シルヴァラント編(TOS)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「この街の人は強いんだね」
「……」
「どうしたのだ?マナ?」
「柱に寄り掛かるのって楽だよね。でも、寄り掛かりすぎたら柱は折れちゃうよ?」
そういう例を……あたしは嫌ってぐらい見てきたから。
《Tales of Mana》
「何よ!私の言うことが聞けないとでも言うの!あの人は故郷のルインへ戻っているのよ!」
「違うよ!海は今魔物が出るんだ、ライラ。危険だから大切な君を乗せる事ができないって言ってるんだ」
「わかったわ。じゃあ、マックス、あんたが代わりに手紙を届けてちょうだい」
「嫌だよ!どうして恋敵との間を取り持たなきゃならないんだよ!」
「パクッ……ハグ……もつれてるねー」
「……お前、そんな声で言っても説得力ねーぞ……」
「パクッ……細かいことは気にしないほうがいいよ?ロイド?……モグ……」
あたし達は現在、イズルートという小さな漁村に来ております。リフィル達の話だと、次の目的地のパルマコスタは海を隔てたところにある街で、イズルートから出る船を目当てに船着き場まで来たのはいいけれど
「……パク……ング……魔物かぁ、たしかに船の上で襲われたら……モグ……道ないからなー。ってか、いつまで押し問答するきだろうねー……おいしー!」
「でも、船がなきゃパルマコスタに行けないよ。……ってマナ?さっきから何を食べてるわけ?」
「んー?炉端焼きのイカ。おいしいよ?ジーニアスにはあげないけど」
「別にいらないから……」
あたしの言葉にジーニアスは大きなため息を吐く。こーんなにおいしいのに。罰当たりな奴め。その土地の名物を食べないなんて旅を冒涜するようなものだ!……と思う。でも、ほんとーにこのイカおいしいなーシンプルに塩味のみってところもポイントだね!
「ちょっとそこのあなた達!」
「私達ですかー?」
船着き場で押し問答を繰り広げていた二人のうち、女の人(ライラさんと言うらしい)がこっちに気付き、あたし達に話し掛けてきた。どうやら、手紙をある人に届けたくても自分じゃできないので届けてくれということみたい。……つまり、平たく言うとパシリを探してるわけだ。
「届けるって言っても海がわたれなきゃどうしようもないだろ?」
「まあ、ロイドの言う通りだよねー」
「届けてくれるなら、マックスに船を出させるわよ?“タダ”で」
な、ナンデスト!?ただ!?フリーマネー!?あたしの中のケチ……もとい節約精神がライラさんの言葉に反応する。
「ロイド!届けよう、やろう!タダだよ!ただ!!」
「お、おう!」
「わかっちゃいたけど……マナって本当にびんぼーしょーだよね……」
ライラさんの言葉に涙目になるマックスだけど、ライラさんの説得、という名の脅しに折れ、あたし達は簡単に船を手配することができたのでした。心なしかリフィルがげっそり……むしろ、べっこりしているような気がするけど……気のせい?んなわけないか。
「リフィル、大丈夫?顔ヤバいよ?……もしかしなくても水きらー……」
「そ、そんなことありません!さあ、マナ!出発しますわよ!!」
「口調おかしいから。てか、手摺りに掴まってガタガタしてんじゃん……ちなみに、まだ出発してないよ?」
「わ、私のことはいいから!」
「さいで」
手に持っていたイカの串を船着場のごみ箱にポーイと捨ていざ乗船!しかし、船旅かー……久しぶりだなー……
「今度は沈没しかけなきゃいいけど」
「えっ?マナ?沈没した船に乗ってたの?」
「ううん、コレット。沈みはしなかったよ。でもかなりヤバかったんだよねーあちこちにボカスカ穴が開くし、船倉には海水がドバドバたまってたし……おまけに波が高くてさー…って!?リフィル!?」
