シルヴァラント編(TOS)
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―……人間の目に見える妖精は邪悪な心のある奴ばかりだ。そんなもんと話をする人間に正義の魂が宿っているはずがない!……―
―……悪魔!悪魔はあなたよ!賢人から技を学んだだなんて全て嘘だったんだわ!……―
―……私は許せないのです。この娘が……珠魅の全てが!他人の命を保険に生き長らえる汚い種族を何故その手で滅ぼさない!!……―
「……ねえ、コレット……お願いがあるんだ」
「えっ?」
「……ロイドを見守―……ううん、守ってあげて。……囚われちゃわないように……過去に縛られてしまわないように。自由でいられるように」
憎むだなんて酷な事は言わない。言えない。でも、そっちに転がっていってしまうのは簡単で―……そんなの……もう見たくない。見たくないんだ。あんな目をした人達を、あたしはここでも見たくなかった。
《Tales of Mana》
「ルイン?」
「そうだ。希望の街……そう呼ぶ者もいる。湖の畔に広がる、美しい街だ」
風の封印を解放したあたし達はここから更に北……次の封印の最有力候補地であるマナの守護塔を目指して足を進めている。その塔に最も近い街はルインというらしく、紫タイツ曰くとても美しい街だということだ。
みんな何も言ってはいないけど、おそらく封印を解放する前にその街に寄るんだと思う。今までの例で行くとマナの守護塔だってモンスターの巣になっているって考えるのが妥当だから、その前に補給は済ませちゃった方がいいだろうし。何より―……
「コレット、大丈夫か?」
「うん、ロイド。私なら大丈夫だよー。ほら、こんなに元気だもん」
風の封印を解放した後、やっぱりコレットは倒れたから。一晩休んだって言ってもしょせんは野営だから完全に休めるわけじゃないだろうし、早く安全な街で休ませてあげたいって気持ちが大きかった。……最も、今のコレットを休ませたってあんまり意味はないかもしれないけれど。
コレットのマナは目茶苦茶になっていて……具体的にどんな変化があるのかまでは分からないけれど……いい影響があるなんてあたしには考えられなかった。
「ほら、マナも早くー!」
「あっ、うん……」
コレットがいつもと同じように笑って、いつもと同じようにあたしの手を引く。いつもと同じ……そういつもと変わらないのに。ザワザワとした気持ち悪いものが胸の中で蠢いて(うごめいて)徐々に広がっていくようなそんな気がした。
「……これは……」
「……ひどい」
ロイドとコレットの口からほぼ同時に声が漏れる。今、あたし達の目の前に広がっている街はルイン。希望の街……そうタイツが言っていた街だけど―……
「行こう。まだ生きてる人、いるかもしれないから」
そこにあったのは美しい湖や美しい町並みなんかじゃなくて、ブスブスと黒い煙を上げている瓦礫の山だった。
「……手分けをしましょう。その方が懸命だわ。クラトスとマナはあちらを探してもらえるかしら?」
リフィルの言葉にあたし達は頷いた。いつもだったら、いくら顔が格好良いっていっても歩くタイツ男なんかと二人で行動なんて願い下げなんだけど、今はそんな事はどうでもよかった。そんな事を言ってる暇なんかない。こんな状態の街で生存者を探すのなら手分けをしたほうが効率が良いって事は誰にだって分かる事だから。
「それにしても……これ、ひどいね」
「……ああ」
あたしとタイツは瓦礫で怪我をしないように慎重に歩きながら人がいるかどうかくまなく探した。ブスブスとそこかしこから上がる煙の下からはチロチロと蛇の舌のような火が顔を覗かせていて、同時に何か焦がしたような臭いを辺りに撒き散らしている。本来は綺麗な青い水を湛えているはずの湖だって泥や木片で薄汚く汚れていた。
「誰もいない……か……」
「……」
あたし達の間に沈黙が降る。話してる場合なんかじゃないってわかってはいても何か話して気を紛らわせていないとやっていられなかった。……それぐらいにここはひどく荒らされていたから。
「本来は……とても綺麗な街なのだがな」
先行する形で歩いていたタイツが歩みを止めず、振り返らずに言葉を漏らした。あたしからはタイツの表情を見る事はできないけれど、どうしてだろう少し肩が震えてるように……見えた。
「クラトスにとって大事な街なんだね……故郷?」
「……」
生存者を探す作業は止めず、足を進めながらそう尋ねた。不躾(ぶしつけ)かもしれない。でも、気になったから。
クラトスから答えは返ってこない。でも、ないならないで構わなかった。だって、誰にだって他人に土足で踏み込んでほしくないものが心の中にあるはずだから。
「……大切な人の故郷だからな……ここは。マナの言う通り、私にとっても故郷かもしれない」
「えっ?」
返ってきた声にびっくりして弾かれたように顔を上げた。まさか、答えが返ってくるなんて思ってなかったから本当に驚いてしまって―……
クラトスは遠くを見つめていた。いつだったか……ロイドの家のお墓の前やパルマコスタで見たような―……見えない、触れられない……でも確かにそこにあった何かを見ているような、懐かしんでいるようなあの目で。
「……行くぞ、マナ。こちらには人がいなかった。一旦、あちらと合流した方が良いだろう」
