シルヴァラント編(TOS)
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「なあ……聞いてもいいか?」
「ん?どったの?珍しく重っ苦しい顔して?」
「……人に恨まれたり……憎まれたり……そんな場合、お前はどうする?俺はどうしたらいい?」
「……ごめん。それには答えられそうもないよ。だって、あたしはロイドにとっての“答え”を持ってないから」
「……そ……か。ごめん!変な事聞いたよな!わりぃ……ちょっと弱気になってて、さ」
「でも……」
「えっ?」
「それから逃げないで。そして忘れないで」
それは、ロイドに対して言ったのか、それとも自分をいさめるために自分に対して言ったのか。きっと両方だと思う。怖かった……怖かった。でも、忘れちゃいけないから……忘れるなんて絶対にしてはいけないことだから。
《Tales of Mana》
【sideロイド】
「なーんだ、ディザイアンって実はたいしたことないんだねー」
「ジーニアス!あまり調子に乗らないでちょうだい」
「でも、収容されている人達は助けられたんだから、あと少しだよー」
「しかし、気を抜くなよ。まだ我々は目的全てを成し遂げたわけではないのだから」
「……」
「ロイド?どうしたの?」
「ん?ああ、すまねえ、コレット。ちょっと考え事してた」
マナと別れた俺達は、人間牧場の管制室へ向かって奥へ奥へと進んでいる。俺達のここでの目的は全部で三つ。一つは、ここに収容されている人達を救助する事。……これは、首尾よく達成する事ができた。今頃、ニールの先導によってみんな脱出していると思う。
もう一つは、ショコラの救助。……これも大丈夫。ディザイアンに連れていかれる途中だったショコラを見つけて無事に保護することができたから。そして、最後の一つは。
「ごめんなさいね、ショコラ。関係のないあなたに管制室までの案内をさせてしまって」
「皆さんはマグニスを倒すんですよね?案内するくらい、わけないですから!それに、ドア総督もついに動かれたんですもの!私も何かしたいんです!」
そう言ってショコラはうれしそうに笑った。
ドア……ドアか。
「マナのやつ、大丈夫かな」
「ロイド?大丈夫だよ!マナは僕達よりもずっと強いし!」
ショコラの一言でマナ、俺達のもう一人の仲間を思い出した俺は、気が付けばそんな言葉を洩らしていた。たしかに、ジーニアスの言う通り、事、戦闘に関して言えばマナは強い。……少し悔しいけれど、今の俺がいくら本気でマナに斬り掛かっても、あいつは「ひょい」と。それこそ遊んでいるかのように、受け流してしまうだろう。そう……あいつは強い……強いんだけど。
「ジーニアス。お前さ、マナを見ていて時々、こう思う事、ないか?まるで」
「えっ?」
ここではないどこかへ。見えているんだけれど、触れられない。ずっとずっと遠くにいるような……そんな感じ。
俺の言葉を聞いたみんなは水を打ったように静かに口を閉ざした。カツカツ……といやに無機質な足音だけが耳に入ってくる。沈黙を破ったのはジーニアスだった。
「マナのね……マナのマナは“透明”なんだ」
「はあ?マナのマナ?お前何言ってるんだ?ぜんぜん、わからねー」
「んもう!!ちゃんと聞いてよ!マナの体の中のマナの色が“透明”だって言ってるの!!」
透明?マナが?っと、言うか……
「そもそもマナに色なんてあるのか?」
俺の疑問に答えてくれたのは先生だった。先生が言うには、そもそもマナっていうのは人間でもエルフでも、動物や植物だって持っているものだけれど、その色(先生曰く“波長”)は個人個人で変わってくるものらしい。で、その色ってやつは誰でも持っているんだけど、マナには……
「それがない。いいえ、それは正しくないわ。むしろ、逆。純度が高すぎるのよ、あの子の場合。純度が極めて高いマナがたくさん混ざって結果として透明に見えているのね……そうね……プリズムを思い浮べると早いかしら?太陽の光のように、たくさんの光の色が合わさると色が消えてしまうのと同じようなものよ」
……後半は、何を言っているのかぜんぜん、さっぱり、全く、これっぽっちもわからなかったけれど、マナのマナは俺達とちょっと違うんだって事はわかった。
「……それって、やっぱりマナが違う世界の人間だからなのか?」
「……話はそこまでだ。どうやらこの先が管制室のようだ」
クラトスの言葉で慌てて思考を中断する。今は、どうあれ、マグニスを倒すことが最優先だ。