「ちょっと姉さん!起きてってば!!」
「……はあ……」
こうして、気絶したリフィルと私たちを乗せた船はゆっくりとパルマコスタへ向かって出航したのでした。
++++++++++++++++++++
「わあー……パルマコスタって大きい街なんですねー……」
「パルマコスタはシルヴァラントで一番大きな街だからな。……それよりもリフィルは無事か?」
「おーい、リフィルー?もう着くってば~!……ダメみたい」
顔面蒼白なリフィルの前でパタパタ手を振っても焦点が定まっていない目が遠いところを見るばかりで全然ダメ。ヒトって案外意外なものが弱点だったりするからなー……
「もうすぐ着くぞ。降りる準備をしておいてくれ」
「ああ、わかった!」
マックスに別れを告げ(みなみに、帰りは軍用船に護衛してもらうらしい)、あたし達はパルマコスタの港に降りた。遠目からも十分大きかったこの街は近くで見ると比べものにならないくらい大きい。
港も色々な店が所狭しと軒を連ね、威勢のいい声があちこちで飛び回っている。魚屋や道具屋・布屋などなんでもござれだ!さすが、最大の街ってところかな?きっと海上貿易が盛んなんだろうな~フフフ……市場……市場ね!血が騒ぐ!!
「よっしゃ、では早速ー……」
「……毎回のことだが情報集めが先だからな。」
そう一言いスタスタとあたしを追い抜いていくタイツ。それに続くロイド達。いつの間にか復活したリフィルも歩いていく。でっ、ポツーンと一人たたずむのはこのあたし。って、ちょっと待て!?
「ちょっと待てってばー!!この薄情者ーーーッ!!」
あたしの悲痛な叫びは、市場の雑多な物音に負けじと響くのでした。
「はあ……やっと追いついた。何も本気で置いてくことないでしょー?」
「えへへーごめんねーマナ。空気を読んでそうした方が楽しいかな?って思ったんだー」
人混みを掻き分けやっと追い付いてみればこれだよ。あたしは深々とため息を洩らした。
「そんな気を使わないでよ……コレット。ってか、ほら、前ちゃんと見なきゃ危ない……あっ」
その時だった。バリンッ!と辺りにガラスと石畳がぶつかる硬い音が響いたのは。
「いったーい!なにするのよ!?」
「また、やってるよ」
「仕方ないよ、ジーニアス。だってコレットだし」
あたしの予感は見事に的中。よそ見をしていたコレットは曲がり角から出てきた女の人とド派手にぶっかりずっこけてしまった。女の人が持っていたワインが石畳と二人の服に赤い染みを作り、じわっと広がっている。
コレットはすぐに謝ったんだけど、割れてしまったワインは大事な物だったらしく、女の人の隣にいたこれまた悪趣味な格好の男がこっちに因縁をふっかけてきた。代えのワインを用意すると言っても「それじゃ気が済まない」と口汚く罵り続けていて……なんというありきたりな展開。……ってかさ、おっさんおっさん。
「……そこの悪趣味な格好のおっさん。これ以上は命に関わるから止めておきなって」
「誰が、悪趣味だ!」
因縁男と紫タイツの声が綺麗にハモる。こいつら混声合唱でもやってるつもりか?ってかタイツって前々から思ってたけどおっさんって言われるの気にしてるのかな?……まあそれは今は置いておくとして、だ。
「……タイツ、あなたのことじゃないってば“今回は”」
とりあえず、“今回は”の部分を強調しておいた。
男を止めた理由。答えは単純明快。
「そろそろ止めとかないと、白が黒にリバースするよー?って、コレットー?ロイドいるからねー?物騒なものはしまっちゃおっか」
「えへへーどうしたのマナ~?私、ちょっと汚れてるなー?って見てただけだよ?」
「すんげーわかりやすいな。おい」
