シルヴァラント編(TOS)
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「……知らない歌だね……でも……とっても優しい歌……」
「……でも僕、どこかで聴いた事がある気がする……おかしいよね、初めて聴いたのに」
「お前もか!?ジーニアス!?」
「えっ!?ロイドも!?」
「……ああ、でも変だよな。俺……こんな歌を知らないのに、それどころか言葉の意味だって分からないのに。なのに……どうして……」
懐かしい歌を聴いた
それは遠く遠く
けれど一番心の近い部分で鳴り響いていた
碧く瑞々しく、そして力強く語り掛けてくる歌
生命の歌
《Tales of Mana》
「本当にいいんですか、マナさん?」
「いいんじゃない?」
「そんな他人事みたいに……!」
「大丈夫だよ、アイーシャ。これは最終的にあたしが決めた事だからアイーシャはなーんにも関係ないし、さ。それに―……」
シャラン、と髪に付いている鈴が涼やかな音をたてる。
「それに?」
そんなあたしをアイーシャは不思議そうな顔をして見つめていて、そんなアイーシャにあたしは笑いながらこう言った。「楽しそうじゃない」って。
……事は数時間前に遡ったりする。
「お前達だな、石舞台に上がっていたのは!」
「私は学者です。この遺跡を調べさせていただけませんか?」
拒否権って何、人権って食べ物か何か?……ってな勢いで決まった“精霊の踊り手”代行。しかもあの後話を聞けば、儀式の日付が今日だっていうからさあ大変。
でっ、早速この街の町長に話をつけるために、町長探して石舞台まで来たのはいいのだけれど……あのー……この人達超睨んでますけど?……まあ、町長が怒るのも無理がない話か。だって、ライナーが遺跡を勝手に調べたから色々面倒なことになってるわけだし。そんな中であたし達みたいな余所者まで調査するなんて言いだしたら、ピリピリの一つや二つしたくもなるだろう。
「そちらの気持ちもよく分かります。……では、こうはどうでしょう?
ここにいるマナがアイーシャの代わりに“精霊の踊り手”をつとめます。こう見えても彼女は旅の楽師ですから。それならば、石舞台に上がっても問題はありませんよね?」
よくもまあペラペラと……次から次へとリフィルの口から出てくるでまかせの言葉は止まらない。自信満々に言うもんだから“あたしが楽師”なんて嘘にも妙な説得力を持って相手に伝わっているみたいだし。
その証拠にほら……なんか町長の周りの人から「マジか」「よし、これでアイーシャは……」「でも、踊り子というには胸が……」とかいうざわつきが、どこからともなく聞こえてくる。とりあえず最後に言った奴、表に出ろ。
「……そこまで言うなら好きにするがいい。命を落としても我々は責任を取らぬぞ」
++++++++++++++++++++
「楽しいですか?」
「そっ。なんだかんだでさ、やっぱり好きなんだ踊りったり歌ったり……
でも、よかったよ。踊りは好き勝手でOKみたいだからさ。だってあたしここの伝統的な踊りだったら無理だったもん」
「ええ、元々は村娘が好きに踊ったり歌ったりするお祭りでしたから……だから特に決まりという決まりはないんです」
そんなこんなで今に至る、っと。あたしが踊るのは夕刻らしくて、今は着替えて順番待ちをしているというわけ。
シャラン、とあたしが動くたびに髪に付いている飾りが涼しげな音をたてる。今あたしが着ている服はこの街の祭儀用の伝統的な衣裳らしく、紫や緑・白といった薄い布を重ねたものに赤や黄・青といったリボンが取り付けられていた。普段着ているものと変わっているから動きにくいのかな?と思いきやそんな事はなくむしろ羽のように軽い。華やかだけれど、踊り子の動きを制限しないように色々工夫がされているのだろう。
「マナ、入ってもいいかしら?そろそろ時間よ」
