「無謀だわ」
「何が？」
「このまま"偉大なる航路（グランドライン）"へ入ること！」

「確かにな！」
「あれ、ルフィのわりに理解が早いな」

ガイモンと別れ数日が経った。ナミがバギーから奪った海図で案内をしてくれるため迷うことなく進めている。そんな彼女が思いついたように言うと、進路を眺めていたルフィは納得をした。

「この前たわしのおっさんから果物いっぱい貰ったけど、やっぱ肉がないと力が…」
「食糧のこと言ってんじゃないわよ！」

「そうだなァ果物美味かったけど、シロップがたっぷりかかったの甘いもの食べた…」
「だから食糧のこと言ってんじゃないわよ！！」

「このまま酒が飲めねェってのもなんかつれェしな…」
「飲食から頭を離せっ！！！」

戦闘脳筋3人組は航海術がまったく無いため食糧の心配しかしていない。

「私達の向かっている"偉大なる航路（グランドライン）"は世界で最も危険な場所なのよ！
船員の頭数にしてもこの船の装備のなさにしてもとても無事でいられるとは思えないわ」

「ほ〜？」
「で？何すんだ？」
「"準備"するの！先をしっかり考えてね」

ペラッ
「ここから少し南へ行けば村があるわ、ひとまずそこへ！」

チロリとルフィが疑問を投げるとナミは地図を広げながら次の行き先を教える。

「その感じだと、こんな小船じゃなくてしっかりした大きい船じゃないと難しそうだな」
「その村で肉を食うぞ！」
「チロリの言うとおりよ！あんたは肉のことしか頭にないんか！」
「ルフィ、でかい船じゃないと食糧もあまり詰めないんだぞ」
「結局チロリも食糧なんかいっ！聞いてた私の話！！？」

チロリもまともな事を言ったのに結局のところ聞いていなかった。この3人大丈夫かとナミはため息をつきながら少しだけ見えてきた大陸を眺めた。




















ガコン…
「あったなー本当に大陸が！」
「なに言ってんの、当然でしょ地図の通り進んだんだから」
「そうだぞルフィ、ナミが言ってる方向に漕げば着くんだぞ」
「チロリはよく言うわ…」

ナミは顔に手を置きながら先程までの出来事を思い出して目を閉じた。

少し前、ルフィがナミの船に乗り、3人の小船はゾロとチロリがオールを持って漕いでいた。
だが、いくら誘導してもゾロとチロリがナミの言うとおりに進めない。あらゆる方向へ進んでしまうふたりにキレたナミはチロリとルフィを交代させて船を漕がせて陸まで着いたのだ。

「あひゃひゃ！こいつらすぐ迷子になるんだよ！」
「うっ…迷子じゃない」
「おれたちはナミが南って言うから暑い方へ漕いだだけだ」
「南は南でしょうがっ！」
「えっ暑い方が南じゃないのか！」

ふたりの方向音痴ぶりを目の当たりにしたナミと大笑いのルフィたちはそんな話をしながら船を降りた。

「ふーっ久しぶりに地面に下りた」
「お前たちずっと寝てたもんな」

ゾロが伸びをしながら言うとルフィが呟いた。ゾロとチロリは傷を治すために船で寝ていることが多かった。お陰で傷は塞がり、包帯も取っている。

「ところで、さっきから気になってたんだが」とゾロが話始め指をさしだした。4人は指をさした方を見る。

「あいつら何だ？」

ギクゥッ！！！

少し高い所に4人の影が見えた。ルフィたちに気づかれた4人組はギクゥッ！と音が出るほど驚き「うわあああ見つかったァ〜〜！！」と叫びながら3人は走って行ってしまった。その様子を静かに見守るルフィたちに最後の1人が腕を組んで叫び始めた。

「お、おれはこの村に君臨する大海賊団（・・・・）を率いるウソップ！！！」

「鼻ながい…」

「人々はおれを称えさらに称え"わが船長"キャプテン・ウソップと呼ぶ！！！」

チロリは素直な第一印象を呟く。
彼の名は『ウソップ』ブラウンカラーのつなぎを着た長鼻の男の子だ。この海岸の近くの村の産まれだそうだ。

どーん
「この村を攻めようと考えているならやめておけ！！このおれの八千万の部下共が黙っちゃいないからだ！！」

「うそでしょ」
「ゲッ！ばれた！！」
「ほらばれたって言った」
「ばれたって言っちまったァ〜〜っ！おのれ策士め！！！」

ナミがウソップの嘘をすぐ見抜くと彼は墓穴を掘ってしまい焦りながら叫ぶ。

「ナミすげェ今の作戦だったのか」
「いやあいつが自滅してるだけだろ」

ウソップがナミを策士と呼んだことにチロリは納得をして呟くがゾロがツッコミを入れる。

「はっはっはっは！お前面白ェなーっ！！」

「おいてめェ、おれをコケにするな！！
おれは誇り高き男なんだ！！！その誇りの高さゆえ、人がおれを"ホコリのウソップ"と…」

「はらへった！肉食いに行こうぜ！」
「そうね、村で情報収集もしなきゃだし」
「酒飲みてェ」
「ねむい」
「あんたら3人欲求の塊みたいでいいわね…」

4人はウソップの話が長くなりそうなことに気づき、村へ向かうことにしたが自分の話を聞いてくれていないことに彼は困惑する。

「あの、めし屋はこっちです…」
「お！ありがとな、お前！」
「ありがとう、ホコリくん」
「ウソップです…」

ぽんっとルフィとチロリがウソップの肩に手を置きながら言う。汗をかきながら彼は村を案内するのだった。

















わいわいがやがや

「何！？仲間を！？」

村のめし屋に連れてきてもらったルフィたちはウソップに今までのことを話した。

「仲間とでかい船か！」
「ああ、そうなんだ」
「はーっそりゃ大冒険だな！！」

ルフィが肉をかじりながらウソップに返事をする。ご飯を食べ終わったナミとルフィとウソップが雑談をしている中、ナミの隣に座っていたゾロは酒瓶を持ちながら目の前に視線を向けていた。

