シルヴァラント編(TOS)
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「今だってコレットの手を通じて、読み取ってる。……でも、安心して。好き好んで人のマナを読むような感じ悪い趣味はないから。……第一、普通の状態の人のマナははっきりとは読めないんだ、ぼんやりとしちゃって。当たり前だよね?誰だって自分の考えを知られたくない。だから、普通は無意識のうちに思考を塞ぐ膜……って言えばいいのかな?それを張る。でも、今のコレットにはそれがない」
「……お前……一体何者なんだ……?」
「“アーティファクト使い”……そう呼ばれてた」
マナ……全ての命の源。構成成分。そして……アーティファクト使いは人の思念とマナの波動を通じて想起する者。
《Tales of Mana》
「うひゃー……高いなー……てっぺんが霞んでる。ここがマナの守護塔?」
「そうだよーここがマナの守護塔。今は魔物が出るから封鎖されちゃってるけど、ずっと昔はここから救いの塔に向かってお祈りをしていたんだって」
牧場から脱出して一夜……あたし達は再び世界再生とやらの旅を続けている。まあ……朝から色々話し合ったんだけど、ね。コレットの身体の事とか……でも、結局こうなった。
コレットは封印を解除するたびに人間らしさって言えばいいのか―……とにかく、あたし達が普段は気にも止めないものだけれど、とても大切なものを失っているらしい。天使になるための試練って言っちゃえば、そりゃあ聞こえはいいさ。でも―……
「どしたの、マナ?マナは入らないの?」
入り口で立ち止まって塔へと足を進めようとしないあたしを不思議に思ったのか、コレットが首をかしげながら、そう尋ねてきた。
「ねえ、本当それでいいの?」
「“それ”って?」
「天使になるって」
「……うん。だって―……」
「朝みたいに“お父様が望んでるから”っていうのは、なし。じゃ、あなたの意志は?あなたの心は?一体どこ?」
塔を取り囲む山々から降りてきた乾いた冷たい風が肌を刺すように吹き抜けていく。……もっとも、今のコレットが分かるはずもないんだろうけど、ね。冷たい風はただ、コレットの髪をいたずらに舞わせるだけ。
「……行こう、マナ。もう、みんな中に入ってるから」
答えは……返ってこなかった。
「……しっかし誰ぇ……こんな面倒な塔作ったの……」
「マナー……そんな事言わないでよー……僕も嫌になってくる。はあ……まだまだ長そうだし……ロイド達……大丈夫かな?」
一歩塔の中へ入ればたくさんのほこりと、もはやお馴染みの石版があたし達を待ち受けていた。どうやら再生の書にあった封印の一つはここだと考えて間違いないみたい。でもって、コレットがこれまたいつものように手をかざせば塔の仕掛けが起動して、ばびゅん!!と最深部まで―……!
「……だったら楽だよね。すごく」
「そんなおいしい話、あるわけがありません」
ですよねー。現実って奴はお砂糖みたいに甘ければいいのにぜんっぜん甘くない。ここの塔、ひたすら馬鹿多い階段を上るだけにはあきたらず、二手に分かれて仕掛けを解除しなければならないという素晴らしい嫌がらせ仕様なのだ。……って事で、あたしはリフィルとジーニアス姉弟と一緒に塔の頂上へとヒイヒイ言いながら仕掛けを解きつつ登っているわけ。……主にヒイヒイ言ってるのはジーニアスだけど。
「ほら、大丈夫か?少年?息あがってるぞー?」
後ろを振り返れば、そこには背を大きく上下させて壁に手を置くジーニアスがいた。ジーニアスは魔法使い(こっちの世界では魔術士というらしい)だ。魔法使いっていうのは、後ろからの援護を得意にしているから、基本的に体力が少ない。身も蓋もない言い方をすれば貧弱ってやつ。おまけにジーニアスはまだ子供。疲れるなって言うのは無理な相談ってもの、かな? でも、魔法使いの小生意気な子供ねー……
「何がおかしいのさー……マナ。そんなに僕がおかしい?」
少しは呼吸が落ち着いたのか、ジーニアスはじとっと恨めしそうな目をしてあたしを見上げている。
