シルヴァラント編(TOS)
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「今……今の光景は……一体…お前は……一体?」
「伝えましたよ」
「……えっ?」
「キリアちゃんの記憶と気持ちです。この人形はお返しします。あなたが持つべき物だから」
この人が何を感じたか、何を見たか。これから何を感じるか、何を見るのか。あたしには分からないし、分かる必要も、ない。
「あとは、あなたの心が決めること。決断するのは他でもない……あなたです」
あたしは何も出来ない。それは、その人その人の心が決める事だから。あたしの行動を決めることが出来るのは“マナ”だけであるみたいに、この人の行動を決めることが出来るのは……“ドア”って人の心だけだから。
《Tales of Mama》
「すごーい!大きな船だねー!」
「うーん~……たしかに大きいね。今までのと比べると」
広場を抜けたあたし達は、割れたワインの弁償のために西へ東へと奔走……“するわけもなく”、観光気分全開でこの街の港まで船を見物に来ております。
「あったりまえだよ!だって、シルヴァラントで一番大きな船なんだよ!マナ!!」
横にいるジーニアスが目をきらきらと輝かせながら興奮した様子でまくしたてる。どうやらロイドとコレットも似たようなもので、すげーすごいねーとはしゃぎながら船をまじまじと見つめていた。
「そーいや、街の人も軍備を拡張してるって言ってたしね。この船もそのためなのか……あっ」
「?どうしたのかしら、マナ?」
「……あれ」
あたしはスッと自分の目線の先を指差した。みんなも指に合わせて視線を動かす。……その先には!
「へぇー……遅れてるとは聞いていたけど、こいつはずいぶん旧式だね。
動力源は……まさかまだ蒸気か?」
「あっ」
あたし達四人の声が綺麗に重なる。あたし達の視線の先には先日知り合ったどこぞのドジっ子暗殺者のしいながおりました。
こっちが気付いたんだから、むこうもこっちに気付いてもおかしくはないのだけれど……しいなの言葉に船を整備していた人がキレちゃったから、こっちに気付く気付かないの話じゃないらしい。と、一応仮説を立ててはみたけれど、実際のところ“まあ、しいなだし”の一言で片付ける方が妙にしっくりくる気がするし、説得力があるように感じるのは何故だろう?
「……うるさいねぇ、何熱くなってんのさ。あたしは……あっ!?」
「やーっと気付いた?やっほー、元気ー?」
とりあえず、やーっとこっちに気付いたしいなにパタパタと手を振ってみた。
「……っ、次に会う時がお前達の命日だ!」
ようやくあたし達の姿に気付いたしいなは顔色を変えると捨て台詞を残し踵を返すと一目散で逃げ出した!……って、うえっ!?
「ちょっと、待ってってば!!」
「おい、マナ!?」
しいなを追い掛けるために走りだそうとしたあたしの背中ごしに慌てたようなロイドの声がする。
「ごめん、ロイド、ちょっと用事!後から合流するから、ちょこっとだけ離れるね!」
しいなとちょこっとばかし話をしたいなってところだったから、ちょうどいいタイミングっちゃタイミングだった。
しいなはコレットの命を、一応は狙っいるみたいだから、黙ってても会うことは出来るだろうけど、その時はきっと戦うことになるだろうから話すことは出来ないだろうし……その点、今いる場所は都会のど真ん中。さすがにこんな人がゴチャゴチャしているところで殺しをやるようなバカじゃないだろう。第一、こんなところで戦闘を始めたら確実に周りを巻き込む。しいなはきっとそんなことをしでかさないはずだ。……根拠はあくまであたしの勘だけど、ね。つまり、今回はゆっくり話をする絶好の機会ってわけだ。
「あーあ……行っちまった。マナは一度言い出したら聞かないからなぁー……」
「……マナって、コレットの護衛してるって自覚あるのかな?僕、頭痛いよ」
「でも、マナとあの殺し屋さん仲良しみたいだから、きっと大丈夫だよ~それに、マナと仲良しさんって事は、私たちとも仲良しさんになれるよ~」
「……まったく、あなた達はいつもこう。とにかく、私達は教会に行って話を聞きましょうか?」
「……はぁ……」
あたしがいなくなった後で三者三様の反応があったことは、勿論あたしが知る由もないのであった。
++++++++++++++++++++
「待ってってばー!しいなーー!!」
「な、なんで追っ掛けてくるんだい!?」
「しいなが逃げるからじゃん!はぁ……はぁ……追い付いたー……しいな、足、速すぎ……」
「あ、あんたの方が……速いじゃない……か……今まで追いつかれたこと、なかったのに……」
人ゴミをぬって走り続けてようやく追い付いた時には街の外れ。二人してずーっと全力疾走していたもんだから、仲良く二人して肩で息をしています。あー……心臓バクバクする。
「ちょっとしいなと話したかったから、慌てて追い掛けちゃった。あー、息苦しー……」
呼吸を整えながらしいなを見れば、しいなは少し驚いたような顔でこっちを見ていた。ん?何か変な事言った?
