ファ・ディール編(聖剣LOM)
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「……遅かったじゃないか。真珠姫ならこの先だ。早く助けてやれ」
「……何者だ?何故、真珠姫の名前を知っている?」
「……それと……君。あまり、こいつらに関わらない方がいい」
「……そういう事は自分で決めるって決めてるから」
「……アンタ……俺達の何を知っている……」
「そう……君がそう言うのなら、私は止めないわ。でも、そうね―……」
君が石にならなければいいけど。
《Tales of Mana》
「……という事で、真珠姫を奈落の底まで追っかけ隊が無事に成立したわけですが」
「……おい、なんだそのふざけた名前は……」
パンパンと二回両手を打ちながらそう言えば、相も変わらず睨みをきかせてくる奴が一人。瑠璃色の瞳と髪を持ち、胸に大きなラピスラズリを身に着けた若い男ー……瑠璃と名乗ったそいつは綺麗に整った顔を……これまたおもしろい具合に歪めてあたしの方を見ていた。
せっかく綺麗に整った顔をしているのに……と、非常に残念というか……おしいと感じてしまうのは、決してあたしだけじゃないだろう。……そんなに顔を歪めちゃ勿体ないよね。
「まあ、細かいことは気にしない気にしない。……血圧上がってぶっ倒れるよ?」
「黙れッ!」
……一から十まであたしの期待通りのリアクションが返ってくるというのは、ある意味おもしろくないもんである。……って、いい加減止めないと。
そんな事を考えているあたしの後ろでは、瑠璃の気迫に怯えたレイチェルが小刻みに震えていた。
「ちょっと名残惜しいけどからかうのはここまでとして……その真珠ちゃんってどんな子なの?」
いくらド田舎のドミナの中を探すだけだとはいえ、真珠姫の容姿が分からなければ話にもならない。
「……白いドレスに、長く編んだ髪を垂らしている。妹……みたいなもんなんだ」
あたしの質問に瑠璃はポツリ…と、ぶっきらぼうに答えた。 相変わらず不機嫌そうな声だけれど、その声の裏からは必死さ……って言えばいいのかな?そんなものが見え隠れしていて、瑠璃にとってその真珠姫という子が大切な人物であるという事は簡単に分かった。
「おっけー。つまり、白いドレスで髪の長い……おっとりした子を探せばいいわけね」
「……!……お前、真珠に会ったことがあるのか!?」
「ないない。迷子になっちゃうくらいだから、ぽーっとした子かなあ?って勝手に思っただけ。……って瑠璃、さっきと同じ鉄を踏んでない?」
ついさっき起きたばかりなのに、同じようなうっかりをしでかした瑠璃を笑うあたし。そんなあたしを怒鳴る瑠璃。怒鳴る瑠璃に怯えるレイチェル。……昼の本来なら静かな酒場に三者三様のリアクションが広がった。
「……ねえ、マナ、これ……」
「……ん?どうしたの、レイチェル?」
あれからちょっとだけ時間が経って、少し落ち着いた頃……今まで震えていたレイチェルがおどおどと口を開いた。あたしはというと……今だに荒らぶっている腹筋をなんとか押さえ付けレイチェルの方へと向き直る。
「これ……今朝お店の前に落ちてたから……その……拾ったんだけど……」
そう言ってうつむいたレイチェルの視線の先、レイチェルの小さな手のひらの上には大きな緑色の卵―……のように見える宝石が一つ。
「……それは、翡翠(ヒスイ)か?……ッ!真珠姫の香りがする……!」
瑠璃の声にレイチェルはびくっと一度肩を震わせる。……あれだけ自分に対して敵意を剥き出していた相手が再び自分に話し掛けてきた―……レイチェルじゃなくてもびっくりするよね、そりゃあ。
あたしだってびっくりしている。主に後半の変態発言的な部分で……って……ん?