「いやー……ごめん、ごめん。なんかさーちょっと思いだしちゃってさ」
「思い出すって……何の事かしら、マナ?」
「元いた世界だよ。あっちにね、ジーニアスみたいなのがいたなーって」
フフッ……と自然に口から笑い声が漏れる。やっぱりあたしにとってファ・ディールは特別大きな存在だった。ここのみんながシルヴァラントという世界を特別に思っているように、ね。
「そう……あなた、別の世界の人間ですものね。……すっかり忘れていたわ」
リフィルはゆっくりと口を開く。まるで、自分で言った言葉の意味を確かめるように。あっ……そうだ……ロイドもいないし聞いてみるか。
「でもリフィル?よくあたしの話を信じたよね?ロイドがいたら怒ると思ったから言わなかったんだけど、リフィルってまず人を疑ってみるタイプでしょう?」
「あら?あなたってば意外と鋭いのね?ええ、そうよ。全てをすぐに信じるのは愚か者がすることでしょ?」
「ちょっと、マナ!姉さんも!」
あたし達の歯に衣着せないやり取りに驚いたのか、ジーニアスが非難の声を上げる。だが、あたしは構わず話を続けた。
「それなりに修羅場を潜ってるんで。……でも、リフィルはあたしのことを信じてくれた。どうして?」
「あら?疑ってほしかったの?」
「いやー……別にそーゆうわけじゃ」
「なら、別いいいでしょう?結果論になってしまうけれど……現にあなたはここの塔に入ってから何回も私とジーニアスを守ってくれている。前衛が一人しかいないのに私もジーニアスも傷一つ負っていないじゃない?それが答えではないの?」
「あっ!?そういえば、僕、怪我してない!?」
リフィルの言葉を聞いたジーニアスは、目を丸くして自分の身体を見回している。その身体には怪我なんて一つもなくて。
「たまたまでしょ?たまたま出てくるモンスターが弱かったのよ。ほら、早くしないとロイド達を待たせちゃうから」
何となく二人の視線がむず痒くって、あたしは二人に背を向けた。大体、面と向かってこんな事言われたら調子が狂うし―……
「フフッ……じゃあ、たまたまかもしれないわね。でも、ありがとうマナ」
「……うぃ」
++++++++++++++++++++
「遅いぞーマナ、ジーニアス、先生ー」
「ごめん、ごめん。でもそっちも無事みたいだね」
「ああ、そっちも大丈夫みたいだな。前衛がお前一人だったから、実はちょっと心配だったんだよ」
「ああ、それならマナが……ふがっ」
「ストーップ!!」
あたしは隣にいたジーニアスの口に慌てて手で蓋をした。もがもが暴れられても、またあんなむず痒い思いをしてたまるもんですか!
「変な奴。まあ、どうやらこっから先が祭壇みたいなんだ。揃った事だし……行くしかないよな……」
ロイドの声が徐々に弱々しいものに変わっていく。これから何が待ってるにしたって、きっとろくな事は待っていない。でも―……
「……行くしかないみたい……だね。コレット達行っちゃったよ?あたし達が最後」
「……そっか。くそっ!俺は何もしてやれないのかよ……」
ロイドの呟きは静かに壁に吸い込まれていった。
++++++++++++++++++++
再生の神子よ。よくぞここまでたどり着いた。さあ、祭壇に祈りを捧げよ。
「……はい。大地を守り育む女神マーテルよ。御身の力をここに」
祭壇へと進めばいつものように封印の守ってるモンスターが戦いを仕掛けてきて……それを退ければ、これまたいつものようにえらっそうな声が聞こえてきた。いい加減、ここまで同じ事を何回もやらされれば馬鹿でも覚える。でっ、あれでしょ?次は上から羽が生えた胸くそ悪いおっさんが―……
「……アスカはどこ……?」
……ほらね、金髪の何やら美人さんがあたし達の方を見て―……
「へっ?えええ!?」
「うわっ!?いきなり大声出すなよ、マナ!」
あたしの隣にいたロイドが耳を両手で塞ぎながら非難めいた声をあげる。……あっ……ごめん。でもさ……
「おっさん……じゃないよね?アレ?すごい美人さんがいるように見えるんですが……」
なんか形容しがたいものに座ってらっしゃるけど……何あれ……月?みたいな?
