ファ・ディール編(聖剣LOM)
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「ってあああ!?これもパチモンじゃんか!!アダマ“ソ”って何だよ“ソ”って!!」
「……もういないぞ……アイツ」
「んなこと聞いてないっての!ドゥエル、あのペテン師ウサギどこ行った!?」
「……はあ……ティーポの入れたお茶が飲みたいよ……俺は……」
骨折り損のくたびれ儲け。今日の出来事を表すのにこれほどピッタリの言葉もないだろう。あのウサギネコ絶対しばいてやる!!
《Tales of Mana》
「……恐らくあの男……瑠璃という方は珠魅族(じゅみぞく)ではないでしょうか?」
「じゅみぞく?って、あの珠魅?」
若草の萌える匂いが風に舞って街全体を包む―……そんな昼下がり。瑠璃と真珠姫の一件から数日経った今日もドミナはいつものように穏やかな空気に包まれ―……と言えば聞こえはいいけど、実際はのんきな空気が街を包み込んでいた。
街道の端もはじに位置し、のんきな空気が一年中漂っている街ドミナ。まあ……このおかけで大昔の大戦時ですら戦火がここまで及ばなかったって話だから、のんきというのも案外悪い事じゃないんだけどね。
そしてあたしはというと、そんな田舎の更に町外れにある小さな教会へとやって来ている。
聖マナ教会。マナの女神のために戦った殉死者のマナ達を慰めるために数百年前に建てられたこの教会は、大きさこそ小さいものだけれど、とても歴史の古い建物だ。あたしは徳のたかーい司祭様でもなければ、マナの女神の言葉を唯一の言葉として信仰する信者でもないけれど、この教会にはちょくちょくと遊びに来ていた。
「でも珠魅って他の種族……つまり、あたし達みたいな人とは長い間交流を断ってるんだよね?瑠璃くんも真珠ちゃんもその珠魅だって、ヌヴェルは思うの?……まんまるドロップもう一つ貰ってもいい?」
「……またですか、マナ。いくらこの教会にいらっしゃる方に無料でまんまるドロップを配っているからといって、あなた一人がそんなに食べては後から来る方々に配る分がなくなるでしょう?……まさかとは思いますが……あなたがちょくちょく教会に来る理由はそれ目当てではないでしょうね?」
そう言うと目の前の白い鳥人―……ヌヴェルは肩で大きな息をしてがっくりとうなだれた。ヌヴェルはこの教会の管理をしていて、そして街の人達からとても信頼をされている牧師様だ。
そんなヌヴェル牧師はと言いますと、今度はじとっと……半眼になりながらあたしの方を見ていた。
「いやだなーヌヴェル。あたしがまんまるドロップ目当てとか、そんなセコい目的で教会に来てるわけないじゃんかーアハハ……」
「はあ……」
女神の姿をかたどったステンドグラス。淡く輝く古びたパイプオルガン。そして、あたしのポケットから転げ落ちたまんまるドロップ。午後の柔らかな光はそれらを全て平等に淡く照らすのであった。……やっぱり、ちょっとポケットに入れすぎたかもしれない。
「こほん……さて、先程の話の続きになりますが……マナの言う通り、珠魅は長い間他種族との交流を断っています。すでに絶滅した種族である。そう考える者もいるぐらいです。……私自身、目にしたのは初めてですが、あの瑠璃と名乗った彼の胸に付いていた大きな宝石―……あれは珠魅の“核”ではないでしょうか?」
ヌヴェルは短い咳払いを一つして、そして言葉を紡いだ。
何で牧師様と瑠璃の話をしているのかと言えば、まあ話の流れってやつで……最初は軽い世間話のつもりだったのに話がどんどん大きくなってしまったのだ。
珠魅族は謎に包まれた種族だ。他の種族との交流を断って暮らす珠魅については分からない事が多いから。
珠魅は胸に“核”と呼ばれる大きな宝石を持っていると言われている。そして、その核が傷ついて壊れない限り生き続けるのだと……そう言う人もいる。
それが本当かどうかは分からないけれど、“不死”の力というものを求めるバカはどこにでもいるもので―……その力を求める者達に珠魅は狩られたのだ。
実際に、その核には大きなマナが宿っていたって話だけれど―……本当に“不死”になれるはず……ないのに、ね。
「……珠魅か……まあ、あたしにはあの二人が珠魅だろうがそうでなかろうがどうでもいいし」
あたしにとっては真珠ちゃんは可愛い女の子だし、瑠璃は心配性のストーカー。……それでいいじゃない?そう言ってポケットから一つ、まんまるドロップを取り出して口に含めば、甘い香りがじわじわと広がって。なんだか嫌な気分すら甘さで包み込んで消していってくれているような……そんな気がした。