「……レイチェルこれ……もしかしなくても?」
あたしが何を言おうとしているのか……レイチェルは既に察しているのだろう。言葉の続きを言う前に、レイチェルは深く頷いて、はっきりとこう言った。
「たぶん、”アーティファクト”だと思うの」
「……”アーティファクト”?」
視界の端では、あたしとレイチェルの会話の意味が分からないといった様子の瑠璃が一人首を傾げていた。
「……どういう事だ」
「うーん……こーゆー事」
さも当然とばかりにケロリと言い放つあたしに瑠璃は声を荒げる。
「……さっきまでは確かに街の酒場にいたはずだ……なのにここは……ここはどう考えても洞窟の中だろ!?」
はい、瑠璃くんの言う通り。あたし達が今いるのは地元の人達からはメキブの洞窟と呼ばれている、鍾乳洞の入り口だ。
何故、さっきまで街の酒場にいたあたし達が一瞬にして離れた場所に現われたのか?その答えは単純明快。それは―……
「あたしがアーティファクトを発動させたから、だよ」
「……アーティファクト……さっきも話していたな。何だ、それは?」
瑠璃は益々警戒を強めながら、そう言葉を紡いだ。しっかし、聞かれるだろうなー……って思っていたけれど……そう一人考えながら、あたしは自分のほっぺたを軽く指で掻いた。……はてさて……どう答えるのが一番いいのやら。
「うーんと……アーティファクトっていうのは……簡単に言っちゃえば、魔法楽器のすごいやつ……みたいなものなの。……ちなみに、魔法楽器っていうのは……分かるよね?」
「……魔法を使う奴らが持っている道具……だよな。確か、楽器の中に宿っている精霊の力を引き出す触媒だと聞いた事がある」
おお!そこまで分かっていれば理解してもらうのは案外楽かもしれない!意外と博識な瑠璃に心の中で密かに関心しつつ、あたしは言葉を続けた。
「そっ。正確に言えば、大気中にあるマナの波動に精霊の波動を共鳴させてるんだけれどね。……アーティファクトも基本は同じ。マナの波動を共鳴させるの。ただ……マナの波動と共鳴させるものが精霊であるのが楽器ならアーティファクトはそれとは違うものになる」
「……何を共鳴させているんだ……?」
「人の思念。そして記憶」
瑠璃の目を正面から真っすぐ見つめて……あたしはそう答えた。
アーティファクトには人の思念が封じられている。昔……ずっと昔に戦争が起きた時、兵力にするために人形師アニュエラが道具たちに命を吹き込んだ事が起源になった……と言われているけれど本当のところどうなのかは誰にも分からない。
「……と言う事は、それも兵器……なのか?」
瑠璃はあたしの手のなかにある翡翠の卵を指差して、そう尋ねた。……気持ち少しだけ後ろに下がりながら。
「……違う……アーティファクトは兵器なんかじゃない」
気が付けば、あたしは自然にそう呟いていた。
「アーティファクトには思念が封じられているって言ったよね。この翡翠の卵には真珠ちゃんの思いが宿ってた。だから、その思念とマナの波動を共鳴させたの。……そうしたら、この洞窟にたどり着いた…ってわけ」
「つまり……転移魔法を使ったわけだな……お前は」
「うーん……たぶんそんなところだと思う」
「……そんなところって……お前な……」
あたしの言葉を聞いた瑠璃は、はあ……と、この日何回目か分からないため息を吐いていた。
「さあさあ、細かいことは後回し!さっさとあなたの大切なお姫様を探さなきゃ、ね?」
と、ウインクしながらそう言えば……少しだけ……ほんの少しだけ表情を柔らかくした瑠璃がいた……ような気がした。
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「しかし……不思議な洞窟だな………上から氷柱のように石がぶらさがっている」
道中、次々と襲い掛かってくるモンスターを片手剣でなぎ払いながら瑠璃はそう呟いた。よそ見をしつつ、これだけ戦えるって事はそれなりに腕は確か……って事か。
「ここの石は石灰石みたいだし……ここは地下水が長い年月をかけて作り出した鍾乳洞だと思うよ?……はい、こっちのモンスターはおしまい、と。そっちは?」
槍についた泥を軽く払ってそう言えば。
「……今、終わったところだ。……さあ、行くぞ。真珠が心配だ」
瑠璃はパチン……と片手剣を乱暴に鞘に納めて、大股で洞窟の奥へ奥へと進んでいった。ピチャン……と上から落ちてきた雫は水溜まりに静かに波紋を作っていた。
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「だいぶ奥まで来たと思うけど……いた?真珠ちゃん?」
「クソッ……!いったいどこに……」
入り口からずっとずっと奥の方まで進んできたはずなのに……真珠姫らしき人影は、まだ、どこにも見当たらなかった。モンスターがうようよしているこの洞窟に女の子が一人……しかも、ここまで来てまだ見つからないなんて―……一瞬、自分の頭によぎった考えを振り払うようにあたしは横に頭を振った。そんなわけがあるはずがない。ん……あれ?