「待って、リフィル。今、そっちに行くから。じゃ、アイーシャまた後でね」
まだどこか不安そうな顔をしているアイーシャにそう告げ、あたしはアイーシャの家の扉をくぐった。
外に出てふっと空を見れば、相変わらずすごい早さで雲があたしの真上を駆けてゆく。ただ、さっきまでと違って空の青は徐々に薄れて紫色が混ざっていて、昼の白かった月は淡く輝きを増していた。街のあちこちに松明の赤い光が灯る。あたしはその中をリフィルと町長の先導の下進んでいった。
……いよいよかな。そう思うと自分の胸の音が少しだけ大きくなっているのが分かって。この気持ちは怖いから?緊張しているから?……ううん。あたしワクワクしてるんだ。だってほら……自然に顔がほころんでくる。
よし、やるぞ!!そう心の中で言ってあたしは石舞台へと続く最後の石段へと足をかけた。
「ただ今より儀式を執り行う。風の精霊よ!我らの歌を我らが祈りを聴きたまえ!」
町長の一声でざわついていた舞台が水を打ったように静かになり、空気がどこかピンと張り詰めたものへと変わる。
そして―……あたしはゆっくりと石舞台の中央に進み出て……そしてあの踊りを、あの歌を……紡いだ。
++++++++++++++++++++
【sideロイド】
「よっ、みんな!じゃ、行こっか!」
そう言って出てきたアイツは俺の知っているいつものマナだけど……でも、ちょっとだけ大人びて見えて、俺は思わず自分の目を瞬かせた。
町長の合図と共にマナが石舞台の中央へと進み出る。俺やコレット、ジーニアスや先生、それにクラトスが見守る中アイツは、マナは手に持っていた鈴を高く上げて―……シャラン、と……一際高らかな鈴の音が俺の耳に届く。そして、歌が……トリエットで聴いたあの歌が始まった。
歌に合わせてマナは風を空を切る。ヒラリヒラリと指で綺麗な円を描いて、布が空になびいて。
「すごい……マナ……きれい……」
俺の隣にいたコレットが驚きを隠せないのかそう一言漏らした。ジーニアスや先生、それに俺と一緒に一度は見たはずのクラトスだって舞台のマナを息を呑んで見つめている。
みんな俺と同じ気持ちなんだと思う。俺だって他の人から見たらきっとみんなと同じ顔をしているだろうから。
歌は続く。それに合わせてマナの持っている鈴が、髪飾りがゆらゆら揺れて……夕日を反射して鈍く、でも暖かな光を放つ。……でもこの歌って……何だか聴いていると……
「……知らない歌だね……でも……とっても優しい歌……」
コレットが真っすぐ前を見てそう呟く。
「……でも僕、どこかで聴いた事がある気がする……おかしいよね、初めて聴いたのに」
ジーニアスの言葉を聞いた俺は慌ててジーニアスの方に顔を向けた。……まさか……!
「お前もか!?ジーニアス!?」
「えっ!?ロイドも!?」
「……ああ、でも変だよな。俺……こんな歌を知らないのに、それどころか言葉の意味だって分からないのに。なのに……どうして……」
……こんなに懐かしいんだろう。
シャラン……シャラン……と、大きく鈴の音が鳴る。シャラン……シャラン……と、踊り手の気持ちを表しているかのように楽し気に。それに合わせてマナの髪が、声が、踊る。夕日を浴びて淡く輝くマナの髪……上手く言えねーけど、そこだけ違う時間が流れてるような―……なんだかひどく近いようなでも遠いところにいるような。上手く言葉にできないけど、そんな感じがしたんだ。
何もできないで舞台を見る俺達の横を風だけが静かに通り抜ける。マナの声は風と夕闇の空にゆっくりとほどけて溶けていった。
++++++++++++++++++++
「……娘を貰い受けに来た!」
歌も佳境に入ったその時、それは芸も何にもない言葉と共にあたしの前に現われた。全身に風をまとったそれは一見すると風の精霊に見えるかもしれないけど、このマナは……!