「よし、いくぞ!みんな!!」
++++++++++++++++++++
「これから君はどうするんだ?」
「とりあえず、この街にいるディザイアンをみんな摘み出します。ロイド達がマグニスをぶっ飛ばしても、この街にいるディザイアンが暴徒化したら意味がないから。でも……その前に……」
あたしはそっと顔を横へ向けた。そこにあるのは檻。そしてさらにその先には―……
「クララの……妻のことなら大丈夫さ。君はもう充分してくれたじゃないか……」
「そんなわけにもいかないでしょう?……“悪魔の種子”そう言いましたよね?」
「あ……ああ。奴らはそう言っていたが……」
ちょっとだけ考えて、あたしは自分の笛を取り出した。あたしが笛に息を吹きかけると同時に乾いた高い音が地下室を包んでいく。
「“ドリアード”」
一言つぶやくと、あたしの周りにたちまち光が生まれた。そして、そこにいるのは。
「こ、これは……」
「精霊です。木の」
木の精霊・ドリアード。マナの女神に最も近い力の、木を司る精霊。だから、ファ・ディールではドリアードの力こそが、最も強力で聖なるものだ。ドリアードなら……
「ドリアード、この人の体のマナの流れ……治せる?」
あたしの言葉にドリアードは返事をする代わりに小さく頷くと、すっと小さな光の粒になりクララさんの体の中へと吸い込まれていった。薄暗い地下室に再び光が生まれて……そして。
「おつかれさん」
光もドリアードも消えた後、そこにいたのは。
「く、クララ……?クララ!!」
静かに深く眠っている女の人と体を蝕んでいたと思われるキラキラ光る石だった。その石をバキッっと踏み付ければ、石はたちまちサラサラとした砂になって、消えていった。
「さーってと、あたしはディザイアンを追っ払わないと。あっ、クララさん、今は寝てますけど、しばらくすれば起きるはずですから」
一回、うーーんと伸びをして、クララさんを抱えている総督にそう話し掛ける。
「君は、本当に……一体……」
「通りすがりのトラブルメーカーですから気にしないでください。あっ、あとこの街にディザイアンってどれくらいいます?」
総督府から一歩外へと出れば、綺麗な一番星が輝いていて、どこからともなく美味しそうな夕ご飯の匂いがして鼻をくすぐっていった。
「あー……もう、お腹減った!……っし!いっちょ、やりますか!!」
++++++++++++++++++++
【sideロイド】
「放っておいて!おばあちゃんの仇になんて頼らない!それぐらいならここで死んだほうがマシよ!!」
「く……う……なぜだ。優良種たるハーフエルフのこの俺が……き、きさま……」
……俺を見つめる二人の目は……どこまでも、どこまでも……深い暗い…憎しみの色を湛えていた。
「ロイド!急いで!姉さんも言っていたでしょ!この牧場を爆破させるんだ!早くしないと僕達まで巻き込まれちゃうよ!!」
「……おう!!」
管制室でマグニスと対峙した俺達は……苦戦はしたけれど、無事奴を倒すことができた。……できたのだけれど……
「……ロイド、マーブルさんの事は……」
タッタッタ…と、返事の代わりに乱雑な足音だけが辺りに響く。
「……本当のことだ。ショコラの……ばあさんを殺したのは俺だから……」
マグニスと対峙したあの時、あいつは俺達の動揺を誘うために揺さぶりをかけてきた。戦いを自分の有利なように運ぶために。そして情けない話だけれど、俺達が動揺している間にショコラはディザイアンの手でまたどこかへと連れていかれてしまった。俺達……いや、俺がそんなに動揺した理由―……それは……そのわけは……
「俺は、イセリアで化け物に変わっちまったマーブルさんを殺しちまった。理由はどうあれ―……俺のせいだから……だから、ショコラから恨まれたって仕方がないんだよ」
あの時、ディザイアンがイセリアに攻めてきたあの日。俺とジーニアス……いや、俺はディザイアンによって化け物にされちまったマーブルさん……ショコラのばあさんを殺してしまった。俺、知らなかったんだ。その化け物がマーブルさんだって事を。でも、後からいくらそんな事を言っても―……
「言い訳にも、ならないよな……」
「……ロイド」
「気にするなよ、ジーニアス。俺は大丈夫だから。それに今はここから離れねえとな!マナも待ってるし!」
俺達の真上で、いやに明るく、一つの星が輝いていた。
++++++++++++++++++++
「もう、こんな時間か」
