シルヴァラント編(TOS)
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「それは……墓か?」
「そんなトコ……かな?」
「お前は……」
「さあ、帰ろっか。ここにいても仕方がないし、ね」
わかってるよ、自己満足だってこと。こんな事しても何にもならないぐらい知ってる。何も変わらないけど、そうせずにはいられなくて……そう思うことはおかしなことですか?
《Tales of Mana》
「今、私達がいるのがここよ。そしてクヴァルはここにいるはず。どうやらクヴァルのいるフロアへ行くにはガードシステムを解除する必要がありそうね。このガードシステムを解除しないかぎりクヴァルには近付けない」
あんな光景を見せられた以上、黙って先になんて進めるわけがない……だから、あたし達は再び人間牧場へやってきた。今度は完璧にここを潰すために。それに―……
「くそっ!!あいつは母さんの仇だってのに!」
リフィルの話を聞いていたロイドは苛立ちを隠せないのか声を荒げながら床を蹴った。
……クヴァルはロイドにとって仇。 到底許せるものでもないのだろう。あれから……あの日の夜からロイドの眉間にはずっと皺が寄っていて、その顔はとても厳しい顔のまま。
「……ちょっと待って。この左右の通路の先に二つのスイッチがあるでしょう?これが解除するスイッチよ」
リフィルの指の動きに合わせてあたし達の前に映し出されている図表も動く。どんな原理なのかは分からないけれど、どうやらこの機械はこの牧場の全景図や内部構造を映しているみたいだ。
「でも、入れてよかったよね。この前と同じ手はさすがに無理だったし」
「うん。ピエトロさんとソフィアさんのおかげだねー」
視界の端からジーニアスとコレットの声が聞こえてきて、あたしは今まで画面に向けていた意識を、そっちの方に移した。
今回は一応、再潜入って事になるんだけど、相手だってそこまでバカじゃない。前回と同じ手を使うのは危険だし、だからと言って、警戒が強まっている中、正面突破をするなんて無茶な話なわけで。それでも牧場に潜入をする事ができたのは、コレットが言っていた通り“ピエトロ”って人のおかげだった。
ピエトロはアスカードの人間牧場から逃げてきた人で、この人が持っていた裏口の鍵……ってわけじゃないんだけど、とにかくピエトロが持っていた道具を使ってここまで入ってくる事ができた、ってわけ。
「でも、ピエトロさん……大丈夫かな……あんなふうになっちゃってるのに」
「だから、あたし達はここまで来たんだろ?コレット。もう、ピエトロみたいな人を出さないためにサ。」
「うん……そうだね、しいな」
『ピエトロって奴に会いにいこう。ピエトロは牧場から逃げてきた人間だから別の侵入経路を知ってるはずサ』
しいなの提案でピエトロに会いに行ったのはよかったんだけれど―……あたし達が会いに行った時には既に、ピエトロはとても情報を教えられるような、喋れるような体じゃなかった。ピエトロの看病をしているソフィアって人の話だと、牧場から逃げてきたピエトロはディザイアンの“呪い”とかいうものせいで、意識もなく彷徨い歩く……そんな体になってしまったんだそうだ。
ピエトロが喋れない以上、情報を持っている可能性があるのはソフィアだけなんだけど、ソフィアは情報を伝えることを渋っていた。ディザイアンにこれ以上、ピエトロを関わらせたくないから、と。
でも、どうしても牧場に潜入をしなければならない。だから、あたし達は、ピエトロの体を治す事を条件にソフィアからピエトロが逃げてきた脱出ルートを教えてもらって……うまく潜り込むことに成功したってわけ。
「何!?」
突然、部屋の照明が赤く点滅をしだし、次いでけたたましい音が耳をつんざくように鳴り出した。……まずい予感がするな……おい……
「……まずいわね。メインコンピューターにアクセスしたのがバレたみたい」
「んな、悠長な事を言ってる場合じゃないって!どうする?いつまでもここにいられないよ!」