「……違う、違うよマナ!!それは邪悪な者!封印の守護者じゃない!」
コレットの声が舞台の外から響く。
「そりゃ、こんなんが聖なるもんなら詐欺でしょ!ロイド、槍パス!!」
「……おうッ!!」
石舞台に上がってきたみんなと一緒に、あたしも静かに自分の武器を構えた。……せっかく気持ちよく踊っていたのに―……このお代は高くつくからね!
「……くそっ!風が邪魔して中々急所に当てられねえ!」
風に押しもどされたロイドが叫ぶ。精霊モドキと言えど、風って付くだけあって体の周りには風の防御壁が取り巻いている。それが邪魔で中々標準が定まらないのだろう。こっちもさほどダメージらしいダメージは受けていないけど、長引けばこっちが不利。……理由?パフォーマンスって勘違いした観光客やら街の人がいる……って言えば分かってもらえるかな?……とにかく面倒な状況ってわけだ。
……焦点が定まらない?だったら。
「一気に全体を叩く!!」
「おい!!」
精霊モドキに突進するあたしに向かってタイツが叫ぶ!あたしは走りながら槍に自分のマナを込め、精霊モドキの目の前の空間を槍で横に払った!
「スターダストスロー!!」
槍に込めたマナが刄のように精霊モドキに向かう。槍から放たれたマナは精霊の体を取り囲んで切り付けていった。マナを利用して武器に乗せれば、ぶっ刺すより威力は落ちるけどこんな使い方だってできるのだ。
「ロイド!今なら風が弱まってる!!」
「お、おう!!」
あたしの声に合わせてロイドが双剣を振り下ろす。それを見たコレットがチャクラムをタイミングよく投げて連撃を決めた。流石にこの波状攻撃に耐えきれなかったのだろう。精霊モドキのマナは、今や完璧に暗くなった空に蛍のように霧散していった。
「……ん?これは……?」
精霊モドキのマナが完全に空へと還った後、そこには古びた一枚の石盤が落ちていて、あたしはそれを拾おうとゆっくりとかがんー……
「マナ!!すごいよー!マナー!!」
「ぐぶふぇ!!」
不安定な姿勢だったからか……後ろから突進して抱きついてきたコレットの体重を支えきれないで、あたしは前へと盛大に突っ伏した。ああ……こんにちは地面。ってか、そんな場合じゃない!痛い!石舞台に鼻モロに打ったぞ!!ついでに蛙を潰したような声出たぞ!あんな声出せるんだね!人って不思議!しかし、コレットさん?これは天然なのか……わざとか……どっちにしろ、鼻痛いんだって!
「こーれーっーと~~!!」
あたしは真っ赤に染まっているであろう鼻を押さえて、コレットに文句の一つでも言ってやろうと向きなおー……
「えっ?」
コレットの方へ向き直り顔を上げれば、たくさんの人が石舞台の周りを囲んでいて、そのたくさんの人の拍手があたしに降り掛かってきて。雨のように降るそれをどこか呆けた顔で見回した。
「マナ、すごく綺麗だったんだから!!」
上手く状況が飲み込めてないところもあるけど、なんだか恥ずかしいようなうれしいような……そんな気持ちになって。そんな自分の気持ちに気付いたら、鼻が赤いこともどーでもよくなっていて……あたしの顔は自然とゆるんでいった。……たまにはいっか。こんなことがあっても、さ。
気が付けばあたし達の上をキラキラとした星達が包んでいた。
++++++++++++++++++++
「中央の階段を登って祭壇に地図を奉納するのよ」
「はい、先生」
あの儀式の翌日。つまり、今日。あたし達は次の封印を解放するためにアスカードの東にある古代の王の墓……パラクラフ王廟と呼ばれる場所に来ている。
あの時拾った石版(後で当然のごとくリフィルに奪われましたが)は、どうやら古代パラクラフ王朝時代の物だったらしく、あの後すぐにリフィルとライナーの二人が刻まれている文字の解読を始めたんだけど―……一晩で解読してしまうんだから天才っていうのか狂人って言うのか。とにかく解読をした結果、この墓が次の封印だって判明したため、さっそく解放しに来たってわけだ。
ちなみに昨日あたし達が戦った精霊モドキの正体は古代パラクラフ帝国を襲っていた災厄で、精霊とは対極の位置に存在するようなものだという見事なオチもついた。封印されていたのだけれど長い年月のうちに封印が緩んで解けてしまい、おまけにあんまりにも昔の出来事だったから伝承もごちゃごちゃとねじ曲がって、いつしか風の精霊と同一視されてしまった。……とはリフィル談だ。
「でっ、運よくその石版がここの鍵だった、と」
「そういう事になるな。……しかし、お前まで来なくても良かったのだぞ」
横にいる精神衛生上よろしくない世にも奇妙な歩く紫タイツが妙な事を言いだすもんから、あたしは思わず顔をしかめた。このマナちゃんにこなくていいなんてどういう用件だ。答えによってはそのタイツに一ガルド硬貨ぐらいの穴を開けてやるぞ。膝の辺りに。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずかタイツは淡々と言葉を続ける。
「昨日は遅くまでアスカードの人達に捕まっていただろう?だから疲れているのではと思っただけだ」
あっ…心配してくれてんだ。案外いい奴?