一通りディザイアンを追っ払ったあたしは、街の入り口近くの縁石に腰を下ろしてロイド達を待っている。近くにある時計の針は10時を知らせていて。今まで淡く暖かな光をこぼしていたたくさんの家の光も一つまた一つと徐々に消え始め。街外れのここにある光といったら、道の端々にあるガス灯から漏れる光ぐらいなものである。夜風がそっと髪を梳いて通り過ぎる。まだ、寒い季節はずっとずっと先だけれど、さすがにこの時間の風は寒くて、ぶるっと震える体を両手で押さえた。
「……くぅーん?」
「ありがとう、ノイシュ。心配してくれてんの?……!いい事考えた!!」
「わふう!?」
「うーん……やっぱり、フカフカあったかーいー」
そう言って、ノイシュのフカフカな立て髪に顔を埋めれば、まあ、若干動物臭いところはいなめませんが、ポカポカとあったかくて。今度から、野営するときはノイシュを枕にしようか?うん、そうしよう。……と一人で心の中でこれまた勝手に決心をしてみたりする。
「……みんな、遅いね」
そう、ポツリとつぶやけばこっちを心配そうに見るノイシュの目があった。本当は、宿で待っててもいいのかもしれないけれど、でも、待っていたかったから。
「せっかく、このマナちゃんが、ご飯を食べるのも我慢して待っているんだから、早く帰ってこなきゃ罰当たりってなもんよ!帰ってきたらロイドとタイツから夕飯のおかずを一品ずつ奪ってやる!」
「わふう!」
あたしの話に合わせるようにノイシュが楽しそうに一鳴きする。
「ノイシュもそう思うでしょ?絶対、奪ってやる!……ってか、このラビ公はさっきからぶっさいくな顔して寝てるし。いいねー……こいつは。気楽でさー」
あっ、言い忘れてましたが、しっかりラビもいますよ。への役にも立たないけれど。しっかし、本当に気持ち良さそうだなー……こいつ。鼻提灯だしておまけに歯軋りしてるよ。あんまりにも気持ち良さそうに寝られるのも癪なんでこいつの鼻に葉っぱでも詰めてやろうか?とか、本気でそんな事を思ってしまう。
「……でも、やっぱり、夜って好きじゃないなぁー……」
ふっと見上げれば、月はもう沈んでしまっているけれど、満天の星が空の暗幕を埋め尽くしていて。
「くう?」
「あっ、……こっちの話だから気にしないで……そんな目でしないでってば。って、ノイシュ!?」
今まで、あたしの隣でおとなしくしていたノイシュが急に立ち上がって駆け出した!モンスター!?……と、一瞬考えて辺りをじっと見てもそんな気配は全くなくて、聞こえる音といえば、風が草をサーッとくすぐる音と虫の音ぐらいの静かなもので。……っていう事は、ノイシュが駆け出した理由はただ一つ。
「ただいまー!マナ!!ごめんね、遅くなっちゃったー」
「コレットー!ご飯ーーー!!」
掛ける言葉を間違ってねえ?いいえ、気のせいです。
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「ふぅー……食べたたべたー」
「お前なぁー……なんで俺とクラトスの分だけおかず取るんだよ!!」
「あまーい!!ロイドくん!しょせんこの世は弱肉強食!強い者が生き、弱い者が死ぬ!……って、どこぞの誰かも言っていたじゃない」
「誰だよ、それ」
「さあ?」
「はあ……」
無事合流をしたあたし達は宿でかんなり遅い夕食(むしろ、夜食)を取っています。時計を見ると真夜中0時。ジーニアスなんか、パンを片手にゆっくりと前後に櫂(かい)をこいでいる有様。これはこれでおもしろいかもしれない。
「そうそう。こっちの用事はバッチリ片付いたよ。ディザイアンも追い出したし、ドア総督に関しては―……もう大丈夫だから、きっと。そっちは?」
「……その話は明日起きてからにしましょうか。この子も限界のようだし」
そう言うと、リフィルは隣にいるジーニアスに優しげな目を向けた。でっ、肝心のジーニアスはというと……ダメだこりゃ。フォークを片手に机に突っ伏してるよ。
「……その方がよさそうだね」
そんなジーニアスの様子に、バドとコロナの影を重ねていたのはここだけの話。……元気かな?あの二人。
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「なあ、マナ……」
「ん?何さ、ロイド?みんなもう部屋に戻ったよ?」
「ちょっとだけ、話、いいか?」
みんながいなくなった真夜中の静かな食堂に、いつもよりやけに真剣でやけに苦しそうなロイドの声が響いた。