもなく、一伸びしながらそう言って、あたしはアーティファクトを発動させた。さあ、目指すはガトの町。

++++++++++++++++++++

「……相変わらず、人、多いなー……」

ガトの町は前に来た時と同様、沢山の参拝客で賑やかにごった返していた。まあ、そんなにすぐに町の様子が変わるわけがないんだけど。

「……一人、いなくなっちゃったのに……ね」

いつだったか……もう、題名も忘れちゃったけど、読んだ本に書いてあったっけ……誰か一人いなくなったとしても、世の中の大多数の人間には関係がないように、現実にとっても関係がないのだ。現実は続いていく。踏み付けられた人を、置き去りにして。何事もなかったように行進していくのだ、と。

「……んな事、考えても仕方がないか」

浮かび上がってくるのは自嘲の笑み。
何だかよく分からない黒くてもやもやしたものが、ドスン……と、どこかに落ちてくるのを感じながら、あたしは依頼人との待ち合わせ場所である店の扉を静かに開いた。

++++++++++++++++++++

「……いいからグダグダ言ってないで出すもの出しなさいよ!!」
「嫌にゃ!あれはもうオイラのものにゃ!……ぐっ、首が……!!」
「どこがあなたのものよ!あなたの!!にゃろー……人の財布から勝手に三百ルク抜き取りやがって……!!」
「……あ……あの……お客様……」

宝石店の不思議でどこか神秘的な照明がぼんやりと淡く店内を照らしだす。そして、その照明の先には、まったくもって神秘性の欠けらもない、どちらかと言えばバイオレンスな光景が広がっていた。……話は数十秒前にさかのぼったりする。

「いらっしゃいませ」

小さな木製の扉をくぐれば、この前と同じように何とも言えない不思議なお香の芳香があたしの鼻腔をくすぐる。
求人広告の依頼主との待ち合わせ場所。それはついこの前、アレックスさんと出会ったあの宝石店だった。ここまでは何らおかしな事はない。いたって普通の光景である。

「おこーんにちわだにゃ!」

……あたしが依頼主の姿を見つける数秒後まではね!!
……そう。今回の依頼主は、行商人の皮を被ったペテン師。いつぞやの太ったウサギネコのニキータだったのだ!そして―……

「おまけにアダマソって何よ!アダマ“ソ”って!!どー考えてもパチモンじゃん!あれ!焼き土下座しろ!今すぐ!!」

至る、現在。

「うにゃー……!オイラは不当な圧力には屈しないんだにゃ!!」

この後に及んでまだ言うか!ええい!かくなる上は……!

「ん?」

トントンと、不意に誰かに肩を二、三度触れられたような感覚がして思わずニキータの首を絞めている手を緩めて自分の後ろへと視線を向ければ。

「買わないなら出ていけ」
「……はい」

たいそう素晴らしい笑顔を浮かべた店員のお姉様は一言で、そう言い切った。……ちなみに、目は完璧笑っちゃいませんでした。

「あー……!もう!!ニキータのせいで追い出されたじゃん!!」
「どう考えてもオイラのせいじゃないにゃ!アンタ失礼にゃ!」

店を出たら、はい、すぐ仲直り!……って事は当然あるわけもなく、あたし達は今だに激しい戦いを繰り広げている。なーんて。

「……やめた。キリがない」

ついでに叫びすぎて喉がヒリヒリする。

「……同感にゃ」

ため息を吐きながらそう言えば、ニキータもニキータで、まるで空気の抜けた風船みたいに深ーいため息を吐いて肩を落としているようだった。

「……疲れたのもあるけど、何より周りの目が痛いにゃ」

あたし達の周りをまるで避けるように通り過ぎ、ひそひそと呟いている参拝客を、どこか遠い目で見つめてながら、ニキータはそうポツリと呟いた。た……たしかに……

「……でっ?今回はどんな悪巧みを考えてるわけ?」
「悪巧みとは失礼にゃ。これはれっきとしたビジネスに―……って、もしかしてにゃ?」

首を傾げてそう尋ねるニキータに、少々ぐしゃぐしゃになった求人広告を広げて見せれば。

「……なるほどにゃ」

納得したのかニキータは深く一度頷いた。

「広告に書いてあるから大体の事は分かると思うけど、今回の仕事はオイラの護衛にゃ」
「それくらい分かってる。ほら」

あたしはくるりと振り返って、背負っている槍を指差してニキータに見せた。護衛をする以上、丸腰で来る奴がいるとすれば、それは馬鹿かただの死にたがりだろう。

「……上出来にゃ。それにあんたの腕なら申し分ないにゃ」

人格はアレだとしても、オイラ、公私の区別はきちんとつけるタイプにゃ。そう誇らしげに言って、ニキータは歩きだした。

「……よし、お前、あとで焼き土下座な」

少なくともお前にだけは言われたくないわ!!

