番外編
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「うん、しょ!よい、しょ!」
ぺったん、ぺったん
その日、お昼頃に松下村塾の庭にはぺったんぺったんという音と可愛らしい掛け声が響いていた。
「そろそろ代わりましょうか?みつさだ」
「ふへ…たしかに疲れた…」
松陽に手伝ってもらい、餅をついていたみつさだ。小さな身体で暫く
「………ううん、やっぱり自分でやりたい」
「ふふっそれは失礼しました、あと少し頑張りましょう」
「うん」
だが彼女は自分で最後まで作りたかったのだ。みつさだの応えを分かっていた松陽は笑みをこぼして最後まで付き合うことにした。
「うん、これくらいで良いと思いますよ」
「やった!ありがとう先生」
「良いんですよ、私も楽しかったです」
餅は出来上がった。汗をかいたみつさだは喜び、その場に座って松陽へ礼を言う。松陽は餅を臼から出しながら次の話をした。
「煮ていた小豆の様子を見てみましょうか」
「あんこ!楽しみ!」
「ふふっそうですね」
「ふぁ〜…おはよ」
「あ、やっと起きた」
「おはようございます、お寝坊さん」
昼過ぎの太陽が傾き始めようとしている頃、ぐーすか寝ていた銀時が起きてきた。いつもなら起こすのだが、今日は寝ていたほうが都合が良くそのまま寝かせていた。
「塾がないからって寝過ぎじゃない?」
「休みっつーのは休むためにあるんだから休まないとせっかくの休みに失礼だろ」
「…なるほど」
「みつさだ、納得しないでください」
銀時の意味のわからない理論も納得して吸収してしまう癖があるみつさだに普段から松陽は頭を悩ませながら言う。
「お茶の時間にはちょうど良さそうですね、食べましょうか」
「うん、銀ちょっと待ってて」
「?」
縁側に腰をかけていた2人はそう言うと台所の方へ行ってしまった。銀時は大人しく待つことにして縁側に腰をかけて空を見た。雲ひとつ無い良い天気だ。
「ぎ〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜」
「?」
たったったったっと小走りをしながらこちらへみつさだが向かって来る音がして銀時は振り向く。
「じゃーーん!誕生日おめでとう!!」
「たん、じょうび?…俺の」
彼女が手に持っていた皿にはあんこがかかった餅が何個か乗っていた。
今日は10月10日、銀時の誕生日だ。みつさだは彼に自分で作ったものをあげたいと朝から頑張っていたのだ。
「これ、みつさだが作ったのか?」
「うん!まぁ先生に手伝ってもらいながらだけど…」
「……」
ぶわっと言葉に出来ない温かい感情が銀時の身体中に駆け巡った。なんだろうこの感じは…と彼は少し戸惑い、何も言えずにいた。
「こっちが私が作ったやつで、こっちは先生が作ったやつ」
餅の山は左右で出来が違う、左の餅は綺麗な丸で成型されているが右の餅はだいぶ歪だった。みつさだはそれを楽しそうに銀時へ説明をする。
「…なんで」
2人がどうしてこんな事をしてくれたのかが分からない。さらに自分自身のこの感情も分からず戸惑った銀時は思わず呟いていた。
「えと、誕生日は祝うものだって先生が言ってた。病気もせずに大きくなったと祝ったり、今年1年も良い事がありますようにって気持ちを込めたり、あと…
"生まれてきてくれてありがとう"って伝える日なんだって」
「!」
「銀、生まれてきてくれてありがとう!!」
毎日お腹を空かせ、大人から食べ物を奪って過ごしていた。
独りきりの生活は当たり前だと思っていた。
誰も自分が成長する姿なんて気にも留めなかった。
ひょい
もぐもぐ…
銀時はみつさだが持っていた餅を口に頬張った。彼女はそんな銀時の顔を覗くと彼の顔が真っ赤なことに気づく。
「ははっ、銀真っ赤だ」
「っるせぇ///」
初めて自分を見てくれる人達に出逢った。
初めて誕生日を祝ってくれた。
初めて、生まれてきたことに感謝された。
あぁ俺、嬉しいのかーー。
身体がまだ熱い。この気持ちは感動して嬉しいのだと銀時は気づきはじめた。
「私もいただきまーす」
銀時とみつさだは松陽が作った餅から食べ始める。形も綺麗で丁寧な作りに彼女は餅の形をよく眺めてから口に運んだ。
「わぁ美味しい!あんこもね先生と一緒に作った特製あんこなんだよ」
「へぇ」
「美味しいですか?銀時」
「あ、先生」
「ま、まあまあだな」
「それは良かった」
松陽が3人分のお茶を持って現れた。彼は銀時の照れ隠しを見抜いて嬉しそうに返事をした。
「みつさだと一生懸命作った甲斐がありましたね」
「そうだよ銀、先生もお祝いしたくて頑張ってたんだよ」
「そうかよ、頑張ったな」