「……ふむ……やはりマナにそんな渋い顔は似合いません。その渋い顔を一瞬にして消してしまうのですから、まんまるドロップの力も侮れませんね」
「ちょっ、ヌヴェル!?」
やっぱり、ヌヴェルって厚好爺(こうこうろう)だと思うよ?あたしがそう言えばヌヴェルは声を忍ばせて……静かな教会にヌヴェルのくすくす笑いが響ー……
「マナはーん!!助けてーな!!」
「ティーポ!?」
……はずだったんだけれど。バターンッと乱暴に開かれたドアの悲鳴と、その何倍も大きな泣き声。あたしの友人であるティーポのおかけで、ヌヴェルの声は完封なきまでに封殺されるのでありました。って、ティーポ……あなた、泣きすぎ……あーあー……教会の床びっしょびしょ……
おーいおーいと泣くティーポの横で、泣きたいのはこっちだと言いたげに頭を抱えているヌヴェル。そんなヌヴェルに心の中で合掌をしたあたしは、今だ泣き止む気配がないティーポの体を無理矢理押して教会を後にするのだった。……掃除頑張ってくれ…ヌヴェル牧師。
++++++++++++++++++++
「ほーら、いい加減泣き止まないと体中の天然水が出尽くしてお茶入れられなくなるよ?」
「そんなんもっと嫌やー!!」
ティーポを落ち着かせるために街中を歩いているんだけれど……ティーポは体中の水分を出し尽くさんばかりの大泣きを続けている。
ティーポはレイチェルの家で暮らすティーポット型の魔法生物でお茶の愛好家で……そしてあたしの友人の一人である。外見が鳩に似ているからドゥエルは「ハトポットのティーポ」と呼んでいるけれど……うん、まさにその通りなんだよねー
独特なしゃべり方をするけれど、ティーポは人当たりもいいし、決して悪い奴じゃないんだけれど―……
「でっ?今度は何にだまされたわけ?」
「あんなー聞いてくだはいなー!ニキータはんったら酷いんですわー!」
あたしがそう尋ねれば、ティーポはピタッと泣き止んで……次に待っていたのは息吐く暇もないような言葉の数々。
……ティーポは決して悪い奴じゃないんだけれど、優柔不断な性格が災いして、結構な頻度で騙されるのだ。そのたびにドゥエルやあたしがなんとかしてはいるんだけど―……今回もそれか。
「酷い話やろー?古びた車輪の値段が五万ルク!!でもニキータはん、買わないちゅーんなら他の人に売ってしまう言うねん!だから、うち、なんとかお金集めよー思うてなー」
「買わんでいいわ!んなもん!!」
思わず変な口調でティーポをどついてしまったのは仕方がない事である。
「……つまり、そのニキータって人にふっかけられたわけね……で?まさか、ティーポ……予約金云々言って前金……払ってないよね?」
「払うたで、五千ルク。」
ダメだ、こいつ。
「……もういい。何も言うなティーポ。でっ、ニキータってどんな人?」
「今、マナはんの目の前にいる人や」
「はあ、んな都合のいい話あるわけー……」
「おこーんにちはだニャ。あなたに笑顔のサービス!スマイリーニキータとはオイラのことニャ」
んなアホな!!……とガバッと顔を上げればそこには……!世にも胡散臭い太った商人姿のウサギネコが、これまた胡散臭い笑顔を浮かべてあたし達を見つめていた。
「どうニャ?五万ルクは準備できたかニャ?」
「ニキータはーん、足元見すぎやーいくらなんでもそんな……」
あたしの存在をガン無視したように始まる商談―……もとい悪徳商法。
ニタニタと余裕しゃくしゃくで笑うニキータと……ダメだ。ティーポ……それじゃ、いいカモ以外のなにものでもないよ。……仕方がない、か……
「そんなものいりません。だから、ティーポからもらったお金も返してくれない?」
二人の間に入り込んでそう言えば。
「これは誠意の問題ニャ。こいつが買うなんて言わなきゃオイラ違う人に売ってたし、商品ももう売れてたかもしれないニャ。それでも断るって言うのならそれ相応の誠意ってものをだニャ」
くっ……!正論すぎる……!
言い返せないあたしを尻目にニキータはまだ話し続けている。
「大体クーリングオフとかいう制度もニャ……ん?そう言えば、アンタ頼もしそうニャ。見ての通りオイラ、旅の行商人ニャ。だけど、街道は盗賊だらけ、街から出るのは怖いニャ。そこでニャ、アンタにはオイラの護衛を頼みたいニャ」
はあ?何言ってるんだこのウサギネコ。答え?そんなものは。
「誰がするか」
「話は最後まで聞くニャ。オイラ、盗賊にタコにされて困ってたニャ。それにアンタらはお金に困ってるニャ。世の中ぎぶあんどていくニャ。アンタが護衛を引き受けてくれるのなら、この車輪、アンタらに譲るニャ。それだけじゃないニャ、アンタを大儲けさせてあげるニャ!」
大儲けねー……うっ……後ろ髪を引かれる言葉だけど……ん?その車輪ってまさか……!
