シルヴァラント編(TOS)
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「マナ……あのね……」
「大丈夫、ロイドには言わないから」
「違うの……あのね……マナは夜が嫌いだって言ってたよね」
「……うん」
「どうして……?」
「それは……まあ色々あるって事。ふぁ~……それにさすがにそろそろ寝るね。そうしなきゃ、明日の朝からタイツの小言がくるし」
「……そっか。うん、お休みなさい。」
「また明日、ね」
夜が来るたびに思う。どうして夜が来るんだろうって。本当に夜は明けるのかな?このまま寝てしまっているうちに何もかも消えてしまっていたら?……そう考えると……怖かった。
《Tales of Mana》
「でっ、今日はどうするの?ハコネシア峠まで行くんでしょ?」
「いや、とりあえず、ソダの間欠泉へ行こうかと思ってるんだ。そこにスピリチュア像があるらしくてさ。それがないとちょっと面倒なんだ」
おはようございます、マナです。何だかんだとありましたが、無事合流を果たしたあたし達は、早速、世界再生とやらの旅を再開させることになりました。ロイドの話だとソダの間欠泉とやらが一先ずの目的地らしいのだけれど……あれ?
「ハコネシア峠じゃないの?ってか、そもそもスピリチュア?だっけ?なんでそんなものが必要なの?」
「そっか。お前は俺達が峠に行った時はいなかったもんな。実は……」
そう言うと、ロイドはあたしが別行動中に起こったことを順番に話してくれた。まあ、若干長いんで短く簡潔にまとめると……ハコネシア峠って所に住んでいるおじーさんが持っている“再生の書”ってやつを見たいのだけれど、それを見るためには条件があって、その条件ってやつがそのおじーさんの所へスピリチュア像を持ってくることなんだそうな。
んでもって、“再生の書”っていうのは、像のモデルにもなっているスピリチュアって人の旅を記録した貴重なもので、世界再生の旅のヒントが記されている唯一の記録らしい。元々は、ここ、パルマコスタの総督府で厳重に保管していたのだけれど……
「その偽神子って奴が、売っ払っちゃったわけか」
偽神子っていうのは、この街に着いた直後に絡んできた(我らが神子様が丁重に笑顔で迎撃しましたが)あの妙ちきりんな連中の事で。その偽神子一行は本物の神子一行……つまりあたし達に成り済まして“再生の書”総督府から持ち出してしまったんだそうだ。んで、質流れ―……いや、質には入れてないか。まあ、流れてそのおじーさんが現在の所有者らしい。おまけにこのおじーさんが、曲者で、スピリチュア像を持っていかないことには“再生の書”を見ることも触ることもできないとはロイド談。
「ったく!あの強欲ジジイ!ムカつくよなー!……まあ、そのスピリチュア像がソダ間欠泉にあるって話だからさ」
「それを取りに行くわけね。OK、わかった」
確かにこのだだっ広い世界に点在する封印ってやつを何の当てもなしにしらみ潰しに探す!……ってわけにもいかないもんね。
「ロイドが話した通りよ、マナ。それにしてもロイド!あなたが強欲なんて言葉を知っていたなんて!それに文法も間違っていないわ!なんて奇跡的なの!?」
「そ……そうか?」
「……」
「どうした?マナ」
「ん?いやー……平和だなーって思って」
と、ロイドとリフィルを指差せば、タイツの目線もその二人へと移り……あっ……なんかコイツ、軽くショックを受けてない?ショックといえば、正直、あなたを初めて見た時にあたしが受けたショック(主にタイツ的なもの)の方がでかかったですよ?