「ふふっ」
照れ隠しで上から目線の銀時も少し的外れなみつさだも子供らしくて松陽は嬉しくて笑う。
そして彼はみつさだと銀時の肩にぽんっと手をのせて言った。
「銀時もですがみつさだにもおめでとうって伝えたくて私は作ったんですよ」
「…………へ?」
突然のことに驚くみつさだ。朝から作業をしていてそんな事聞かされてなかった為初めて聞く。
「!みつさだも誕生日なのか?」
「えっと、私は…」
銀時も松陽の発言に驚きみつさだに詰め寄るが彼女は上手く伝えられず下を向いた。
「みつさだは生まれた年は分かるのですが、日付が分からないんですよね」
松陽がみつさだの代わりに簡潔に銀時へ説明をした。
みつさだは松陽がある日突然連れてきた子供だった。銀時はまだ彼女の事を知らない部分が多かったのだ。
「そうなのか…」
「うん、私には誕生日が無いの。
だから銀の誕生日をちゃんと祝ってあげたいなって思って」
「……」
みつさだは顔を上げ、銀時の方を向きながら言うとにこっと笑った。その顔を見ながら銀時は咄嗟に言う。
「みつさだも今日誕生日にするか」
「えっ」
笑顔を見せていたみつさだが驚き目を見開いた。そのあとまた顔を伏せてしまう。
「べ、別にお前を想って言ったんじゃなくて…
ほら、松陽も祝いの飯とか用意するの1日で済むしよ、
俺と同じ日にすれば忘れねぇしよ、
まぁ、誕生日が無いって事は決まってねぇって事だからさ。好きな日にすりゃ良いんじゃねぇ…の…」
照れ隠しで頭をかきながら銀時は言うが、自意識過剰じゃないか?とだんだん言っていて思えてきた。俺と一緒にしろって命令みたいだし良くないんじゃないのかと感じてきて声量が小さくなる。
さらに俯いたままのみつさだがまだ静かなため、心配度が増して顔を覗き込むと、
「〜〜〜っ私も今日誕生日にする!!!!」
顔を上げ、太陽のような笑顔をした彼女が泣きそうになりながら言った。
サァ…と優しい風が吹いて
また銀時に温かい何かが体を駆け巡る。
あ、嬉しいんだ。
俺もこいつも…。
みつさだを喜ばせたという事で自分も嬉しくなった。同じ日に同じ感情を感じられて銀時は満更でもなかった。
「銀時、みつさだ、生まれてきてくれてありがとう」
かあぁぁ…
「あ、ありがとう…///」
「みつさだ顔真っ赤だ」
「う、うるさい///」
松陽はまるでこの流れになる事を解っていたかのように2人を見守っていた。彼らの喜んだ顔を見ることができて松陽も嬉しくなっていた。
「さて、お茶も冷めちゃいますしお餅食べましょうか」
「そうだな、次はこの不細工な作りの餅でも食うか」
「こんなに気持ちを込めて作ったのに不細工なんて言い方酷いよモグモグ…やっぱ先生のお餅美味しい!」
「それは良かった」
「すっぺ!!!!!!!!
な、何が入ってるんだこれ!!」
「え?山にあった木苺美味しそうだったから入れてみたの」
「木苺!?すっぱいぞこれ!」
「あら、今の季節は採りごろの筈なんですけどまだ早かったかな」ひょい
「そんなことないよ、銀がバカ舌なんだよ先生」ひょい
「「すっぱ!!!!!!!」」
そのあと3人は顔を合わせて笑いながら餅を食べた。
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雲ひとつ無い良い天気だ。
万事屋の窓から綺麗な秋空を眺めながら銀時はいちご大福を口に頬張った。
『きんとき君へ
お誕生日おめでとうございます。
いちご大福はあんま日持ちせんから早よ食べてくださいね。
追伸
まんとき君を祝いたそうにしてたちびっ子がいたのでワシが代わりにこっそり送ってます。
これはそのちびっ子の手作りを盗んだやつです。バレたら殴られると思います。
あははははは。命懸けの大福なんだからそりゃあ味わってください。
こっちは元気ですよ。
坂本辰馬』
辰馬から届いたいちご大福だった。それと共に探していた小さい彼女の所在が分かったが、銀時には
『こっちは元気ですよ。』
その一文が救いだった。元気だった。それだけで嬉しい。
「今日は俺らの誕生日だろ、どこに何しに行ってんだみつさだ」
他人の事は言えないが突然姿を消したみつさだ。初めて祝った日から戦争中だって欠かさず交わしていた特別な日を久々に祝うというのに顔を見せてくれない。
会いたい。顔を見ながら話したい。
だからこそもう一度彼女に会ったら次は手放すつもりは無いと銀時は改めて決心し、
最後のいちご大福を頬張った。
「すっぱ…」
相変わらず苺は酸っぱかった。
「すっぱ!!!!この苺腐っとるがないか?」
「え、またか?そんなわけモグモグ…すっぱ!!!!」
「なにしちょうたらこんな苺が酸っぱくなるんじゃ」