そこには武器を片手に、寒気を伴うような素晴らしい笑顔をした我らが神子様が光臨なさっておりました。
++++++++++++++++++++
コレットの説得、という名の脅迫が功を奏したのかワインの弁償で折り合いを付けることになり、あたし達はワインを探し街を歩いている。弁償かー……まあ、こっちにも落ち度があったから仕方ないんだけどね。
「お店はここね。ワインの在庫があれば良いのだけれど……とにかく入りましょうか」
カランカラン……と来客を知らせるベルが乾いた音をたてる。おや、ここの店の雰囲気結構良さげー……
「ふざけないで!そんなに安い値段で売れるもんですか!薄汚いディザイアンが偉そうに!こっちはあんた達みたいなのにグミ一つだって売りたくないのよ!」
「ショコラ、止めて!!」
「だってお母さん!コイツらおばあちゃんを連れていった悪魔なんだよ!」
店いっぱいに怒声が響く。声のする方に目を向けると、そこには、ヘルメットをした二人の男とその男たちを真っすぐ睨み返している女の子がいた。
「いい度胸だな、娘。そんな態度でいるとこの街やお前自身がどうなっても知らないぞ!」
男の脅し言葉に女の子はピシャリと言い返す「ドア総督がいる限り屈しない」と。まあ、こーゆう子嫌いじゃないけどさー……
「あの女の子ヤバいんじゃねーのか?」
そうなんだよねー。ロイドの言う通り結構まずい。その証拠に男のうちの一人は腰に下げている武器へと手を伸ばしている。助けたほうが良くない?
「よせ、今年の間引き量を超えてしまう。これ以上はマグニス様の許可が必要だ。マグニス様の御意向次第では命の保障はできないぞ?」
男がまさに斬り掛かろうとしたその瞬間、連れの男が制止の言葉をかけた。斬り掛かろうとした男は軽く舌打ちをし、女の子をもう一度ギッと睨むと荒々しく扉を蹴り開け引き上げていった。もう一人もそれに続き、水を打ったように沈黙が店内を包み込む。でも、間引き……間引き……?
「気分悪……。何さ、間引きって……」
「……奴らにとって、人間の命とはそういうものだ。……私には解せないがな」
自分に返ってきた言葉に軽く驚いて、えっ?っと隣にいるクラトスを見上げた。……なんだか、コイツ、いつもと違くて……そうだ、思い出した。ロイドの家にあったお墓の前で見たあの目をしている。ずっと遠くをここにいない誰かを見ているようなそんな目。
「じゃあ、お母さん。私、仕事に行ってくるね」
「気を付けてね。お客さん!?ごめんなさい!驚かれたでしょう?さあ、気を取り直して、見てって下さいね!」
店の人の声で我に返り、ハッと顔を前へと向けた。もう一度、タイツを横目で見たけど、いつもの仏頂面に戻っていて……まあ、考えたって仕方ないか。きっとあたしが考えたところで分からないことだろうしね。……だって、あたしはクラトスじゃないんだから。
「でっ……?どうするよ?1000だってさ」
「ワインって高いんだな……」
「ご、ごめんね。マナ、ロイド……私のせいで」
お約束といえばいいのか……はい、ワイン買えませんでした!だってあたし達の財布の中身は163ガルド。貧乏もここまでくれば清々しいものである。
「モンスターぶっ飛ばせれば話は早いんだけど……あたし達が逃げないようにあいつらが街の入り口にはってるから外に出られないし……困ったね」
うーん……とワインの前で悩むあたし達を他のお客さんは不思議そうに見ている。まあ、タイツやリフィルがお酒コーナーにいる分には違和感がないのだろうけど、ここにいるのはどう見ても未成年グループだ(タイツとリフィルは情報収集のため、ただ今別行動中)。そんな奴らが、ショーウインドに飾ってあるトランペットに見つめる少年のようにワインを見ているのだからどう見ても不自然だろう。
「お客さん、お金が必要なんですか?」