「それだけの理由で追っ掛けてきたのかい!?……前々から思ってはいたけど、本当にあんた、変わってるんだね。あたし達は敵同士のはずだろう?おまけに一人でやってきて……殺されるとかそんなことは考えないのかい?」
「前にも言ったでしょ?しいなの事、怖くなんかないし。ってか、無理だって」
「……無理?あたしには神子を殺せないって、あんたはそう言ってるのかい!?ふ、ふざけんじゃないよ!」
しいなの目付きが真剣なものへと変わる。あたしは、その目を正面から見据え、ゆっくりと口を開く。
「そう。しいなにコレットを殺すことは出来ないよ」
「な、そんな事あるはずないだろう!?あたしは神子を殺す!殺さなきゃならないんだ!!」
あたしの言葉を聞いた途端、しいなは声を荒げた。それは、あたしの言葉が信じられないのか……信じたくないからか?でもさ……しいな?
「しいな、本当は迷ってるんじゃない?コレットを殺すこと。ううん、コレットだけじゃなくて、誰かを暗殺する事自体、本当は嫌なんじゃない?
だって……」
「だって……?だから何だって言うんだい!回りくどい事言わないでさっさと言ったらどうだい!?」
しいなの声は益々大きくなった。その声を聞きながらあたしは大きく息を吐き、言葉を続ける。
「だって、しいなは優しいから」
まあ、またあたしの勘なんだけどね。でも、意外と当たるよ?そう言ってへらっとしいなに笑いかける。
「あ……あんた……」
あたしの一言は完璧にしいなの予想の範囲外だったらしく、しいなは言葉を詰まらせてただただ、こっちをじっと見ていた。
「優しいからこそ、迷ってる。でも、迷いがある限りコレットを殺せない。やっぱり、迷いがない人は戦闘で強いよ?でも、しいなは迷ってるでしょ?」
迷いがある、ない。どっちがいいか悪いかなんてあたしには分からないけど……迷いのない人間は強い。たとえそれが、狂信的で身勝手な一人よがりな事だとしても、ね。それをあたしは知ってる。エスカデもアーウィンも…どっちも強かった。それが論拠だ。
「……なーんてね。でも、しいなにまた会って確信したよ。やっぱり、しいなは優しいね」
「はあ?どうしてその流れでそうなるんだい?」
「だってさー、攻撃しようと思えば当たるかどうかは置いといて、いくらでもあたしを攻撃できたし、そうしないまでもさっきみたいに逃げることも出来たわけでしょ?なのにどっちもしないで真剣に話、聞いてくれたじゃん」
「そ、それはあんたが変なことばかり言うから……もういい!気が逸れた!」
そう言うと、しいなはいつかと同じように煙に包まれて消えてしまった。
なーんか……話と言うか、一方的にあたしが思ってたことを話してしまっただけな気がするけど……まっ、いっか。また、いつか続きを話す機会もあるでしょ、きっと。
「じゃ、またね。しいな」
今はもう誰もいないその場所に手を振って……あたしは踵を返した。
++++++++++++++++++++
「さーてと……さっさとロイド達と合流しなきゃ、ね。……ん?これって……」
あたしの目の前には、どうみてもゴミを集めていますといううず高く積まれたゴミ置場がある。んでもって、あたしは何をしようとしているかというと……
「ママー、あのお姉ちゃんゴミをがさごそしてるよ!」
「しっ……見ちゃいけません!!」
どこからか、お約束のような台詞が聞こえてきている気がしますが、けっして怪しい事をしているわけじゃないですよ、ええ。いや、ちょこっとばかし怪しいかもしれないけど、全身タイツで街中堂々と闊歩している奴に比べればミジンコ一匹分くらいはマシだろ。うん、絶対。と、自分に言い聞かせながら黙々とゴミを退ける。ゴミの底に埋まっていたもの……それは……
「やっぱり……これって……でもなんで?」
ゴミ置き場のゴミを漁りあたしが見つけたのは古びた一体のアンティーク人形だった。普通に見たら薄汚れた汚い人形。だけど……これには……
「どうして、こっちの世界にも“アーティファクト”があるわけ?」
「……お姉ちゃん、声、聞こえるの?」
「誰!?……あれ?あなたは?」
後ろから急に声が聞こえてきたもんだから、あたしは慌てて振り返った。そこには一人の女の子の姿があった。淡い光に包まれ今にも消えそうな女の子の姿が。あたしはこの子の名前を知っている。
「あなたは……キリアちゃん……だったよね?」
この街の長とも言えるドア総督の娘キリアが静かにたたずんでいたのだ。