「さて、目的地も分かった事だし出発しますか!」
「待ってくれ!!」
街の門をくぐろうとしていたあたし達を誰かの声が引き止める。って、この声の人はもう知ってるんだけれどね。
「ドア総督!?」
あたしを除く仲間全員が一斉に彼の名前を呼んだ。そう……声の主の名はこの街のリーダーのドアさん。ドア総督はひどく慌てて走ってきたのか、その背中は激しく上下に動いて息も切れ切れとしている。
「君達が……君が出ていく前に……一言……一言言いたかったんだ……」
今まで下を向いて息を整えていたドアさんが顔を上げて、あたし達―……ううん、あたしを見る。そーなると他のみんなの視線も自然にあたしに集まるわけで。うっ……なんか居心地悪いぞ……
「ありがとう……本当にありがとう。君の事は……この恩は忘れないよ」
一息大きく息を吐いて、ドアさんはそう言った。恩ねえ……んな事は……
「忘れちゃっていいよーじゃあ、行こっか!」
そう一言だけ笑顔で返し、あたしはパルマコスタの門をくぐった。だって、この結末に決めたのはこの人自身だから。あたしは何もしていない。
「お、おい、マナ!?」
「ほら、みんな。早くしないと今日に置いてかれるよー!」
だけど―……
「マナ、うれしそうだねー。ジーニアスもそう思わない?」
「うん!僕もそう思うよ、コレット!」
今日の太陽は、やけに暖かく感じたんだ。
++++++++++++++++++++
「えっと……これは何かのギャグ?それとも命懸けで笑いを取らなきゃいけないルールでもあるわけ?」
「ははは……ま……まさかなぁ……でも、どこから見ても……」
「“タライ”だよね?」
「わあー!おもしろそうー!」
パルマコスタからはるばる北上をしてやって来たあたし達を待っていたのは、どこから見ても立派なタライだった。そして横の看板には“ソダ島遊覧船乗り場”の文字。
「“遊覧船”って、詐欺でしょ!!ってか船じゃないじゃん!!タライじゃん!!」
世界が変われば、そこのルールや常識だって変わる。そりゃあ、変わるだろうとも。ただ、ここまで斜め上をかっ飛ばれるとは思いもしなかったけどね!!
「わ、私はここで待っています。さあ、いってらっしゃい!よくって?私は乗りません」
カルチャーショックを受けて口が開いているあたしの横では、リフィルが顔を青くして何が何でも乗んねーぞ!ゴラァ!!という空気を全身から……そりゃあもうビッシビシと放出させていた。……ああ……そーいや、リフィルって水ダメ(予想)だったっけ。でも……これは金づちじゃなくても引く。現にあたしは引いている。
麗らかな陽気、穏やかな海、そして何より圧倒的な存在感で海面にユラユラと浮かぶタライ達が静かにあたし達を見ていた……ような気もしなくもないのでした。本当に何なんだよ……この世界……
「……やっと着いた……のね……」
「……大丈夫?姉さん?……はあ……海水が入って来た時は転覆するかと思ったよ……」
結局、タライに乗る以外に道はなくタライを駆使しやって来ましたソダ島へ。タライでの移動は厳しく過酷なものであった……しかしそのかいもあり、あたしのタライ捌きも見事に上達を果たしたのである!この厳しい試練を乗り越えた今なら、世界中のどんなタライでも上手に乗りこなす事ができるはず!何の役にもたたないけれどね!!……ちなみにリフィルも一緒に来ています。あんなに嫌がってたのに何で一緒に来てるの?……と、言われれば……色々あって……何はともあれ……意地っ張りって大変だなって思う。
「先生。そんなに怖いなら待っててもよかったんだぜ?」
「そ……そんな事ありません!すごくた……楽しかったわ……ええ、楽しかったですとも!」
帰りどうするの?そう言いかけて、あたしは慌てて自分の口を結んだ。別に今言わなくてもいいよね?無理して悲しい現実を教える事もないよね?あたしは一人その事実を胸の中に閉まい込むのでした。(そのうち嫌でも思い出すだろうし)
船という名のタライ着き場から離れてすぐにそれは現われた。空高くに立ち上る湯の柱。圧倒的な量の水が強い圧力を受けて押し出されて、どこまでも続く柱を空へと建てる。わざわざタライに乗ってくる観光客って馬鹿だなー……って、一瞬でも思っちゃってごめんなさい。それくらいに、ここの間欠泉の作る風景はすごかった。圧巻の一言である。
「あ、あれ?あの展望台みたいな所の看板……何か見覚えが……」
「どうした、神子?看板がどうかしたのか?」
「二人ともー、何してるのー?ほら、ロイドがスピリチュア象を取ってくれたよー!こっちにおいでってばー!」
「あっ、マナ!はーい!今行きまーす」
++++++++++++++++++++
「でも、なんで間欠泉の…しかも岩場の影なんかにこんな高そうな像があるの?」
「元の持ち主が前にここへ来たときに落としてしまったんだそうだ」
あたしの素朴な疑問に答えてくれたのはタイツだった。……だからこんな所にこんな高価そうな像があったわけ、か。そうすると、この像が間欠泉の中に落ちないで岩場に引っ掛かっていたのはラッキーだったんだ。
もしも、間欠泉の中に落ちてしまっていたら、いくらジーニアスの氷の魔法で間欠泉に蓋をしたって取れなかっただろうから。ん……?そーいや、今、持ち主とか言わなかった?
