ちょ、おまっどこ行ってたんだよ!
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『腹減ったから始まる漫画は売れない』
ぐぅ〜〜〜…
「くそ…腹減った」
たしかこの台詞から始まる漫画はもう売れないって誰かが言ってた気がする。でもそんな事言われても腹が減ったからしょうがない…。
スタスタ…
ぐぅ〜〜…
まだ探し物が見つかってないのに金を使うのは勿体無いため、ひたすら町を歩き空腹を誤魔化す。
(くそ、思ってたより時間がかかってしまった…
こんな事なら辰馬のところでもっとアルバイト代ぶん取れば良かった)
『坂本辰馬』彼は宇宙を相手に商売をする
ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜
「…はぁ」
途方に暮れながらお腹を抑え歩く彼女は身長が150cmもない小柄な身体で着物のような袴を着てマントと三度笠を深く被り江戸の街を歩いていた。
「あはははは」ともじゃもじゃ頭が笑っている顔を思い浮かべ頭の中で彼に八つ当たりをしておく。
「はぁ…作戦を変えてヅラを探しても良いんだけど」
「ヅラじゃない、小太郎だ」
「!!」
ばっ!
彼女は驚き周囲を見回すが台詞の本人は見当たらない。空腹で幻聴が聞こえ始めていたようだ。
ヅラ…いや『桂小太郎』は寺子屋で出会ったあの頃からそう私に言い続けてきたので「こた」と名前で呼ぶようになっていた。
「あははははは!!」
「こたじゃないヅラだ!…あ、やっぱり間違えた桂だ!!!」
もじゃもじゃの笑い声と長髪男の叱咤声が幻聴で頭の中に響く。それに対し彼女は眉間に皺を寄せイライラし始めていた。
「ん?」
ふと胸ポケットに固いものが当たる。
ごそ…
「こいつぁ…!
チョコだ!!!!!!!」
目を輝かせヒャホーイとスキップをする。辰馬が江戸に戻るならとくれた板チョコの半分が残っていたのだ。あとで食べようと思っていたがすっかり忘れていた最高のプレゼントだ。
彼女は好物のチョコが空腹時にありつけるなんてと辰馬に感謝をしていた。先程まで恨んでいた「あはははは」というふざけた笑顔も今なら後光が差して見えると彼女はうきうきになって頬張ろうとする。
「いっただきま…」
「おいババア!てめェがぶつかっちまったからコイツの肩折れちまっただろうが!!」
「どう責任とってくれんじゃオラァ」
「…さっさと病院へ行きな」
「あぁ??」
「あーいてーーなぁーー!!!」
「おいこらババアいいから金だせや!」
「あらぁ年寄り相手に」
道の向かい側で3人の男に灰色の着物を着たばーさんが絡まれていた。男達の大声で周りも気付いているハズだが誰も助けず見て見ぬふりをしていた。
「黙ってねェでなんか言えや!!」
がばっ!!
「まあまあまあ、君達元気そうなんだからそんな言わなくてもいいんじゃねェの?」
「「「!?」」」
「だ、誰だてめェ!!!」
「俺たちはババアに用があんだよ!!」
「餓鬼が出てくんな!!」
今にも手を出しそうな勢いの男達から庇うようにばーさんの前に彼女は立ち、そう言うと男達が大声でキレ出す。左手には食べようとしていた板チョコを持ったまま右手でまあまあと掌を見せる。そんな彼女の姿を見たばーさんも眉間に皺を寄せた。
「ほらぁやっぱり元気じゃん」
「ンだとテメェ!!」
「ポン太は痛がってるんだよ!!!」
「医者代出せや!!」
「なに?ポコチン???」
「「「ポン太だ!!!!」」」
至近距離で大声を出された彼女は耳を塞ぎ目を閉じた。「も〜そんな大きな声で言わなくても聞こえてるって」と言う彼女にばーさんが声をかける。
「…小娘が顔突っ込むもんじゃないよ」
「ん〜お生憎成人してましてね、大人だ」
「フッ…私から見たら小娘には変わらないさ」
「アンタから見たら宇宙全ての事が若者に見えそうだなばーさん」
「どんだけ歳取ってると思ってんだよ!」
そんなやり取りをしていると男達が耐え切れず手を振り払いながらさらにキレた。
「っだああ!!そんな事はどうでもいいから早く金置いてけやババア!!」
ばしっ!!!
「あっ」
振り払った男の手は彼女の左手に当たり、持っていた板チョコが宙を舞う。
ポトッ
ブロロロロロロロロ
バキッ…
ブロロロロロロロロ…
ちーーん
「……………………………」
道の真ん中に落ちた板チョコは通りかかったバイクによってタイヤの跡をつけて粉々に砕けてしまった。絶望をし口を開けて灰色になる彼女。彼女のその姿を見た男達も静かになる。
「…………わ」
静かだった彼女が声を出した。
「私の飯に何してくれとんじゃぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!」
バゴォッ!!
「ぐはっ!!!!!!!!!」
手を振り払ってきた男の顎をアッパーで殴る。男は一撃でその場に倒れた。
「いや!そんな俺たちのせいじゃ…」
「返せ私の飯ぃい!!!!!」
バキッ!!!
「どわっ!!!!!!!!」
もう1人が言い訳を始めたので怒りでさらに殴る。
「板チョコが飯って、だからこんなチビなんじゃ…」
「誰がチビだぁぁあああ!!!!!」
バコォッ!!!
