シルヴァラント編(TOS)
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「……俺、ずっと考えてるんだ。今だってそうだ。でも、俺バカだから……何も……何も考え付かないんだ!分からないんだ!!助けたい……助けてやりたいのに、苦しんでるあいつに何もしてやれない!いくら考えても答えが出てこないんだ!」
「“思考が思考を生み、永遠に答えが得られないような時でも、あなたは考え、何かを思い、何かを得ている”」
「……えっ?」
「“あなたは考える事で、何か常に新しいあなたに生まれ変わっている”……受け売りだけどね」
「マナ……」
「……だから、無意味なんかじゃないよ。無意味なはずがないんだ。ロイドが今必死に考えてること―……それは無駄にはならない。絶対に」
答えはあたし自身出せてない。……ううん、本当は答えなんて誰も知らないのかもしれない。だけど―……考えるのを止めちゃったらどこにも行けないって、あたしは知ってるから。
《Tales of Mana》
「ユニコーンかぁ……こっちじゃモンスターってわけじゃないんだね」
「マナ……、喋ってないで術書探すの手伝ってよ。僕、一人でこの中から探すのはイヤだよ……」
「あー、はいはい。今行く」
マナの守護塔の封印を解放した翌日、つまり今日。あたしは再びマナの守護塔を訪れていた。
「……しっかし、またすごい量の本。昨日も思ったけど半端ないね」
あたしの目の前にはとにかく本、本、本の山。マナの守護塔の一階部分はかつて教会の書庫として働いていたのだろう……部屋の端から端まで埃をかぶった本棚が並び、その本棚の中は古ぼけた本で埋め尽くされている。
「……でも、探すしかないよ。マナの守護塔にボルトマンの術書があるってソフィアが言ってたんだから」
話は数時間前に遡る。あたし達の本来の目的は世界再生だ。マナが消えるとか消えないとかも含めて、あたしから言わせてもらえば“世界再生”なんてうさん臭い事この上ないんですが―……コレット達にとってはすごく重大な目的なわけで。……まあ、人によって感じ方や考え方が変わるなんてのは当たり前な事なんだから捕え方が変わるのは仕方がないんだけどさ。とにかく、あたし達の旅の最大の目的は世界再生なわけ。その世界再生の旅を急ぐってだけなら、ハイマって街から救いの塔へ行けばいいらしいんだけど―……
「ソフィアと約束したしね。ピエトロを助けるって」
「だから、またこうやってマナの守護塔に来てるわけだしね。なんだっけ?リフィルが言ってた本って?」
「“ボルトマンの術書”。姉さんの話だと、その術書とユニコーンの角さえあればピエトロを助けられるんだって」
アスカードの人間牧場に入る鍵をあたし達に託してくれたのはピエトロとソフィアだった。ピエトロは今、ディザイアンの呪い(……とソフィアは言っていたけど)で自我を無くし、病床に臥せっている。あたし達は“ピエトロの体を治す”って事を条件に、ピエトロの看病をしているソフィアから鍵を貰ったわけなんだけど―……世界再生のために塔に行ったら無事に帰ってこれるかも分からない。だから、塔に行く前にピエトロとソフィアとの約束を果たそうって事になったわけ。
そして、肝心のピエトロを治す方法なんだけど―……リフィル曰く、ボルトマンって人が残した術書と術の触媒となるユニコーンの角があれば助ける事が出来る。って事なんだよね。だから、その術書を手に入れるためにあたしとジーニアスの二人でマナの守護塔へ来ているってわけ。ちなみにロイド達他のみんなはユニコーンの角を手に入れに行ってます。
「ロイド達ちゃんとユニコーンの角、手に入れられたかなー……」
「大丈夫っしょ?あっちは人数多いし……それにユニコーンはユウマシ湖……だっけ?その湖にいるのは確かなんでしょ?」
「うん。ハイマの人達の話だとユウマシ湖の底に一本角の白い馬を見たって事だし……それってユニコーン以外考えられないよ。しかも、一人じゃなくて何人も見たって言ってるから可能性としては一番高いしね」
まあ、問題は水の底にいるユニコーンとどう接触するかなんだけど……とジーニアスは言葉を続けた。……前々から思ってはいたけどジーニアスは年のわりにしっかりしてるし博識だよね。……まあ、まだまだ子供特有の危なっかしさはあるけどさ。
