シルヴァラント編(TOS)
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「……私を許すというのか?」
「うーん……許すとか許さないとか、あたしには関係ないな」
「……」
「それを決めるのはあなた。許す許さないはあなたが……あなた自身が決める事」
ヒトの事なんて言えない。
そんな資格をあたしは持っていない。
あたしが言った事はひどく酷な事かもしれない。
自分自身のことを自分が許す……少なくともあたしはまだそれができないでいる。
《Tales of Mana》
「……おい、マナ!マナ!!」
「ん……っ?ロイド?」
「お前なー……もう朝だぞ。いい加減に起きろ……ッ…!?…なあ、お前……」
「何?ロイド?」
「気のせいだよな……い、いや……何でもないんだ!!じ、じゃあ、俺先にみんなのところへ行ってるから!お前も早く来いよ」
「……変なロイド」
おはようございます。マナです。あたし達が今いる場所は、ハコネシア峠とパルマコスタの中継地点である救いの小屋。昨日、ショコラのお母さんを救出したあたし達は、その後すぐにハコネシア峠へ向けて出発をした。……のはいいのだけれど、パルマコスタを出た時点で日も大分傾いていたために、昨日のうちに峠へ向かうことができなかったのだ。
まあ、無理をすれば行けない事もないらしいけれど、無理をして倒れでもすれば笑い話にもならないし、夜は魔物が活性化して更に危険度が上がるらしい。んな、デンジャラスな橋を好き好んでわたるわけにもいかないし、あいにくそんな趣味もないので救いの小屋で一泊をしたというわけ。
しっかし、目覚め悪いなー……あたしは元々朝が強いほうではないけれど、今日は一段と頭が重い。
「変な夢、見たせい、かな?」
頭が重くて重くて……自然と下を向く頭を手で支える。
「忘れるな……ってか?」
あの四人の事……ううん……あの旅であたしがした事を?そんな事改めて思い出させようとしなくても……
「忘れられるはず……ないじゃない」
窓が切り取った景色は、あたしの気持ちとは裏腹に憎らしいほどの鮮やかな青に染まっていた。今日は暑くなるのだろうか?青の合間に広がってゆっくりと流れていく白い雲を見ながらそんな事を考えていた。
「いやー……みんなおはよー」
「あら、マナ?相変わらず遅いお目覚めね。……と言いたいところだけど、安心なさい。私達も今起きたところです」
「はい?」
うーんと?さっきも言ったように、あたし、マナは朝が強いというわけではないのであります。そんなもんだから、リフィルやタイツのお小言をくらう事も少なくないわけでありまして。まあ、タイツに何を言われようが基本スタンスはスルーなのだけれど、今はそんな事は心底どうでもいいから放っておくとして。正直、今日も小言が飛んでくると思って身構えていたからリフィルの言葉に軽く拍子抜け……ん?
「……リフィル、今、何時?」
「六時半よ」
「ロイドは?」
「クラトスと稽古しているのではなくて?先程から金属がぶつかり合う音がしているから」
「…つかぬ事を聞くけれど、ロイドってさすがに時計の針は読めるよね?」
「……。さあ!朝ご飯が出来る頃だわ。ここの精進料理はおいしいのよ」
ちょっと待て。今、明らかに目を逸らしたよね?逸らしたよな?あんにゃろォオオオ!絶対、自分が起きたついでにあたしを起こしていったな!
しかも、時計が読めない(推定)だから時間を確かめなかったのか!
「ただいまー先生、マナ。おっ、いい匂いだな!」
「あら、お帰りなさい。ロイド」
「ん?マナどうしたんだ?眉間の皺ヤバいぞ?」
「誰のせいだァアアアア!!」
安眠妨害イクナイ。朝もはよから、あたしの怒鳴り声とロイドのひどく焦った声が響いてしまったのは仕方がない事である。
「……さて、今日こそはハコネシア峠へ向かわなくては」
「そうね、世界再生の旅は急を要するもの」
あの後、若干色々ありましたが、無事朝食を食べ終えたあたし達は早速出発する事になった。すでに峠まであと半分の位置にいるのだから、何事もなければ今日のお昼には峠に着くということなんだけど……
「神子さま、皆様!ドア様から伝言です。再生の旅、しばしお待ちいただきたい!」
……お約束と言えばいいのか、何事もないわけがないのであった。この旅において何事もなかったらそれはもう奇跡の類である。と、どこか達観している自分がいた。
「ショコラがさらわれちゃうなんて……」
「くっそ!ディザイアンめ、許せねえ!!」
あたし達はパルマコスタ人間牧場とかいう場所に向かって全速力で走っている。救いの小屋であたし達に接触してきた男によると、あたし達がパルマコスタを出発してからすぐにディザイアンがやってきて、ショコラをさらって行ってしまったというのだ。んでもって、これを機にパルマコスタ軍がディザイアンを叩きに出陣するから、その裏をかいてショコラを救助してくれないか……と。
「話は後よ。今は急がなくては!マナも分かっているわね?」
「そうだね。もう昨日から丸一日経っちゃってるし、急いだ方がよさそう!ロイド、走るよ!」
「ちくしょう!無事でいてくれよ!!」
救いの小屋から出発した時には、まだ低い位置で輝いていた太陽は今は真上で輝いていた。
「ここが人間牧場?」
「ああ……マナ。イセリアと同じだ」
「ロイド……イセリアだけじゃなかったんだね」
昼でも僅かな光しか差し込まないような山影の鬱蒼とした森の中。そんなところに牧場はあった。ロイドとジーニアスの二人は以前こことは違う牧場を見てきたんだろう。二人の顔色はけしていいものではない。
「どうする?あまり時間はないんじゃないの?」
あの短気男のことだ。さらった人間を丁重にもてなすなんて紳士精神は蟻の脳みそほども持っていないだろう。しかも、ショコラはあいつの部下にタンカを切った張本人。何もされないなんて保障もない以上、いつまでも茂みに隠れて様子を伺っているわけにもいかない。
「正面突破しかないのか?」
その言葉にギョッとして隣にいるロイドを見れば双剣の柄に手を掛けているじゃないですか!おいおい、ロイド君、それはちぃとばかり猪突猛進過ぎやしないかい?