現に上の階からバタバタという足音が振動として伝わってきている。 侵入者がいると感付かれた以上、一つの場所に長々と留まっているのは自殺行為のようなものだし。
「仕方ないわね。システム解除班と侵入班に別れましょう」
ため息にも似た息を一度吐いて、リフィルはそう告げた。戦力を分散するのは得策とは言い難いけど、現状ではそんな事を言ってる余裕なんて今のあたし達にはなかった。
「俺はクヴァルのところへ行く。母さんの仇を討ちたいんだ。」
侵入班に真っ先に手を挙げたのはやっぱりロイドだった。はっきり宣言をするかのようにロイドは言葉を紡ぐ。……当然といえば……当然……だよね。
「待て、ロイド。私もクヴァルと戦いたい。頼む、連れていってくれ」
タイツも他のみんなと同じで……侵入班に手を挙げていた。そこまでは同じなんだけど―……侵入班を希望すると言った時のタイツの声はいつものすかしたような落ち着いた声なんかじゃなくて、とても必死な声……のように思えた。ロイドと同じような……必死ででも、とても焦っているような声で。ロイドもそんなタイツの声に何かを感じ取ったのか、タイツもロイドと同じ侵入班に回ることになった。……残る侵入班の枠は一つ……か。だったら。
「あたしはコレットを推薦する。……コレット、紫タイツと一緒でも大丈夫?」
「えっ?ううん、生理的に不愉快な事に代わりはないけれど、大丈夫だよー」
うん。やっぱりコレットだ。なんか言葉の端々に隠しきれていないどす黒いものが見えたような見えなかったような気もするけれど、気にしたら負けだと思うから気にしないでおこう。うん、気にしないぞ。
「ロイドもタイツもそれでいいでしょ?」
あたしはくるっとロイド達の方に向き直って、確認の意味をこめてそう告げる。
「ああ……俺はかまわないけど……でも……」
「“どうして”なんて言ったらコレット、怒ると思うけど?分かった、ロイド、コレット守る自信ないんでしょ?」
「そ、そんな事ねーよ!コレットは俺が守る。絶対に、守ってみせる!」
「そう……それを忘れないでロイド。あたし達は誰かを殺すためじゃない、誰かを助けて……守るために来たんだから」
「マナ……お前……」
「じゃ、またあとでね。ほらほら、早くしないと守れるものも守れなくなっちゃうよ?」
そうロイドに言葉を投げて、あたしは……あたし達解除班はガードシステムをぶっ壊すべく、ロイド達とは逆の扉をくぐった。さあ、一頑張りしますか。
++++++++++++++++++++
「しかし、よかったよ。思ったよりも解除が簡単でサ」
「それに、牧場に捕まっていた人達も助けられたし、ショコラの居場所だって分かったしね」
外の警備に対して内側は脆いのか……はたまたこっちじゃなくてロイド達の方にディザイアンが集中して行っているのか。侵入者を知らせる警報が鳴ったわりにはディザイアン達は少なくて、あたし達は比較的スムーズに事を運ぶ事ができた。 牧場のガードシステムの解除はもちろん成功したし、捕まっていた人達も全員助けられた。……おまけにパルマコスタの人間牧場で連れ去られたショコラの居場所も分かるという素敵なオプションもついてきて―……俗な言い方をすれば大成功!ってやつかな?だから、あとはロイド達侵入班と合流するだけ……するだけなんだけど。
「何、暗い顔してんのサ、マナ。大丈夫、ロイドはあんな奴に負けやしないよ」
あたしの様子を不思議に思ったのだろうか、しいなは明るい声であたしを励ましてくれた。でも……あたしが心配してることは―……
「いや、負けるとかそんな事を心配してるわけじゃなくてさ……」
「あなたが心配しているのは“ロイドの心”かしら?マナ?」
「えっ、姉さんどういう事?」
あたしとしいなのやり取りを静かに見ていたリフィルが、あたしの言葉を遮るように言葉を重ねる。
「…そうなんじゃないのかと思っただけよ。マナ、あなたはさっきこう言っていたじゃない?“殺しに来たわけじゃない。守りに来たんだ”って」
さすが教師といえばいいのか……リフィルの観察眼は驚くぐらい鋭い。彼女の指摘に目を丸くしてしているあたしにリフィルは言葉を続けた。……最終的にどうするのか、決めるのはあの子……だと。