「……そだね」
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「あれ?しいなじゃん、どうしたの?ってか、コレット……やけに笑顔だけ―……」
「……聞かないほうが良いよ……」
「……さいで」
別行動から戻ればさっきまではいなかった顔、しいなの顔がそこにあった。しいなの横にはえっらいニコニコ顔の我らが神子様がおられまして―……
「あ……あたしもあんた達と一緒に行く事になったのさ……よろしく……」
顔を若干白くさせてそう話すしいなにあたしは声には出さないけれど、同情をしていた。……脅されたな。そういう考えは口に出さない方が人生長生きができるってものだろう……うん。
++++++++++++++++++++
「……だから、人間牧場に向かってるわけか」
「ああ……ディザイアンの奴ら街をこんなに滅茶苦茶にしやがって!絶対に許せねえ!」
しいなによると、ルインを滅茶苦茶にしたのはここから北東にある人間牧場のディザイアン達の仕業だって話で。ルインの人は牧場から逃げてきた人達をかくまっていて、それがバレてルインの人達は全員牧場送りにされて、街は破壊されてしまったんだそうだ。
「ディザイアンか……何がしたいんだろう」
「あいつらは俺達をただ苦しめたいだけだ。じゃなきゃこんな酷い事、できるわけないだろ!」
「でも、それならどうして牧場に連れていく必要があるの?言い方はアレだけど、報復目的ならもっと酷い方法はいくらでもあるじゃない。でも……わざわざ牧場に連れていくって事は……」
「二人とも静かに!もうすぐ牧場の敷地内よ」
リフィルの言葉に慌てて口を塞ぐ。こんなところで見つかるわけにはいかないしね。
森の奥深く、場には不釣り合いな建物が目の前に広がる。鉄の門と鉄条網に囲まれたその建物はさながら要塞みたいで。
「どうする?警備の数凄いけど?」
さすが敵の本拠地と言うべきか、入り口をはじめ敷地の周りは警備の兵がワラワラと配置されていて、そんな中厚い鉄の門を強行突破するのはお世辞にもいい考えじゃないだろう。
「そうね。方法がないわけじゃないわけではないけど……」
「あっ、先生。俺と同じ考えだろう」
茂みに隠れて様子を伺っていたあたし達にロイドとリフィルの声が降り掛かる。……なんとなーく予想はついているけど……ねえ……
「止まれッ!」
「やったぞ!手配書にあるロイド・アーヴィングを見つけた!さっそく、五聖刃の方に引き渡しに行きたいのだ、通してくれ」
「やったな!しかも生け捕りか!よし、通れ!」
シンプルイズベスト~。リフィルとロイドが考えた作戦っていうのはこれまたシンプルな「変装して忍び込んじゃえばよくね?」作戦だった。古典的というか何というか……いや、案外こーゆう単純な方が分かりにくいのかもしれないけど。
服は一着しか追い剥げなかったから、リフィルが代表でディザイアン役をやり、ロイド以下あたし達は人質の役……と。
まあ、妥当だと思う。ロイドなんかはディザイアン役をやるってブーブー文句を言っていたけど……この役はリフィルかジーニアスのうちどちらかしかできないだろうから。だってディザイアン達とリフィル達は―……
金属が強く擦れて甲高い不快な音が耳をつんざくように響き、音にあわせるように徐々に鉄の門が開いていった。ここが牧場―……高くて冷たい門の中へと、あたしは足を踏み入れた。
「……うっ……」
「マナ、大丈夫か?お前、少しふらついているぞ……?」
「……少し耳鳴りがするだけ。大丈夫、行こう」
牧場の内部はトリエット砂漠で見た建物同様、この世界の他の建造物とは似ても似つかない幾何学的で無機質な空間だった。それにしてもこの建物に入ってから耳鳴りが酷い。理由は……なんとなく分かってはいるけど考えたくなかった。だって、それが本当だったとしたら。
「見て!何か運ばれてるよ!」
ジーニアスの声を聞いたあたしは思考を中断し、視線を前に向けた。ジーニアスが言う通り、あたし達が今いる部屋の隣、ガラス越しに見えるその部屋では帯状の動く床によって何かが大量に運ばれていた。
「ここは、エクスフィアの製造所なのね……」
あたしの後ろにいたリフィルがそう呟いた。 これが全て……エクスフィア?じゃあ、エクスフィアって。
「……しっ。隣の部屋から声が聞こえる……」
コレットの言葉にあたし達は一瞬にして身をこわばらせる。そして……隣の部屋に繋がる扉は音もたてずにゆっくりと不気味に開いていった。
「ほう!これは驚きました。ネズミとはてっきりレネゲードのボーダかと思っていましたが、手配書の劣悪種とは……」
「お前は何者だ!」
扉から現われたのは、ツリ目でどこ見てんだかよく分からないような狐野郎だった。狐野郎はまるで値踏みするかのように細い目であたし達を順に見回していく。
「奴はディザイアン五聖刃の……クヴァルだ」
「はは、さすがに私の名前はご存じのようですね。なるほど、フォシテスの連絡通りだ。確かにそのエクスフィアは、私の開発したエンジェルス計画のエクスフィアのようですね」
クヴァルは一度鼻で笑うと今度は視線をロイドの手の甲に付いているエクスフィアへと移していった。
レネゲード?フォシテス?エンジェルス計画?知らない単語が多すぎて……頭の中がぐるぐると……って!?