「ちょっと、ロイー……」
「お待ちください、神子様!皆さんにはこのままパルマコスタ地方を離れてほしいのです!!」
あたしの制止の声は不意に登場した男によって完封なきまでにかき消されるのでした。……んっと?誰さん?と、事情が呑み込めないあたしは一人首を傾げた。
ロイド達によるとこの男の人はニールといって、ドア総督の右腕的な役割を担っているらしい。皆は、総督府へ行った時にすでに会っていたらしいのだけれど、あいにくあたしはその時は、ドキ☆しいなとスリリングな鬼ごっこをしていて顔を合わせていなかったので今回が初顔合わせ。……あたしも総督府へは行ったけれどその時はいなかったみたいだからなー。
しっかし、このニール、顔は青ざめていて言葉の端々の切れも悪い。でも「ここから早く立ち去れ」という言葉だけはいやに頑なに何回も繰り返している。……ってことは。
「やはり、罠か」
「嫌な方の想像が当たっていたようね」
二人の言葉を聞いたニールの顔は益々、真っ青になっていった。そう、タイツやリフィルが言う通りおかしかったのだ。ディザイアンが軍隊であるパルマコスタ軍を野放しにしている事が。リフィルは言う。そんな事をする理由は二つ。放置しても害がない存在であるかあるいは……自分達にとって有益であるか。残念な事に今回は……どうやら後者の理由みたい。
「昔はこんな方ではなかった。本当に街の皆の事を考えておられたのです。五年前、クララ様を失った時もディザイアンと対決する事を誓っておられたのです」
ニールはうつむいて、ポツリポツリと言葉を紡いでいる。声は震えていて……ニールがドア総督を信頼していたという事が痛々しいくらいに伝わってきた。
「ふむ…世界再生を優先させるためにはここを捨て置くべきだな」
この重々しい空気をぶち破って声を出したのはタイツだった。タイツの言葉を聞いたコレットとジーニアスが弾かれたように顔を上げる。このまま見逃してしまったらパルマコスタもイセリアのようになってしまう。そんなことは出来ない、と。
「そう、その通りよ。でも、あえて、私はクラトスの意見に賛成したいわね。街が滅ぶのが嫌なら今後不用意にディザイアンに関わらない事だわ」
そんな二人に、リフィルはまるで冷水を浴びせるように言葉を投げ掛けた。そりゃあ、リフィルやタイツの言う事も正論だけど。二人の正論に眉をあたしもひそめた。
「そんなのダメだよ!世界を再生する事と目の前の困っている人を助ける事はそんなに相反する事なの?私はそうは思わない!マナ、マナはどう思う!?私、間違ってる?」
コレットは、必死にあたしに問いかける。あたし……?あたしの意見ねー?