「でも、なんでこんなところに?ここって、癒しの寺院の修道女達が修行する修げんの道でしょ?」

襲ってくるモンスターの攻撃をかわしながら、あたしはニキータに話し掛けた。振り向きざまに、槍で胴を払えば、最後まで残っていたモンスター数匹、土へと帰っていく。

「……はい、おしまい」
「……アンタが来てくれて助かったにゃ。人格は激しくあれだけどニャ」

そんなあたしの姿を見たニキータは、感心したような驚いたような……そんな表情を浮かべながら、一言、そう呟いた。

「そりゃどうも。でっ?さっきの質問の答えは?」

あたしとニキータが今いるこの場所。ここはガトの西方に位置する、修げんの道と呼ばれる山道だ。修げん道は、癒しの寺院の修道女達が日々瞑想などの修行を重ねる場として名を知られている場所でもある。
もっとも、名を知られているといっても、さっきのようにモンスターも出るから、一般の参拝客はあまり訪れないところなんだけど。

「言ってなかったかにゃ?オイラ、この町に草ムシ取りに来たにゃ」
「草ムシ?そりゃまたなんで?」
「草ムシは蒸して丸めるとおいしいオヤツになるにゃ。特にこの町、ガトの草ムシは大カンクン鳥の糞を食べてるから身がしまってるにゃ。草ムシ、おどりで食うのもサイコーにゃ」
「……うっ」

嫌な汗がだくだくと背中を伝っていくのが自分でも分かる。
草ムシ。草ムシに限らず、虫は良質のタンパク源だから、実は食べる事は凄く理にかなっている。現に、イナゴの佃煮やら、ダニが発酵させるチーズ、更には、うじ虫が入ったチーズやらが実在する事はあたしも知っている。……知っているけど!

「……もちろん、アンタにはやらんにゃ。草ムシは大事な商売道具にゃ」

……た……助かった……

「ん?水の音にゃ。どうやら着いたみたいにゃ。滝の近くに草ムシはいるにゃ」

まったく……そのでっぶい体のどこにそんなスピードが眠っているのやら……そう言うや否や、ニキータはその巨体からは信じられない俊敏さで、滝の音のする方向へ駆けてゆくのだった。

「……へえ……こんなところがあったんだ」
「ちょっと待つにゃ。今、草ムシかき集めるにゃ」
「言われなくても」

そこは今まで見てきた乾いたガトの風景とは一線を介していた。辺りを緑に覆われているのだ。圧倒的な水量をほこる滝は、ごうごうと……まるで地響きのようにうなりを上げながら流れ落ち、滝壺の水はどこまでも透明で清らかな水を湛えていて……大地にあたって弾けた水の粒子は太陽の光を浴びて、光とは逆の方向に虹色のアーチを形づくる。なるほど……こんなに乾いた土地なのに、ガトの水が豊富なのはこのおかげか。
なーんて、冷たい水に足を突っ込みながら、あたしは滝を見つめてそんなことを考えていた。モンスターを倒しながら山道を駆け抜けてきた足には、この水の冷たさが何とも言えず心地よかった。

「……何をしてるの?」
「……えっ?」

急に目の前の風景が、まるで磨りガラスを通して見ているみたいに淡く滲みだす。かげろう?ううん……こんな水の多い場所で起こるわけがないし……でも、水煙が原因ってわけでもない。いったい―……

「嫌ね。まるで狐にでもつままれたみたいな間抜け顔しちゃって」

そう聞こえたかと思えば、次の瞬間、あたしの目の前でその子は笑っていた。

“妖精”

……そう。あたしの目の前には、妖精と呼ばれるファ・ディールの住人の姿があった。

「ねえ?何してるの?」
「うーん……連れを待ってる、ってところかな」
「フーン……」

ニキータはまだ草ムシを集めてるみたいだし、それはまだ終わりそうにない。他に特にする事もなく暇を持て余していたあたしは、座りながらその妖精と話をしていた。普通、妖精は滅多に人間の前に姿を現わさないんだけど……たぶん、この子は好奇心が一際強い妖精なのだろう。

