ファ・ディール編(聖剣LOM)
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―……ここ、どこ……?……―
―……おとうさん……おかあさん……?……―
―……あたし……だれ?……ひとりぼっち……いやだよ……―
「……ししょー?」
「……おいで。あたしのところに。……そのかわりちゃんと家のお手伝いはする事!いい?」
帰る場所がない辛さは……わかってるつもりだから。
《Tales of Mana》
【珠魅(じゅみ)】
宝石を核とする麗しい種族。繁殖能力がないため、男女の別はあるものの、あまり意味は持たない。
誕生の経緯は謎に包まれているが、人手に触れなかった宝石が長い年月を経て、その美しさに見合う心と身体を持つに至った、という説が有力である。なお、珠魅は核が壊れない限り生き続ける。
【珠魅族の歴史(じゅみぞくのれきし)】
珠魅の核は美しい装飾品として、また、偉大な力を秘めた魔石として、他種族の標的とされた。
約九百年前、人間と妖精の間で勃発した妖精戦争は五期に渡って継続し二百年前に終結したが、その間に多くの珠魅が狩られ、研究者の手に掛かり調べ尽くされた。人知れず実験台の上で、核を外されて死んでいった珠魅は無数だと推測される。やがて魔道士達は影で彼らを“クズ石”とそしるように―……
「……ったく、胸くそ悪い」
自宅の静かな書斎にあたしの声だけが響く。今まで読んでいた古びた本の上に盛大に突っ伏しながらそう言えば、小さな木製の机の上に積もっていた埃が、空気の流れに合わせて少しだけ舞った。
……ルーベンスの件から数日。あんな事があったけど、あたしのまわりの日常はほとんど変わってはいなかった。しいて変わった点をあげるとすればユカちゃんの宿に最近少しだけお客さんが増えたって事。レイチェルが前ほど瑠璃を恐がらなくなった事(……それでも、びくびくしてるけど)。今年はやたらにパンプキンボムが豊作でかぼちゃ料理に事欠かなくなった事。………それぐらいだった。
「珠魅……か」
窓から細く差し込んだ光が書斎に舞う埃に乱反射してうっすらと光のはしごを架ける。その様子をぼんやりと眺めながら、気が付けばあたしはそう呟いていた。
瑠璃と真珠ちゃんに出会って、ルーベンスが殺されて―……色々な事が起こったってのに、あたしは彼ら“珠魅”の事をほとんど知らなかった。……知ろうともしていなかった。
所詮、珠魅は他種族。自分は人間なのだからサンドラに命を狙われる心配もないんだし、放っておけばよくね?
「……なーんて割り切れたらいっそ楽だけどね」
それはそれで目覚めというか胸くそが悪い。
何も知らないよりは少しでも知っておいた方がいいだろう。情報はあって得をする事はあっても困る事はないはずだ。……そう考えて、自宅の書斎で埃をかぶってた古い文献を引っ張りだして読み出したのまでは良かったんだけど。
「……覚悟はしてたけど、きっついなー……」
背もたれに大きく寄り掛かって、あたしは決して高くはない天井に大きく息を吐いた。
文献に載っていた文章は……まあ、予想通りと言えば予想通りなんだけど―……読んでいて気分がいいものではなかった。
だけど、この本に書いてある事はきっと事実だ。数日前の瑠璃とルーベンスの言葉が、二人の目がゆっくりと脳裏に蘇る。あの二人が嘘を吐いていたようにはあたしには思えなかった。……この本にある通り、かつて珠魅は狩られたのだ。サンドラじゃない……あたし達“人間”に。
「……どうしたらいいんだろう……」
あたしにとっては種族なんて区分は本当にどうでもいい概念だった。現に、ドゥエルはタマネギ人間だし、ティーポなんか魔法生物だ。だけど、あたしは二人と仲良くやっている。……だけど、瑠璃達にとっては?
あたしにとってはどうでもいい概念でも、瑠璃にとってはどうでもよくないかもしれない。……いや、確実に死活問題だろうけどさ。
ならば、他種族のあたしはこれ以上、彼らの領域に踏み込んではいけないんじゃなかろうか?