「……やっぱり、キリアが見えるんだね。お姉ちゃん、この世界の人じゃないよね?」
「……うん。あたしはこの世界の人間じゃない。でも、あなたも、でしょ?違う?」
嘘を吐くことなんかとても簡単で……普段のあたしならよほどの事がない限り、この手の質問はテキトーに流してる。でも、そうしなかったのはこの子が―……
「生きてる人間じゃないよね?ううん、今は、人間ですらない。あなたは……」
「うん。お姉ちゃんが思っているとおりだよ。キリアはキリアだけど“キリア”じゃない。……“キリア”の―……」
「マナ。あなたは……人形に残っているキリアちゃんの想い…だよね?」
この子は“キリア”ちゃん自身じゃない。“キリア”ちゃんのマナ。キリアちゃんが生きていた時に人形に染み付いたマナの残り香。
あたしが拾った人形は、人の想いが詰まった道具で―……これはとても小さいものだけれど、間違いない。あたし達の世界ではこういった道具をこう呼んでいた。“アーティファクト”……と。
「お姉ちゃん、驚かないの?」
「まあ、ね。あっちだと、こーゆうのがゴロゴロ転がっていたから。別に今更驚きようがないっていうか、さ」
まさか、箱庭療法よろしく収集してました。なんて言えない。口が裂けても言えない。そう思うと乾いた笑みが出てくるのは不可抗力のようなもんじゃなかろうか?
「そっか……お姉ちゃんなら……ねえ、お姉ちゃん、お願いしてもいいかな?お父さんのところへ……お願い……もうあんまりお喋りもできないから―……」
「了解。伝えるよ」
光の粒になって再び人形へと吸い込まれていったキリアにそっと……呟いた。総督府に行かなくては―……
++++++++++++++++++++
「すみませーん、ドア総督っていますかー?」
「総督ですか?総督ならこちらの部屋で書類を見ているはずです。こちらへどうぞ」
あたしは今、総督府に来ている。キリアの言葉を伝えるにはもうあまり時間が残っていない。正直な話、ロイド達も気掛かりだけど、今はこっちの方が優先だ。まあ、「ごめん、ロイド!」と心の中で謝ったんだから許させるだろ、うん。
「私がドアだが?用件は?」
通された部屋では、ドア総督が一心不乱に書類整理に取り組んでいた。よほど忙しいのか、目は書類から離さずにペンを動かし声だけであたしに応対をしている。いつもならカッチーンとくるその態度も今はどうでもよかった。そんなことよりも。
「これ、見覚えありませんか?」
と、キリアのアーティファクトをドア総督の目の前に差し出す。
「そのように薄汚れた人形を知っているはずが……いや、待て……これは……キリアにプレゼントした……で、でも、どうして……あなたが……」
ガタン……と彼が座っていた椅子が倒れた。乾いた音が静かな室内に大きく響くように感じた。
「想いを届けに来ました」
そう言うと、あたしは目を閉じて目の前の人形へと意識を向ける。想いを感じるように……マナの残渣の流れを辿るように……
「一体、何を……くっ……!?」
生暖かい風が一陣、あたしたちの間を通り過ぎていった。
『キリア、お父さんが大好き!』
『どうしたんだ?急にそんなこと?』
『だって、お父さんはみんなのヒーローでしょ?みんながそう言ってるよ!でもね、そうしたら、お父さんのヒーローって誰なのかな?みんなにはいて、お父さんにいないなんて、そんなのおかしいよね?……そうだ、いい事考えた!あのね』
『……?』
『キリアがお父さんのヒーローになってあげる!お父さんのこと守ってあげる!キリアがお父さんのヒーローになるの!そうしたら、お父さんは安心してみんなの事を守れるよね!』
『キリア……お前』
『ダメかな?』
『ダメじゃない……ダメなんかじゃないさ。ありがとう……キリア。……!そうだ、キリア、ヒーローのキリアにプレゼントだ』
『わー!お人形さんだー!お父さん、これキリアにくれるの!?』
『ああ、ヒーローの証だよ』
「今……今のは一体……お前はいったい……」
「伝えましたよ。キリアちゃんの想いと記憶を。この人形はお返しします。あなたが持つべき物です」
あたしは人形を手渡し、総督府の重々しいドアを開いた。差し込んできた外の光は、部屋の埃に乱反射をして光の梯子を架ける。
「後は、あなたの心が決める事。決断するのは……あなたです」
最後に一言だけ伝えて、あたしは総督府をあとにした。
現実を見る?それとも優しい夢に浸り続ける?……決めるのはあの人。そっとつぶやいた言葉は、空に溶けて消えていった。