「あっちにはしいながいるしさ。しいなは精霊召喚できるんでしょ?だったら大丈夫じゃないかな?」
「そうだといいけれど……」
「ほらほら、心配してばっかじゃキリがない!早くしないと手分けした意味なくなっちゃうって」
古い本の匂いってやつは嫌いじゃないんだけど、なにせここは埃が多い。一刻も早くここを出て埃を落としたいというのは乙女の正当な欲求だ。
「はあー……でも……本当に多いなー……見つかるのかな?……そう言えば、マナ……ここの文字読めないとか言ってなかった?そんなんでどうやって探す気だったの?」
梯子を使い次々と本を手に取っていたジーニアスがその手をピタリと止めてため息を吐く。なんかもう全身から“疲れた”って雰囲気が滲み出てるぞ少年。あんまりため息ばっかりだと幸せ逃げるぞ、と。……んな事言ってる場合じゃないか。さっさと終わらせてこんな埃臭い所とはおさらばしなきゃ。
「そりゃあこの世界の字はまだ読めないけど、あまりこのマナさんをなめちゃいけないよー?……まあ、見てらっしゃい」
あたしはジーニアスにそう言うと、目を閉じて意識を集中し始めた。ボルトマンって人がどんな人なのかは知らない。でも、記憶は人だけのものじゃないから。どんなものにだって記憶は残る。しかも、ボルトマンの術書は伝承に残ってるぐらいの古い本だ。……その記憶を探るのなんて……
「ジーニアス、そっから左に十冊、下に三段下がった所の本見てみて」
「えっと……左に十……下に三……ウソッ……あった!これだよ!術書!」
「ほーら、役に立ったじゃない」
アーティファクトを使うよりずっと簡単なんだよね。我ながらすごい!と自然に口角が上がってしまうのはいたしかたないことでしょ、うん。アーティファクト使いをあまりなめてもらっちゃ困るのだよー
「うわぁ!!マナ!手、梯子支えてる手を放さない……!!」
「ん?うぎゃぁああ!?」
もうもうと舞い上がる埃が瞬間視界を遮る。埃は窓から洩れてくる光と無駄に綺麗な光の梯子を作っていた。そして、あたしは腰を擦りながらジーニアスと一緒にそれ見るはめになったのでした。あー……痛い。
++++++++++++++++++++
「みなさん!治癒術は……!」
「見つかったよ、ソフィア。さあ、ピエトロのところへ案内しとくれよ」
「はい、しいなさん!みなさん!こちらです!!」
あたしとジーニアスが術書を探し終えてハイマに戻ってきたのがお昼前。そしてその日の夕方近くにロイド達もハイマへと戻ってきた。
ユニコーンの角とユニコーンに会う時に力を借りたという、水の精霊ウンディーネとの契約の証のアクアマリンの指輪を手に。そして……とても悲しそうな顔をして。
“ユニコーンの角はユニコーンの命そのもの。ユニコーンは角を無くしてしまえば死んでしまう”
あたしの疑問にロイドはポツリポツリと今日、何があったのかを話してくれた。
ユウマシ湖にはたしかにユニコーンがいた事。湖の底にいるユニコーンと接触するために水の封印……ソダの間欠泉まで戻ってウンディーネと戦い契約をしてきたという事。そして……ユニコーンはコレットとしいなに角を託すと……空に消えていってしまったって事。
……だから、しいなとコレット……あんなにつらそうな顔をしていたんだ。しいななんて泣き腫らした目をしていたし、コレットだって今は泣けない体だから涙は出せなかったみたいだけど、その顔は暗かった。
でも……とロイドはさらに言葉を続ける。ユニコーンは死んでしまったけれど、同時にどこかで新しいユニコーンが生まれる。ユニコーンはそういう生き物なんだ、って。
「さあ、今から新しい術を試すわ。よろしい?……レイズデッド!」
リフィルの声に、あたしとロイド……ううん。みんなの視線がリフィルに集まる。そして、彼女の杖の先には暖かな白い光が集まりだし、そしてその光は徐々に輝きを増してピエトロとリフィルを包んでいった。
「ここは……」
「目を覚ました……!ここはハイマです!分かります!?」
白い光がおさまった時、そこにいたのはキョロキョロとせわしなく辺りを見回すピエトロと、目に涙を浮かべてピエトロに抱きついているソフィアの姿だった。
……もしかしなくても……これってドリアードかウィスプの力を使えばあたしでも助けられたかもしれない。……今更、沸々と沸いてきたもっともな考えは取り敢えず蓋でもしておこう。……なーんで気付かなかったんだ?あたし?