「持ち主って……それヤバくない?返さなくていいの?」
「許可は取ってある」
「さいで」
仕事早いなー……おい。
「マナ、クラトスもこっちを見てくれ!なあ、これって何とかって石版じゃないか?」
岩場の影とかそんな所じゃなくて、見晴らしのいい展望台のど真ん中に堂々とロイドがいう石版はあった。確かに、トリエット遺跡で見た石版とこの石版はよく似ている。
「ってことは、ここが封印?そんな偶然ある?」
「なんだよ、スピリチュア像なんて必要なかったじゃねーか」
「元気出して、ロイド。間欠泉を近くで見れてよかったと思えばいいよー」
「マナ!ロイド、コレット!早く封印に入ろうよ!僕、早く中が見たい!」
石版を見た反応は三者三様。相変わらず、賑やかです。……約一人ほど完璧に違うところに行っている人もいるけれど。それは誰?もちろん我らが先生ですよ、はい。あー……また石版に頬擦りしてる。
「じゃあ、石版に手を置いてみるね」
コレットが手を軽くかざすと、目の前の岸壁が激しい音を立てて崩れていきぽっかりと大きな穴が口を開け、そしてそこへと続く光の橋がかかー……ん?
ロイド達に続いて進もうとしていたのだけれど、ある気配を感じてあたしは辺りを見回した。
「どうした?お前は行かないのか、マナ?」
「……悪いけど、あたしはここにいるよ。みんなにはタイツから言っておいて」
「……気付いていたのか?」
あたしの言葉を聞いたタイツは、ちょっぴり驚いたような感心をしたような目でこっちを見ている。
「そりゃあ、まあ……って、そっちも気付いてるくせに。とにかく、あたしはここにいるよ。そっちも気を付けてね」
「フッ……こちらなら大丈夫だ。そう簡単にやられは……」
「違うちがう。あたしが言いたいのは、あれよ。あれ」
そうやって前方に目を向ければ。
「フハハハ!早速調査に向かおう!」
「ねえさぁーん……」
「ね?」
「わ……わかった……善処しよう」
どこぞから聞こえる高笑い。そして、悲痛な声。今日も元気にリフィルは通常運転です。
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さぁて、今回も一人残ったわけですが、ちゃんと理由はありますよ。
「何この変な動物!コリンの邪魔をするなんて!」
「まったくだよ!」
「何?それ、しいなのペット?小さーい!ふわふわ!ねえ、抱っこしてもいい!?」
「あ……あんたは……!」
久しぶりーと片手を軽く振り笑えば、心底呆れたような表情をしているしいなの顔があった。
「でも、まーだ諦めてなかったんだね。ってことは、わざわざタライを使って追ってきたの?ごくろうさまーあっ!ちなみにしいなを通せんぼしていたのはノイシュって言って頭に乗っていた不細工な生き物がラビだよ」
「そ……そんなこと聞いてるんじゃない!どうして、あんたはあたしに関わるんだい!?」
「どうしてって言われても……しいて言うなら気分?」
「理由になってない!」
「別に理由なんていらないでしょ?あたしはただこうしたいから話してるだけだし。……おーっ……また上がった」
あたし達は間欠泉の近くの手摺りに寄り掛かりながらそんなことを話していた。どうやらしいなはまだコレットの命を狙っているみたいだけれど、肝心のコレットは今は遺跡の中。おまけにコレット達が中へ入った後、すぐにここと遺跡の入り口まで繋いでいた光の橋が消えてしまったのでしいなにしてみればどうしようもないのだ。だから、お互い暇でしょ?って事になり現在に至る……と。