「ちょっと、姉さん!マナ!!僕、全然分からないよ!」
「あなたにもいつか分かる時がくるわ、ジーニアス。さあ、行きましょう。私達が今するべき事はこの牧場を潰して犠牲者がこれ以上、出ないようにする事よ」
「そうだね……うん、行こう。ロイド達のところへ」
++++++++++++++++++++
【sideロイド】
「見つけたぞ!クヴァル!!」
「ほほう、それがロイドかえ?なるほど、面影はあるのう……しかし、マナ……と申したか?どうやら奴の言っておった娘の姿は見当たらぬようじゃが……」
「やはり来ましたか。あの娘はいないようですが……あなた方を消し去った後に連れてくればいいだけの事。……しかし、話を逸らさないでほしいですね、プロネーマ。あなたが私の元からエンジェルス計画のデータを持ち出した事は明白なのですよ」
管制室に押し入った俺の目に、クヴァルと知らない女の姿が映る。クヴァルは俺達を見て一度冷たく鼻で笑うと、プロネーマと呼んだ女と再び話を始めた。
ギリッ……と奥歯が強く音を立てる。俺はこんなにもコイツの事が憎いのに……憎くて憎くてたまらないのに。侵入してきた俺達の……俺の姿を見ても……クヴァルは俺の事なんかまるで興味がないみたいな涼しい顔して、他の奴と話しているんだ。
悔しかった。こんな奴に母さんが殺されたって考えるだけで頭の中で火花が散るみたいに閃光が走って……目の前が真っ白になって……息が詰まった。
「ロイド、落ち着いて、ね?」
「えっ……?」
俺の手を暖かい何かが包み込んだ。驚いてその暖かいものに目をやるとそれは―……
「コレット……?」
「マナが言ってたでしょ?“私達は誰かを守りに来たんだ”……って」
「マナ……」
エヘヘ……と笑うコレットの顔。そして……アイツの、マナの言葉。なんだろう、その笑顔と言葉を思い出したら少し呼吸が楽になった。
「……寝言は寝てから……と申すな。そなたこそユグドラシル様の目……簡単に誤魔化せると思うでないぞぇ」
「“魔導砲”の事が漏れたか……まあ、いい。そのエクスフィアとあの娘さえ手に入れれば嫌疑などすぐに晴れるでしょう」
クヴァルの言葉を聞いた俺は弾かれたように顔を上げる。気付けばさっきまでいた女の姿はなく、薄く笑って武器を構えるクヴァルの姿だけがあった。
「来るぞ!!」
クラトスの声がする。でも、今の俺にはずっと遠くから聞こえてきているように感じられた。左胸が早鐘を打ち、全身の血液が沸騰するように燃え上がる。
「やらせるか!!」
双剣の柄を強く握り締めて、俺は強く床を蹴り飛ばした。
++++++++++++++++++++
「許さねえ!!」
赤が飛ぶ。赤が舞う。
「クラトス……この劣悪種がぁ!!」
声が響く……憎しみが染み込んだ声が。
「その劣悪種の痛み……存分に味わえ!!地獄の業火でな!!」
耳をつんざくような断末魔の悲鳴が建物を揺らす。それに続けて血の赤と……脂肪組織だったのか……それとも他の部位だったのか……もう何がなんだかよく分からない黄色い肉片が床に複雑な模様を作っていた。それに少し遅れるようにして……崩れ落ちるようにクヴァルは倒れていった。……駆け付けたあたしの目に映ったのはそんな光景だった。
「コレット……あなたこの傷!!」
リフィルの声にあたしは、どこかへ飛んでいっていた思考を慌てて戻した。声がする方を見れば、床に広がる小さな赤い水溜まりと白い法衣を真っ赤に染めて立っているコレットが目に入った。
「コレット!なんで俺をかばったんだ!?」
「ロイド……大丈夫?私なら大丈夫だから。なんかね……痛くないんだ」
変だよね……とコレットが笑う。リフィルが慌てて回復魔法をかけて傷を癒したみたいだけれど……背中の染みは痛々しかった。
「コレット、俺はもう我慢できないからな!みんな聞いてくれ!コレットには今、感覚がないんだ。コレットは天使に近づいてる。でも、眠る事もできない。暑さや寒さも痛みも感じない。涙だって出なくなってる……!