「……でも、それもそれでどーよ?って話だしなー……」
いっこうに考えのまとまらない頭をガシガシっと二・三度掻いて、窓の方へと視線を向ければ、昼の風を浴びた白いレースのカーテンが、あたしの気持ちとは裏腹にそれこそ憎らしいくらい楽しげに踊っていた。
「んっ……?……はいはい、今行きます!」
チリン、チリン、と、不意に家中に響くベルの音。来客を告げるその音にあたしは慌てて立ち上がった。しっかし、一体誰だろう?今日は特に予定、なかったはずなのに。
パタンと、書斎の扉が閉まる。……窓から吹き込んで来た風はパラパラと……広げられたままの本のページをめくっていった。まるで、今でもそこに透明な誰かがいて、本を読んでいるかのように。
【珠魅に関する言い伝え(じゅみにかんするいいつたえ)】
“珠魅のために涙する者、全て石と化す”
珠魅と他種族との接触を戒めた言葉。珠魅の保存のために伝えられたものらしいが、実際に石になった者がいるかどうかは不明である。
―……風が偶然めくったページにそんな事が書いてあった事を……あたしが知るわけもなかった。
「あれ、レイチェル?レイチェルじゃん!どうしたの、今日バイトじゃ……?」
玄関を開ければそこにはあたしがよく見知った顔、友人であるレイチェルの姿があった。……でも、レイチェルはいつもこの時間は酒場でウエイトレスのバイトしてるし……何よりアポ無しでここに来るなんて事は―……
「……今日はお休みをもらったの。ほら、酒場で私がアルバイトを始めてからマナとあんまり遊べなくなっちゃったから。……だから、今日は―……って、どうしたの、マナ―……?」
「レイチェルー!大好きー!!」
おもわずレイチェルに抱きついてしまったけれど、これは自然の摂理だ。だってべらぼーに可愛くないか!?レイチェル!!
++++++++++++++++++++
「へえー……ジェニファーのおばちゃんがパンプキンボムパイを?」
「うん。お母さんがね、今日パンプキンボムパイを作るって。だから、マナも食べに来なさいって」
「いやっほー!ジェニファーのおばちゃん、世間話し出すとなっかなか帰してくれないけど、料理は最高だもん!ったく、マークのおっちゃんにはもったいないわ。本当に」
あたしとレイチェルは二人、ドミナの公園のベンチに腰掛けながらそんな他愛ない世間話をしていた。いや、お前ら何デートみたいな事してんの?……って話かもしれないけど、こーんないい天気の日に外に出ないなんてもったいないじゃない?公園のベンチは木の真下にあるから木の葉が作る日陰が丁度いいし、なにより噴水の水飛沫が少しだけ届くここは、今の季節にうってつけの涼み場所だ。おまけに今この公園には流れの大道芸人コンビが来ていて、彼らの音楽やジャグリングは見ていて飽きないし、何より楽しい陽気な気分にさせてくれる。
「……よかった。……いつものマナで」
「へ?」
不意にあたしの横にいるレイチェルがそう言葉を洩らした。はて……?一体?