「“エンジェルス計画”に“魔導砲”ねえ」
目覚めたピエトロはあたし達に色々な事を話し始めた。ピエトロは元々アスカードの人間牧場にいたんだけれど、神子……つまりはコレットにどうしても伝えたい事があって危険を承知で牧場から脱出してきたらしい。
「エンジェルス計画か……そーいや、クヴァルも何か言ってたな…俺のエクスフィアがどうだ……とか。くそっ!ディザイアンの奴ら、俺達人間を一体なんだと思ってんだ!」
ロイドが苛立たしげに……でもどこか苦しそうに言葉を紡ぐ。そんなロイドを一瞥するとピエトロはさらに話を続けた。ディザイアン達はエンジェルス計画とかいうネーミングセンス皆無な謎の計画を進めていて、何かを復活させようとしているらしい。でもって、その計画と平行して魔導砲とかいう兵器も開発しようとしている。……だから、神子様になんとしても止めてもらいたい。彼の話をまとめるとそういう事みたいだ。
「……我々が何を考えても所詮、推測でしかない。我々が早急にしなければならない事は、一刻も早く救いの塔へ行き世界を再生……ん?神子どうし……」
あーあ~……タイツがロイドの言葉遮ってなんか言ったもんだから我らが神子様が……あー……うん、つまりアレ……黒い。コレットちゃん、喋れなくなってから笑顔に磨きがかかってないかい?いや、あたしはコレットと話す気になればできるんだけど……ほら無言の圧力ってあるよね。
なのにロイドが気付かないのは、ロイドが天然だからかはたまたコレットがすごいのか……両方か……きっと。てか、タイツもいい加減学べばいいだろーに。
決して口には出してないけど三人のやり取りを見ながら、あたしはそんな事を他人事のように考えていた。
「三人ともいい加減にしなさい。今、しいなとジーニアスに竜観光をしている方の所へ竜を手配してもらえるように頼んで貰いに行きました。救いの塔へはその竜に乗っていけば行けるはずよ。……でも、本当にそれでいいのかしら?コレット?」
「ん?どったの?コレット急にあたしの手なんか握っ……分かったよ……
“うん……先生、私、決めていますから”……だってさ、リフィル」
コレットはあたしの手を握り言葉を……思いを送ってきてくれた。……あたしはコレットの言葉をそっくりそのままみんなに伝える。
「……そう。じゃあ、今日はゆっくり休みなさい。……いいのよ、あなたの今後を知っていて私にはこんな事しかできないんだから」
リフィルの声は徐々に小さくなっていった。リフィルはコレットに優しく頬笑んでる。頬笑んでいるのにその顔は……どこか泣いてるようにも……見えた。
明日はついにさいごの封印を解放する日……か。なんだか……こう……上手く言葉に出来ないんだけど……でも……
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リフィルの提案で今日の残りの時間は自由行動ということになり、みんなと別れたあたしは一人、この街で一番高い場所……岩山の展望台に来ていた。山々から吹き込んでくる風は冷たくて、空は紫やオレンジ……それから紺色と、とにかく色々な色が複雑に混ざりあって綺麗な、でもどこか奇妙な模様を作り出していた。
そんな抽象画を切り取ったような世界の中心にポツンと立っている白亜の塔。それは救いの塔と呼ばれる塔で、雲を突き抜けてどこまでもどこまでも続くそれは圧倒的な存在感と、そして……どこか不気味な雰囲気で静かにたたずんでいた。