「ﾓｸﾞﾓｸﾞﾓｸﾞzZZ」
「…寝るのか食うのかはっきりしろお前は」
「…はっ！お、起きてるよ……zZZ」

ルフィの隣でチロリが寝たり食べたりを繰り返している。好物のシロップが沢山かかったパンケーキはちゃんと食べたい、けど眠い、それを繰り返している姿をゾロは見ていた。

「ほらぼーっとしてっから、ルフィに取られるぞ」ぱしっ
「いてっ」

ルフィがそーっと手を伸ばしてチロリのパンケーキを食べようとしたところをゾロがルフィの手を叩く。

「だめよルフィ、チロリの奪っちゃ」
「だってチロリ寝てるからもういらねェのかと思って」
「たしかにあんたも食べてから寝なさい」ばしっ
「いてっ」

ナミもルフィを叱るが彼女が食べてないのも悪いと思いチロリの頭をチョップする。チロリは目を覚ますがこれじゃあ先程の繰り返しだろうとゾロが彼女の手からフォークを奪う。

「チロリ、おら」
「あー」

寝ぼけたチロリが口を開けてゾロがパンケーキを食べさせる。口に入れたチロリは美味しそうに口角をあげてもぐもぐとしている。ただ、目は開いてない。ナミはふたりの様子を横目で見ていたがチロリはあいつに任せて大丈夫でしょうと情報収集のためにウソップと話すことにした。









「あー」
「ほい」
「もぐもぐもぐ」
「今のが最後だぞ」

なんだ最後かぁとチロリは物足りなさを感じる。あと1皿はいけるなと自分の睡魔と胃袋と相談をしてみる。すると目の前に気配を感じ、眠くて閉じていた目を開いた。



「えっ」



ゾロが身を乗り出して目の前に迫っている。だんだんと近づいてくるゾロにチロリは困惑し、ボンッと顔を赤くした。

「？」

突然顔を赤くし固まったチロリを見てゾロはぴたっと少し止まったが、理由がわかりニヤリと笑う。
ゾロの腕がまた伸びてきてさらにチロリが動けなくなっていると、彼は食べ終わった皿の下に敷いてあったナプキンを手に取りチロリの口元を拭いた。

「？？？？？？」
「シロップくちについてんぞ………あァ」

彼女が不思議がっていると、口元を拭きながらゾロはニヤニヤと笑う。

「また舐められると思ったか？」
「〜〜〜っ！！！///」

そうなのだ、彼女はパンを食べ終わったあとに口を舐められた事を思い出しまたやられると思って固まっていたのだ。

「チロリがそうしたいならしてやりてェがここじゃあ、、なァ？」
「な、な、な…っ///」
「はははっ」

自分の考えが筒抜けになってることが恥ずかしいチロリは顔を赤くし口をぱくぱくさせて反論が出来ずにいる。それを見たゾロは笑ってからかうのでチロリは眠気が完璧に飛んだ。




そんなとき隣でルフィが大きな声で言い出す。

「おばさん！！肉追加！！」
「私もパンケーキ追加！シロップ多めで！！」
「おれも酒っ！！」
「てめェら話聞いてんのか！！？」

フンと鼻を鳴らしてゾロにからかわれた憂さ晴らしの為に食べてやると言い気持ちでルフィに続きチロリは追加の注文をする。ゾロも酒を追加すると情報を話してくれていたウソップがツッコむため食べながら話を聞くことにした。

聞くと、町には富豪の家があるらしいがそこに住むのは病弱で寝たきりの少女と執事たちのみらしい。1年くらい前に両親を病気で亡くしてしまったらしい少女はひとりで主として屋敷で暮らしている。

「どんなに金があって贅沢できようとこんなに不幸な状況はねェよ」
「……」

そうウソップが言うとナミは少し考え「やめ！」と机を叩いた。

「「「！」」」
「この村で船の事は諦めましょ、また別の町か村をあたればいいわ」
「そうだな急ぐ旅でもねェし！肉食ったし！」
「うん、食糧とかいっぱい買い込んで行こうか」
「肉買ってこうぜチロリ！」
「今食べてたじゃんww」

たしかにナミやルフィの言う通り急ぐ旅でもない、だから今回諦める事にみんなが同意した。

「ところでお前ら、仲間を探してると言ってたな……！」
「うん、だれかいるか？」

そんな4人を見ていたウソップが声をかけ、ルフィが答える。






どーーん
「おれが船長（キャプテン）になってやってもいいぜ！！！」



「「「「ごめんなさい」」」」



ガーン！
「はえェなおい！！」

息のあった4人が素早く断り、ウソップはショックを受けるのだった。