「しっかし、しいなもめげないねー……そんなにまでして殺さなきゃいけないの?コレットの事」
「当たり前だろう!前にも言った通りあたしはやらなきゃならないんだ!」
「そう」
轟音を立てながら一際、大きく空へと湯の柱が伸びる。遠くにその飛沫を飛ばして。飛沫はこの辺りに吹く風を温く湿らせて。風はひっきりなしに立ち上る湯気を遠くに運んでいった。
「……止めないのかい?」
「止めるも何も、しいながそう決めてるんだったら、あたしが何を言ったって仕方がないでしょ?……本当に心がそう思っているのなら、ね」
あたし達の間をまた温い風が駆け抜ける。風は少しだけ髪と服をなびかせて、同時に細かな水滴も残して遠くに去っていく。
「しいなの考えは否定しないよ。……人に自分の考えを押してけるほどあたしは傲慢じゃないから。……だけど、しいながコレットを実際に手を掛けるっていうのなら―……あたしはしいなと戦うと思う」
人の考えを否定なんかしない。でも、あたしが考えていることだって否定しないし、させない。矛盾しているかもしれないけれど……これが、あたしだから。
「……そうかい。……やっぱりあんた、ちょっと変わってるよ」
「よく言われる。あたしとしてはそんなつもりはないんだけれどなー」
……と、はははと笑えば、いつもより少し……ほんの少しだけれど柔らかな表情をしているしいなと目が合った。
「……今回は帰るよ……でも、次に会う時は―……」
「……まあ、その時はその時って事で」
「……ああ」
そう言うと、しいなはあたしに背を向けてゆっくりと離れていった。
「……はあー……本格的に暇になってきたぞ。……早く帰ってこーい!!」
あたしの気持ちを知ってか知らずか、まるで言葉に合わせるように、こりゃまたいいタイミングで湯の柱が空へと上るのでした。
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「マナ!?マナもまだ起きてたの?」
「そーいうコレットは?いつもならもう寝てるよね?さっきロイドも言ってたけれど、倒れたんだから……無理はダメだよ?」
「うん……そうなんだけれどね……」
あの後、遺跡から出てきたコレットは、また、倒れて―……だから今回もすぐに休ませるために街へ帰らず、ここで野営をすることになった。リフィルは天使疾患とでもいうのかしら?と言っていたけど。コレットの症状が本当に病気かどうかはあたしには分からない。でも……一つだけ分かることがあって―……コレットのマナは。
「また、変わっちゃったね。マナの流れ」
「……うん」
どんどん変わっていくコレットのマナ。それも無理矢理、急激に。そもそもマナはその人固有のもの。……本来なら一生変わることもない……その人を形づくる、ちょっと言い方は悪いけど、設計図みたいなものだ。少なくとも、ファ・デールではそうだった。それを無理矢理換えてるんだから、体に負担を掛けないわけがない。
「マナ……あのね……」
「大丈夫、ロイドには言わないから」
「違うの……あのね……マナは夜が嫌いだって言ってたよね」
「……うん」
「どうして……?」
ゆらゆらと視界の端で燃える焚き火が淡く赤く、コレットの顔を照らしていた。