「どういう意味?」
“いつものあたし”って一体なんのこってすか?そう首を傾げてレイチェルに問えば、レイチェルはぷっ……と一度吹き出して。
「やっぱり気付いてなかったのね?……ここ数日、ずーっと暗い顔してたのよ、マナ。私が声をかけても気付かないで行っちゃった事もあったわ」
「……えっ?マジ……?」
「……マジです」
うわちゃー……全然気付かなかったよ。そう頭を抱えながら呟けば。
「……マナらしいけどね」
と、クスッと口元を押さえてレイチェルは笑った。
「……心配したんだから。私だけじゃなくてドゥエルもティーポも……それに瑠璃さんも」
「……瑠璃?」
「……そう。私、酒場でアルバイトしてるから瑠璃さんの顔をよく見るの。……昨日、瑠璃さんに言われたの“……アイツは大丈夫か?”って」
仏頂面だからやっぱり少し怖かったけど……そう小さく付け加えて、レイチェルはそっとその双眸を前へと向けた。
「……マナ、何があったかは聞かないわ。でもね、辛くなったら言って。私、マナの気持ち、全部は分かってあげられないと思うけど……でも、一緒に考えたりは出来ると思うから」
―……だって、私達、友達でしょ?……―
「……ありがとう。レイチェル」
泣きたいような、嬉しいような………そんな不思議なあったかい気持ちになったのはレイチェルには秘密にしておこう。
「たいへん!たいへん!!ドミナの西の方にヘンなカボチャが大発生したの!きっと、悪い魔法使いがカボチャの大軍で私達をミナゴロシにする気よ!ミーは安心してお手紙配達出来ないじゃない!」
「……ん?って、キャアアアアアア!!」
突如、あたしの真上を木の影とは違う謎の影が横切る。かと思えば次の瞬間……!その影はあたしに向かって急降下し始めた!!んでもって、その謎の影はあたしの頭にピタッと乗ると、ばっさばっさと翼を動かしながら早口で何かをまくし立てていた。……こーんな失礼な登場をして、なおかつ、こーんな独特なしゃべり方をする奴は―……
「……アマレットちゃん」
バッサバッサ、と、あたしの視界に舞うは無数の鳥の羽根。そして、羽根の先にはぽっかーんと口を開けながらあたし達を見つめるレイチェルの姿があった。
「……でっ?あたしに何か恨みでもあるわけ?」
ぶすっとした表情で腕を組みながら頭の上にいるであろう物体Xにそう文句を言えば。
「あら、レイチェル、こんにちは。バイトはどう?もう慣れたの?あのおっかなーいストーカー男の事はミーも聞いたわ!本当に怖いわよね!ミーも怖いわ!!それよりも今はカボチャ、カボチャよ!!……あら、マナいたの?」
こいつ……しばいたろか……!きっとあたしの顔には今、そんな文字が浮かび上がってることだろうよ!……って、また厄介ごとかいな…。
「……でっ、かぼちゃがどうしたの?アマレットちゃん、あなた、手紙配達人やめてかぼちゃ配達人にでもなったわけ?」
「……んうまあー!!失礼しちゃうわ!!ミーはエブリデイズ、エブリシング手紙配達人よ!!まったく!」
先程からあたしの頭の上で独特なしゃべり方をして暴れてらっしゃるこの鳥の名は、アマレットちゃん。そして、またの名を郵便ペリカン。
郵便ペリカンっていうのは通称で、由来はアマレットちゃんの職業からなんだけど……まあ、なんだその……うん……安直だよね。
「……あの、アマレットちゃん……今日はどうしたの?お手紙の配達は……それにカボチャって……?」
「そうそう。大体、かぼちゃって何さ。確かに今年はパンプキンボムが豊作みたいだけど―……郵便配達とかぼちゃ全く関係ないじゃない」
あと、羽根を頭の上でばらまくのやめてくれ。そう言えば、アマレットちゃんは更に高速で自分の翼を動かし―……そして、必然的に舞う羽根の量は増え。
「とにかく、カボチャなの!カボチャ!!さあ、マナ!ミーと一緒にドミナの町外れに行くわよ!ミーはとっても怖くてドキドキしてるの!このままだと大好きな郵便配達が出来ないの!」
「いったい!痛いッ!わかった、分かったから突くなっての!!……ごめん、レイチェル!あとからパンプキンボムパイ食べに行くから!」
そう涙目になりながらレイチェルを見れば、レイチェルはにっこりと微笑んで。
「……とっておけばいいのね?大丈夫、お母さんには私から言っておくから。あと、ティーポにお茶を頼んでおくね」
初夏の太陽はどこまでも明るくて、眩しくて……ああ、今日も暑いなー……なんて考えながらあたしはベンチから立ち上がった。
++++++++++++++++++++
「ほら、マナ!あそこよ、あそこ!!」
「まあ……こりゃ、確かに……」
アマレットちゃんと一緒に田舎道を通ってドミナの外れも外れ、町外れの空き地へとやって来てみれば、そこで待ち構えていたものは!