「……いいよ。その話のった。だけど、契約金としてその車輪を今、渡す事。そっちもティーポから前金取ったんだから、ま・さ・か、自分だけ前金を渡さない……なんてバカのこと言わないよね?」
にこっと、あくまで冷静にあたしは条件を提示した。ここで車輪が欲しくてほしくてたまらないなんて様子を見せれば最後、こいつは足元を見て法外な対価を要求してくるだろう。あくまで冷静に……だ。
だって、ニキータの持っている古びた車輪……あれは―……
「うー……分かったニャ。アンタ商売上手ニャ。これを受け取るといいにゃ」
「おっけーんじゃ、契約成立って事で」
契約の証の古びた車輪―……ううん…“アーティファクト”を受け取ったあたしは自然と緩む顔をそのままにして、一人それを眺めていた。
「なー……みなはん、うちの事忘れてへんか?」
「……お金は真っ先に出ていって、最後に戻ってくるニャ。金の使い方、覚えるニャ」
「んな、殺生なー!!」
……というティーポの泣き声が昼下がりのバザーにこだました。
++++++++++++++++++++
「……でっ、ここまで来たのはいいけど…盗賊なんて一人もいないじゃん。……本当にここなわけ?」
「おかしいニャ。オイラ、前、ここでギタギタのタコにされたはずニャ」
あの後……泣き崩れるティーポをなんとかレイチェルの家まで送り届けたあたし達は、現在、リュオン街道と呼ばれる街道へとやって来ている。
ドミナの街から伸びるこの街道は、いくらさびれているとはいえ、ドミナにとってはなくてはならない街道だ。
ニキータが言うには、ここがこんな風にさびれてしまったのもその盗賊のせいで、旅の商人達はほとほと困っているって話だけれど―……
「やっぱり、いなくね?」
そう、ここに来るまで結構な距離を歩いたにも関わらず、盗賊の姿どころか人一人の姿すら見当たらないのだ。
モンスターの姿だってまばらだし……街道はいたって平和そのもの。あたしとしては盗賊退治をするつもり満々だったために、ここまで平和そのものだと正直、拍子抜けをしてしまう。
「おっかしいニャー?うん?あそこに誰かいるニャ!あの人に話を聞くニャ!」
そう言ったかと思えば次の瞬間……!ニキータはその巨体からは信じられないようなスピードで、その人影へと走り出した。
はあ……一応依頼主か。そうため息を一つ空に向かってはいて、あたしも足を進めるのだった。
「こんにちは……私はダナエ、ガトから来たの。あなたも賢人に会いに来たの?」
こちらから声をかければ、彼女……ダナエと名乗ったその人はそう言葉を紡いだ。
「!!!キュートな耳、イカスニャ!プリチーな君と二人でラブラブキャッチニャ!」
ちなみにニキータは、ダナエの顔を一目見ただけなのに、目をハートにさせて、言葉巧みにナンパをしようと奮闘している。……さすが、ウサギネコ。猫の姿をした女の人に弱いのか。
ダナエは褐色の毛並みの猫の姿をした獣人で、そのしなやかな体は青紫色の法衣で包まれている。極力動きを制限しないような作りのそれは、恐らく、僧兵と呼ばれる人達が身に纏う(まとう)ものなのだろう。 ダナエはガトから来たと言っていたし、それにガトには大きな寺院があるとも聞いている。
そんな事を考えるあたしの耳にシャラン……とダナエのしている首飾りの鈴の音が響いた。
「……この近くに大地の顔と言われている、とても古い賢人がいるはずなの。だけど会うのが怖い。真実を知る事が怖いの。……苦しみを大きくするために賢人に会いたくはないの」
ダナエはうつむきながら、か細い……とても小さな声でポツリ……と、そう洩らした。……ちなみにニキータは彼女にフられたからか、端っこの方でいじけて“の”の字を書いている。
うーん……賢人か……
「……賢人が何を言おうが、最終的にどうするのか……それを決めるのはあなたの仕事なんじゃないかな?それでいいじゃない。だって、あなたの心なんだから」
あたしがそう言えば、ダナエははっ、としたように顔を上げて……そして少しだけ悲しそうにほほえんで……こう言った。
ー……あなたも強い心を持っているのね、彼女のように……ー
「っと!そうだ!!あたし達賢人に用はないんだけど、盗賊に用があるんだった!ダナエさん、こっちの方で怪しい人見なかった!?」
「怪しい人?そう言えば、柄の悪い二人組があっちの方に向かっていったけれど……」
よっしゃ!有力情報来た!