「……ねえ?この前、誰かいなくなっちゃったんでしょ?この町から。
風が教えてくれたもの」

不意にビュッと……風が頭の上を通り過ぎる。風は水に新しい波紋を作って、滝の水に当たって、水は弾けて。

「……うん」

あの事を思い出したあたしは、静かに一言だけそう言葉を紡いだ。

「……フーン。それってやっぱりアーウィンのせいなのかな?」
「……アーウィン?サンドラじゃなくて?」

聞いたことのない名前―……初めて聞いたその名前にあたしは思わず首を傾げた。

「そう、アーウィン。まあ、知らないならいいけ―……」
「こんなところで何してるにゃ。邪魔にゃ」

妖精の言葉を遮るようにニキータの声が重なった。ん?でも……ニキータのこの様子……

「見えないの?ニキータ。ほら、ここにいるじゃん、妖精……って、あれ?」
「妖精なんかいないにゃ。幻覚にゃ」

あたしが妖精のいた所に再び目を向けたその時には、さっきまでここにいた妖精の姿はすでにどこにもなく、滝だけがさっきまでと変わらずにごうごうとうなりを上げて流れ落ちているだけだった。

「……でも、さっき、サンドラがどうこう言ってたにゃ?サンドラがどうかしたにゃ?」
「えっ?ニキータ、サンドラについて知ってるの?」

思いもしなかったニキータの言葉に、あたしは弾かれたように顔を上げてニキータを見つめた。そんなあたしの様子を見たニキータはニヤリと笑って。

「情報料……高いにゃ」

……ちっ!足元見やがって!!

「サンドラは輝きのある宝石ばかりを狙う凄腕の怪盗淑女にゃ。美しい容姿と、変幻自在で華麗な盗みの腕に加えて、決して誰を傷つけなかった事から、かつては皆を魅了していたんだにゃ」

えっ……いま……いま……なんて……?

「傷つけなかったって……!でも、サンドラは……!」

あたしは知らないうちに大きな声を出していた。……嘘だ。そんなの!ほんの少し前に起こった……あの事件。ルーベンスの最期の顔が嫌にはっきり脳裏によみがえる。気が付けば、あたしは叫んでいた。
そんなあたしをニキータは、一度だけ驚いたように目を丸めて見つめて、でも、すぐに前に向き直って。

「……昔の話にゃ。今のあいつは珠魅殺し。……ただの殺人鬼にゃ」

はっきりとそう言い切った。

「大体、オイラ、あいつのこと嫌いにゃ」

ニキータはそう言葉を続ける。

「ちょっと、意外。ニキータって、自分以外の人間は金づるか金づるじゃないかの二進法で考えていると思ってた。だから好きも嫌いも関係ないのかなーって」
「あんた、やっぱりひどい奴にゃ。そりゃあ、オイラにも嫌いな奴はいるにゃ。草人とかオイラ大嫌いにゃ。……まあ、そんな事はいいにゃ」

そこまで一気に言うと、ニキータは滝の水を手ですくって、ごくりと音を立てながら一口飲んだ。

「そりゃあ、お金は大切にゃ。オイラもお金は大好きにゃ」
「まあ、そりゃあ、見てれば分かるわ」
「……話は最後まで聞くにゃ。お金は正義にゃ。だけど―……」

―……それは、手段であって、目的じゃないにゃ……―

ざわざわと…葉がこすれて音を奏でる。少しだけ傾きかけた太陽は水面に写って……でも、すぐにその姿は波に消されて歪んでいった。

「オイラはにゃ、強盗でも恐喝でも、生きるためにするなら許すにゃ。でも、殺人は違うにゃ」

ニキータは言葉を続ける。確かにお金は正義だけど、それは生きるために使う手段なだけだ。人は生きるために盗みやおどしをするけれど、相手を殺してまで得ようとするのは鬼畜がやることだ、と。

「……これが、オイラなりの筋の通し方にゃ。だから、あいつは嫌いにゃ」

最後にそう言って、ニキータはニヤリと、あたしの顔を見て笑った。

「……さてと。オイラの用事も無事に済んだことだし、これは給料にゃ」

そう言うと、ニキータは自分の荷物から五百ルク硬貨と壊れた人形のような物を取り出し、あたしに向かって放り投げた。慌ててそれをキャッチしてよく見てみれば、それは偽物なんかじゃなくて、れっきとした本物で。

「感謝の気持ちにゃ。それから、さっきの情報料は次回の報酬料にゃ」
「はぁああ!?」
「もう決めたにゃ。それにアンタはもう聞いちゃったにゃ。今更キャンセルは無理にゃ」

すまーいる!

いつぞやのように胡散臭い笑みを浮かべながら足早に去っていくそれを、あたしはただ茫然と見つめていたのだった。……や、やられた……!!

++++++++++++++++++++

「……という事があったわけ。って、サボテン、あたしの話聞いてる?」

森人の姉弟が寝静まった頃。大きな木の下の小さな家。その家の二階にあたしの声が響く。

「草ムシちゃん」

そんなあたしの話を聞いたサボテンは一言、そう呟いた。

《サボテンくん日記》
くさむしははねのないばった。
あんまりおいしくない。
ぼくはたべたくない。
こまけだら。
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