「足手まといになられては困るからな」
……やっぱり穴を開けてやろう、両足に。ほら通気性よくなりそうだし、何より蒸れなくなるかもしれないよ?あたしってば親切だ。
「おーい!二人とも早く中に入ってこいよー!何だかピュービュー風が吹いてておもしろいぜ!」
「今行くよーロイドー」
タイツに続いてあたしも古代の墓へと足を踏み入れたのだった。
遺跡―……じゃなくて墓か。この中も他の例に漏れず魔物がウジャウジャとそこかしこを歩いていて―……それだけならいつもと変わらないのだけれど、盗掘防止のためなのか床や壁から針が出てくる素敵なトラップ付きなんだから素晴らしいね!……トラップにこびり付いている黒い何かは見ないことにしよう……うっぷ……考えたら気持ち悪くなる。
えげつないトラップを避け、仕掛けを解除しながら内部を奥へ奥へと進んでいく。そして。
「やっと祭壇かよー……ダンジョンはもう飽きたぜ……」
「ロイドっていつもこうだよねー……待って!すごいマナを感じるよ……!」
ジーニアスの言う通り、祭壇の中央に周囲のマナが集まっていく。そして、そのマナは徐々に形を作っていって―……
「はいはい、お約束お約束」
「よし!いくぞ!みんな!!」
ロイドの号令を聞いたあたし達は次々と武器を手に取った。
前の戦闘で風を使う魔物との戦いに慣れたのかコツを掴んだのか……とにかくロイドはすごい勢いで双剣をたたき込んでいく。それに合わせて、リフィルやジーニアスの魔法が次々と炸裂し……あたしが何をするまでもなく、守護者だったものは再びマナの粒になり空に溶けていった。
きっとまた、このマナも廻るんだろうな……次に何になるかなんてそんな事までは分からないけれど―……マナは廻るから。
「再生の神子よ。よくぞこけまでたどり着いた。さあ、祭壇に祈りを捧げよ」
「はい。大地を守り育む大いなる女神マーテルよ。御身の力をここに!」
コレットが祈りを捧げれば、いつぞやのえらっそうな言葉使いの……これまたえらっそうに人を見下す……あれ?名前なんだっけ?……いいや、羽が生えた痛いおっさんが現われた。
きっとまた、コレットの中で何かが変わってしまうのだろう。そう思うとため息を吐かずにはいられなかった。
ドリアードの力を使えばコレットのマナの流れを治せるかもしれない。でも、コレット自身の意志で天使になろうとしている以上、あたしには何もできない。……いざとなったらあたしも我を通すけど―……今はまだ時期じゃないから。
「旅の終焉は近い。早く真の天使になるのだ。よいな」
さて……どうすればいいんだろう。悩むあたしの心とは真逆のようなムカつくぐらいに晴れ渡った空がどこまでも……どこまでも続いていた。