天使になるって人間じゃなくなるって事だったんだよ!!」
叫ぶようにロイドはそう言った……拳を床に叩きつけて……ううん、叫ぶっていうよりその声は悲鳴に近かった。
ロイドの言葉は今までのコレットの様子をあたしに思いださせて―……だから、コレット、食べなかったし寝てもいなかったんだ。
「ロイド……それより今はこの牧場をなんとかしないと。そうでしょ?」
「……コレット。……先生、前みたいにここを爆破できないか?」
「……過激だね。まあ、それが一番いいだろうけどサ」
「……だったら、早くここを出よう。コレットを休ませなきゃ」
リフィルが魔法で傷口を塞いだって言ってもあれだけ出血をして体力を消耗してないはずがないから。
「マナの言う通りだよな。……みんな、早くここを出よう」
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遠くから低い爆発音が聞こえてきて……どのくらい経ったのだろう?視界にチラチラと赤い炎が揺れる。 牧場から脱出をしたあたし達はルインでキャンプを張っていた。本当はアスカードのきちんとした宿でコレットを休ませてあげられたらよかったんだけど……牧場から出てみればすでに空は黒一色に塗り潰されていて―……月の光もないこんな暗闇を怪我人を連れて移動するなんて無茶を通り越して無謀な話だった。
たき火の暖かい熱と毛布が夜の寒さから体を守ってくれている。ふっと周りを見れば、コレット以外のみんなは目を閉じていて……規則正しい寝息を漏らしていた。
色々な事がありすぎて疲れたのかな?……それはあたしも同じだけど。……頭の奥の芯みたいなところが熱くて……眠れないでいた。……どうやら、あたしは覚悟が足りないというか…あの頃から全然成長をしていないみたいだ。
「マナ?」
立ち上がったあたしにコレットが声をかける。月も出ていないこんな夜にどこかへ行こうとしているあたしを不審に思ったのだろうか?
「なんだか、目が冴えちゃって寝れないんだ。少し体を動かしてくるよ。
汗をかいたほうが眠りやすいでしょ?」
「危ないよ?」
「危なくなったらすぐに戻ってくるから。ランプ、一つ借りていくね?」
ランプと防寒マントを持ってあたしはルインを離れた。今日は月の光がなくて、明かりといえば星の弱い光とランプの明かりぐらいだけど、迷う事はないと思う。だって目的地に行くには、ブスブスと焦げた臭いとむせ返るように漂ってくる死臭を辿ればいいだけだから。
「これで……よし……と」
あたしはそこに小さな石を置いた。それは人の頭ぐらいの小さな石。そして、石と一緒に―……
「これぐらいしか、なかったんだ……」
小さな小さな白い花をそえた。路傍に生えているごく普通の地味な花を。
たくさんの人がここで死んだ。今までエクスフィアにされた人達はもちろん……爆発に巻き込まれたディザイアンたちも。いつまで経っても死は慣れなかった。死のマナは怖かった。
それは……死者の記憶が読めるアーティファクト使いだからとかそんなのじゃなくて……あたしは単純に死が怖いのだ。他人の死もそうだけど、それ以上に自分や大切な人の死はもっと怖かった。だから、死にたくないから……死んでほしくない人がいたから……今までだってがむしゃらに必要とあれば武器をふるってきた。……それがだれかを傷つけることになっても。
“おぬしも自分を正しいと思うておろう……しかし、おぬしも斬られるじゃろう。正しいことが人それぞれのものである限り、因果は繰り返す”
……誰かにそう言われたことがあった。その理論で言ったらあたしは斬られたって文句を言える立場じゃないんだろう。理由はどうあれ、傷つけていることには代わりがないから。でも、そんな覚悟はあたしにはなくて……死にたくなんかなくて……でも許してほしくて。だからだと思う。だから、あたしはあっちの世界でもこんな風に―……
「……こんな夜に何をしている。神子が心配していたぞ」
「クラトス?いや、クラトスこそ何してんの?」
振り返らずにそう言えば返事の代わりにため息が帰ってきた。“呆れた”……彼の溜息を言葉にすればそんなところだろうか?
「それは……墓か……?」
「そんなトコ……かな?」
あたし達の間を静かに風だけが走る。風は一瞬にしてこの辺りに淀んでいた臭いを遠くへと運んでいった。もっともすぐにまた臭いはたまるんだけれど、ね。
「さあ、帰ろっか?」
気が付けば空の黒は徐々に白んでいた。