あたし達の様子を見兼ねたのか、お店の人がお金が必要なら学校の食堂でバイトを探してるからそこに行ってはどうか?というありがたい情報をくれた。すかさずコレットがやると言いだしたけど……でもさぁ……
「お皿と料理をぶちまけるに100ガルド」
「ボクも……」
「俺も……」
「三人とも何か言った?」
コレットの笑顔に我々三人の声が綺麗に重なりハモる。
「気のせいです」
華麗な連携で黒神子の笑顔をかわしたあたし達は情報収集をしていた大人組と合流し、教えてもらったバイト先がある学校へ向かうため街の広場までやってきた。
さすが最大の街の広場……トリエットで見た広場よりもずっとずっと広いし、行き交う人の数もずっと多い。
「ドア様!父ちゃん牧場に連れていかれたまま帰ってこないよ。俺、いい子にしてたのに……」
「もう少し我慢してくれ。約束しただろう?私が必ず、牧場に連れていかれたみんなを助けると」
急に広場に小さな男の声が響いた。あたしの目は自然と声の方に向う。小さな男の子は目を大きく開いて……今にも泣きそうな顔をして……立派な服を着た中年の男の人に詰め寄っていた。……こんな小さな子の親まで……あたしは歯を食いしばり開いていた手を強く握りしめた。だって……この子……あの双子と同じくらいの年じゃない?
気が付けば、元の世界の……自分の家に身を寄せている森人の姉弟自然に思い出していた。……あの子達はあたしにとって大事な弟子で……何より初めてできた家族だったから……その子たちと同じような年頃の子供が泣きながら助けを求めている。その光景を見て思わぬところがないほどあたしは薄情ではない。
「大丈夫?マナ?体、震えてるよ……?」
「えっ?」
コレットの言葉で顔を上げると、そこには心配そうにあたしを見つめるみんなの顔があった。
「だ、大丈夫……。船旅久々だったから少し疲れちゃったみたい」
「本当か?顔色……よくないぞ?」
「うん。大丈夫だよ、ロイド。みんなもそんな顔しないで、ね?」
そう言って再び前を見つめる。そこでは、寂しい……寂しいと繰り返しつぶやく男の子に話し掛ける女の子の姿があった。自分のお母さんは死んでしまったけど、あなたのお父さんは生きてるじゃない、と。男の子はその言葉にこくんと頷いたようだった。
言葉だけ聞けば気丈で健気な女の子だ。でも、あの子……あの子のマナ……
「さあ、行くぞ。キリア」
「はい、お父様」
あたしの考えがまとまらないうちに中年の男の人と女の子は大きな建物の中へと消えていってしまった。
街の人の話だと、あの中年の男の人がドア総督で横にいた女の子がその娘のキリアというらしい。ドア総督は、この街をまとめてディザイアンに抵抗するためのリーダー的な人らしく、そのおかげでこの街はディザイアンに屈しないんだ、と。そう誇らしげに説明してくれた。
「この街の人は強いんだね」
「ああ、あのドア総督って人が立派なんだろうな!」
コレット達は目を輝かせて感心しているけれど……あたしは、危ないな。と思った。だってそうでしょ?誰かにすがったりするのは簡単だけど、その誰か……柱がなくなってしまったら?どれだけ簡単に希望が崩れるか。どれだけ簡単に絶望が襲ってくるか。そんな例を元の世界で、蛍姫を……珠魅(じゅみ)族を通して……あたしは見てきたから。
「どうしたのだ?マナ?」
「柱に寄り掛かるのって楽だよね。でも、寄り掛かりすぎたら柱は折れちゃうよ?」
あたしの言葉にクラトスはとても驚いたようで、いつもの鋭い目付きを少しだけ丸くしてあたしを見ている。
「お前は……」
「……さあー行こうか。みんなもう船を見に走って行っちゃったしね」
なにもなきゃいいけど。そう一言だけ呟いて……あたしは青い空を仰いだ。