「ぶばっ!!!!!!!!!」
最後の1人も余計な事を言ってしまったため、彼女はしっかりと顔面を殴っておく。
「えーーん!チョコぉ…お前何て姿になっちまったんだぁ」
そして男達が全員倒れると、彼女はその姿のかけらもない板チョコが落ちている道の方を向いて嘆き始めた。せっかくの空腹を凌ぐアイテムだったのにどうしようと絶望から彼女は眉尻を下げ、悲しい顔をする。
ふら…ふら…
よろ…よろ…
「くそっ…こんなチビに…」
「ふざけんなよ…」
「ほんとに…女かよあいつ…」
彼女が
その手には光るものがーー刀だ。チャキ…と3人とも刀を持ち嘆いている彼女を背後から襲おうと息を合わせていた。
「!!アンタ…ッ!」
それに驚いたばーさんは彼女に伝えようと声を上げた。
「「「オラァアーーー!!!!!!」」」
がばぁっ!!!!
だが、ばーさんが声を上げた時には既に男達は動いており3人同時に彼女の背中に向けて刀を振り上げていた。
背後の気配に気付いた彼女ーーーの眼が光る。
チャキ
シュッ
チャキン…
バタバタバタッ……
「えーーん
愛しのチョコぉ…どうやって食おうこれ…」
「……」
音もなく急に男達が倒れる。今度はピクリとも動かなくなってしまった。そして彼女は何事も無かったかのように再び元チョコへ悲しい顔をし嘆き始める。
そう、初めからおかしかった。目の前に現れたときも音もなく急だったのだ。そう思ったばーさんはまた眉間に皺を寄せ、彼女を見る。
「安心しろ、峰打ちだよ」
「アンタ…」
元チョコの前にしゃがみながらばーさんの視線に気付いた彼女は口を尖らせながら後ろを振り向き言った。
ばーさんはその台詞で彼女が殺ったのだと確信がついた。
「えーん、どうやって食おう。どこかの漫画のマリモ剣士みたいに砂と一緒に食うか?でもちょっとお腹壊しそうだからそんなことはしたくないし…
石チョコがあるから砂チョコもありなのかな…ぐわっと度胸で食うしか…」
石チョコは石に見立ててるだけで本物は使用してないとばーさんは心の中でツッコむ。
元チョコは時間も経っているため柔らかくなっていて、さらに砂と混ざり合いぐちゃぐちゃになっている。そんな形でも彼女はチョコが諦めきれないようで、元チョコの前でしゃがみこみ涙目でぶつぶつ1人で喋っていた。
彼女を見ながらばーさんは落としていた紙袋を拾った。男達に肩を当てられたときに落としていた物だ。中身を確認するとばーさんは彼女に聞こえるように呟く。
「あら嫌だねぇ、旦那にお供えするまんじゅうと団子が潰れちまったよ」
「まんじゅう!?!?だんご!!!!!!」
キラン!
その台詞を聞き、彼女は目を輝かせるとばーさんが持っている紙袋をバッと奪った。中を確認するとたしかに少し潰れてたり容器から出ちゃったりしている。
「はぁ〜〜うまそ〜〜〜〜〜〜〜〜」
究極に腹が空いていた彼女は紙袋を覗きながらため息をつく、目の前の甘味に顔が自然と緩んだ。
「こりゃ私の旦那のもんなんだがね」
「こんな潰れたまんじゅうどうせ持っていかねェだろばーさん」
「それでもあの人のだからね、旦那に食っていいか聞きな」
それを聞いた彼女は空腹で死にかけていた本能に従いなりふり構わず食べ喉に詰まらせながら彼女はバクバクと食べ始めた。彼女は久しぶりの食べ物に感動した。
「なんて言ってた私の旦那」
完食した彼女にばーさんが声をかける。彼女は袖で口を拭きながら応えた。
「知らね、死人が口を聞くかよ」
「知らねェ、死人が口を聞くかよ」
「…バチあたりな奴がいたもんだね、たたられても知らんよ」
その返答に少し驚きながら、でもなんとなく分かっていたかのようにばーさんは続ける。
「死人は…口も聞かないしまんじゅうも団子も食わない」
「死人は口も聞かねェし団子も食わねェ」
「だからさ勝手に約束しといた、この恩は忘れない」
「だから勝手に約束してきた、この恩は忘れねェ」
「アンタのばーさん老い先短いだろーが、この先は…」
「アンタのバーさん老い先短いだろーが、この先は…」
「アンタの代わりに私が護ってやるってね」
「アンタの代わりに俺が護ってやるってよ」
風が吹いた。
こうも同じ台詞をまた聞くことになるとは…とばーさんは思う。
風で彼女の顔がしっかり見えた。
「だからこの碓氷みつさだ、ばーさんが困った時には駆けつけよう」
「フッ…そうかね」
「ほいじゃ、チンピラには気を付けろよばーさん」
そう言うと元気になった彼女は笠を被り直して走り去ってしまった。
「おんなじ眼をしてたね」
みつさだの顔が見えたとき感じたことだ。無意識に自分の家の2階に住み始めた銀髪の男と重ねる。
その銀髪の男と彼女は同じ紅い眼をしていた。眼の色が同じというだけじゃない奥に光る雰囲気や言うことも全く一緒だった。
「あれがあんたの探し
歌舞伎町の四天王『お登勢』は彼女の背中を見送りながら呟く。彼女の存在をその男に教えてやろうかとふと思ったがその考えはすぐ消した。
「まぁ
ねぇ、
男が女を無事捕まえられるか想像しながらお登勢は新しい団子を買いに歩き出した。