「おかしいな…倉庫にあった美味しそうな苺使ったのに…」
「おんしあれ使ったんか!?ありゃ今度の交渉に使う最高級苺じゃ!なにしちゅうか!」
沢山あった中から少し頂いただけなのに怒る辰馬に「でも酸っぱかったよ」と伝えると「たしかに…あとで味見しに行こうかの」と笑い出す。結局食べるんじゃんと思ったがこの男はうるさいので黙っておこう。
「あ、そうじゃ。これみつさだ宛で届いちょった」
「ん?私??」
誰だろう。私が
「…なんだこれ?」
「お?板チョコじゃの」
「板チョコ??なんだそりゃ」
「チョコレートっちゅー甘い菓子じゃ」
「へぇ〜ってこれ本当に私宛なの……ん?」
板チョコという菓子が自分宛に届いたが見たことのない食べ物だし、送り主の検討がつかないのでさらに疑い深くなり観察をしていると板チョコの下に何かがある事に気づいてチョコを持ち上げた。
「!」
『誕生日おめでとう、おれたち』
おれたち…
その意味が痛いほど分かる。
誕生日がないはずの自分に日付をくれた彼の字だ。
見慣れすぎていた懐かしい筆記でひとことだけ書いてあった。
「……」
「今日はみつさだも金時も誕生日じゃの!睦奥に頼んでケーキも用意してくれたから晩飯のときにでも一緒に食うぜよ」
振り返ると笑顔の辰馬がそう言っていた。
「そうか…へへ、ありがとう」
「友の大事な日を祝うのは当たり前ぜよ!!あははははは」
祝ってくれて嬉しい気持ちが湧き上がる。
辰馬も私達の誕生日覚えててくれてたんだな。
思わず顔がにやけ辰馬に礼を言う。
そしてぐっと気持ちを堪えながら手紙を指でなぞった。
「なぁ…辰馬」
「なんぜよ」
私の静かな問いかけに辰馬は笑いながら元気よく答える。
「なんで、銀から小包が届いたんだ?」
「なんでって…そりゃあみつさだが祝いたがっていちご大福作っとったじゃろ。その大福をワシが金時に送ってやったからじゃ!
ほんとおんしらは世話が焼けるからのぉ!あはははははは!!」
「やっぱりテメェの仕業だったのか!!何してくれとんじゃあああ!!!!!!!」
「グハッ!!!!!!!!!!」
銀からの祝いで嬉しい反面、どうしてここがバレてるのかと思い辰馬へ鎌をかけたらすぐに掛かった。
「絶対私の居場所バレたじゃん!!」
「
「てめぇを
あれから毎年祝った誕生日の木苺餅はいつの間にかいちご大福へ変わっていった。だが毎年作っていて何をしても苺が酸っぱくなってしまう。何回か練習していたのと習慣でこの時期は作りたくなってしまい、厨房を借りていたら
「ったく余計なことしやがって」
「部下に銀時の所へ届けさせた時に代わりに持っていけってこの小包渡されたみたいでの、持って帰ってきたんじゃ。
ワシゃすぐこれがみつさだ宛って気づいたぜよ」
私はため息混じりに呟いた。すると殴られ鼻血をだした辰馬が起き上がりながら経緯を言った。
「てか何で銀の居場所を知ってるんだ…」
「ワシゃ
「そりゃすげぇな」と私は呟きながら厨房の片付けをし始めようと手を動かす。
情報が入るくらいだから銀は有名な事でもしてるのだろうか?だが今の私には関係ない。彼に会うわけにはいかない。
「銀時の居場所教えちゃろうか?」
辰馬のひとことで目を見開き手を止めた。
相変わらずお節介な奴だ、優しすぎる。そこが好きな所だが、
「それこそ余計なことだよ…」
今は、聞きたくない。きっと彼のことを知ったら足がそっちへ動いて行ってしまうからだ。彼に会いたくはない。
「…ほうか」
「だけど」
「?」
「元気だって知れて、生きてるって知れてよかった
…ありがとう辰馬」
その言葉に辰馬は驚き、そして笑った。
「人が素直に礼を言ったのがそんなに可笑しいかよ」
「っはー…悪い悪いあはははは」
辰馬は可笑しくて笑ったのではない。
あの日手紙を書いたとき、銀時もきっと知りたがっているであろう言葉を最後に書いてみた。
『こっちは元気ですよ。』と
(なんじゃおまんら、結局お互いのこと心配しちょる)
「手が焼けるやつらやの〜」
「お前の手をここのコンロで焼いてやろうか」
「わかりやすい照れ隠しはやめて、みつさだのケーキ食べるぜよ」
「なっ!誰が照れ隠しなんか!!」
「あはははははははっ」
どうかこいつらに幸せがきますようにと辰馬は心の中で想った。
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あとがき
はじめてというタイトルですが、
銀時は初めて祝われた事
みつさだは初めて餅以外のプレゼントを貰った事
が「はじめて」に詰まってます。
読んでいただきありがとうございました
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