「……瑠璃くん……あそこに……人いない?」
視界の端でぼんやりとだけど何かが動いている。目を細めてよく見てみれば、それは確かに人で。あたしの話が終わらないうちに、瑠璃はその人の方へと走り出していた。
瑠璃のあとを追ってその人の方へと近づけば、遠くからでは霞んでいた輪郭がどんどん鮮明になっていく。そこにいたのはやっぱり人で、とても綺麗な女の人だった。
「……遅かったじゃないか。真珠姫ならこの先だ。早く助けてやれ」
目が覚めるような鮮やかな茜色の髪……その髪を彩っている大きなハイビスカスの花飾りを触りながら女の人はそう言葉を紡いだ。
「……何者だ?何故、真珠姫の名前を知っている?」
瑠璃は静かに、目の前の女の人に問い掛ける。だけどその声には焦りの色が色濃くにじみ出ていて―……そんな瑠璃の様子を見た女の人は、その相貌を細めて……真っ赤な口紅が施された唇の端を少しだけ上げて満足そうに笑った。
「……それと……君。あまり、こいつらに関わらない方がいい」
でっ、その次にあたしの方を見て……ん?あたし……?
どこからか吹き込んできた湿った風が女の人が着ている緑のチャイナドレスの裾を軽やかに揺らす。瑠璃の砂マントと同じように。
「……そういう事は自分で決めるって決めてるから」
女の人にあたしははっきりと、自分の言葉を告げた。大体、あたしの事をよく知りもしない人に、あーだのこーだの言われることは好きじゃなかった。
「……アンタ……俺達の何を知っている……」
「そう……君がそう言うのなら、私は止めないわ。でも、そうね―……」
瑠璃は声を荒げる。だけど、そんな瑠璃を歯牙にかけるでもなく、女の人は優雅に笑って……あたしにこう言った。
―……君が石にならないといいけど……―
「きゃあああああッ!!」
突然、薄暗い洞窟内に甲高い女の子の声が広がる!……声の種類からして明らかにそれは悲鳴だった。
「真珠ッ!!」
「……ッ瑠璃!?」
声を聞いた瑠璃は全力で声のする方へと走りだした。あたしもすぐにそのあとを追い掛けたから、だから分からなかったんだ。
―……今は……まだ……いい夢をね……―
女が一言だけ呟くと、漆黒の闇の中へと溶けていったということに。
「……瑠璃くん!?……って、こいつは……!?」
「……おそらく、この洞窟の主だろ。気を付けろ、奴の息にあたるとああなるぞ」
あたしが瑠璃に追い付いた時には既にそれは始まっていて……瑠璃はあたしにそう言うと、近くの壁を指差した。その壁は広い範囲が氷に覆われていて……周囲の壁と見比べると明らかに異様だった。
「……氷の息?」
「おそらく、な。そこにいられると邪魔だ。どけ」
「はあ?」
そうあたしに悪態を付いたかとおもうと、瑠璃は洞窟の主の懐へと剣を握り締めて飛び込んでいった。へぇーそこまで言うなら見ててあげますよ、と。瑠璃をどつきたい衝動を押さえ、大人の対応をとることに決めたあたしは、少し離れた壁に自分の体を寄り掛からせるのでした。
「ふーん……」
瑠璃は素早く動いて洞窟の主を撹乱する。主の巨体は瑠璃の動きについていけないので、動きは絡まってばかり。手に持った大きな戦斧を乱暴に振り下ろしても、瑠璃には当たらないから無駄に岸壁を削るだった。対して瑠璃は、近づいたその時に確実に剣撃を決めている。どちらが劣勢であるかだなんて、子供の目から見たってはっきり分かるだろう。
「……ッ!」
今まで焦りの色をにじませていたはずの主が、突然、かっとその両目を見開く。そして、その表情はすぐにぐにゃりと歪んで―……
「あちゃー……これはまずいねー……」
「……お前ッ!!」
あたしの足元がパキパキッ……と短い音を立てながら固まっていく。そう、あの時、主は瑠璃ではなくあたしを見て笑っていたのだ。瑠璃がダメなら今度はこっち……ってわけですか。
主はドシドシと大きな巨体を揺らしてこっちに向かってくる。大きな戦斧を……自分の真上で振りかざしながら。
「マナッ!!」
瑠璃の声が鋭く響く。そして!!