「こんな事してる場合じゃないよ!!」
そうだよ、よく考えなくてもあたし達って今敵の本拠地のど真ん中で敵の親玉と対峙してるんじゃん!ってか、囲まれてるし!
「くそっ!!みんな急げ!!」
ロイドの号令を引き金にあたし達は一斉に駆け出した!警備兵やたくさんの器材の間を縫うようにあたし達は走る。でも、その先は運悪く行き止まりで……あたし達は徐々に追い詰められていく。
だけど、追い詰められいく恐怖なんかよりもずっとずっと……思わず目背けてしまいたくなるような光景が……あたし達の前に……広がっていた。
「な……何だよ……これ」
ロイドの言葉が詰まる。ううん、あたしだって……みんなだって……目の前の起こっている現実に声を出せないでいる……ここに来てからの耳鳴りのわけ……はっきりわかったよ。
「培養体に埋め込んだエクスフィアを取り出しているのですよ。エクスフィアはそのままでは眠っているのです。奴ら…ああ、エクスフィアは人の養分を吸い上げて成長し、目覚めるのです。人間牧場はエクスフィア生産のための工場。そうでなければ、何が嬉しくて劣悪種を飼育しますか」
クヴァルはまるで笑い話をするかのようにあたし達に語る。そう……今……あたし達の目の前にはたくさんのヒトがいて。……そのヒト達の体から次々とエクスフィアが剥がされていって。……そして剥がされたヒト達は順番に殺され……ううん、屠殺(とさつ)されていった。
「ひ……ひどい……」
あまりの光景にジーニアスが後退る……こんなの見せられたら誰だってそうなる。
「ひどい?酷いのは君達だ。我々が大切に育て上げてきたエクスフィアを盗み使っている君達こそ罰せられるべきでしょう。ロイド、君のエクスフィアはユグドラシル様への捧げ物。……返してもらおうか」
「ユグドラシル……それがあなた達、ディザイアンのボスなのね」
リフィルはゆっくりとクヴァルに言葉を投げ掛ける。言葉使いはいつもと変わらないけれど、声色はいつものリフィルの声とは……遠くて……低かった。
クヴァルは笑うように言葉を続ける。偉大なる指導者ユグドラシル様のため、そして自分の功績を示すためにもロイドの持っているエクスフィアが必要なのだと。
「くそっ!……俺のエクスフィアはいったい……!」
「それは私が長い時間をかけた研究成果……薄汚い培養体の女に持ち去られたままでしたが、ようやく取り戻すことができます」
「ど……どういう事だ?培養体の女って……まさか……」
ロイドの体が、声が震える。……あたし達の周りから音がなくなって―……ロイドの震えた声だけが耳に届く。
「……そうか。君は何も知らないのですね。そのエクスフィアは母親である培養体A102・人間名アンナが培養していたものです。アンナはそれを持って脱走した。最もその罪を死で償いましたが……」
「お前が……お前が母さんを……!」
クヴァルの言葉にあたし達は……あたしは言葉が出なくって―……ただ、震えるロイドの背中を見ていることしか出来なかった。
クヴァルは言葉を続ける。勘違いするな、アンナを殺したのは私ではなくお前の父親だと。
要の紋が取り付けられていない人間からエクスフィアを取り上げると、その人間は怪物になる。ロイドのお母さんはエクスフィアを取り上げられて怪物になって……そしてそれをロイドのお父さんが殺した……?