突然あたし達の前に現われた美人は目を伏せながら言葉を続ける。……アスカがいなければ何も出来ない……契約も誓いも何もかも……と。そして、その美人はゆっくりと顔を上げて頬笑んで―……?あたしを……見てる?
「ああ……あなたなのですね……」
「はっ?」
思わず、場違いな声が喉から飛び出してきたけど、そんなことはどーでもよくて。……この人、何を言ってるの?あたしを、知っている?
「ずっとずっとお待ちしておりました。……そう……ずっと……ずっと……昔から……実り子様」
「待って!話が見えない!あなたは何を言っているの!?」
自然と大きくなる声。話が全く見えなくて声だけが大きくなって……そして目の前の女の人は徐々に薄れていって……
「待って!!」
……そして、青い昼の空に溶けていってしまった。時が満ちたらもう一度、ここへ来るように。そう、言い残して―……
「長い道のりだった。よくぞここまで旅を続けたな、神子コレットよ。
我からそなたに祝福を授けよう」
いつのまに現われたのか、視界の端にレミエルとコレットの姿が見えたけれど、あたしの頭はさっきの女の人が残していった言葉でいっぱいだった。
コレットが大変な時に不謹慎だと思う。……でも……あの女の人もしかしたら…あたしの……
「最後の封印で待っている。我が娘……コレットよ。そこでそなたは我と同じ天使となるのだ」
……そこまで考えて、あたしはハッと顔を上げた。今……最後って……
「……救いの塔へ、か……」
ロイドの声は風に乗って遠くへと流れていった。
++++++++++++++++++++
「……みんな、聞いてくれないか……」
その夜の野営地。……しいながゆっくりと口を開いた。
今日も野営。……理由は言わなくても分かるよね…コレットが倒れたから。……今度は……声が出なくなって。そして―……
バチバチッと強い音がして火がはぜる。薪がよく乾燥をしていたのか、今日のたき火の炎はいつもよりも赤々とした熱を放っていた。そんな中……しいなはゆっくりと、でもはっきりと言葉を紡ぐ。なぜ、自分が神子の命を狙っていたか……その理由を話をしたい……と。
「聞きましょう。この世界に存在しないあなたの国のことを」
「リフィル!?知ってたのか!?」
「いいえ。でも、あなたがいつか言っていたのよ。“シルヴァラントは救われる”って。それなら、あなたはシルヴァラントの人間ではないって事でしょう?……それにここにはあなた以外にもう一人、違う世界から来た人間がいるもの。今更、何を不思議がることがあるのかしら?」
「……もう一人って……!」
ひどく慌てた様子のしいなとは対照的にリフィルの声は冷静そのものだ。そして、しいなはあたし達を順番に見回して…手を挙げていたあたしを見つけると、そこで視線を止めた。
「……えっ、まさかマナ!あんたも“テセアラ”出身なのかい!?」
「……あたしの世界の名前は“ファ・ディール”。そのテセアラってところじゃないよ」
「そ……うかい……あたし達の国は“テセアラ”そう呼ばれている」
「テセアラ!?テセアラって月のこと!?」
リフィルの横に座っていたジーニアスが弾かれたように顔を上げる。ジーニアスだけじゃなくてロイドもコレットも……同じような顔をしてしいなを見ていた。
しいなは言葉を続ける。詳しい事は分からないけれど、“テセアラ”っていうのは、この世界……つまり“シルヴァラント”と寄り添い合っているもう一つの世界で、お互いに見ることを触れる事も出来ないけれど、確かに隣にあって干渉し合っている……と。そして……その干渉っていうのは。
「マナを搾取し合ってる。片方の世界が衰退する時、その世界に存在するマナは全てもう片方の世界へと流れ込む。その結果、常に片方の世界は繁栄し、片方の世界は衰退する。……砂時計みたいに」
マナがなければ、作物は育たない。魔法も使えない。女神マーテルと共に世界を守る精霊もマナがなければ暮らせない。だから、衰退は加速して滅亡の坂道を転がり落ちる。……しいなはそう語った。