パッと見れば、白亜のとても美しい、救いという名に相応しい塔。だけど、あたしは……あたしの目に写るそれは―……
「……“救い”……か」
「何してんだ、マナ。こんなところで。救いの塔がどうかしたか?」
後ろから聞こえてきた声に反応して顔をそちらに向ければ、二人で剣の稽古でもしていたのか、タオルで汗を拭っているロイドとロイドとは対照的に涼しい顔をしてあたしを見つめるタイツがいた。
「うーん……ちょっとセンチメンタルな気分に浸っているわけですよ」
おい、なんだ、そのありえないものを見るように引きっつた目は。二人とも似たような顔してるし。
「二人ともー……女の子相手にそれは失礼じゃないー?」
そう言ってじと、っと二人を見れば……おぉー……焦っとる焦っとる。ある程度、予想をしてたけどこれはこれで面白いかも。
「なーんてね。色々考えてたんだ」
「……明日は、朝が早い。お前も早く休め」
タイツはいつもと同じように冷静そのものの顔で、いつもと同じように低い声であたしに言葉を掛けた。その声を聞いたあたしは少しだけ目を閉じて……前々から不思議に思っていた事を言葉に紡いだ。
「ねえ、あそこにあるのは……」
「ん、なんだ?マナ?」
「本当に……“救い”なの?」
山々から冷たい風が吹き下ろす。あたしの髪をなびかせ、ロイドとクラトスの服をなびかせて。風が過ぎ去っていった後には夜のような沈黙だけがあたし達の間にわだかまっていた。
「……あのさ、マナ、少しだけ話しいいか?……悪い、クラトス先に宿に戻っててくれないか?」
「……わかった」
「……ロイド、いいの?コレットとは話してきたの?」
「……コレットとはクラトスと剣の稽古をする前に話してきたよ。それに、マナとは前々から話しておきたかったからさ」
ロイドは自分の頭を少し掻いて、そう言った。
「……でっ、どうした?少年……何を悩んでる―……って聞くだけ野暮ってもんか。……コレットの事でしょ?」
「ああ…明日救いの塔へ行けばこのシルヴァラントは救われる。ディザイアンに苦しめられてる人達……マーブルさんみたいに苦しんで死んでいく人達がいなくなるって分かってはいるんだ」
「……でも、そうすればしいなの世界“テセアラ”がここと同じになってしまう。……ううん、それ以前に―……コレットが無事でいられるか……それすら分からない」
欠けた月があたしを、ロイドを、どこか冷たい青い光で照らす。夕間暮れの風より冷たい夜風は彼の少し癖のある茶色い髪を夜風が少しだけ撫でていった。
「……俺、ずっと考えてるんだ。今だってそうだ。でも、俺バカだから……何も……何も考え付かないんだ!分からないんだ!!助けたい……助けてやりたいのに、苦しんでるあいつに何もしてやれない!いくら考えても答えが出てこないんだ!」
ロイドの悲痛な声が夜の空気を、マナを震わせる。そして彼はこう言った。何もかも無意味なのかもしれない……と。
ロイドの言葉を聞いたあたしは青い光を放っている月を少しだけ見上げて……それからロイドの赤茶色の目に真っすぐ向き合う。そして……いつだったか……ファ・ディールにいた時に七賢人の一人であるガイアがあたしに話してくれた言葉を口にしていた。
無意味なことなんかない。
「行こう、ロイド。何かあったら蹴散らしちゃえ。あがくしかできないんだったら格好悪くても最後まで足掻いてやる」
月明かりに照らされた白亜の塔は、月の光を浴びて不気味に妖しい光を放っていた。