「……まあ、かぼちゃだね」
そりゃあもう所狭しと並べられたかぼちゃカボチャ南瓜の山!!それこそバーゲンでもやってんじゃないかというほど、うず高く積まれたかぼちゃ達が待っていたのだ。
でも、ここって空き地だよなー……いつからかぼちゃ畑に……あー……そーいえば。
「今年はばっかみたいにパンプキンボムが豊作だったんだっけ」
なるほど、市場に流通するかぼちゃの量を調節してるってわけか。そりゃあ、採れるにこした事はないけど、あまりにも多くの物が流通すればそのものの価値が下がるから儲けはあまり期待できなくなる。そうなると本末転倒になるわけで……だから、出荷の前に採れすぎた分を廃棄するっていうのは分かっちゃいたけど。
「もったいなー……」
そう口に出してしまうのは絶対あたしだけじゃないはずだ。
「違うわ!マナ!!ううん、違くはないけれど!その先、その先よ!!カボチャの先を見て!!」
ん……?かぼちゃの先……?アマレットちゃんが指差した―……アマレットちゃん指ないや……鳥だから……いやいや、そんなの気にしたら負けだ!気にしねーぞ!……とにかく、アマレットちゃんが指した方角を目を凝らしてじっと見つめればそこには……!
「ケケケケケッ!」
「バドーそーゆー笑い方やめてー」
「コロナ!お前も笑え!支配者スマイルだッ!ケケケケケッ!」
「カボチャで世界を支配するの?バッカみたい。」
……そこにいたのは、年は七歳くらいだろうか?よく似た顔の男の子と女の子だった。って……!
「……こども?」
……そう、どう高く見積もっても十歳にも満たないような子供が二人、カボチャの真ん中に立ってケケケケケッと笑っていたのだ。……いや、正確に言えば笑っているのは男の子だけで、女の子は呆れてふっかーいため息をついてるみたいだけど。
「ね!マナ!あの二人きっと悪い魔法使いでしょ!きっとミー達をミナゴロシにするつもりなのよ!コワイ怖いわー!カボチャコワーーイッ!!」
「バッカ!静かにしなきゃ見つかるで―……」
「あっ!怪しい奴!追い返すぞ、コロナ!!」
うっわぁー……お約束。アマレットちゃんの口を慌てて塞いだところでお約束の展開が覆るはずもない。あんまりにもお約束すぎる展開に若干頭が痛くなってきてしまったのは言うまでもない。しっかし、見つかっちゃったからには仕方ないよなー……
「……はあ。で?あなた達はこんなところで悪者ごっこ?早く帰りなさい」
「うるせー!!未来の大魔法使いバド様に対してそんな口を聞いて生きて帰れると思うなよ!!」
半ば呆れたように二人にそう声をかければ、男の子はビシッと!手に持っているフライパンをあたしに向かって突き付けて、そう高らかに宣言をした。
ん……?ちょっと待て。今、バドって……それにこの紫色の髪にあたしよりも少し大きな耳は?
「ほら、やるぞ!コロナ!!」
「カボチャにやらせればいいじゃん」
「そーゆーのはこれからの問題だッ!」
「やれやれ……頭、冷やさなきゃダメね」
そう言うや否や、二人はおもいっきり跳躍して、あたしめがけて持っていたフライパンとほうきを振り下ろした……!って……!
「ちょっ……たんま!!」
すんでのところで横にずれたあたしは慌てて体勢を立て直しながらそう叫んだ。フライパンで殴打って……当たったら普通に痛いだろうがッ……!
「待てと言われて待つ馬鹿がいるか!」
……その通りです。
さあて……どうしたもんか。ひょいひょいっと……二人の攻撃を避けながらあたしは一人そんな事を考えていた。子供相手に怪我させるっていうのもねー……言うまでもないが、なんだか釈然としないものがある。そんくらいの思慮と分別はいくらあたしにだってあるぞ。うん。
「くぅ!!ちょこまかちょこまかと……!」
かと言ってこのまま避け続けるっていうのも―……そーいや、アマレットちゃんどさくさに紛れて逃げやがったな。……そんな時だった。
「……ドリアード!!」
「っう!!」
あたしは反射的にバックステップで後ろに体を下げた。そして、あたしがさっきまでいた場所には。
「……外したかッ!!」
着ている緑色の長いローブの裾に泥が付くことなんかお構いなしに、男の子は激しく地団駄を踏んで悔しがった。あたしがさっきまでいた場所……そこにはドリアードの力で具現した茨の刺が蛇のようにのたくっていた。
「……なーるほど。小さな魔法使いってわけね」
こりゃ、早々に決着付けたほうが得策だね。二人に聞こえないようにポツリと呟いて……あたしは笛を取り出した。
「……笛?まさか魔法楽器……!?バド!早くはなれ―……!」
あたしが何をしようとしているのか分かったのだろう。紫色をしたポニーテールを振り乱しながら女の子が男の子に向かって叫ぶ。だけど……!