「じゃあ、神子による世界再生はマナの流れを逆転させる作業なのね?」
「そういう事だね。神子が封印を解放すれば、精霊が目を覚ます。あたしはそれを阻止するために送られてきた。越えられない空間の亀裂を通ってテセアラを守るために」
その言葉に今まで黙って話を聞いていたロイドが口を開いた。それは、シルヴァラントを見捨てるって事か、と。でも、しいなだってそれを反論するように言葉を重ねた。あんた達がやっていることも所詮、同じ……だと。
「あたしが世界がもう一つあるって事の証人だ。あたしはこの世界で失われた召喚の技術を持っている。……そんな目で見ないでくれコレット。あんたがそんなつもりじゃないのは分かってるよ」
しいなは言う。シルヴァラントはみんな飢えてる……でも、世界再生を許してしまえばテセアラがここと同じになってしまう。しいなにはテセアラを見捨てる事は出来ない。そしてコレットもシルヴァラントを見捨てる事なんかできない……二人の気持ちは平行線のまま。
紫タイツは“今、危機に瀕しているシルヴァラントが優先だ”。と言ってるけど。あっ……なんか口挟むんじゃねーよって感じでコレットの方から笑顔の弾丸飛んでる。……むろん、タイツ目がけて。 前々から薄々感じていたけど、コレットって時々タイツに厳しいよね。
大地にとって……生命にとって何よりも大事なものはマナ。ジーニアスはそう語った。……そう、そこまではあたしがいたファ・ディールと同じ……でも―……
「きりくずす?」
「ええ、おとぎ話のようにマナを生み出す大樹はこの世のどこにもない。
私達は限られたマナを切り崩して生きているのよ」
「それは……違う」
冷たい夜風が火をより一層大きく舞わせる。バチッ!と一際大きな音があたしの耳に届いた。
「違うって……どういう意味だ、マナ?」
ロイドの視線が……みんなの視線があたしに集まる。
「マナはなくならない。無限のもの。消えてなんかない。マナは……廻る。めぐって廻って……新しく生まれ変わる。それにマナの樹は力を生み出すものじゃない。力は……マナは常に自分の中にある。マナの樹はその本質を気付かせてくれるだけ」
「……あなた……一体何を……」
「これがあたしの世界の常識。いい?マナはなくなったりしない。そりゃあ、形は変わっちゃうけど全体の量として変化はしないの。リフィルが言っていた大樹があたしの知っているマナの樹と同じかは分からない。でも、大樹がなくてもマナはなくならない。生命は生まれる。マナは消えない」
リンリンと、鈴虫の音がやけに大きく聞こえてくる。あたしの話にみんなが黙ってしまったから。
「……えっ?コレット……文字書いてくれるの?……フフッ……あたしにはここの文字は分からないよ?……それにそんな事しなくても大丈夫」
コレットが首をかしげながらあたしを見る。コレットのそんな様子を見ながらあたしは話を続けた。
「“どうして?”……だってこれがあたしの力だから。あたしはマナの流れや記憶を読み取れる。そこに強い意志があればマナの波動として読み取れるんだ。例えば……物からでも場所からでも……ね」
コレットが息を飲み込むのが分かる。まあ、こんな事急に言われて冷静でいろっていうのは無理な話か。
「今だってコレットの手を通じて、読み取ってる。……でも、安心して。好き好んで人のマナを読むような感じ悪い趣味はないから。……第一、普通の状態の人のマナははっきりとは読めないんだ、ぼんやりとしちゃって。当たり前だよね?誰だって自分の考えを知られたくない。だから、普通は無意識のうちに思考を塞ぐ膜……って言えばいいのかな?それを張る。でも、今のコレットにはそれがない」
「……お前……一体何者なんだ……?そういえば、マナの守護塔でも……あの女の人はお前を見てたよな?」
「“アーティファクト使い”……そう呼ばれてた」
ゆらゆらと燃える炎があたしをみんなをぼんやりと照らしていた。