「死者を愚弄するのは止めろ!」
今まで何も言わずに、ただクヴァルを見ていたクラトスが不意に声を荒げた。そんなクラトスにクヴァルは言い放つ「所詮、二人とも薄汚い人間。生きている価値もないウジ虫だ」と。
「父さんと母さんを馬鹿にするな!!」
「おやおや、本当の事を言って傷つけてしまいましたか。これは失礼。
……しかし、そちらの女……おもしろいマナを持っていますね」
薄く開いていただけのクヴァルの目が急に大きく見開き、あたしの姿を捕らえる。
「あなたのマナを研究すればきっとユグドラシル様もお喜びになるに違いありません。……ロイド同様、あなたもここに残ってもらいますよ!」
何だよ!それ!!
「……ふざけんなッ!そんなの絶対嫌ッ!!」
ざけんな!この狐!
「……おじいちゃん、最後の一枚……使わせてもらうよ………みんな、目を閉じろ!」
しいなの声を聞いたあたしは慌てて目を閉じた。うっすらと目を開ければあたし達の周りを暖かな煙のようなものが取り巻いていて……気が付けば―……
「ここは……ルイン……?」
そこはルインだった。
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「……エクスフィアが人間の命から出来ていたなんて……」
「これ、マーブルさんの命なんだ……」
しいなが……ジーニアスが……自分の手の中で淡く輝くエクスフィアを見つめながら呟やく。
時刻はもう夜。星のように淡くエクスフィアはみんなの手の中で淡く光っていた。パチパチッ、と、焚き火の火がはぜる。
「こんなもの……!こんなもの……!!」
突然、ロイドがエクスフィアを手に取り立ち上がった。……気持ちは分かる。クラトスやコレットは犠牲になった人の分までエクスフィアを背負って戦う必要があるって言っているみたいだけれど―……そんな事じゃない。理屈なんかじゃない。
「ロイド、捨てたいなら捨てちゃいなよ。誰が文句を言ったって……少なくてもあたしはロイドの考えは否定しない」
「マナ!!」
「じゃあ、コレット?もし、コレットのお母さんがロイドみたいにその首飾りの中にいたとしてもそういう風に言えるの?自分の親に寄生して……命を吸い上げて生まれてきたそれを受け入れられる?……コレットやクラトスはそれは“アンナさん”自身だって言ってるけど、もうそれはアンナさんじゃない……別のものじゃない」
「それは……そうだけど!でも、逃げちゃったらダメなんだよ!」
あたしの言葉にコレットは声を荒げた。目に少しだけ涙を溜めて―……そんなコレットを真っすぐ見据えて……あたしは言葉を続けた。
「逃げちゃダメだ。……うん、あたしだってそう思うよ。逃げちゃダメだって自分に言い聞かせるし、いつだったかロイドにもそう言ったこと……ある。でもね、ぐしゃぐしゃになって潰れてしまうくらいなら逃げるのもありだなって……そんな風にも思うんだ……ただ……」
「……ただ……?」
黙ってあたし達のやり取りを見ていたロイドが口を開く。視界の端で火の粉が踊った。
「……“覚悟”っていう言葉の意味が解っていれば……ね」
逃げる事が……放棄することが最善だとしてもそこにはやっぱり覚悟がいる。逃げる事がきっかけで起こる事も全て自分で引き受けなきゃならない。それは自責の念かもしれないし、もっと直接的な事かもしれない……でも、その選択をした以上、責任は自分で取らなきゃいけないから。あたしはそれが怖くって……だから、結果として逃げないようになっているだけだった。
「……俺……本当はまだよく分かってない。……でも……マナの話を聞いていて思ったんだ。エクスフィアを捨てて、生きたって俺はクヴァルを許せない以上に逃げた俺を許せないと思うんだ。そんなの絶対後悔するから。その後悔を背負って生きていく“覚悟”は俺にはないから……俺、これ以上、母さんやマーブルさんのような人を増やさないためにも……戦うよ!」
「そっか……それがロイドの答えなんだね……」
あたしの言葉に頷くロイドの目には焚き火の炎が写っていて……紅く染まりギラギラとした光を放っていた。
でも……あたしの心の中にはさっきまでとは違う気持ちだけれど……やっぱり不安があって―……みんなが寝静まった後、あたしはコレットに小さな声で話し掛けた。
「ねえ、コレット……お願いがあるんだ」
きっとそれが出来るのはコレットだけだって思ったから。だから、だから、あなたが止めてあげてね?
小さくなった焚き火の炎が淡く熱を放っていた。