「……サラマンダー」
あたしの声と乾いた笛の音が順番に重なった。
「……くっ!!」
笛の音に合わせるように熱風が踊る。熱風はあたしの足元の氷……ううん、この部屋全体の氷を溶かして……氷は蒸気へとその姿を変えていった。そして次の瞬間には―……
「ぎゃあああ!!」
声にならない悲鳴を上げて主は洞窟の奥へと走り去っていった。そして、あたしの足元にはまるで飴のように溶けた斧だったものだけが転がっていた。
「……お前、魔法使いだったのか……それになんでモンスターではなくアイツの武器だけを焼いたんだ?」
「魔法使い……か。まあ、一応使えるには使えるね。主じゃなくて武器を狙ったのは……主の領域に勝手に踏み込んだこっちの方に非があると感じたから。……それより、真珠ちゃん……探さなくてもいいの?」
「……ッ!そうだ、真珠姫どこだ!?」
瑠璃の胸の宝石が一度、チカッと強い光を放つ。星の瞬きのように光るそれは……誰か呼んでいるように見えて、そして―……
「……瑠璃……くん?」
まるで、その光に導かれたかのように岩影から一人の女の子がひょこっと顔を出した。丁寧に編みこまれた長い栗色の髪、白いドレス……瑠璃が話した通りの容姿をした少女―……真珠姫の下へ瑠璃は慌てて駆け寄っていった。
「核は傷ついていないか?」
「ええ……」
「一人でうろつくなとあれほど言ったじゃないか!どうしてこんなところに?」
「……考え事をしていたの……色々……」
真珠姫を見つけたというのに瑠璃の不機嫌は今だに続いていて……強い声色で尋問する瑠璃に真珠姫はか細い声で応対している。真珠姫の言葉を聞いた瑠璃はこの日一番の大きなため息を吐くと……すぐに真剣な顔に戻ってこう言った。
今は考えなくてもいい。今はおとなしく、俺に守られていればいい……と。
「でも!!」
「いい加減にしろッ!」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
瑠璃の怒鳴り声が鼓膜を揺らす。うわっー……またやりやがったよ……この男。酒場でのレイチェルと瑠璃とのやり取りを思い出したあたしは、今度こそ自分の頭を手で押さえていた。そして頭を上げて視線を二人の方へ向ければ案の定……レイチェルと同じように瞳を頼りなく揺らしている真珠姫の姿がそこにあった。
「こーら、そこのヒステリーストーカー男ーいい加減にしなさい!」
「……なっ!?ストーカーだと!?……って何故笑っている!?何がおかしい!?」
真珠姫に詰め寄る瑠璃をベリッと引き離してそう言えば、酒場の時と同じように引きつった瑠璃の顔が目の前にあって―……ってこれは……そのまんま酒場と同じ?そう考えちゃうと、自然と顔がゆるんじゃって―……
「アハハッ!ごめんごめん。だって……瑠璃くん全く進歩がな……アハハッ……!」
こんな短時間で進歩も何もあるかって話なんだけれど、おかしくて……あたしのバカ笑いと瑠璃くんの怒声が静かな洞窟の中をこだました。
「瑠璃くん……この人は?」
あたしのバカ笑いが収まった頃、今までぽかーんとやり取りを見ていた真珠姫がおどおどと口を開いた。
「……お前を探すのを手伝ってくれた。変わった奴だ」
「おーい、もっと言い方があるでしょーが」
「……そ、そうなんだ」
ぶっきらぼうに答える瑠璃に、納得したように呟く真珠姫。……そんな説明で納得されてもどこか釈然としないのは決して気のせいなんかじゃない。……少なくともストーカーに比べればン万倍マシだもんね!!
「そろそろ行こう」
「……でも……」
あたしが一人、ぶーぶーそんな事を考えていると、いつの間にか、瑠璃は真珠姫の手を強く引いて歩き出そうとしていた。
「ばいばいもなしですかー?」
そう、じとっと半眼になって見つめれば―……
「じゃあな。……助かったよ」
始めと変わらないぶっきらぼうでとっつきにくい瑠璃の声……だけど、瑠璃の口から出た言葉は確かにお礼の言葉で。
「うん、またね!瑠璃くん、真珠ちゃん!」
自然にほころぶ顔をそのままに……あたしは二人にそう告げた。
「……あ……あの!ありがとう。……マナお姉さま……これお礼です」
そんなあたしに真珠姫も答えてくれた。真珠姫の可愛らしい顔は真っ赤なりんごみたいに赤くって、でもその表情は柔らかな笑顔が浮かんでいて……って……!?
「お、お姉さま!?」
「いくぞ」
「ご、ごめんなさい。今、行くわ」
手のひらの上に、真珠姫がくれたお礼の品が乗っていた事に気が付いたのはこれから少し先の話。
++++++++++++++++++++
「……ということがあったわけよ。って、サボテン、あなた、あたしの話聞いてる?」
大きな木の下にある小さな家。その家の二階にあたしの声が響く。
「迷子もたのし」
そんなあたしの話を聞いたサボテンは一言、そう呟いた。
《サボテン君にっき》
どうくつで、おおきなおさるさんと
たたかって、いわのあいだから
おんなのこがでてきて、おんなのこは
とってももじもじしていて
なにがなんにやらさっぱりだったらしい。