「ありがと、ダナエさん!ほら、いくよ、でぶウサギネコ!」
「ぐえ……!首絞まるニャ!放すニャ!!」
ふっと振り返れば、ずるずるとニキータを引き摺って走るあたしをダナエはポカーンとした表情で見ていた。さあ、ちゃっちゃと仕事は済まさなきゃ!
気が付けば、さっきまで高い位置にあったお日様は徐々に低くなっていた。
++++++++++++++++++++
「オラオラ!金出せ金出せ!!出せだせだせーーー!!」
「こいつらニャ!オイラこいつらにタコにされたニャ!」
ダナエの言うとおりの方向へと向かえば、そいつらはいとも簡単に見つかった。
汚い格好に汚い言葉遣い。そして手には使い込んだ様子の古びた弓矢。これだけの要素が揃っているのに盗賊じゃないとすれば、それは詐欺のようなもんである。
しっかし、金、かねうっさいなーそんなに欲しいってんなら……
「ほーい。それあげるわ」
あたしは、ポケットの中に大量にあったアレを一つ、思いっきり盗賊に向かって投げ付ける。
「うおらあああああ!これ飴じゃねぇかあああああ!!」
「頭の残念な悪党にはそれで十分でしょ?」
そう言って口角を上げニヤリと笑えば。
「なめんななめんな!!なめんなぁあああー!!せんせー!出番だー!のしてくだせぇーー!!」
「コイツら金の亡者にゃ。許せないニャ」
「いや、あなたにだけは言われたくないと思うよ?」
そうしてあたしは静かに、背負った槍を下段に構えた。たまにはいいよね?正義の味方ごっこもさ。そんなことを考えるあたしの目の前では、せんせーもとい―……巨大なカマキリの姿をしたモンスターがその巨大な鎌を振り上げていた。
「……ということで、だいしょーりー!」
「あ……アンタ本当に強いんだニャ……」
覚えてろよー!と芸を何もない捨て台詞を残して盗賊は去っていった。気を失って目を回しているせんせーをよれよれと担ぎながら。あっ、また、せんせー落ちたよ。
んでもって、街道に残っているのはあたしとニキータと―……
「本当、お前って暴れたら手がつけれないよなー」
そう……そしてドゥエルの姿が……って!?
「ドゥエル!?なんでドゥエルがここにいるの!?」
「ティーポに頼まれて来たのさー危ないからって」
そうか……そうなのか!あたしは友人達の暖かい心遣いに感謝しつつ顔をほころばせー……
「盗賊が」
前言撤回。こいつら鬼だ。
「こほん……まあ、とにかくニャ。アンタにゃらやってくれると信じていたニャ。アンタやっぱりすごいニャ。大儲けさせてあげるニャ!……アダマソナベ……草ムシまんじゅう……ヘバタのタコムシ……普段なら三千ルクニャ。あんたにだけ特別に三百ルクにしてあげるニャ」
「お……い、おいマナ!!」
大体、みんな、あたしの事を凶暴だって言いすぎなんだよね。そりゃあ、人よりはすこーしばかり腕っぷしが強いかもしれないけれど、あたしだってこれでも一応ー……
「へっ?」
ゆさゆさとドゥエルがあたしの体をゆする。そーいや、やけにポケットが軽いような……?
「よき出会い、よき別れ!人生エンジョイするニャ!それじゃ、アディオスニャー!!」
そう声を高らかに上げて、ニキータは笑顔で―……それこそ脱兎のように走り去っていった。手に三枚の百ルク硬貨を握り締めて……って!!
「まてぇええええ!!それあたしのお金だろうがあああああ!!」
「……ねえ、瑠璃くん……あれお姉様よね?何か叫んでらっしゃるみたいだけど……」
「あんまり見るな。見るもんじゃない」
「そ……そっかな?」
あたし達のすぐ後ろで、そんなやり取りがあったことを怒り心頭のあたしが知るよしもないのだった。
++++++++++++++++++++
「……ということがあったわけよ。って、サボテン、あなた、あたしの話聞いてる?」
大きな木の下にある小さな家。その家の二階にあたしの声が響く。
「かねのもーじゃ」
そんなあたしの話を聞いたサボテンは一言、そう呟いた。
《サボテン君にっき》
たびのしょうにん、にきーたと、
とうぞくたいじしたらしい。
とうぞくは、ちょっとこわいけど、
にきーたも、かなりのものみたいだ。
にきーたって、どんないきものだろう。
どきどき。