「リフィルやタイツの言う事は実際正しいと思うよ」
「えっ……?」
コレットがひどく驚いたような……悲しいような目であたしをまっすぐと見つめていた。そんな彼女に対してあたしは少しだけ目を伏せて続きを紡ぐ。
「……でも、ここまで関わっちゃったのに、あたし達は関係ありません。バイバーイ!ってのは、いくらなんでも虫が良すぎる、でしょ?」
そう言ってウインクをすれば
「マナ!!」
と、眩しい笑顔が目の前に現われるのでした。正論は確かに正しい。でも人は正論だけでは動かないし動かせないということをあたしは”経験”から知っている。
「でっ?どうする?神子様の意見が最優先じゃなかったっけ?」
そう言って、くるっと笑顔で後ろを振り向けば、困ったように笑うリフィルとタイツの姿があった。
++++++++++++++++++++
「本当にそっちを任せて大丈夫か?」
「少なくてもロイド君よりは強いつもりだけど?」
「お前なぁー……人がせっかく……」
「あははっ。そっちこそ、頑張れよー?」
「ああ!ニールから貰ったカードキーもあるし大丈夫だ!後からそっちへ向かうからな!」
ロイド達と別れたあたしは、単身パルマコスタへ向かっている。パルマコスタを救うためにあたし達が取るべき行動は二つ。一つは牧場をギッタンギタンに叩き潰す事。そしてもう一つは。
「ドア総督の真意、か」
もう一つは、ドア総督に会って事の真意を確かめる事。本来ならば、全員で一つ一つ叩くべきなのかもしれないけれど、今回は時間がない。ドア総督がディザイアンと通じている以上、少なからずディザイアンはパルマコスタへ入り込んでいるはず。マグニスを倒せたとしてもそれが伝わってしまって、暴徒化されてしまってはたまったものじゃないし、かと言ってマグニスをこのままにしてもおけない。……と言う事で、二手に分かれることになったわけ。
街にいるディザイアンの正確な数は知らないけれど、確実に牧場よりは数は減ってあるだろうし、それぐらいならあたし一人でも十分。……たぶん。だから、ドア総督の元へはあたし一人が向かうことになったのだ。……もっとも、あたしがそう希望したんだけどさ。だって、確かめたかったから。キリアの気持ちが伝わったかどうかを。
「さあ、急がなきゃ!!悪いけど、ノイシュ!全速力でよろしく!!」
「わふぅ!!」
ノイシュの長いたてがみとあたしの髪を物凄い勢いで風が切っていった。……急がなきゃ!
++++++++++++++++++++
「総督!!……いない……いったいどこ……?」
「……ちょっと!君!?待ちなさいッ!!」
パルマコスタの街を全速力で駆け抜けてきたあたしは、総督府に続く扉を少しばかり乱暴に蹴り開けて中へ入った。なんか、後ろで血相を変えて番兵がギャイギャイ騒いでいるけれど、今は生憎そんな事を気にしている余裕なんてない。
「…お……さま…」
「地下!?」
下から聞こえてきた声を頼りに薄暗い階段を足早に駆け下りれば、その先には……!
「よかったですわね、お父様!もう少しディザイアンへ金塊を提供すればお母様に埋め込まれている悪魔の種子を取り除く薬が貰えますわ」
「……」
そこにいたのは、やっぱりドア総督と一人娘のキリアだった。二人はあたしに気付かない。やけに冷たい地下室の空気があたしの体から熱を奪うようにまとわりつく。
「どうしたのです、お父様?……哀れな劣悪種に何を言っても無駄か……
もはや貴様は用済みだな。妻が治るという絵空事を胸に抱いたまま死ぬがいい!!」
「ドアさん!!」
不気味な笑みを張りつけたキリアがドアさんに襲いかかる!ダメだ!ここからじゃ間に合わない……!キリアの持った刃物が寒々しく光り、軌跡を描く。鈍い音がして……ひどくゆっくりと……そこだけ時間が流れていないような……そんな気がした。
「な……なぜ私が……」
「ああ…わかっていたさ…娘はいない……そう……もう……何かを奪う事も……何かを与えてやる事もできない……」
「お……おとうさま……?ほら、わたし、キリアよ?……あなたのかわいいむすめのキリア……」
キリアの胸が赤く染まる。そして、彼女の顔には酷く歪んだ笑みが張りついていて……彼女が命乞い代わりに吐いた言葉はドア総督の神経を逆撫でするものでしかなく、彼が刺したナイフはさっきよりも深く深く……キリアの左胸に沈んでいった。
「キリアはもういない!いないんだ!!」
「……がっ……ハッ……」
あたりに鮮血が飛び散る。その赤が収まった時、そこにいたのは、ひどく痛々しい顔をした男と異形の姿へと変貌……ううん……おそらく元の姿に戻ったキリアだったものが転がっていた。
「ドアさん」
「君はあの時の……そうかニールが伝えたのか……」
「……はい」
ドア総督はゆっくりと事の次第をあたしに話してくれた。ディザイアンの手によってクララさん……奥さんが化け物へと変わってしまった事。それを治す薬を手に入れるためにディザイアンと手を組み、資金提供をしていた事。そして
「薄々気付いてはいたさ。キリアがもう……いない事は。でも、認めたくなかった。頭では分かっていても心が拒絶していた。夢だと分かっていてもその夢にすがり付いていた……」
「……」
「でも……君のおかげで……大切な……とても大切な事を思い出せた。……遅すぎたけれど。こんな私を皆は許さないだろうな」
ドア総督の顔に自嘲の笑みが浮かぶ。笑ってはいるけれど、その姿は泣いているように見えた。許す、か……
「少なくともあたしは初めから怒っていないけれど?それにこれまでの事はあなたの心が決めてきた事でしょう?」
「……私を許すというのか?」
「うーん……許すとか許さないとか、あたしには関係ないなー」
階段から地下へとうっすら差し込んできた光は優しいオレンジ色だった。