「……遅いッ!ドリアード!!」
乾いた笛の涼しげな音色があたしの声に少し遅れて重なる。そして音色は辺りにこだまして、同時に緑色をした光が生まれた。
「……ほら、捕まえた」
あたしがにっこり笑いながらそう言えば、木の蔓で出来た籠状の檻に捕まった二人がポカーンと口を開けながらこちらを見ている姿が目に入った。そして―……
「これは、お・し・お・き」
ペチン……パチン……!と小気味いい音がする。軽く二人にでこピンをおみまいすれば。
「っう……―――!?」
二人は、おもしろいぐらいに同じリアクションで自分のおでこを押さえていた。お姉様の手をわずらわせた罪は重いわけよ。
「あなた達、バドとコロナでしょ?……大きくなったね~」
「!!どうして俺たちの名前を知っているんだ!?」
まだ少し痛むのか自分の額をさすりながら、小さな男の子が大きな瞳をさらに大きく括目する。
「だって、あなた達の両親と知り合いだもの。……前に見た時はうんと小さかったのにね~……時間の流れって早いわ」
腕を組み、うんうん。と、数度頷けば双子の姉弟は互いに顔を見合わせて、そして改めてあたしの方へと向き直った。
「……でも、一体いつ魔法都市から帰ってきたの?おじさんとおばさんは元気?」
「……死んだ」
「……えっ……」
風に乗ってバドの声が遠くに運ばれていく。ポツリ、と、まるで絞りだすように一言だけ呟くと、バドは唇を噛み締めてうつむいた。
慌ててコロナの方へと顔を向ければ、コロナは困ったように笑って―……
「……お父さんとお母さん、ジオで魔法の研究をしている最中に実験に失敗して死んだんです。ほら、お父さんもお母さんも魔法苦手だったじゃないですか?まったく、下手っぴなのに無理するから―……」
そこまで一気に言って…コロナもバドと同じように顔を伏せた。うつむいているから二人が今どんな表情をしているか……ましてや二人が何を思っているかなんて、あたしには予想は出来ても本当のところは分からない。でも震える二人の姿が、あたしの目には、あたしは―……あたし、この気持ち、知ってる。だって―……
「……分かった」
「……ししょー?」
バドが、コロナが、まったく同じようなキョトンとした顔であたしを見つめる。あたしはそんな二人と目線を合わせて。
「……おいで。あたしのところに、さ。……そのかわり!ちゃんと家のお手伝いはする事!いい?」
「あわわわ、なんて心が広いというかなんと言うか……」
コロナは驚いたように目を真ん丸にしてあたしを見つめた。まあ、コロナが言う事ももっともなんだけど、さ。
「……あなた達のお父さんとお母さんに感謝するのね」
そう片目でウィンクをしながら言えば、コロナとバドの顔はみるみる明るくなっていって。
「ししょー!一番弟子のバドです!今後ともよろしく!」
「……お言葉に甘えさせてもらいます!」
そりゃあもう元気いっぱいに笑った。
はあ……こりゃ、レイチェル達とのお茶会はまた今度だなー……レイチェルには悪いけど、レイチェルなら分かってくれると思う。……そうだ!今日はこのパンプキンボムを使ってたくさんシチューでも作るか。
真っ青な空を仰いでそう決めたあたしは、二人の手を引いて空き地を後にするのだった。
++++++++++++++++++++
「……という事があったわけ。って、サボテン、あたしの話聞いてる?」
森人の姉弟が寝静まった頃。大きな木の下の小さな家。その家の二階にあたしの声が響く。
「カボチャがケケケだったね」
そんなあたしの話を聞いたサボテンは一言、そう呟いた。
《サボテンくん日記》
こどものまほうつかいが、ふたりで、
かぼちゃかいじんで、せかいせいふくしようとしていたらしい。
かぼちゃがおそってきたら、こわいな。
でも、おいしいかもしんない。
まずかったらどうしよう。
うーん。